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    アイスマンが自称後輩のわるいロボに振り回される話。途中まで。

    百夜通い(仮題)やばい。ボク、今まで生きてきた中で一番のピンチに直面してるかもしれない。

    いや、アイスマンボクのロボ生における最大のピンチって言ったらそりゃあワイリー博士に連れていかれて改造されていろいろめきょめきょにされたあの時が殿堂入りなんだけど、あの時のボクっていったら洗脳も受けてたせいなのか記憶ログがあんまり上手く残せてなくて、正直よく覚えてないんだ。だからボクが今感じてる一番のピンチっていうのは客観的に見ての一番なんじゃなくって、あくまで主観的な、問題。

    それでどういうピンチかって言ったら帰り道にワイリーナンバーズが立ってた。
    電柱の陰に。ぬっと。

    初見でそいつがワイリーナンバーズだってわかったのは、ワイリー博士の七番目の事件で出てきたロボットの中に氷モチーフのロボットがいて、そいつの顔と名前をなんとなく憶えてたからなんだけど。そう、フリーズマンっていって、あっちこっちトゲトゲしてるいかついロボ。牢屋ぶっ壊した悪いやつだ。
    そいつがさ、……ねえこれボクちゃんと認識してあげなきゃいけないやつかなあ。正直Uターンして逃げたいっていうか、でもそんなことしたら追いかけてきそうでなお怖いっていうか……うん、腹ァくくろ。ボクだって男の子だ。勇気とかいろいろ、出さなきゃね。
    ……そいつがさあ、フリーハグの看板持って立ってんの。

    わかる?ワイリーナンバーズの悪いロボットがフリーハグの看板を……しかも、しかもだよ、看板の下の方にそこそこ見やすい大きさで「※ただしアイスマンに限る」って書いてあるんだよ。名指しだよ。全然フリーじゃないじゃん。
    もうさあ、怖いよね。わかる? うん、ありがとうわかってくれて。こっわぁ……。

    だいたい三メートルくらい先の電柱からフリーズマンはじっとこちらを見つめてる。ボクはさっき仕事を終えて今から家に帰るところで、疲れてるからあんまり頑張りたくない気分。じり、と一歩踏み出すと、動きに合わせてフリーズマンの目線が動く。じりじりと歩みを進めて、その辺に生えてたねこじゃらし(ほんとはエノコログサっていうらしいね。ホーネットから聞いた)を引っこ抜いて、剣みたいに構える。ちょっと頼りないけど、丸腰で対峙するよりは気分的にちょっとマシだ。うう、だいたい電柱の真横まで来たからフリーズマンの顔が良く見えるけど、こいつ顔がマスクタイプだから表情が読みづらいんだよなあ! 今おまえどんな感情でその看板持ってんの!?

    「今おまえどんな感情でその看板持ってんの」
    「ありがとうございます」
    「ウワァッ声に出てたァ!」

    びっくりしてちょっとホバリングした気がする。慌てて口元を押さえながら後ろのブロック塀に背中をべったりつけた。ちょっとじゃりじゃり音がするな、老朽化が激しいんじゃないの。構えてたねこじゃらしが消えかけの白線の上に落ちてるのが視界の端に映ってて、あー、ボク結局丸腰になっちゃった。
    ていうか何がありがとうなんだよ。電柱の陰からぬるっと出てきたフリーズマンは相変わらず表情が読めなくて、フリーハグの看板は相変わらず掲げられたまんまだった。ちくしょう、ベニヤにポスカで書くなよめちゃくちゃ滲んでるじゃないか。

    「ありがとうございます、声をかけていただけて光栄です。……怯えてますか」

    おお、声かけただけでありがたがるのかこいつ。初めてだよそんなの。

    「お、おおおお怯えるに決まってんだろォ! お前自分が誰で今何してんのかわかってる!?」
    「俺は元実験用で現戦闘用機でワイリーナンバーズ所属のロボットです。名前はフリーズマンといいます。あなたを怯えさせないようにこういう手段を取ったのですが、俺は失敗したんでしょうか」
    「ヘェ!?」

