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    タランザとダークメタナイトが共依存っぽくなる感じの話

    タイトル未定鏡の向こうから声がする。



    ワタシがセクトニアに献上した鏡はディメンションミラーというモノだったと後から下界の勇者に聞いた。なんでも鏡面が異界へつながる扉になっているほか、姿を映した者の心の闇を写し取るのだと、そう説明を受けた。セクトニアの心の闇もその鏡面世界に写し取られているのかしら、と尋ねてはみたが、わからないというのが返答だった。
    それはまあ、そうだろう。ディメンションミラーは一度デデデ大王に割られて以降、大まかな形だけ元に戻して、完全には修復されないまま───しないまま───目隠しの布をかけて、お城の片隅にずっと放置してある。たまに埃を払うが、それぐらいだ。
    中を覗くことも何かを映すこともできないようにしてあるから、何も確認できない。わからない。鏡の国とやらにセクトニアがいるのかどうかも、確かめる術はない。

    それでいいと思う。どうせ鏡に映ったモノなんて虚像で偽物にすぎない。仮に鏡の国にセクトニアがいたところで、きっとこのタランザが仕えたあの女王とは、……ワタシが愛したあの子とは、似ても似つかないだろうから。

    「それにワタシには、この花があるのね」

    目の前にそびえる花の幹を撫でる。ワールドツリーの花は、今日も気高く咲いている。


    フロラルドに住む天空の民たちと協力しながらワールドツリーの世話をして(驚くべきことに、あれほどのことをしたのに天空の民からは一度の報復も受けていない!)、誰もいない空っぽの城に戻る。これがワタシのルーチンワーク。主のいない伽藍洞に戻るのはひどく寂しくあったけれど、これぐらいのささやかな罰でもないと落ち着かないのだ。……罰としてはささやかすぎる、と自嘲を交えながら。
    あの頃はあんなに大勢住んでいたセクトルディたちも、今はフロラルド各地に散らばって天空の民と共存しているので、本当に城には誰一人いない。呼吸音も衣擦れの音も、ワタシ一人ぶんだけだ。

    だから物音がすればよく響く。


    *****


    最初は泥棒でも入ったのかと思った。
    わざわざこんな高所にやって来るほど根性のある泥棒なんか早々いないとすぐに思い直したし、天空の民は今更になってワタシになんらかの制裁を与えようだなんて思いつきもしなさそうなほどに心優しい人々だ。
    だから、その時聞こえた物音の心当たりは何一つなかった。

    「だ、だれかいるの……?」

    右手の一つに魔力を込めながらそうっと近づく。場所はもともとセクトニアの過ごしていた部屋。あの部屋は例の鏡とセクトニアの思い出を大事にしまうために、扉にきちんと鍵をかけているし、毎日施錠確認もしている。ついでにセクトニアとの思い出に浸ったり───閑話休題。
    誰かが入ってきているのだとしたら鍵が開いているか、もしくは通り抜けの魔術か何かを使われたならその痕跡が残るはずだが、鍵はきちんと閉まったままだったし、魔術痕も見当たらなかった。
    それでも、ノックのような音がこつこつと聞こえてきている。

    「……」

    何より不思議なことは、なんの気配も感じない・・・・・・・・・・ことだ。誰もいないはずなのに音がする。無論、霊的存在によるものでもないだろう。そういうモノならそれはそれで、それなりの気配があるものだから。……だから本当に、この部屋の中には誰もいないはずなのだ。

    鍵を開けて、ドアノブを握る。一度口内の唾液を飲み込んでから、ゆっくりと扉を開いた。隙間からそおっと覗いた部屋の中は、一昨日掃除に入ったときと同じくただ時が止まったまま、


    訂正。鏡の傍に鏡の破片がひとつ、落ちている。

    「…………あ、あぶないのね。どうして落ちてるのかはわからないけど、片づけておかないと」

    ひとりごとを呟きながら、そっと鏡に近づく。しかし、どうしてまた?いくら完全には直していないといえども、破片はすべて枠の中に嵌めておいたはずだ。風で地面が揺れでもしたのだろうか。
    破片を拾い上げようと手を伸ばし、

    「だれかいるのか」
    「ひッ!?」

    盛大に体を跳ねさせた。


    「だれか、いるのか」
    「そそそそそそれはこっちのセリフなのね!!誰!?」

    警戒態勢!六つの腕すべてに魔力を込めて精いっぱい眉間にしわを寄せた。鏡の向こうから声がしている!

