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    まいあい

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    コルハサ過去編の出会い~鬱爆発①まで

    コルハサ過去編① 二週間ぶりの二人そろっての休暇をハッサクとコルサは家の片づけをして過ごしていた。お互い何を捨ててよくて何は残すべきなのかがわからず増えていった荷物は二人の家を圧迫していたため今日は待ちに待った掃除の日である。アトリエはコルサに任せ倉庫の掃除をしていたハッサクは、棚の後ろにまるで隠すように置かれた木の箱を見つけた。
    「おや、随分と前のものでしょうか?埃をかぶっていますね…。」
     好奇心から木箱の蓋をひらくと中には色とりどりのひまわりやハッサクの愛するドラゴンたちの絵…だったものが一枚一枚丁寧に梱包され、しまわれていた。その美しい絵たちはナイフで切り付けられ見るも無残な姿になっていたが、その傷跡すら傷跡を付けた男、コルサの激情を表現した一つの作品のようになっていた。
    「ああ、これは懐かしいものを見つけました。」
     ハッサクは目を閉じ、次々と蘇る思い出たちに身を任せた。



     ハッサクは37歳の時に運命の出会いを果たす。音楽で食っていくと家を飛び出したものの芽は出ず、逆にその戦いの才能を見初められオモダカに四天王としてスカウトされ、芸術に生きる道をあきらめきれず四天王として活躍しながら絵を描く日々を送っていたハッサクのもとにその出会いは突如として訪れた。それは当時30歳だったコルサにとっても同じで、二人は絵の具の独特なにおいが充満する店内で印象の悪い初会合を果たした。
    「おいキサマ!!それはワタシが買うつもりだった顔料だぞ!」
     普段は立ち寄らない中心地から少し離れた画材店で、ハッサクは顔色の悪い男に言いがかりをつけられていた。
    「は、はぁ…でもこちらの絵の具は先に小生購入したのですよ。最後の一つを買ってしまったのは申し訳ありませんですが他のお店をあたったらいかがでしょう?」
    「うるさいうるさい!!!新作の完成のためにどうしてもここの店のものでなくてはいけないのだ!!」
     めんどくさいのに絡まれてしまったな、ハッサクはさっさと会話を切り上げ店を後にしようとしたが、男に腕をつかまれ思わず振り払うと、バサバサという音と共に男の持っていたスケッチブックが床に落ちた。
     ウソッキー、チュリネ、アマカジ…そのスケッチブックには今にも動き出しそうなほど生き生きとしたポケモンたちの姿が描かれていた。
    「こ、これは…すばじい」
    「は、はぁ?」
    「ウソッキーの木目の一つ一つの書き込みやチュリネの葉のみずみずしさ…アマカジのこの表情ポケモンたちはあなたにこんな生き生きとした表情を向けてくれるのですね」
     急に声を張り上げ作品を評価し始めたハッサクに、男、コルサは戸惑いつつも喜びの感情が隠しきれなくなっていた。
    「そ、そうであろう!!!話がわかるやつじゃないかキサマ!!」
    「ほかにも見せていただいても!?」
    「あ、ああ!!ワタシのアトリエはすぐそこにある!茶でも飲んでいくがいい!!!」
     一瞬で意気投合してしまった二人は先ほどまで争っていた画材のことなど頭からすっぽりと抜け落ち、数分前のぶしつけな態度とは打って変わって、ほほを赤らめながら興奮したように話すコルサをハッサクはすでに気に入り始めていた。

     あの出会いから一か月、二人はすでに友人と呼ぶにふさわしい関係になっていた。週に一回ハッサクがコルサのアトリエに顔を出しコルサの作品を評価し時に合作をしたり、美術館に出かけたり、たまにポケモンを戦わせ有意義な時を過ごしていた。ハッサクは新しくできた芸術を心から愛する友人とのこの穏やかで心地良い日々がいつまでも続くと疑わなかった。