    急に全部答えられると逆に引いちゃうだろ、やめろよ。……まあ失敗はしてるよな。ボク怯えてるし。
    自分が誰なのかわかってるのは、うん、いいんじゃない? 戦闘用になる前の仕事があったんだなっていうのは初めて知ったけど。なんの実験してたのかな。実験に必要だったんだろうか、そのやたら主張の激しい眉なんだか角なんだかわかんないパーツは。もしかしたらワイリー博士にくっつけられちゃったのかもしれない。
    そういう全然関係ないようなことをうっかり考えて現実逃避するくらい、なんだかよくわかんないことを言われた気がするんだけど。怯えさせないようにって、

    「なんで?」
    「なんで、とはどれに対しての質問ですか」
    「いや怯えさせないように、のとこ」

    そりゃまあなんでフリーハグなんだよとかなんで今こんなとこで待ち伏せを、とかいろいろ聞きたいことはあるんだけどさ。

    「それは、……すみません、うまくまとまりません。俺は先輩をどうしたいんでしょうか」
    「知らないよ!?」

    びしっと普通にツッコんじゃった。あんまりにも真面目くさった口調でそういうこと言われるとちょっと面白いじゃんか。でもダメダメ、いくらおとぼけでもこいつワイリーナンバーズだもんね、油断させておいてまた誘拐とか絶対ヤダし怖いもん。
    だからブロック塀に背中をくっつけたまま、じゃりじゃり音を立てつつじりじり移動を始めた。ちょっとずつ動いて、距離取って一気に逃げちゃえばいい。ボクの足はフリーズマンよりだいぶ短いけど、不意を突いたらちょっとぐらいはなんとかなるはず。なってほしい。

    「逃げないでください」
    「逃げてないけどォ!?」

    うんバレるよね普通にね、背中がじゃりじゃり言ってるしね。くっそー声はかけてくるくせに一切引き留める動きがないの、強者の余裕って感じで腹立つな! あー目がこわい。すっごい見てくる。ダメだこれ逃げらんなさそ。顔ひきつっちゃう。

    「そうですか、すみません」
    「もーやだ、おまえほんと何がしたいわけェ……」
    「泣かないでください」
    「泣いてないよォ」

    ホントに泣いてないけど、でも泣きたいよ、ワケわかんなさすぎるもん。あーあ、ホントに泣いちゃって大声出したら誰か来てくれたりしないかなあ。近道だからってこっちの細道通るんじゃなかったよ。トホホ。
    正直この時のボクはちょっとパニックになってた。おなかも空いてたし、疲れたし、フリーズマンはワケわかんないことばっかりしてくるし。処理落ちしかけて力が抜けて、もう地べたに膝とかついちゃってた。これじゃ逃げらんないなあ、ああロック、ボクらの兄ちゃん、ボクがまた誘拐されたら連れ戻しに来てください。いろんなことを諦めて祈り始めたりなんかしてるボクは、近づいてきてたフリーズマンに気付くことができなかった。

    「すみません、困らせたかったわけではないんです」
    「……ふぇ?」
    「言語化に時間がかかりましたが、先程の質問への返答です。……俺はワイリーナンバーズですから、ただ普通に接触したのでは通報されたり攻撃されたりする恐れがあるかと思い、それを防ぐために警戒心を解こうとしていたので、ああいう手段を取りました。俺には目的があったので」

    顔のあたりに影がかかって、思わず顔をあげちゃった。影がかかるくらい近くに寄って来てたフリーズマンは、ボクの目の前に膝をついて、なんだかチョコンって擬音が似合うような座り方をして、それでこんなふうに言った。

    「俺は先輩に会いに来たんです」


    「………………なんで?」
    「先輩を尊敬しているからです」
    「な、なんで」
    「同じ氷を扱うロボットとして当然のことです」
    「な、なんで先輩って呼ぶの」
    「先輩を尊敬しているからです」
    「わ、……わっかんねェ~……」

    あんまりにも戸惑ったもんだからめちゃくちゃ声がつっかえちゃった。尊敬してんだって、ワイリーナンバーズのロボットが、ボクのこと。いやほんとになんで?

