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    あの真っ赤なひかりに恋をしている。



    俺の名前はターボマン。ドクター・ワイリー・ナンバーズの56番で、レーシングカーをベースに作成された純戦闘用の変形機構搭載ヒューマノイドタイプロボットだ。
    自己紹介は大事だろ?
    今日は俺の話を聞いてほしいんだ。聞きたくない奴がいたら───ま、別にどうでもいい。俺が勝手に喋るだけだから。あ、聞いてくれる感じ? サンキュー。

    んじゃあ続きね。俺が造られたのは第七次世界征服計画の時。先に出動してた四体と、あとから急ピッチで用意された四体、これが公的記録に残ってる「セブンス」のお仲間。実はもうひとりいるんだけど、あー、そいつのことはまあ置いといて。俺は〝急ピッチ〟の一番最後。最後、っていうとなんだかトクベツな感じがするけど、実際の所は単に時間と予算と作戦規模想定の兼ね合いで間に合わせ的に造られただけだからぶっちゃけ俺の存在って割とオマケ的なワケ。ああでも間に合わせっつっても全然手抜きじゃなくてむしろ凝ってる方だし変形機構つけてくれたあたりは博士に感謝してる。やっぱさ、元がクルマだから俺って四輪で走るの好きなんだよなーっ。ブルルーーン! あ、だいぶ早口で喋ってるけどちゃんと聞き取れてる? オッケー? ならいい。そうそう俺走るの好きだからもう言葉とかもどんどん走っちゃって・・・・・・ねアハハ。
    笑うとこねここ。
    そんな感じで突然産まれた俺なワケだけど、ロールアウトの前にやっぱり動作確認試験って必要なのよね。大事だぜーっ? ちゃんとお役目果たせる機体からだになれてるかっていうの。これから街へ繰り出して、気持ちよ~く風を受けながら、人も建物もいっぱい撥ね飛ばしに行かなきゃなんだから。

    その時に出会ったのがクイックマンってロボットだ。


    クイックマン。「セカンズ」の中の四番目で、割り振られた番号は12番───そういえばなんで俺たちの番号は中途半端なとこから始まってるんだろうな?───で、真っ赤な機体にV字の装飾が目立つ純戦闘用ヒューマノイドタイプロボット。俺から見て、大先輩。背丈はちょっと小さめ。俺から見て。
    博士に連れられて向かった運動試験場にアイツは立ってた。いや座ってたか? 立ち上がる速度が速すぎてどっちだったのか正直どうでもいい感じにはなってたかな。ともかくクイックマンは俺たちの到着をそこで待ってて、俺の機体を上から下までじっくり眺めたあと、「ふーん」って言った。いや、もうちょっとなんかあってもいいじゃんねえ。カッコいいとか言って欲しかったよ俺は。

    試験場にあるトラックを四輪で三周するのがその時俺に課せられた試験の内容だった。ただし、「クイックマンよりも先着せよ」って指令つきで。
    俺はハァ? って言った。

    「いや博士、そりゃあ随分カンタンな試験じゃないっすか。こいつに勝つだけでいいの?」
    「うむ。ただ、簡単かどうかはこいつのやる気次第じゃなあ」

    恐らくはクイックマンの肩を叩こうとしたのであろう手が空振りしてバランスを崩した博士の体を慌てて支える。奴はどこだとあたりを見回すと、もうスタートラインに立っていた。なるほどクイック・・・・マン、随分せっかちな気性らしい。

    それで、俺もスタートラインに立つ。変形する。低くなった視線から見上げたクイックマンは、なるほど初期型の戦闘用らしく、スマートなシルエットの中に削ぎきれなかった重量が見える。さて、足元にタイヤもついてないこいつが俺の走りにどれだけついてこれるか見ものだな。

    そう、この時の俺は、完全にこの赤い機体のロボットを舐め腐っていた。



    スタートを告げるシグナルの点灯と共にアクセル全開で地を駆ける。聴覚機能に記録されていくのは俺のエンジン音と風の音だけ。
    気持ちよくタイヤを転がしながら、さてクイックマンは今どの辺にいるかな、と後ろを振り向こうとしてぎょっとした。

    隣にぴったり並走してやがる!

