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    Uduki29

    創作小説垢
    @91miti29udu1

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    Uduki29

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    2話前編

    葬儀屋の紫苑 二話前編今日は休日である。
    ぼっちの俺を気にかけていつもは清蓮が家に押しかけて来るが、今日はどうやら大事な用があるらしい。
    せっかく一人なんだし、テレビをつけて家に籠るのも悪く「もしもーし?」
    …そうだ久しぶりにこった夕飯でも作ってみようか、夕方になれば近所にある業務スーパーに「ねぇーー!居るよねー」
    うるせぇ
    先程から玄関のドアを一定のリズムで叩く音が聞こえる…いやうるさ
    「あーそーぼー!…出てこないなぁ…野球しようぜ磯野ーーー」
    俺は磯野ではない。決して坊主では無い。
    「や、やめようよ雪都…!」
    「やだぁー!ねぇーー!出てよぉー!葬儀屋の緊急のお仕事だよーーー!」
    少女二人の声と、葬儀屋というワード
    警察に労基もクソもないのはわかっている。だが家にまでやってくるのはやめてくれ。朝の九時だぞ。
    「あーけーて!あーーけーーてぇーー!」
    「開ける!開けるから叩くのやめてくれ!」
    廊下を走り、急いで扉を開ければ声の主が二人。
    「あ、開いたァ〜やっほー」
    「し、失礼だよぉ…!」
    黒髪に透けて見える紫と、それと同じくらい紫を主張するスカートを履いた少女と、チャイナか巫女服か、コスプレのような服を着た茶髪の少女が入口に立つ。
    「やっほ」
    「やっほって…仕事があるんじゃないのか」
    「そうその通り!待っている暇はないよ!ゴーゴーゴー」
    茶髪の少女はそういうと俺の腕を引っ張る。
    「だ、ダメだよ雪都!粗相ないようにって佑夏姉さん言ってたでしょ!」
    それを止めるのはもう一人の少女。
    「まず名前を教えてくれよ…二人とも葬儀屋だろ?」
    俺の言葉に二人は互いに顔を見合うと、
    「朱雀隊たいちょー!天樹雪都!」
    「あ、す、朱雀隊…さ、佐久間涼風です…」
    ハイテンションで言う雪都と遠慮気味に言う涼風、性格は真逆だ。
    「雪都に涼風か…他の隊員は?」
    「いやぁもう一人ね、居るはいるんだけどたまにしか来れなくてね?」
    「や、矢俣華月って言う私達よりも一つ年上の、男の子です…」
    矢俣?
    聞き覚えのある苗字に頭の中であの人の顔が浮かぶ。意地悪そうな、奥に何か黒いものを秘めたようなあの顔をだ。
    「その子ってお兄さんいたりしないか?」
    俺の言葉に雪都は考える素振りを見せたあと。
    「…″そっち″の矢俣さんはいい感じに流されちゃった」
    後頭部に手を置きそう言うと「後で聞いてみてよ」と付け足して言った。
    「あ、あの、そろそろ時間が…」
    俺を覗き込むようにして涼風が言う。
    「そうだった。悪い今着替えるから待ってくれ」
    「いいよ〜」
    雪都と涼風は頷くと玄関へと入ってきた。
    「…いや、着替えるから出てくれよ…」