    「ともかく、俺は貴方を尊敬しています。なので、会いに来ました。今日はお話しすることができて嬉しかったです」
    「え、ちょっと待ってなに、なんか締めに入ってる?」
    「はい。目的は達成しましたし、先輩をこれ以上時間的に拘束することも困らせることも本意ではありませんので」

    ボクが困惑しているうちに、フリーズマンの中では話がまとまってしまったらしい。そいつは立ち上がって、ちょっと頭を下げてきた。ボクは見上げる姿勢になるので首関節の負担がすごい。

    「怯えさせてしまい、申し訳ありませんでした。今日のところは帰ります」
    「はァ……」
    「こちら、よろしかったらどうぞ。では」

    フリーズマンはボクの目の前にそっと何かを置いて、びょんっと跳び上がってどっかに行っちゃった。あんなに騒がしかったのに(騒がしくしてたのはボクひとりだけだったけど)、急に静かになったもんだからボクはしばらくぽかんとしちゃった。
    一分ぐらいして、ようやく我に返って、目の前に置かれたモノを見た。そういやあいつなんか置いてったなァ。

    フリーハグの看板だった。

    「いやいらないよ!!」

    べち、とささくれさえあるベニヤの表面を一発叩いて睨みつけ、どう見たってボクの名前が書いてあるのでこのままここに放置もできず、しょうがないから板の真ん中から二つに折って持って帰った。ファイヤーマンに燃やしてもらお。どこから拾って来たんだって言われるかもしれないけど、強引に押し切ったらなんとかなるはず。


    研究所に帰って、同じく帰って来ていたファイヤーマンのおしりに十分ぐらい貼りついて駄々こねて看板を焼いてもらって、E缶飲んでセルフメンテしてその日は早々に寝た。いつもだったらロックとかロールちゃんと一緒にテレビ見たりするんだけど、今日はさあ、ほら、疲れたじゃん。
    充電ケーブルを引っ張ってくる間になんとなくフリーズマンとの会話を思い返してた。会いに来た、なんで、ボクを尊敬してるから。あいつ、ボクのこと先輩って呼んだなあ。だいぶ長いこと稼働してるけど、先輩って呼ばれるの、初めてかもしれない。ボクの見た目ってだいぶ子供っぽいし、性格の方も結構見た目にってるから、あんまりそうやって持ち上げられるみたいな言われ方されたことないんだよね。
    あれは、ちょっと、嬉しかったかも。

    「あいつがワイリーナンバーズでさえなかったらな~」

    そう、あいつがワイリーんとこの悪いロボでさえなかったら、まあ連絡先ぐらいは交換してやってもいいし? たまに遊んでやってもいいし? それぐらい嬉しかったなァ、先輩呼び。呼んでくれたあいつはちょっとドン引くくらい変な奴ではあったけど。フツー警戒心持たれないようにってフリーハグやる発想になる?
    あの時は悪いロボにひとりで出くわしちゃった恐怖でビビりまくってたけど、冷静になっちゃえばあいつもなんだか面白いやつだなあって思える。うん、後輩だからってワケじゃないけど、ちょっとかわいげあるんじゃない? とか、言ってみちゃったりなんかして。

    まーでも、うん。結局あいつは悪いロボだからさ。ちょっと惜しいけど、思い出箱の中にしまって、あとは忘れよう。そんでたまに思い出してあんなロボットもいるんだなーとか、そんな感じでやってこう。おやすみー。


    そう、ボクはうっかり忘れていたのである。フリーズマンは「今日のところは」って言って帰ったのだ。



    い、……いる! 帰り道にあいつ立ってる!!

    ボクの今の仕事(前の仕事は引退したんだよね。でもたまにヘルプに呼ばれたりするよ)って冷凍コンテナで運ばれてきたアレとかコレとかをまた別のでっかい冷凍庫に移したり整理整頓したりする仕事なんだけどさ、日によって微妙に運ばれてくる荷物の量が違うから、けっこう残業とかも多いわけ。
    今日なんか特にそうで、帰りが遅くなってもうだいぶ日も暮れて来ちゃってたから、昨日も使ったあの近道通って帰っちゃおーって思ったの。流石に二日連続で変なのに出くわすことないでしょって、ちょっと小走りでさ。

    そしたらさあ。いるんだよな、なんか目立つのが。

    目立つっていうか……今、だいたい五月の夜九時ぐらいなのね? もう日が落ちてだいぶ経ってるし、この道電灯もまばらだから結構暗いんだ。だから物陰に誰か隠れてたりすると気付くのが遅れたりするんだけど。

    「……フリーズマン?」
    「お疲れ様です、先輩」
    「なんでおまえ光ってんの?」

    フリーズマンが、イルミネーションされてた。
    電飾のケーブルでぐるぐる巻きになって、ゲーミングって程じゃないけど五色ぐらいには光ってる。クリスマスなら半年前に終わってるけど? あとその電飾、電源どっから引いてんの?

