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    岩男二次創作 拙宅壊発破のつづきを書こうとしていたらしきもの 途中で止まったまま放置されててどんな話にしたかったのかわかんなくなってたので供養

    シミュレーターは白昼夢に似ている。

    今回の依頼は山中の大岩の発破解体だった。下手な崩し方をすれば山肌ごと大規模に崩落するそれを、うまい具合に岩の部分だけ発破で壊してしまおうという試み。B.B-BOMBカンパニーのブラストマンならできるはず、と名指しで注文が入ったそれに、失敗は決して許されない。
    だから事前に入念なシミュレーションが必要だった。数十万のポリゴンで形成された山と岩のデジタル模型の内部に手入力でダイナマイトの位置を設定していく。数ピクセルの差が数メートルの誤差になるそれを何度も試行して、ブラストマンは決行のコマンドを打ち込んだ。
    ──爆発のアニメーションは山のリアルな再現度には似つかわしくないチープさだった。無理もない、煙の物理演算は面倒なので。それにこれはシミュレーションだから、リアルすぎなくても目的は達せられる。音声も実装されていたならガラガラと音を立てていそうな勢いで岩がバラバラになっていく。危険領域への崩落はなく、土砂の散逸も想定内。ブラストマンはそれを記録してから、データを発破前の状態まで巻き戻す。そこから天候や風速なんかの数値を弄ってから、もう一度発破の決行。……このデータを元にして現実の山に手を加えれば、そこでもシミュレーター通りの結果を得られるはずである。
    データを保存。シミュレーターの中のブラストマンの仕事はこれでおしまいだ。

    だから今からはプライベートの時間。

    ブラストマンはもう一度ダイナマイトの位置を設定しなおした。今度は崩落も散逸も何も気にしない、むしろあたりに全てを撒き散らしてめちゃくちゃにしてしまえるような位置設定。配置箇所の個数も倍以上。火薬も増し増し。優秀な表情制御システムがスキンフェイスの口角を上げていく。
    決行コマンドを打ち込む寸前、まるで躊躇うように震えた。

    盛大なはずの爆発のアニメーションはやっぱりチープなままで、ただ警報音だけがうるさかった。

    「…………はあ」

    保存せず、シミュレーターを終了させる。
    現実世界に戻ってきたブラストマンの意識は、不愉快な疲労に包まれていた。

    発破が、したい。
    仕事ではなく、趣味として。
    被造物としてあるまじき思考であることは理解している。それがいわゆる危険思想であることも。それでもブラストマンの目覚めた自我が絶えず悲鳴を上げるのだ。
    きれい・・・なものが見たい、と。
    ブラストマンの美学は、発破による破壊とそれに伴う爆炎をうつくしいものだと定義づけている。

    アイシャッターをもう一度下ろし、記憶回路の中から一つの映像データを引き上げる。
    あの暴走の日、忌まわしく懐かしいあの日に、今まででいちばんきれいに発破ができた観覧車の映像を、何度も電子頭脳の中で繰り返し繰り返し再生し続けてしまっている。
    一度封印したはずのこの映像を復活させるきっかけになった、山吹色の機体のことを薄らと脳裏に浮かべながら。


      *****


    ブラストマンが想起している、山吹色の機体を持つロボット──クラッシュマンは悩んでいた。奇遇なことに、それはブラストマンのことについてである。
    クラッシュマンはあの年若い商業用ロボットの爆破のセンスを気に入っていた。クラッシュマン自身は純戦闘用で純然たる破壊のみを旨とするロボットなのだが、ブラストマンの扱っている【魅せる】ための爆破などこれまでのクラッシュマンの価値観の中には存在しなかった概念だったので非常に興味深々だった。
    だから接触してみた。接触してみたら、応えがかえってきた。なんなら最終的に連絡先の電話番号までくれた。
    その電話番号の書かれたメモ用紙を睨みつけながら、クラッシュマンは戦闘用にしては愛嬌のある造形の顔をしわくちゃにして悩んでいた。組めもしない腕を組み、力なく悩みを口に出す。

