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    A版の青さんが影さんに拾われて陰さんにお世話される話

    サロメ「お、意識信号回復……声聞こえてますね? ああ返事はしなくて結構。あなたの反応はこちらでモニタリングしていますから」

    芝居がかったような男の声が聞こえている。返事をしようとして、声が出なかった。

    「にしてもここまでブッ壊れてまだ生きてられますか。……ま、無理やり起こしてるようなもんですけど」

    意識がだんだんとハッキリしてきて、それ───ブルースは目を開いた。もう何の光も見ないはずだった眼が、薄暗い室内を照らすモニターのブルーライトを視認する。妙に眩しい気がするのは、いつもつけているサングラスがどこかへ行ってしまったからか。先程声が聞こえて来た方向へ視界の範囲を移動させると、見慣れない男性型ロボットが居るのがわかる。背中に大きな蝙蝠の羽のようなパーツが付いているそのロボットは、おもむろに立ち上がってブルースの頭に手を伸ばしてきた。それを避けようと腕に力を入れ、

    腕がないことに気付く。

    腕、どころか。脚もない。下半身が丸ごとない。感覚が辿れない。腹も、胸部も、肩もまるで動かせない。何故なら無い・・から。
    混乱するブルースの頭を羽持ちのロボットが持ち上げて、軽く下へと傾ける。

    「細かい事情は後で説明するとして、とりあえず現状としてはこんな感じです」

    頭だけになったブルースは、簡易な動力炉に直接接続されていた。



    ルーラーズ災害後、修行の旅に出たシャドーマンがぼろぼろになったブルースを拾って帰ってきた、のだという。

    「近くに……あー、ブラックホールでしたっけ? ルーラーズの、サターンとかいうのが持っていた武器のようなものが落ちていたとも聞きました。一体どんな確率なんでしょうね、破壊されたあなたを偶然壊れかけのブラックホールが吸い込んで、その転送先があのひとの旅先だったっていうのは……」

    作業台の上に置かれたブルースの生首に向かって喋り続けているこのロボットは、名をシェードマンと言うらしい。
    シェードマンがお喋りなおかげで状況は概ね把握できた。だが、死んだはずのブルースを見つけてきて延命措置・・・・を施すことを勝手に決めた不届き者───シャドーマンは今どうしているのだろう。
    ブルースの発声機構はまだ修理できていない、ということで、頭部にぶすぶすと何本も刺さっているケーブルの一つに繋がれているモニターへ文言を表示させて意思表示をする。シャドーマンはどこだ。

    「さっきまでいたんですけどねえ。あなたが目を覚ましそうになったとき、急に『あとは任せた』とか言ってどこかへ行っちゃいました。多分博士の護衛に戻ったんでしょうけど」

    なんだと?

    「なんなんでしょうね、あの人は……どうします? あなたを目覚めさせてどうするか、私はなんにも聞いてないんですよねえ……」

    目を見開く。なんにも聞いていないのにとりあえずでこんな処置をしたのか、この男。ブルースは呆れたような気分で、シェードマンの顔を見た。……途方に暮れたような顔をされても困る。こっちがその顔になりたいというのに。

    しばらく二人で見つめ合ったあと、シェードマンはブルースの心境を代弁するかのように肩を落としてため息を吐いた。


    *****


    死んだと思っていた。
    実際死んでいた。
    だが幸いにも我々はロボットだ。人格さえ───心さえ残っていれば、まだ復活できるかもしれない。

    それを気まぐれで片づけるには、あまりにも。


    *****


    「え? じゃあまだ顔も合わせてないんですか?」
    「ああ、一回も来てないな。そっちはどうだ、何か聞き出せたか」
    「残念ながら。はぐらかされちゃいましたね、『ただの気まぐれだ』って」

    そんなわけあるか、と一蹴したかったが、あの宇宙ステーションでも「気まぐれ」で修理を受けたのだった。元々情に流されやすい男だ、助けられる命は救わずにいられないのだろう。……だとしても、それで死者の蘇生までやるものだろうか?

