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    波さんが頭の中にいる海王星さんやたまたま出くわした潮ちゃんとお喋りしたりする話の途中

    海は広いが、大きいがウェーブマンの電子頭脳の中には少し前からもうひとり・・・・・がいて、たまにこのようなことを言う。

    『久しぶりに海が見たいですねぇ』

    勝手に行ってろよ、と思うのだが、こう言われるときは大抵ウェーブマンも海が見たかったりする。
    なのでまあ、行くか海、となる。


    ウェーブマンの頭の中のもうひとりは以前ネプチューンと名乗っていた。
    この名前を名乗るロボットのことをウェーブマンは知っていたが、同時にそいつが「ロックマンに倒されて以後、回収もろくにできていなくて行方不明」という末路を迎えたことも知っているので、頭の中のこの声は他人の空似の幽霊なんだと解釈することにしている。幽霊にしては現世に未練がある様子も無いし、成仏の気配も無いのが厄介なところである。
    ワイリーカプセルにも搭載されているらしいワープシステム……の、簡易版装置を動かして、転移すること二度三度。一度に長距離を跳ぼうとすると着地座標がずれるのだ。以前どこかの海のど真ん中に落っこちてしまってえらい目にあった。ダイブマンの顔は二度と見たくない。

    『今日はどこの海にしますか』
    「どこでもいいよ、冷たくないとこ」

    五度目の転移で目的地に着いた。どこかの無人島の南端にある、誰かのシークレットビーチ。海水はそれなりに澄んでいて、磯臭さみたいなものは感じない。砂浜に漂着している貝殻や海藻を踏みつぶしながら、しばらく波の音を聞いていた。

    『ああ、海ですねぇ』
    「アンタは海ならどこでもいいの」
    『まあ。川やプールでないならどこでも好きですよ』
    「アンタ淡水魚みたいなツラしてたのにな」
    『……どういう意味です? それ』

    別にどういう意味でもない。ちょっと、となおも言い募る声を無視しながら、ウェーブマンは海辺へと歩みを進めた。そのままざぶざぶと波を掻き分け、ゆっくりと機体を沈めていく。
    普通ならこのまま浸水してジ・エンドだが、問題ない。ウェーブマンは水陸両用ロボである。

    水中は好きだ。遠くの音までよく聞こえるのにしんと静かなようでもあって、水流による大きな腕に抱かれるような感覚はなるほど母なる海、と言われるだけはある。ひとりでいるのに孤独ではないようなこの感覚をウェーブマンは好んだ。……電子頭脳の中にいるネプチューンのせいで今はひとりになれないのだが。
    より深く沈むために機体内に溜まった空気を排出して、登っていく気泡を見上げながら海底に足の底をつけた。いつの間にかあたりは真っ暗になっていて、視覚から地形情報を得ることが難しくなっている。ウェーブマンは後付けで実装したソナー装置を起動して、コン、と一回。コン。もう一回。反響音で海底の地形が判明する。
    ついでに人間大の何かが急接近してくるのも。

    「誰だッ!」
    「あたし。やっぱりおにいちゃんだった! あんな場所で排気するの、おにいちゃんぐらいしかいないもの」

    バブルおじさまは元気? と屈託なく笑いかけるスプラッシュウーマンを見て、ウェーブマンは右腕の銛を射出するのを止めた。


    スプラッシュウーマン。第九次世界征服作戦の際にワイリー博士が連れてきた、女性型(正確には人魚型)のロボットである。廃棄処分寸前だったところを改造した影響が電子頭脳に出ているのか、はたまた元からの本機ほんにんの資質か、本来は敵対組織であるはずのワイリーナンバーズにも親し気に接してくるのだ、このロボットは。
    特に改造後、作戦開始までの時間を共に基地内の特設水槽室で過ごしたバブルマンに対してよく懐いていたのはおじさま呼びをしていることからも察せられるが、ウェーブマンに対して「おにいちゃん」という呼称を使ってくることだけは由来が不明なままだ。ウェーブマンにそれを問いただせるようなコミュニケーション能力がないとも言える。

    「……ご、ご隠居なら健在だよ。……寄るなッ、それ以上寄るな! てか、なんでいるんだよこんなとこに!」
    「海洋投棄ごみ回収の仕事がひと段落ついたから、パトロール代わりに近くを泳いでたの。そしたらあぶくがのぼってくるのが見えて、もしかしたら……って」

    スプラッシュウーマンはウェーブマンの周囲をくるくると回遊しながらにこにこと喋っている。ウェーブマンは彼女が三周するまで何度か銛を彼女の方に向けたが、やがて諦めたようにひっこめた。

    『これはこれは。運命的な再会ですねぇ』
    「うるさい黙れ半魚人」
    「あ、中のひともいるの? 元気?」
    「『ええ、元気ですよ。機体がないのであくまで気持ち的なものですけれど』……クソッ! 勝手に借りるな!」

    ややざらついたような音質でウェーブマンの発声モジュールから発された言葉はネプチューンのものだ。ウェーブマンの中にいるもうひとりはこうしてたまにウェーブマンの機体の主導権を借り受けて勝手に行動することがある。
    このことを知っているのはスプラッシュウーマンともう一機、ウェーブマンが言うところの「ご隠居」であるバブルマンくらいなもので、ワイリー博士には秘密のままだ。というか、ネプチューンがワイリー博士の前だと出てこなくなってしまうので、必然的に存在証明が不可能になってしまうのである。
    ネプチューンはそこそこお喋りな人格だ。会話相手がウェーブマンひとりではいささか寂しく思うらしい。

    「いいじゃない。あたし、中のひとの声も好きだよ」
    「『残念です、ワタシの機体が残っていればもっと素晴らしい美声を届けることも出来たのですが』……」
    「でも勝手におにいちゃんのスピーカー借りちゃうのはほどほどにした方がいいよー、ほら拗ねちゃってる」
    「もうお前帰れよ……」

    ウェーブマンはしゃがみ込んで、海底の砂だか岩だかよくわからないところをぐりぐりと銛でいじくっていた。自分が帰るという選択肢はない。海底散歩は始まったばかりなのだ、せめてあと300メートルは歩いてから帰りたい。こんなかしましいロボットとのエンカウントなど予期していなかった、何が運命的な再会だ。
    ぐりぐりとほじくられている海底から潜っていたらしい何らかの生物がのそりと這い出し、這い出したそれをスプラッシュウーマンが素早く捕まえて無邪気に引きちぎった。内臓とおぼしきふわふわの何かが水中を紙吹雪のように漂っている。

    「な……何してんの?」
    「わかんない。でも楽しいよ、おにいちゃんもやったらいいよ。そのためのロボットだったんでしょー、ウェーブマンって」

    どうだったか。確かに自分には殺傷能力が備わっているが、生物を残酷に殺すためにその機能が付いているのかと問われるといささか返答に迷うところだ。
    ウェーブマンがなんと答えるべきか───はたまた沈黙を保つべきか───悩んでいる間、スプラッシュウーマンは無表情のままぼんやりと散らばる内臓を眺めていたが、それらが全て流れていったあたりで突然にっこりと笑った。

    「ね、おにいちゃん。お散歩ついてっていい?」
    「勝手にしろよ」

    ため息のように海水を循環させて、ウェーブマンはまた歩き始めた。このやかましい人魚を追い払うのを諦めたとも言える。

    『デートですね』
    「黙れよほんと」
    「何も言ってないわよ」
    「アンタじゃねえよクソッ!!」

    八つ当たりにどこへともなく銛を射出した。勢いよく射出された銛は何かやわらかいものに当たり、即座に命を一つ奪った。
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