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    ジャンダス ジャンクさんがダストさんを信仰しにくる話

    ダストマンの勤務する廃棄物処理場、の廃棄物一時保管所に、身元不明のロボットが出没するらしい。


    「なんでボクがそれを探す羽目になってるのかなあ。本職の警備ロボに頼めばいいのにさ」

    懐中電灯をハンドパーツに換装済みの右手で握り締めながら、ダストマンは深夜の保管所の中を歩く。
    廃棄物一時保管所、とは言うが実際は屋外の広大なゴミ山だ。スクラップで構成された地平をひとりで歩き回ってたった一機のロボットを見つけ出すのは途方もない無茶に思えた。大まかにこのあたりの区域で目撃例がある、監視カメラに映るのを見た、などの最低限の情報こそ貰っているが……

    「情報量が最低限すぎるんだよねえ。ま、ロボット相手に人間差し向けないってだけで及第点だけども」

    視界一面の、廃棄されたロボットの死骸の山。そこへ懐中電灯の光線の先を向けながら、細い通路をダラダラと歩く。別に気が滅入ったりはしない。そういう機能はつけられていない。ただ業務時間外の巡回が面倒だというだけ。
    今日で捜索は三日目だ。アタリをつけた区画はこれで調べ終わってしまう。今日の内に何も見つけられなければ、身元不明のロボットの件はこういう場所によくある幽霊事件として適当に処理されて終わるだろう。暢気なものだ……ダストマンはため息を吐きたくなった。

    「どうすんだろうね。例えばそのロボットがさあ、ワイリーのとこの下っ端で……そうだなあ、スクラップから使えそうなパーツ探して運んでるような奴だったらさ」

    そう独り言をつぶやいていると、ゴミ山が一部へこんでいるように見える場所があるのに気が付いた。おや、と思う。まだあのあたりには処理の手を付けてないはずなんだけど。
    死体を踏みつけることに抵抗はない。そう作られた。ダストマンはスクラップに足をかけ、自身の機体の重みで潰れたり崩れかけたりするそれらに躓いて転落しないように気をつけながら、ゴミ山をえっちらおっちら登っていく。そうして辿り着いた山の天辺に身を伏せて、へこみの中を覗き込んだ。

    大きなロボットが寝そべっている。

    ダストマンが人間だったなら、息を呑んでいただろう。……それはまだ未完成のようだった。どうやら廃材を継ぎ接ぎして作られているらしく、大まかに体格のいい男性型として造形されてはいるようだが、左右の脚の形が違うし目の大きさもちぐはぐだ。あれでまともに動けるのだろうか。
    アイカメラをズームさせて、ダストマンは大きなロボットの腕のあたりでうろついている小柄なロボットを注視する。工具らしきものを手に火花を散らせて、何やら作業をしている様子。監視カメラに映ったという不審なロボットはあれだろう。ダストマンは自身にインストールされたアーカイブを辿る。……そう、あれは確か、二世代ほど前の介護用自律ロボットだ。機械的な見た目が冷たく感じるなんてバッシングを受けて、すぐに次世代機が開発されてお役御免になった型……を、少々改造して別の用途にも耐えうるようにしてあるらしい。だが見る限り特に武装もしていないようだし、丸腰のダストマンでも接触して問題ないだろう。

    「ねえ」
    「!」
    「逃げないで。こちらに敵意はない。手を止めてそこで待っていて」

    声をかけて姿を見せる。慎重にゴミ山の斜面を滑り降りながら、あれがロボットに偽装した人間でなくてよかったと思った。人間だったら面倒だ、しかるべき公的機関に通報する必要があるから。
    ロボットだったらここの山の中に突っ込んでしまう選択肢も取れる。
    怯えているのか覚悟を決めたのか、それとも様子を窺っているのか。不審ロボットは静止したまま、接近してくるダストマンの方をじっと見ていた。

    「一応話だけ聞かせてもらってもいいかな。あー……名前から訊こうか。というか話せる? キミ」
    「……おれ、は、ジャンクマン」

    廃棄所にいるに相応しくあちこち壊れたそのロボットは、いかにも寿命ですと言わんばかりのスピーカーでノイズ交じりに返答をした。ジャンクマンね。……ジャンクマン? なんだか妙に引っかかる。その名前、どこかで聞いたことがあるような気がするけれど。

    「何その名前、職場でいじめられでもしてた?……はい、で、これは何。キミが作ったの?」
    「これ、は。おれだ。ジャンクマンの、第三機体」
    「……第三機体?」
    「おれは、おれのからだを作っている……第一機体、はワイリー基地、で、分解してきた」

    ワイリー。
    その名を聞いて、電子頭脳に警戒アラートが鳴り響く。アーカイブが開いて、先週読んだ新聞の記事を表示した。逮捕されたはずのワイリー脱走。街々を破壊するロボット軍団を、またも鎮圧したロックマンの功績。記事の隅に連ねられていた、ワイリー脱獄に関与したロボット達の名前。終わった事件の話なんかどうでもいい、特にワイリー関連の話は聞きたくもないので、ざっと目を通すだけにしてすぐに新聞を飲み・・、意識外に追いやっていたが。
    そこに名前がなかったか? ジャンクマンというロボットの名前が。

    「お前……!?」

    咄嗟に後ずさって身構えたダストマンは、しかし強い違和感を覚える。ワイリーナンバーズだったはずのジャンクマン、それが何故こんなところにいる? その姿はどうしたのだ? 第一機体とはなんだ? 分解してきた? 
    何故?
    思考を疑問符で溢れさせているダストマンに、ジャンクマンは静かに伝える。

    「おれは……逃げてきた。ワイリー基地から。あなたに会うために」
    「………………は?」

    どうしよう。疑問符が増えてしまった。混乱しているダストマンを他所に、混乱の元は訥々と語る。

    「第一機体、は大きすぎて、逃亡には向かなかった……から、分解してきた。今のからだ、第二機体、は一時的なもの」
    「え……え? 何? なんて?」
    「おれは、話がしたい。あなたと。……おれのからだ、が完成するまで、どうか待ってはもらえないか」
    「ちょっ……と待ってよ。全然わかんない。どういうこと?」

    するはずのない眩暈がしたような気がして、ダストマンは吸塵口を擦った。待ってほしい。待ってほしいと言っているのに(声には出せていないが)、ジャンクマンはダストマンの傍に近づいて、唐突に跪き、こうべを垂れた。

    「おれはあなたを崇拝している。信仰させてほしい」
    「へ………………」
    「どうか死告天使アズライールと呼ばせてもらえないだろうか」
    「し……死ねバカ!!!!」

    とんでもないことを言われて、流石にダストマンの精神的キャパシティを超えた。思わず叫んだ暴言を、しかしジャンクマンは笑みに相当する表情でもって受け止める。

    「おれは死体だ。もう死んでいる」
    「ば……バカ…………もうやだ…………」

    気絶したい。こんなもの、どう上に報告すればいいのだろう。こいつほっといたら勝手にスクラップにならないかなあ……
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