     しかし、ハッサクが四天王としての業務に追われ初めて長い間コルサのアトリエに顔を出せずにいた時事件は起こった。一か月ぶりのアトリエは場所を間違えているのかと目を疑うほど荒れ果てていた。実際、そのアトリエの中心に狂ったように何か言葉を呟きながら彫刻を掘り続けるコルサがいなければハッサクは踵を返し友人の姿を探しに行っていただろう。しかし、コルサはそこにいた。わずか一か月の間に何があったのか、もしかして強盗にでも襲われたのだろうか、兎にも角にも友人の安否が気になったハッサクはコルサに声をかけた。
    「コルサさん!?こんな…ああ!!あの時描きかけだったポケモンたちの絵もナイフで切りつけられている…!!いったい何があったのですか?」
     恐る恐るコルサの顔を見るとその目はひどく充血し落ちくぼんでおりコルサが何日もまともな睡眠がとれていないことは明らかだったし、腕もやせ細り食事すらとれていないことが察せられた。
    「どうして…」
     何度も叫んだのだろうコルサの枯れた喉からは弱弱しい声しか出ない。
    「どうして29日間も会いに来てくれなかったのだ?ワタシに、ワタシの作品たちにもう興味がなくなったのか?ハッサクさん、あなたが来てくれない日々は地獄…いや地獄なんて言葉では表現できない…まるで絶望の底なし沼に沈められているような気分だった!!!ワタシに才能がないから捨てるのか?ああ!!!ハッサクさんがワタシに興味を失い捨てられるくらいならばもう!!もう!!!こんな右手は必要ない!!!!!!!」
     激しい慟哭の直後、コルサは持っていた彫刻刀を自らの右手に向かって思い切り振り下ろそうとした。
     次の瞬間、温かい赤色がコルサのやせ細った右手に滴り落ちた。ぽたっぽたっと大きくなる赤い水たまりは先ほどまでハッサクの体の中を駆け巡っていた命の証である。そう、落ちてきた血はハッサクのものだった。
    「なっ、」
    「コルサさん、どうか自分を貶めるのもあなたの作品たちを傷つけるのもやめてください。」
     コルサの振り下ろした彫刻刀はハッサクがとっさに伸ばした右腕に深々と突き刺さりその腕を真っ赤に染め上げていた。
    「っ、!!!!!!ハッサクさん!!!!わ、ワタシはなんて!!なんてことを!!!!!」
     後悔と罪の意識により再び狂気に陥りかけているコルサをハッサクは両腕で強く抱きしめた。
    「いいのですよ、小生は特殊な一族ゆえ身体は人より頑丈にできております。これしきのこと大したことではありません。それよりも息を吸ってください。小生の鼓動に耳を傾けて、深く、息を吸ってゆっくりと吐いてください。」
     ぶるぶると体を震わせるコルサの背中をトントンとたたきながら呼吸を促すとしばらくしてようやくコルサの瞳に理性の色が戻り始めた。
    「すまない…!すまないハッサクさん!!!あ、あなたに見捨てられると思うと…耐えられなくて!!」
    「こちらこそちゃんと連絡を入れずに申し訳ありませんでしたですよ。小生お仕事の方が非常に忙しく会いにこれなかっただけなのです。」
     ハッサクのその一言を聞きようやくコルサの身体の震えは止まった。ハッサクは改めてアトリエを見回すと、ナイフで片側だけズタボロにされた合作の絵や割れたガラス、何日も掃除しなかったせいで淀んだ空気、何よりも直前まで掘っていた今にも燃え尽きてしまいそうな太陽の彫刻、コルサの激情を表現した一つ一つの痕跡に胸が締め付けられた。コルサの爪は短くギザギザとしていて中には出血しているものもあり、瘦せこけた身体はあまりにも軽く、その時ハッサクはようやく『コルサ』という人間を垣間見た気分になった。
    「……コルサさん、一つ提案があるのですが聞いていただけますか?」
    「ああ…」
     別れを告げられるとでも思ったのだろうか、コルサのハッサクをつかむ手の力が強くなる。
    「私たち一緒に棲みませんか?」
    「は、?」
     予想だにしなかったハッサクの一言に目をぱちくりさせながら硬直する。
    「いえ、小生実は最近仕事が忙しく家を放置しっぱなしで誰かと一緒に住んで家事を分担したいと思っていたのですよ。そして一緒に住めばどれだけ忙しいときでもおはようとおやすみだけは言うことができますし、1週間に1回どころかもっとたくさんの時間を一緒に過ごせますですよ!一石二鳥どころかもっとたくさんのムックルを捕獲できるようなものです!」
     ハッサクの提案にコルサは徐々に目を輝かせる。しかし急にその瞳は曇った。
    「し、しかし、ワタシはハッサクさんを傷つけてしまった。これからもきっとこのようなことが起こってしまうだろう。そ、それなばワタシのような人間でなく他の…」
    「だめです!!!小生は!あなたと暮らしたいのです!!」
     アトリエ内に反響するドラゴンの雄たけびのような声にコルサは耳も、目も、心も支配された。
    「そうですね、今回のことの罪滅ぼしがしたいというのならば小生のために一枚絵を描いていただけますか?新しくあなたと住む家にぜひ飾らせていただきたいのですよ!!」
    「あ、ああ!!任せてくれ!!!」

     こうしてコルサとハッサクの二人暮らしはスタートした。
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