脱獄2(プロローグ)前編脱獄2(プロローグ)
※ネタバレ表現が多いです。
※無印キャラの登場があります。
看守らしき厳重な格好をした金髪の男が食堂にてカンカンと杖を鳴らしながら歩いていると、杖の先がなにか物体を探り当てたのかつつけば同じく看守服を着た黒髪の男が振り返った
「ああ、谷崎隼也か…気づかなくて悪いな。今どく」
そう言うと谷崎が動きやすいようにと廊下の方へと歩こうとする黒髪の男の裾を谷崎が手探りで握れば首を横に振り
「大丈夫やで!大内は優しいなぁ」
閉じた目はそのままにニコッと口元緩ませて明るい声色で大内へと声を掛けた。
「お前は単純だなぁ」と穏やかな笑い声が聞こえ、ますます優しいなぁと谷崎は心の中で考えながらじゃれつくように大内の腕へと腕を絡めて犬のようになつっこく笑えば、大内は拒否するでもなく捕まりやすいようにして谷崎を支え
「食堂でいいか?」
と聞いてきた。それに頷けば楽しげに談笑…といっても谷崎が一方的に話して大内はそれを相槌を打ったり笑ったりして微笑ましそうにして傍から見たら仲のいい兄弟のような空間だ。
それぞれ支給の食事を受け取り机の前へと座れば手を合わせる大内の方へと谷崎がソワソワと落ち着きなさそうに向き
「なあ、大内!俺と友達にならへん?」
と切り出せば、大内は前触れもないその言葉に驚き隠せず目を丸くすると1拍置いてから緩く首を傾げる
「なんだ、いきなり」
率直に疑問を口に出せば、そんな事は予想通りなのだろう谷崎はにまりと笑い手を合わせれば支給のパンへと手探りで触れて口へと運んだ
「俺なぁ、今まで友達ひとりもおらんかったんよ。」
「意外だな、お前みたいに明るい人間には友人が多そうだが」
世辞でもなく素直な感想だった。谷崎は何時も明るく人懐っこい性格で初対面の人間にも人見知りせずに話せる、友人が多そうな人物だった…。しかし、それを聞けば少し悲しげに眉を下げて
「ほら、俺……目が見えへんやろ?伊獣院様が目ぇ治してくれるって言うてくれてこの仕事しとるけど…それがなかったら、外の世界なんか怖くて…きっと、今も引きこもりや」
語る谷崎を複雑な面持ちで見つめる大内に光の入らぬ瞳では気づくことも出来ずに話を続ける
「伊獣院様は俺を救い出してくれた神様みたいな御人や…そして、その伊獣院様の集めた仲間であり優しい大内と友達になりたいんや!やから、友達になってくれへん?」
悲しげな雰囲気から一転また楽しそうな顔をして大内のいるであろう方向を向いた
「友達は沢山おると楽しいやろし、俺が沢山笑わせたる!な!それに、22歳で同い年やん…これは運命やない?」
食い下がるように少し強い口調になる谷崎に苦笑しつつも頬をかく大内はポンと伊川の頭に一瞬だけ手を乗せてから
「あーはいはい、そういうのは女に言えよな。」
軽く交わすような口調に明らかに拗ねたように頬を膨らませる谷崎に可笑しそうに笑うと
「別に友人くらい宣言しなくていいだろう…拒否する理由もないしな」
と答えて笑った大内はこれで人生で友人が出来たのが2人目だということを本人も気づいていなかった。
そこから3年程たち薬での治療をしていた谷崎はぼんやりと色のみだが若干視力を手に入れていた。
生まれつきの目の障害が薬のみで立ち直っていく様に大内は伊獣院に対して不信感を募らせていたが、当人は喜んでおり益々伊獣院を崇拝していた為口出しを出来ないでいた。
「大内の髪は黒やってんなぁ、でも黄色いとこもあるんやなぁ」
と最近覚えた色の名前を楽しそうに話す谷崎は大内から見て微笑ましいものであり、進んで谷崎が知ることの出来なかった色を自身でも調べ教えていた。
「ふふ、なんだか兄弟みたいで可愛いわね」