    「オレがだれなのか知りたいなら、その破片をもどしてくれ」
    「い、い、嫌なのね。キミが悪者だったら協力したくないのね!」

    素早く破片を拾って背中に隠した。何者かはわからないが、取引を持ち掛けようとしてくる奴は十中八九悪いやつである。もうワタシは悪い心を持つ何かに振り回されるわけにはいかないのだ。
    鏡の中の声は、一度喉を詰まらせたような音を立てて沈黙し、しばらくしてから悲しそうなため息を吐いた。

    「……オレが……オレが悪い心を持ってんのは、オレのせいじゃないよ」
    「……」
    「アンタ、メタナイトって知ってるか」

    唐突に出された名前には聞き覚えがあった。ワールドツリーが生えたあの一件のあと、セクトニアとワタシのせいでボロボロにしてしまったフロラルドの復興事業に、ワタシたちに迷惑をかけられた被害者側でありながら何故かお節介を焼きにきた下界の勇者……ではなかった、ハンマーを担いだ王様が、たまに名前を出しているのを聞いたことがある。

    「……名前くらいは聞いたことがあるのね。真面目で、戦艦持ってて、剣の腕はプププランドで一番なのにどうしてか下界の勇者には勝ててないっていう」
    「名前以外も聞いたことがあるんじゃん」
    「そりゃあ下界の大王がよく話すから……って、メタナイトがどうしたのね」
    「オレはその虚像だよ」

    鏡の中の声が言う。

    「オレは……メタナイトの悪い心を映して生まれたメタナイトだ」
    「……悪い心」
    「なあ、鏡、戻してよ。オレが誰かはわかっただろ。別に外に出たいっていうんじゃないんだからさ、ただ落ち着かないだけだから……」
    「…………戻さないと、どうなるの?」

    少しの沈黙があった。

    「わからない。でも、なんか嫌だ」

    声は、わがままを言う子供のようだった。



    「鏡の国にワタシの虚像は居るの?」
    「いや、知らないな……居たとしても、オレはアンタの顔を知らないからわからないと思う」
    「確かにそうね」
    「顔見せてくれるんだったら探してやれるんだけどなあ」
    「……んん、ダメ。今ワタシの姿を映したら、その瞬間ワタシの虚像がそっちに生まれるかもしれないでしょ。もともとそっちにいてもいなくても……」
    「ケチ」
    「ケチじゃないの!」

    鏡の破片は、目隠しの布越しに手探りで戻した。かち、と小さな音を立てた後、不思議なことに鏡は元の滑らかな鏡面を取り戻したようで、手触りが急につるつるになって驚いた。鏡の中の声が言うには、前にも一度鏡を割ってから修復したことがあって、その時にもこうして綺麗にヒビが消えたのだとか。
    目隠しの布を外さなかったのは、自分の姿を映したとき、あるいは自分の目で鏡を見た時に、何が起こるかわからなくて怖かったから。

    「なあ、タランザ。アンタいつになったら顔見せてくれるんだ」
    「……ダメなのね。ワタシはこの鏡をもう封印するって決めたんだから」
    「せっかく直してくれたのに、使われなきゃ鏡が泣くぞ」
    「説得しても無駄なのね!ワタシはもうこの鏡には何も映さないって決めたんだから!」

    あれから何度か鏡の中の声と話している。鏡を直した次の日、あの寂しそうな声がなんだか気にかかり、埃を払うついでについ声をかけてしまったのが運の尽きと言うべきか。甘ったれたようなその声に、妙になつかれてしまったようだ。
    鏡の中の声はあまり多くのことは知らないようで、ワタシがこちらの世界の話をすると妙に嬉しそうに聞いてくれた。育てている花があること、扱っている魔術の系統、天空の民との些細なやり取りですら楽しそうに聞いてくれる。ついつい話し込んでしまって、日付をまたぐことさえあった。この城にはワタシ以外のヒトが誰もいないから食事を忘れようが何をしていようが好きに過ごしていいのだけれど、あまり夜更かししては明日に響く。そういう時に慌ててその場を離れようとすると寂しそうな声が引き留めるので、どうにか相手の寝かしつけを試みることも何度かあった。二日三日と会いに行かない日があると露骨に拗ねる事さえあった。まるで子供のようだ。

    「なんでだよ……タランザってなんかガンコだよな、顔みせないの」
    「……事情があるのね。キミに話すことじゃないけど」
    「話してよ」
    「ダメ」
    「ケチ」
    「ケチじゃないの!」

    彼と話していると、かつての彼女とのやりとりを思い出すことがある。
    そうだ、あの子もこんなわがままを言うことがあったっけ。

    「……そっちの世界に、セクトニアはいるの?」
    「それ誰?」
    「ワタシが以前仕えていたヒトで、ワタシの幼馴染で……美しい姿のヒトだったのね。……もうこっちの世界には……いないんだけれど」
    「ふーん……そっちの世界で死んでるならこっちには多分いないと思う」

    「だってオレたち虚像だし。本体がいなきゃ形を保ってられないんだ」

    代わりに本体が生きてればずっと死ねないんだけど、と吐き捨てられるように言われた。彼は自分が悪心でできていることをひどく嫌っているようで───でもワタシはそんな彼の様子を気に掛ける余裕もなく、ただもうセクトニアの虚像にすら会えないことがひたすら悲しかった。


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