エイプリルの奇跡大内はその日強い眠気に襲われた。
ソファに座っていたのだが好物のココアを飲んだ瞬間眠気に襲われ、マグカップをテーブルへと置くとソファに倒れ込むように目を閉じれば、恋人の声と混じって懐かしい声が聞こえた気がした。
「薫サ「薫?久しいな!」
その声が聞こえれはハッと眠気等飛ばし目を開ける。
するとそこは、先程まで居た部屋ではなく白い綿菓子のようなものが詰められた空間で簡易的にベッドのように積まれた綿の上で眠っていたようだ。
「お、薫起きたか?」
そう呼ぶのは懐かしい親友の姿で、相変わらず形の良い瞳を細めて無邪気に笑って見せる。
それだけで、涙が溢れそうな程安心感と幸福感が胸を占める。
「ゆい、とっ」
そう呼んだのと同時に抱き付けば、懐かしい親友は同じく抱きしめながら軽快に笑って見せる。
「あっはっはー!どうした、薫!俺に会えてそーんなに嬉しいのか!」
そして、背中をバンバンと音の割には痛くない力加減で叩いてくるのも変わらない。
「ああ…嬉しいにっ、決まってるだろ……ごめん、ごめっ守れ「それは言わない約束だぜ!!」
涙ながらに謝罪しようとするが、それを明るい声色で止められ恐る恐る結都を見れば全く気にしていないと言わんばかりに、満面の笑みを浮かべている。
「俺は、薫が守ってくれようとしたのを知っているし、俺の約束を守って結花を見守ってくれてるのも知ってるからな!もーよく頑張った!偉すぎるぞぉ」
変わらない太陽のような明るさでそう言えば大内の頭をわしゃわしゃと撫で、それに安心してまた大内もくしゃりと邪気なく笑った。
この男のこの邪気のない明るさに救われるのは何度目だろう。大内にとって、神様のようにも感じる結都の優しさに触れて胸に温かさを感じる。
「にしても、お前ら楽しそうだよなぁー。俺もお前らとバカやりてーよ」
少し落ち着き簡易ベッドの上に座れば、唐突に唇尖らせてつまらなそうに話す姿も子供の駄々っ子のようで、微笑ましく思えると眺めていた大内は冗談交じりに。
「ああ、楽しいぞ。混ざれるなら混ざりに来いよ」
そう伝えるが、無理な事は薄々気づいていて願望のようなものだ。
そんな大内をつまらなそうなまま結都が横目で眺めれば、不意に真っ白な辺りを指さした。
「無理だって分かってんだろ?お前はこっちに来れても俺は無理だ。それに、ここにはだ〜れも居ないんだから。」
指さしていた手を引き戻すと、膝に置いた後に大内の肩へと肩を寄せて
「………薫がここに残ってくれたら楽しいのになぁ」
と、冗談か本気か分からない声色で呟けば大内は驚いたように結都を見る
「なに、言ってんだよ?」
絞り出したように話すそれに、結都は太陽のような明るい笑顔とは真逆のじとりとした瞳を向ければ
「見てわかんねぇ?ここ、1人だけなんだ。俺1人…寂しいんだよ。だから、俺の傍に居てくれよ。」
ゴクリと喉を鳴らし冷や汗をかく大内を気遣う様子もなく結都は、大内の首元へと手を伸ばしながら
「なあ、薫……薫は、俺の言うこと全て、全て聞いてくれてただろぉ?……おねがい」
結都の親指が大内の喉仏へと到達すると同時に大内は、その手を振り払い立ち上がれば
「わりぃな。結都……俺にはそばに居たいやつが、すでにいるんだよ。あいつの元に帰ってやらなきゃ、泣いちゃうかもしれねぇからな」
そう少し寂しそうな顔で笑う。
その決意に応えるかのように足元から小さな光の粒がゆっくりと大内を覆っていき少しずつ消えていく
「ごめんな」
結都の声はもう聞こえない。必死に何かを叫んでいる様子は見えるものの口の動きが早くて分からないので一言のみ返せば、泣き崩れる親友を置いて大内は意識を失った。
次目覚めれば、肩に少し暖かな感触がありうっすらと眺めれば恋人である入縄が読書をしていた。
「れ、ん?」
寝起きの掠れた声で呼べば入縄は本から目を離して大内の様子を少し心配そうに見つめる。
「大丈夫ですかぁ?」
そう尋ねる言葉に特に身体に異常はなく、寝起きだからか少しだるいくらいだ。
「災難でしたねぇ。まさか、ココアにあの人の薬が混入していたとは……処分はしておきましたよ」
まさかの言葉に目を丸くすればテーブルにあったはずのココアを見れば確かに無く、混乱してしまい詳しい話を聞こうとすると胸ポケットへと入れていた端末が鳴った。
「あ、悪い」
そう断りを入れてから端末を見れば
『会いたい人に会えるお薬を開発してみたのですがどうでしたか?潜在意識で脚色があると聞いたので試して頂いたのですが、感想お待ちしています。
ああ、そうそう…何時でも帰りを待っていますよ。』
と、メッセージが送られており大きくため息をつけば入縄もそれを察したのか、苦笑して
「ああ、あの人からのメッセージですかぁ?ワタクシの所にも来たんですよ。起こしたら夢から覚め無くなるからそっとしておけって…ほんと、いい加減にして欲しいものですぅ」
そう言えば本にブックエンドを挟んで、眠っていた時間を取り戻すかのように大内の顎下を撫でたり必要以上にくっついたりと好きにしている。
なるほど、脚色…そうだな。俺があいつに負い目があるからあんな事になってしまったのか……結都は、寂しくても人に依存するようなやつじゃなかったのに……
そう考えれば心を落ち着かせるために深呼吸をする。
もう、会えない親友とのことを胸に閉じ込めながら。
『さぁて、本当に君の中の想像なのか、はたまた本人が現れたのか…不思議ですよね。ただ一つ言えるのは、僕はあの男が嫌いですよ。だぁいきらいです。』