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    鋼鋏作業進捗20240121カットマンの眼前に置かれたそれは、文字通りに粗削りだった。
    それは木片を削って作られている。大まかにヒト型をしていて、人間のそれにしてはやけに大きな頭部から二本の角のようなものが飛び出ていた。
    ……「カットマン」を模した木像らしい。


    経緯を全て語ると大層長くなってしまうためある程度割愛するが、カットマンは以前、メタルマンから誘拐を受けた。
    誘拐の目的は「カットマンと会うこと」。
    会うだけ会って、コミュニケーションもそこそこに、メタルマンはカットマンを解放して去ってしまった。以降、メタルマンがカットマンの前に現れたことはない。
    カットマンの方はあの日行った有線接続の感覚を忘れられずにいるというのに。

    もやもやとした気持ちを抱えながらしばらく過ごすうちに、カットマンは気付いた。どうやら、自分の兄弟機のうち何体かはメタルマンのような──ワイリーナンバーズとの交流を持っている、と。
    いいなあ。ずるい。オレだってもう一度メタルマンと会いたいのに、あいつとの連絡手段がないんだもの。
    そして紆余曲折の末、大胆にもワイリーナンバーズと同棲を開始し、しかもそれをライト博士に秘匿したまま何食わぬ顔で過ごしているトルネードマン……の、相方・・であるところのジャイロマンにカットマンは接触し、そして要望を押し付けた。
    「『カットマンは待ってるぞ』とそう伝えてほしい」、実際に伝わるかは半ば博打で、祈りのようなお願いだった。

    結果として得られたのがこの木像である。メタルマンがここ数ヶ月ほど、「趣味」と称して作っては雑多に配り歩いているのだという。その「趣味」はマグネットマンから教授されたものらしいと聞いて、袂を分かった元・兄弟の健在にカットマンは安堵したが、一方で疑念を抱いた。
    なんでオレの姿を木に彫っているんだろう……。
    模造品を作るぐらいなら、実物に会いにくればいいのに。


    ジャイロマンを伝書鳩代わりに利用して(彼はその扱いに憤慨していたが)、カットマンはメタルマンに伝えた。
    「口実なんていらないから、会いに来い」。

    一応、日時と待ち合わせ場所は指定してある。
    デートの約束に似ている、ということはその日の前日になって気づいた。



    「腕は捥ぐなよ」
    「捥がない。俺を以前と同じと思ってもらっては困る」

    そう、と頷いて、カットマンは正面に立つメタルマンの姿を眺めた。
    改めて見る彼の機体の表面には、細かな傷が無数についている。

    待ち合わせ場所は以前カットマンが誘拐されて監禁された山小屋だ。曰く、これは第五次世界征服作戦の際に各地に設置した仮拠点の一つであるらしい。道理でトルネードマンの住んでいた家の構造に見覚えがあったわけだ。
    かつてと同じくじゃりじゃりした床面を無意識に脚で擦りながら沈黙を味わうが、いつまでもこうしているわけにはいくまい。カットマンにはやることがあった。

    「で……その。オレが今日お前を呼んだのはな」
    「うん」

    うん、と来た。以前にも思ったが、こいつは図体と見た目の迫力の割に案外挙動が素直で子供だ。何故だか恥ずかしくなるような心地で視界の縦幅を狭めながら、カットマンは後頭部を掻く。

    「ああもう、えっとな、お前に見せたいものというか、行ってほしいとこっつーか、ええと」
    「……」
    「とりあえずさあ」

    ぴ、と人差し指を立て、メタルマンを指さした。

    「その機体の刃物、全部取れる?」


    取れた。

    「……っくく……んぶっ……ぶふふ…………」
    「おかしいか」
    「おかしいっつーか……ウケる……」
    「そうか」

    ひー、と一声あげて排気を落ち着かせる間も、メタルマンはやや困ったような顔で腹部を抱えるカットマンを見ていた。
    カットマンは取り外したメタルマンの肩パーツや額の装飾、イヤーパーツ上の棘じみた飾りなどを布で包んで、持ち込んでいた大きな帆布のトートバッグにしっかり収める。刺々しい刃物を取り去ったメタルマンは見た目だけならまるで一般の工業用ロボットだ。装飾の嵌っていた部分にぽっかり穴が開いているままの頭部がやけに笑いを誘ってくるが。

    「はー、しっかしその頭の穴なあ。まんまにしとくとちょっとまずいか」
    「そういうものか?」
    「違和感はあるかもな。これでもつけとけ」

    トートバッグの中から手ごろなサイズのゴムキャップを取り出し、メタルマンの頭部に押し付けた。オーダーメイドではないのでややぐらついているが、多少の動きで落ちたりすることはないだろう。カットマン自身は普段使いの革製カバーを頭部の鋏に装着し、これで支度は完了である。

    ワイリーが引き起こしたダブルギア騒動からはそれなりに期間があいている。かつての事件の情報を引き出して対策を講じる手合いももう鳴りを潜めたし、額にゴムキャップをはめ込んだロボットのことを戦闘用だと一見してわかる人間もそうはいまい。
    刃物を取り外したのには訳がある。カットマンはこの度、メタルマンを市井へ連れ出そうとしていた。

    「それで、どうするんだ。行きたい場所があるという話だったが」
    「おー。道案内はしてやるよ、お前はついてくるだけでいいから。……ま、こっからじゃちょっと遠いかもな。泊まりも見越しといてくれ」
    「ふむ、そこまでの長距離移動とは。ショートカットは必要か?」
    「……一応何するつもりなのか聞いとこうか」
    「博士の開発したテレポーテーション装置がある。今日ここに来るときもこれを使った」

    ほら、と差し出されたこぶしサイズの装置をじっと見て、カットマンは考えた。そういえばロックマンも出動の際にはテレポートマシンを使っている。ドクターワイリーは性根こそ悪いが技術力自体は本物なので、使っても問題はないだろう、おそらく。
    ただ、これをメタルマンに使わせると、また誘拐されるかもしれないので。

    「ありがたく使わせてもらう。ただし操作はオレがやる」
    「俺に誘拐されることを警戒しているのか。二度とやらん。誓っていい」
    「ああもう調子狂うなあ!」

    メタルマンは以前に比べ、妙に察しがよくなっている気がする。
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