    電車を乗り換えず、着いた駅から徒歩二分。
    「裁判所…?」
    おいおいこれはとんでもないところじゃねぇか。どう考えてもワイシャツと清蓮が俺に寄越してきたズボンで来ていいとこじゃない。
    「さぁ入って入って〜向こうも急いでんだぁ」
    雪都が俺の背中を押し、涼風も申し訳なさそうに横を歩く。警備員の人達はそんな怪しい俺たちの動きを止めることなく見送った。
    「どうして裁判所に…」
    「まれに、刑事課や、政府から以外で依頼されることがあるんです。」
    腕に着けた紫のベルトの時計を見ながら早足になって言う涼風は軽く雪都を睨みつけたように見えた。
    「…こういうのは基本葬儀課に許可を取らなくてはいけないのですけど、どこかの誰かが軽々引き受けてしまったので」
    「はーい、ボク遠回しに人のことを悪く言うことって良くないと思いまーす」
    お前か
    「それで今、葬儀課の中で緊急で仕事を頼めるのが、限られてしまって…」
    それで俺か
    「なんとなく事情は分かったよ。それで、話を戻すがどうして裁判所なんだ。」
    「そうそう!それはねぇ」
    法廷の扉が開かれるとそこには女性と若い男がいた。
    「ドキドキ!そこに賊心はあるのかな?真実を見抜け!葬儀屋裁判〜!」
    …辺りがやけに静かだなぁ
    「ふざけてるの…?」
    雪都の頭がガッツリ掴まれる。涼風は案外雪都のいいストッパーなのかもしれない。
    「いだだだだ」
    「朱雀隊のお二人と葬儀課の方が到着したので、今回の依頼について確認させていただきます。」
    裁判官と思われる男は顔が垂れ下がった布で見えないが、手馴れている感じからして葬儀屋と関わりがあるのだろう。男は話を続けた。
    「こちらは原告人及び依頼者の細川様、こちらは被告人及び賊心があると仮定されている、椎野様でございます。」
    傍聴席の最前列に座り雪都から涼風、そして俺へと書類が回される。
    そこには原告人と被告人、二人の情報が入っていた。被告人の年齢は予想していた通りだったが、原告人の女性の年齢を見て目を丸くした。四十九歳…全くそんな姿には見えないほど健康的で若い見た目をしていた。
    「依頼を確認させていただきます。依頼は『娘を見殺しにした椎野様の神魂の解体』で間違いございませんか」
    「どうでもいいからさっさとこの男を殺してよ!」
    殺す?
    「刑事課や政府からの依頼の他に、葬儀屋に直接入る依頼には、こういった相手の神魂を解体して欲しいという依頼も少なくないんです」
    涼風は小声で言った。
    「それを決めるのは葬儀屋の方々であり、今回裁判官の立場である私は公平を期すためにここにいます。この裁判には検察官、弁護士などはおりません。法廷も非公開となっています。葬儀屋の皆様は両者の証言を聞き、賊心があるか否か回答して頂きます。既に理解しているとは思いますが改めてご了承ください。」
    ありがとう裁判官さん、俺初めて知ったよ。
    「それでは開廷致します。まずは原告人の主張を」
    裁判官が言い切る前に証人台を強く叩いて女性は悲嘆の涙を流しながら声を荒らげた。被告人を罵倒する言葉も度々入り裁判官に注意されながらも信頼をしていた椎野という被告人に騙され大事な娘を見殺しにされたと叫ぶ。
    「ねぇ、さっきから言ってる見殺しってどういうこと?」
    雪都が伸びをしながら言う。どうやら葬儀屋は質問のみであれば発言が許されるようだ。
    「私が娘と電話していたら途中で電話が切れたのよ!心配になってコイツに電話したら、なんともないって嘘をついたわ!なんともないわけ無かったわよ…!アンタが電話した時!娘はもうアンタんとこのマンションから飛び降りて死んでたんだから!」
    「そんな…」
    「そりゃ酷い話だね…」
    涼風と雪都は言葉を漏らす。
    「すぐに分かったわよ!アンタ娘が飛び降りる瞬間見てたんでしょ!それを見ててよくこんなこと、アンタのせいでうちの子は」
    「原告人は一度落ち着いてください。落ち着くまで発言を禁止します。その間に被告人、」
    男は頷き立ち上がると、俯きながら女性と入れ替わるように証人台に立った。
    「お、俺は…勇気が出せなかったんだ…だから彼女であるあの子を死なせてしまった…全部俺が悪いんです。」
    自白でいいのだろうか、自分の罪を自覚しているように感じる。
    「証言はそれで終了ですか?」
    男はゆっくり頷く。がしかし遠慮気味に手を挙げた人物がいた。涼風だ。
    「勇気が出なかったとは、ど、どういう意味ですか…?細川さんの娘さんが亡くなった理由があるのなら、詳しく教えてください…」
    被告人と目が合うと涼風は先程までの相手の顔色を伺う瞳ではなく真っ直ぐな、貫くような瞳で被告人を見た。
    「彼女は、本当だったら俺と一緒に飛び降りるつもりだったんだ。あの子が生きたくない、死にたいって言うから…!貴方に電話したのも、飛び降りる前で別れを告げていたと思ったんだ…!」
    また何か話し出しそうな女性を抑えるかのように裁判官の「続けなさい」という声が部屋一帯によく響いた。男は頷いてから言われた通り話を続ける
    「飛び降りる直前、怖くなって俺はやめようって彼女に言ったんだ…!飛び降りれそうな段差から降りて安心してたら貴方から電話が来た、その時までは俺も彼女が生きてたと思ってた!けど!電話を切った時にはもう、彼女は一人で飛び降りていたんだ…」
    重い空気に思わずこの場から立ち去りたくなる。横を見れば真剣に話を聞く涼風と、何か考え事をしている雪都。
    「ねぇお兄さんはさ、彼女さんがなんで自殺したいか知らないの?」
    「し、知らない」
    返答を聞くと雪都はまた一点を見つめ始めた。
    「さっきから聞いてればアンタ」
    とうとう痺れを切らした女性が男に手を出しそうになる。
    「静粛に!もし手を出せばは貴方の原告及び依頼は無かったことにします。」
    裁判官が声を張り上げた。あ、ドラマとかでよく見るあの木槌みたいなの叩かないんだ。
    「…アンタが娘と付き合ってから、娘は家に帰らなくなって行ったのよ、あの子いつも私の誕生日にはプレゼントを持って来てくれるのに…!」
    女性の言葉に涼風はハッとして口を開く。
    「そのプレゼントは、娘さんのご意志ですか…?」
    「当たり前でしょ!あの子が自分で稼いで買ってくれた物よ!この服だってそうだわ!」
    涼風は雪都に目を向ける。釣られて俺も雪都を見れば当人の話など聞かずにスマホをいじっているではないか。
    「では最後に、原告人と被告人。葬儀屋の方々へ伝える事があれば、お伝えください。」
    男は黙りこくったままだ
    「どうか!どうかお願いします葬儀屋さん!あの男は私の娘を見殺しにしたのよ!私の大切な娘を!私がどんなに悲しいか…っ」
    女性の方が俺達に向かって必死に訴え掛けたところでやっと雪都のスマホを弄る手が止まる。
    だが雪都も涼風も、女性を見る目は同情でも、悲哀を漂わせた目でも無かった。
    今にもコイツをどう殺してやろうかと思索する、獲物を目にした猛禽類のような鋭い、そして蔑むような冷淡な瞳。脳が体に逃げろと指示してくる。
    「あ〜もういいかなぁ。決まったよ、どうするか」
    雪都は立ち上がると傍聴席と証人の境目である柵の上に立つ。
    「葬儀屋は、原告人に賊心があるとここに証言するよ」
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