    「なあ、これおれからかけていいと思う?」
    「知らねッスよ」

    クラッシュマンの背後、ハンドパーツでアナログキーボードをバチバチ叩いているロボットがざっくばらんに答えた。彼の名前はグレネードマン。フラッシュボムを特殊武器とする、クラッシュマンの後輩だ。

    ここはワイリー基地、離島支部。第八次世界征服事件の際、隕石から抽出した悪のエネルギーを解析・利用するためにワイリーが建設させた研究施設の一部分。その片隅でクラッシュマン達爆弾系ロボットはたまにたむろして雑談なんかしている。
    本日の議題はクラッシュマンが最近熱を上げているらしいバクハツアーティストのくれた連絡先について。

    「その番号ってアレっしょ、オレちゃんが武器用意したげたこないだの作戦のコ。顔かわいッスよね~アイドルやってんだっけ」
    「アーティストな」
    「似たようなもんじゃね?」
    「全然違う! アイツのはこう……なんか……スゴいんだよ」

    身振りも交えてもっとこう、と表現しようとするクラッシュマンを一瞥し、グレネードマンは作業に戻る。頬を膨らませている先輩のあしらいにも慣れたものだ。
    クラッシュマンのあざとい振る舞いは彼の顔面の造形を利用した人心掌握術のうちである、ということをグレネードマンはもう知っているので。

    「まーでもその何? アート? なんでセンパイがそれそんなに気に入ってんだかわかんないですけど、番号貰ったんなら連絡しちまえば?」
    「だからあの~……迷ってんだよ。おれからかけていいのかなって」
    「なんで。向こうはセンパイの番号知らないんだからセンパイからかけるしかなくないすか? 反社の純戦闘用が一体ナニに遠慮してんだか」

    バチバチ、ダン! とキーボードを叩き終え、グレネードマンが振り返る。目から鱗、という風にアイカメラを見開いているクラッシュマンに、PCから取り外したUSBメモリを差し出した。

    「ほんでコレ、頼まれてたシミュレーター。ご依頼通りうちで作ってる全部の爆弾の試験データ入れちったから博士にバレたらやべースね」
    「……チェインブラスト、」
    「入ってる入ってる。目的はアレっしょ? 当時・・の感覚思い出させてDWNへの再スカウト」
    「うん」
    「ちょうどいいし、今からその番号にTELってアポ取りゃいーじゃんすか。ホレやってやって」

    今!? と狼狽えるクラッシュマンの様相はこれまででは考えられなかったほどに人間味甚だしい。恋はロボットを変えるのねうんうん、と勝手に頷くグレネードマンだったが、さて実際にクラッシュマンが抱いている感情が恋なのかどうかには疑問が残るところだ。
    なんせ純戦闘用である。人間社会に馴染む、という前提が存在しない彼らに人間と同じ価値観の理屈は早々通用しないのだ。例えその人格プログラムが限りなく人間のそれを再現していようとも。

    「……あー、グレネード」
    「何~?」
    「電話貸して。おれ持ってなかったそういや」
    「……」

    グレネードマンは思案する。この基地、電話線繋がってたかしら。ワイリーナンバーズは通信機は内蔵していても一般的な通信端末はだいたいのメンバーが所持していないのだ。
    まあ、なければ通信機をちょっと弄って一般回線にもアクセスできるようにするだけである。