    「先輩を待っていたら暗くなってしまったので、暗い中から声を掛けたらまた怯えさせてしまうのではないかと思い、なので目立とうかと」
    「すっごい目立ってたよ、あっちの方からでも見えてた」
    「恐縮です」

    こいつ悪いロボなんだしあんまり目立つのよくないんじゃないかなあ。いいから電気消しなよって言ったら大人しく消してくれて(右手に電池握ってたみたい。直に電線繋いでたのかな)ホッとするけど、光ってない電飾ってなんか鉄条網みたいで物騒だ。あとやっぱり暗がりの中にぬっと立ってると怖いなあ。
    ……ていうかしれっと聞き流したけどこいつボクのこと待ってたって言った?

    「おまえ、ボクのこと待ってたの?」
    「ありがとうございます」
    「なんでお礼言った?」
    「怯えないでくださったので。……はい、待ってました。昨日帰ったあと先輩との会話を反芻していたら、物足りなさを感じたので、もう一度話してみたいなと」
    「それで待ってたの?」
    「はい」
    「こんなとこで? おまえってヒトに見つかったらまずいヤツなんじゃないの、ここボク以外もたまに通るよ?」
    「ステルス装置を搭載しています。抜かりありません」

    フリーズマンはステルス装置の実演もしてくれた。ちょっと輪郭がわかるけど、この暗さだったら十分誤魔化せるな、ってライン。やっぱワイリー博士も技術力はすごいんだよなあ。性格がちょっと悪いだけでさ。

    うーん、なんか、なんだろう。ちょっと言葉にするのが難しいんだけど。
    確かにボクは昨日に比べてフリーズマンのことが怖くなかった。まあ、悪いロボ相手だから警戒はしてる。今もちょっと距離取って、いつでも駆けだせるようにはしてる。でも、別にそんなに怖くない。
    だってフリーズマン、ちょっと面白いよ。悪いロボのくせにさ、なんか、フリーハグとかやるし、暗くなったらピカピカになるし。そんで、ただおしゃべりがしたいってだけで、ホントにボクが通るかもわかんない道で突っ立ってるんだもんな。牢屋ぶっ壊すようなやつなのに。ロックがバスター向けちゃうような、悪いロボットだってのに。
    あー、ほだされたらダメなんだよなー、こいつワイリーナンバーズだしなー。でもなー。

    「……話したいって、何話すんだよ。ボクおまえに話せることなんにもないよ」

    でも、ちょっとぐらいだったらさ。

    「なんでもいいんです。俺のことを嫌いにならないでくださるのであれば」
    「謙虚なんだかそうじゃないんだかわかんないなァ……」
    「実際、今このやりとりだけでも俺は嬉しいです」
    「謙虚の方だったよ」
    「本当はもっと気の利いた場所でゆっくり会話がしたいのですが。こんな立ち話ではなく」
    「ボクとおまえでお茶とかするの? 想像つかないな~……」

    想像つかないけど、でも、ちょっとぐらい。ちょっとぐらいだったらさ。
    いいんじゃないかなあ。悪いロボとでも、友達になったっていいんじゃないのかなあ。ワイリーナンバーズだけどさ、ボクちゃんと覚えてるんだよ、惑星探査に行ったまま戻ってこなくなっちゃった、半分だけの兄弟たちのこと。あいつらも今は悪いロボだけど、でもちゃんといいヤツだったってことも覚えてるんだよ、ボク。
    フリーズマンは元実験用ロボだった、って自己紹介してたっけな。半分だけの兄弟たちと、境遇的には多分似てる。百パーセント悪いやつってわけじゃないって思いたいな。思っちゃダメかな。ロックはなんて言うかな……。
    あ。

    「そうだボク帰る途中だったじゃん」

    ロックのこと思い出したら思い出した。ボク今帰宅の真っ最中。遅くなったから早く帰ろうって、近道としてこの道通ったんじゃなかったっけ。

    「そういえばそうでしたね」
    「やばいやばい今何時!? 九時半!?」
    「送りましょうか」
    「何らかの問題が発生しそうだからダメ!」

    ステルス装置があるとはいっても、万が一誰かに見られたらロボ攫いだと思われかねない。ただでさえこないだカットが被害にあって研究所がぴりぴりしてるってのに。……カット攫ったの、ワイリーナンバーズだったりしないよね?