    しかも、しかもだ。クイックマンは一瞬だけ俺の方を見て、さらに・・・加速しやがった! マジかよ、と無い舌を打って背中を追うようにエンジンを熱くする。チクショウどうなってやがる、二足走行であのスピードはどう考えたっておかしいだろうが!
    一周して、二周して、追い付ききれないまま迎えた三周目。周りの景色なんて見てる余裕がない。コースアウトしてるかなんて気にもかからない。クソ、ガソリンタンクがまだ重い。これ以上燃焼効率あげられねえってのに。
    とにかくこいつを抜かさなくっちゃ。俺は俺のプライドを懸けてこのロボットに勝たなきゃなんだ! 最新鋭だぞ俺は! 世が世なら倉庫で埃被ってるような初期型に負けるわけにはいかねえんだよ!
    タイヤの溝のすり減りも気にせず、エンジンにかかる負荷も振り切って、俺はさらに速度を上げた。もっとだ。もっと速さがいるんだ。だって俺の目にはもうあの真っ赤なひかりしか見えてない。
    光に追い付くためには光の速さを超えないといけない。

    俺がクイックマンを捉えたのは、ゴールラインの直前だった。


    変形を解いて機体の冷却に努める。横で博士がニコニコしながら何かを紙に書きつけているから、どうにかオーダーは満たせたのだろう。あー、畜生、フライパンにでもなった気分だ。今なら俺の装甲の上でスクランブルエッグが作れるぜ。
    くだらないことを考えながらボーっと立ち尽くしていたら、俺の方に近づく足音が聞こえてきた。そっちに視界を移動させると、涼し気な顔のクイックマンが立っている。あれだけ走って平静でいられるのか……と一瞬思ったがなんのことはない、表情制御に動力を割けるほどの余裕がなくなっているだけだった。
    激しい排気音を響かせて、あまりの発熱に陽炎すら発生させながら、そいつは苦笑交じりの声色でこう言った。

    「速かった。……次は勝つ」

    ぢり、と。
    何かが焼き付く音がした。


    *****


    「乗せてぇ~~~~~!!!」
    「完全変形タイプだとそういう表現になるんだ」

    ド深夜のパーキングエリアでハニーレモンフレーバーのE缶を一気に干して管を巻く。安っぽいテーブルの向かい側にはニトロマンが頬杖をついていて、俺の熱っぽい喋りに相槌を打ってくれていた。
    そう、ニトロマン。今じゃスタントロボットの首領ドンみたいな扱いになってるんだっけ? でも俺が知ってるニトロマンは深夜の高速をただただフルスロットルで突っ走るのが好きなだけの気のいいニイチャンって感じのロボットだった。ちょっとシニカルだけどな。アイツがロボットエンザ事件の時に博士に改造受けてたのを見た時にはやたらビビったっけ……でもこの話はニトロマンがエンザにかかるずっと前。なんだったら廃棄ロボットの反乱事件よりも前の話。俺たちは互いの素性も知らないままにド深夜の山道で意気投合して、色々あった結果こうしてたまに二人でツーリングしてはE缶で乾杯するような仲になってたりした。今はあんまりふたりで走る事ないけどな。俺は未だに夜中のハイウェイが好きだけど、ニトロマンは忙しいみたいだし。
    話を戻そう。反社会的勢力のロボットなことを隠してる俺とまだスタントマンとして売り出したばっかだった頃のニトロマンは、誘蛾灯に羽虫がぶつかる鈍い音を聞きながらE缶ちびちび啜ってたんだ。それで、どういう話の流れだったかは忘れたんだけど、俺はニトロマンにあの真っ赤なひかりのことを喋った。あの野郎はすげえんだ、今度はもっと圧勝してやる、俺の方が速くてすごいんだって証明してそれで俺に乗ってもらうのが俺の夢! っつって。

    「いやーだってさあ俺クルマだもん。アクセル踏まれてえ~~……ニトロはそういうの無いワケ? こいつにならハンドル握らせてもいい! みたいなのさあ」
    「無いよ。僕の変形タイプ見てるだろ、乗られる側じゃなくて乗る側。ハンドル握らせるよりは後ろに乗っけて抱きつかれたいね」
    「ヒューッ色男ォ……ああ、お前がバックでヤるの好きなのってそういう」

    脛を蹴られる。いってえ、こいつ足癖悪いんだよな。

    「乗せたい乗せたいって言うけどね、君のからだに乗せられるとこないだろ」
    「そう~なんだよな……そうだから今博士に打診中。俺の自我そのまんまで元のボディに戻せねえ? っつって」
    「大概無茶言うよね。元の車に戻ったところでその『彼』が乗ってくれなかったらどうするの」
    「え、轢く」
    「やば。殺人じゃん、こわ」

    別にもう山ほど殺してるから別にいいんだけど。
    アイツ、大人しく轢かれてくれるタマじゃないからやっぱ追っかけてかないとな。それで見事にスクラップにしてやって、どうだ俺のが速いんだからやっぱり俺に乗ってた方が良かったろって俺は泣きながら勝ち誇る。そういう未来も全然アリ。

    ずっと追いかけていたいし、いつか追い抜きたいし、自分に触れて欲しいと思うし、中に入ってきて欲しいと思う。それが叶わないんだったら全部全部めちゃくちゃにして、何もかも取り返しがつかなくしてやりたい。
    俺は知っている。
    この感情の名前を。

    俺はあの真っ赤なひかりに恋をしているのだ。


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