研究室で休憩を取り何時ものように色について話をしていたら大内の後から優しげな女性の声が聞こえ、大内が振り返ると真っ赤な色が印象的な髪を腰あたりまで伸ばしたソバカス肌の女性が楽しげに笑っていた。
彼女も伊獣院のお気に入りの1人でありこの頃には3人でよく話をしていた
「アリア!アリアは綺麗な赤やからすぐわかるわぁ」
女性の登場に谷崎の明るい声がさらに明るいものへと代わりに楽しげに笑う姿に、分かりやすいなぁと大内は微笑ましげに見つめていた。
「ありがとう隼也くん、この髪きにいっているのよ」
アリアは美しい髪を撫でながら微笑むがその表情までは見れない谷崎は声のみで感情を読み、楽しげな顔を崩さずにアリアの方を見つめていた。
そんな和やかな空気の中雑談をしていたが
「あ、すまない…俺はご主人様に呼び出されていたんだった」
2人の様子を優しく微笑み見つめていた大内だったが、ふと時計を見れば約束の時刻が近づいていることに気づき立ち上がると谷崎は大内の方へと向きにっと無邪気な笑みを向けた
「さすが、大内は伊獣院様のお気に入りやなぁ。沢山お話出来て羨ましいわぁ」
あまりにも明るく放たれた言葉に大内は「ああ」と短く返事のみして2人に背を向けて伊獣院の研究所へと向かった。
それからだった、大内の様子が変わったのは…見た目も髪を刈り上げバッサリと切ってしまい富裕層との交流したり伊獣院の研究所へと篭ったりと2人を避け、谷崎には見えないものの濃い隈が目立ち疲れた雰囲気になっていた。
谷崎が話しかけても「忙しい」や「また今度」という返事が返ってくるばかりで全く捕まらない、そんな様子にアリアも大内についての話題が増えてきたように感じる。
前までは3人で取っていた食事も1人になり食欲も減ってきた谷崎へとある日伊獣院がにこやかに話しかけた
「おや、元気が無さそうですね?君は元気が取り柄のひとつだったと思いますが」
その言葉にいつの間にか暗くなっていた表情から一転嬉しそうに笑みを浮かべて伊獣院がいる方向へと谷崎が顔をあげれば、満足気に伊獣院がまるで飼い犬を眺めるかのように微笑ましげに眺めたあと
「何かあったのなら相談に乗りますよ?」
優しげな口調で伝えればそのまま谷崎の隣へと座った。椅子が引かれる音で察した谷崎は少し考える素振りを見せて細く開いているのか分かりにくい目を伏せるようにし俯くと、同じように眉を下げて寂しそうにする伊獣院は
「……僕は頼りないでしょうか?君には好かれていると少なからず思っていたのですが」
そう、気落ちする相手に慌てて顔を上げれば手を顔の前で横へとふり否定しようと口を開き
「ち、ちゃうんです!伊獣院様の事は信頼しとるし、俺は伊獣院様が言う事は絶対やって思ってます!ただ……」
「ただ?」
早口で否定する言葉をウンウンと頷きニコリと微笑む伊獣院は次の言葉を引き出そうと声掛けをして、じっと見逃さぬように谷崎の表情伺えば
「個人の問題やし…俺も悩みがはっきりしてないので、伊獣院様に話してお時間頂く程では…て、思いまして」
谷崎が伊獣院を崇拝しているからこその言葉に伊獣院が満足気に笑えば両手に手袋を嵌めてから、谷崎の頭へと手をやり優しく撫で
「そんな事ですか…気にしなくていいんですよ。話しているうちに悩みの形が分かることもありますし…分からないとしても心の内がスッキリするでしょう、僕は頼られる方が嬉しいですよ」
優しく言い聞かせるように声掛けすれば、しゅんと暗い表情に戻っていた谷崎は安心したかのように緩く微笑みこくりと頷いた。
「谷崎隼也は、僕にとって大事なペットなんですから…その管理は僕の仕事です」
というすこし不穏な吐息に乗せたかのように小さい言葉を聞かぬふりをして……