    「先輩」
    「なに!?」

    走りかけてたけど呼ばれて振り向く。フリーズマンは突っ立ったままだ。相変わらず表情読めないし、声のトーンも一定で落ち着いてて。
    なのにちょっとだけ寂しそうに見えた。


    「また会いに来ていいですか」


    ───ここでボクがダメって言ったら、もう会いに来なくなるんだろうな。

    「……いいよ! 場所はここ固定ね! ボク通る時間まちまちだけど! あ、水曜と金曜は休みだから通んない!」
    「ありがとうございます」
    「じゃあね! 帰る時、誰にも見つかんなよォ!」

    今度こそボクは走り出した。フリーズマンがついてこないのを、聴覚センサーで確認しながら。
    ……いまのは、何に対してのありがとうなのかちゃんとわかったよ。



    あーあ。やっちゃった。ワイリーナンバーズの悪いロボットと待ち合わせの約束なんかしちゃったよ。ボクも悪いロボになっちゃうのかな。どうしよう。こんなの誰にも言えないぞ。
    すごいや。ボクにも秘密が作れちゃったよ!
    今までこんな、ちょっと不良っぽいような、「ワル」なことってしたことなかった。だってボクっていい子だし、まあちょっとわがままなとこはあるけどさ? でもそれってチャームポイントでさ。今までけっこう真面目に生きてきたつもり。人間の子供みたいに反抗期とか経験しなかったし。あ、改造された件はノーカンでね。
    だからボクはワクワクしてた。こういうの、背徳感って言うんだっけ? 生まれて初めて、誰にも言えないような、ナイショの秘密ができたんだ。うわーお! やったぜ!

    ホントどうしよう。落ち着いたらめちゃくちゃ焦ってきちゃった。
    いや……いや、うん、確かにさァ、別れ際の……なんか、しょんぼりしてたフリーズマンの様子を見て、これこのまんま別れたらダメなやつだって思って、それで、勢いで約束を……。後悔はしてないよ? してないけど。あいつがホントにしょんぼりしてたのかは、正直わかんないけど。
    でも選択ミスった気がしないでもないな~~~。どうしよう、また洗脳とかされちゃったら。ウイルスバスター更新しとこっかな。やっとくか。うん、まあ気をつけとくのに越したことないしな。
    ……でもなあ。


    ありがとうございます、って言われた時の音声ログを掘り起こす。フリーズマンの会話音声はずっと平坦で、冷静で、テンションがずっと高めのボクとは違って落ち着き払ってて、これじゃあどっちが先輩なんだかわかんないぐらいの有様で。
    でもあいつ、ありがとうっていう時だけちょっと声のトーンが上がってた。
    フリーズマンは、ボクと話ができるのが多分ホントに嬉しいんだ。悪いロボでも、表情が読みづらくても、ちゃんと心がついてんだ。そういう相手に対して、悪いロボだからーってずっと疑ってかかるの、悪いことなんじゃないのかなァ。ボクがあいつの立場だったら、けっこう悲しいかもしれない。尊敬してて、先輩って呼んでる相手が、自分のことずっと疑いの目で見てたら……。

    「やだよなァ……」

    寝台の上に寝っ転がって、枕にしみ込ませるみたいに呟く。他の兄弟に聞かせるわけにはいかないし。部屋は別だからあんまり気にしなくてもいいっちゃいいけど、気持ち的にね。
    ホント、どうしようかな。

    「……お茶とか、誘ってみる……?」

    あいつのことをなんにも知らないから、こんなにぐるぐる考えちゃうのかもしれないし。帰り際にちょっと話すだけじゃなんにもわかんないもんな。でもボク、誰かとお茶したことってそういや無いんだよね。だから想像つかないんだけど。ていうかそもそもあいつ、どっかのお店とか入れるのかな。ワイリーナンバーズだもんなあ、フリーズマン。うーん、ダメかもしれない……。



    次の日の帰りも道で待ってたフリーズマンは、「俺は無 (公)害なロボットです」って書かれた札を首から下げてた。公の字だけやたらちっちゃく書かれてる。

    「ん゙ッッふ……な、なにそれ……」
    「先輩の俺に対する警戒心を解いてもらいたかったので、ウケを狙ってみようかと。俺は元々無公害エネルギーの実験用だったので、それとかけてみました」
    「うふ、そっ、そうなんだ、ふふふふ」

    なんかもうバカバカしくなってきたな、こいつのこと警戒するの。現戦闘用ロボットがすることじゃないよそれ。
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