    ブルースが再起動させられてから、どうやら三日が経つらしい。ブルースが安置されているワイリー基地の片隅の空き室には電灯はあるが窓がない。常に一定の薄暗さを保ったままの部屋の中で眠ることも出来ず(何故かスリープモードが働かないのだ)、ただただじっとしているのは孤独に慣れたブルースと言えども流石に耐えがたいものがあり、コミュニケーションをスムーズにするための発声機器と、日に一時間の訪問をシェードマンに依頼してみれば相手はあっさり承諾した。安っぽい卓上スピーカーのケーブルを接続させながら「私も今は暇ですからねえ」と笑っていたのは果たして気遣いかそれとも自虐か。

    そしてその間、シャドーマンは一度も顔を見せていない。

    「起こすだけ起こしておいてあとは放置とはな……」
    「ホントですよ。どーすんですかねこれから、あなただっていつまでもその状態だとお辛いのでは?」
    「……そうだな。せめて体が、」

    体があれば。と言いかけて、ブルースは息を呑んだ。突然辺りが暗くなった───否、眼前に急に人影が立ったから。

    「……あなた、もしかしてずっと居たんですか?」
    「いや。ついさっき来たばかりだ」

    物の影から突然湧き出た長身の男。ロボットらしくもなく着流しを身につけ、口元を布で覆って表情を隠す忍び。いつも首元に巻いていたマフラーはどこかへやってしまった・・・・・・・・・・・らしい。
    ようやく現れたシャドーマンはまるで幽鬼のようにじっとブルースの顔を見ている。


    「…………」
    「………………」
    「いやなんか言いなさいよお互いに」

    そのまま無言で見つめ合うこと数分。沈黙に耐え兼ねたシェードマンがツッコミを入れるが、さて何を言えというのだろう。蘇生されたことに対する感謝か、それとも恨み言か。ブルースの心境としてはやや後者に比重が傾いている。そもそも自分はあの光を最後に見るものと定めて終わったつもりだったのだ、それを偶然拾ったからと、気まぐれを起こしたからといって蘇生するのは一体どんな理屈だというのだろう。……ああ、それを訊けばいいのか。

    「なんで生き返らせた?」

    簡潔に問う。声に感情は乗らなかった。単純な疑問として発されたブルースの言葉に、しかし眼前の男は淡々と答える。

    「ただの気まぐれだ」
    「あの時もそう言っていたな。お前は気まぐれで死体を起こす奴なのか」
    「……」
    「俺なんか起こして、そのくせ経過を見るわけでもなく、今の今まで放置していたな。何がしたいんだ、お前は」
    「……拙者、は……」

    僅かに身じろいだシャドーマンは、それでも視線を外そうとはしない。赤い瞳にちりちりと焼かれ、無い背筋に悪寒が走るような思いだった。
    ……ふいに、手が伸びてくる。シャドーマンの指先が目元に近づいて来たので思わず目を眇めたが、なんのことはない、ただ前髪を除けられただけだった。わずかながらに広がった視界が改めてシャドーマンの表情をおさめて、ブルースは眉根を寄せた。
    なんだその、迷子のような眼は。

    「わからん」
    「は?」
    「どうしてお前を拾ってきたのか、なぜ蘇生措置など施そうと思ったのか、まるでわからん」
    「はい?」

    ブルースに次いでシェードマンまでもが声を上げる。シェードマンはシャドーマンがこの生首を拾って帰ってきたところに偶然出くわしてしまい、半ば脅されるような勢いでこいつを保護する上での共犯関係になれと迫られて各種の都合をつけたのだ。殺気まで発しながら強要してきたそれの動機が「わからん」だとは流石に予想の外である。
    完全に呆気に取られている二人を余所に、シャドーマンは手慰みのようにブルースの人工毛髪を指先で数度梳き、何かに納得したように頷いて、そのまま影の中に消えてしまった。

    「……は?」
    「……ええ~、どう……どうします? ていうか、そういやどういうご関係なんですか、あなた方……」

    シェードマンの問いかけに、出せる答えはブルースには無い。強いて挙げるとするならば、宇宙空間で名前を呼び合ったぐらいの仲である。
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