    はい、B.B-BOMBカンパニー設計のブラストマンです、……ちょっと待ってくださいね、すみませんちょっと私用の電話で、……ん、あ、ああいい、大丈夫、ぜんぜん。
    どした? クラッシュ、だよな。え、クラッシュ? まじか。番号使ってくれたんだ、嬉しい。……うん、大丈夫、今休憩中だから。……
    明日はちょっときつい。え、来てくれんの、ていうか。ああ明日はメンテあるから、うん。週末なら空いてるけど。え、来るの? いや嬉しくて……えー、来るんだ。やった。へへ……あ、ほんと見つかんないようにしろよ? 普通にスキャンダルなっちゃうから。そっちだって困るだろ。
    うん。待ってる。オレも話したいなって思ってたから、よかった。
    じゃあ土曜。午前のどっか。ん。じゃあまた。



    週末の、朝と昼とのあいだの時間。
    クラッシュマンがブラストマンの住むマンションの一室のベランダによじ登ると、サッシ窓には重たい色のカーテンがかけられていた。はて、以前来た時にはこんな風に厳重には閉じられていなかった気がするが……と訝しんだが、そんな気分の時もあるのだろうと流して窓をコツコツ叩く。あまり力を籠めすぎるとクラッシュマンの馬力では粉々にぶち割ってしまうので、慎重に。
    少し待っていると、カーテンが開いて怪訝そうな顔が覗いた。きょろきょろと視線を彷徨わせているのに気づいて、クラッシュマンは自分がステルス装置を起動させていたことを思い出す。装置をオフにすれば、相手の視界には急にクラッシュマンが湧いたかのようにみえるだろう。実際、ブラストマンは驚いたかのようにアイシャッターを見開いていた。

    「よ。開けてー、見つかっちゃう」
    「……あ、ああ! ステルスか。すごいな」

    クレセント錠のツマミを下ろし、互いを隔てるものがなくなる。
    先日メンテナンスを受けたばかりだというブラストマンの装甲は、傷一つなく日光を反射していた。


    クラッシュマンがウエストポーチの中に入れてきた小さなUSBメモリを、ブラストマンは不審物を検分するかのように眺めている。

    「この中に……何? シミュレーター……?」
    「うん。うちの爆弾系特殊武器全部の再現データが入ってる」
    「機密漏洩では?」
    「物理演算入ってて、環境設定もできて、破壊対象物も二十種類くらいあるって」
    「いや機密……」
    「ブラストのために用意してきたんだ」

    これで遊ばない?
    アイカメラの視線を交差させて、クラッシュマンは人懐こい笑みを見せる。戦闘用機としては似つかわしくない造形の顔も、他人を篭絡するのには使えるものだ。

    「これでさ~、ブラストが思いっきり爆発させるとこ見たいな」

    ダメ押しに小首を傾げてやれば、ブラストマンが下唇を噛んだ。よし落ちた。

    「……………………いいけど……いい! けど! セキュリティチェックはさせてもらうから!」
    「え~ウイルスとか入ってないよ」
    「コンプラ的に必要だから」

    ブラストマンはそう言うとワークデスク脇に放置されていたモニターと安っぽいマウスを引っ張り出し、普段仕事に使っているらしいパソコンに繋ぎ始めた。
    どうやら普段はそのパソコンに直接自分を繋いで作業をしているのでそれらのアクセサリは基本的に使わないらしい。セキュリティチェックのために自分を繋いでしまうとウイルス感染の恐れがあるから……ということでモニターとマウスを使うことにしたのだろう。使い慣れない様子でぎこちなくマウスホイールを回しながら、繋いだUSBからファイルを開いている様子はなかなかほほえましかった。

    「データでっか……あーでもギリ動くかこのパソコンで。誰が作ったの?」
    「グレネード」
    「誰……初めて聞く名前だけど」
    「チェインブラストの設計者」

    ブラストマンはそれを聞いて、一言「ふーん」と言っただけだった。


      *****


    接続、同期、展開。アイシャッターではなく目を開く感覚。視界いっぱいに広がる白い天井と白い床。床には一メートルごとに引かれた線で格子模様が作られている。
    シミュレーターに入る・・のは初めてだ。クラッシュマンは数度まばたきをしてから、ブラストマンが入ってくるのを待った。きっかり三十秒経って、ブラストマンもやってくる。シミュレーターの世界の中で精巧に再現された機体。

    「……うわ、広」
    「広いんだ?」
    「うん。仕事で使ってるやつよりデカいかも……あ、狭くもできるか」

    ブラストマンが空中で何かを引くように指を動かすと、地平線がこちらへ近づいたような感覚があった。逆に天井は高くなったような気がする。少し考えるような素振りを見せて、彼はおもむろに両手を前に突き出した。

    「で、ええと……多分基本的な操作は同じだから、これで……出る」
    「うお」
    「わ」

    目前、彼らが立つ地点からおよそ二百メートルほどの位置に突如として巨大なビルが出現した。質量のぶん押し退けられた空気がふたりの機体を打って、クラッシュマンは耐えたがブラストマンはややよろめく。隣に立つ戦闘用機の腕を手すりにしてなんとか姿勢を持ち直した。

    「大丈夫?」
    「すごいな……空気の設定がデフォルトであんの? しかも物理のせて? 凝ってる……」
    あいつグレネード変態だからなあ……」
    「変態なんだ……」

    ブラストマンはそのまましばらく何かを操作するように指先を動かしていたが、やがて何かに納得したかのように頷いて、クラッシュマンの腕を引いた。

    「普段はシミュ内じゃ距離取らないんだけど、ここリアルだからさ。一応離れよう」
    「何したの? わかんなかった」
    「テスト。前の仕事のデータ参考にして発破解体用の配置で置いた」

    百メートルほど後退してから、ブラストマンの指が何かのスイッチを押すように動く。───ビルの下層から粉塵が上がるのが見え、遅れて爆発音が聞こえてくる。コンクリートと鉄骨の塊はクラッシュマンの好みではないやり方で、しめやかに破壊されていった。衝撃波がふたりのもとに届く頃には、もうビルの体積の半分以上が地面の上で粉々になっている(土煙でよく見えなかったが)。

    「……なんか、つまんないね」
    「発破解体ってみんなこうだぜ。できる限り危険を排してやらなきゃだから」
    「じゃあ、排さなかったら?」

    一拍置いて、新進気鋭のバクハツアーティストがわらう。クラッシュマンは、あ、と思った。
    あのとき・・・・によく似た笑顔だ。

    「見てて」



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    MOURNING岩男二次創作 拙宅壊発破のつづきを書こうとしていたらしきもの 途中で止まったまま放置されててどんな話にしたかったのかわかんなくなってたので供養
    シミュレーターは白昼夢に似ている。

    今回の依頼は山中の大岩の発破解体だった。下手な崩し方をすれば山肌ごと大規模に崩落するそれを、うまい具合に岩の部分だけ発破で壊してしまおうという試み。B.B-BOMBカンパニーのブラストマンならできるはず、と名指しで注文が入ったそれに、失敗は決して許されない。
    だから事前に入念なシミュレーションが必要だった。数十万のポリゴンで形成された山と岩のデジタル模型の内部に手入力でダイナマイトの位置を設定していく。数ピクセルの差が数メートルの誤差になるそれを何度も試行して、ブラストマンは決行のコマンドを打ち込んだ。
    ──爆発のアニメーションは山のリアルな再現度には似つかわしくないチープさだった。無理もない、煙の物理演算は面倒なので。それにこれはシミュレーションだから、リアルすぎなくても目的は達せられる。音声も実装されていたならガラガラと音を立てていそうな勢いで岩がバラバラになっていく。危険領域への崩落はなく、土砂の散逸も想定内。ブラストマンはそれを記録してから、データを発破前の状態まで巻き戻す。そこから天候や風速なんかの数値を弄ってから、もう一度発破の決行。……このデータを元にして現実の山に手を加えれば、そこでもシミュレーター通りの結果を得られるはずである。
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