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    Uduki29

    創作小説垢
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    Uduki29

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    葬儀屋の紫苑 四話

    葬儀屋の紫苑4話

    「やぁ、息災かい?」
    いきなり仮眠室に入ってきた白髪の女は笑顔で言った。
    「あ、はい」
    よそよそしい俺の反応に、女は笑顔のまま眉を少し下げると椅子を俺のベッドの方に近づけ座る。
    「聞いたよ、ここ二週間ずっと仮眠室に閉じ込められてるんだってね。」
    その通りである。例の少年と出会ってから二週間、騰蛇隊に朱雀隊に続き、空狐隊や佑夏。清蓮にひめちゃんに質問責めされた。さらに少年から受けたであろう電撃が体に影響を及ぼしていないかの検査で家に帰れずじまいだ。
    「えっと…」
    「やっぱり僕のこと分かって無かったみたいだね。天樹零だよ。一応警視監をやってるんだけど」
    「じょっ」
    上司だった。
    「あぁ、そんな身構えないで道國兄さん。葬儀課においての僕の立場は他の隊と同じなんだからさ、零って呼んでよ。兄さん」
    ベッドの枠に寄りかかり零は言う。

    「なんだ、お前もう居たのか。」
    ひめちゃんの声だ。
    「やぁ、氷芽さん。有能な山猫隊が例の教会の本拠地を掴んできたよ。」
    「佑夏から聞いた。一週間かかるとは…山猫にしては遅かったな」
    いや、一週間で病院という言葉だけで特定するのは早い方だろう。
    「見つけるのは一日で済んだんだけどね。ほら、佑夏姉さんが一週間後にって言ってたもので、残りの六日はちょこっと付近の観光に」
    「舐めてんのか」
    零は手に持っていた紙袋を「これお土産」とだけ言ってひめちゃんに渡した。
    「それで、どこだったんだその病院は…なんだこの菓子」
    「東北の方にある国立病院でね…それはスイートポテトだよ」
    お土産の話してる?
    「ダイオウグソクムシって書いてあるぞ」
    「そうダイオウグソクムシ形のスイートポテト。」
    「美味いのか」
    「うん」
    話の脱線がすごい
    「今はお菓子よりも大事な話があるでしょう」
    どこからともなく声がする。
    「…ってうわ!なにそれ!」
    零から伸びる影から、青年がまるで忍者のように出てきた。
    「そっか僕のこと覚えてないってことは柊時も覚えてないよね。柊時」
    「はい、はじめまして道國兄様。夏目柊時といいます」
    「影を操る能力を持っててね、普段は僕の影の中にいるんだ。」
    『能力』…『気体を操る』雨雷や『火を操る』海織、『精神を具現化させる』結都と、葬儀屋の人間は自身にある神魂をエネルギー源として特殊な能力を持っているらしい。
    柊時は俺を見て一礼すると零の方へ向き直り。
    「スイートポテトの話はあとでもいいでしょう」
    「え〜?美味しかったじゃないダイオウスイポ」
    「変な略し方すんな食欲失せる」
    なんの話をしてんだ。
    柊時は困ったような顔をしたあと、また影の中から地図を取り出す。
    「ただ僕と姉様が観光していた訳ではありません。その間にも病院についての収穫はいくつかありました。」
    地図を開く。
    「なかなかに厳重な警備で…病院もそうだけど、この病院がある区一帯に謎の緊張感があってね」
    「常に監視されているような気分でした」
    地図は病院付近にある区の地形図と病院の見取り図だった。
    「教会の洗練が周囲にも行き届いているんだろ」
    ひめちゃんはため息をついた。
    「それで、今回はそのまま山猫隊に頼みたいんだが」
    「自分の担当だから色々楽なだけでしょ?まぁ別にいいけど」
    零は笑いながら言うと俺の方を見た。
    「道國兄さんも来るよね?」
    はい?
    「いや、俺はまだ検査とかあるんで」
    「ねぇよ、昨日終わって異常ねぇって言われてんだろうが」
    こういう時ひめちゃんは絶対に俺の味方をしない。
    「いやいや言ってる暇はないと思いますけどね、『アリス』君のこと心配じゃないんですか?」
    柊時が口に出した『アリス』という言葉で俺の脳裏にはあの少年の怯えた表情が映る。
    「…」
    「あの子がいくら教会の人間だったとしても、教会での扱いがどんなものか分からないからねぇ…困った困った」
    零はわざとらしく顎に人差し指を添え言う。
    「道國兄さんに告発したことがバレて、殺されちゃうかも」

    気がついたら零が首に巻く真っ赤なマフラーを掴んでいた。
    「…何?」
    零の俺を見る目は冷たい。
    「…っ冗談でも、人の命を軽く見るな…!」
    声が怒りからかその冷たい視線から恐怖からか震えている。威厳もクソもない。
    「そう、気をつけるね」
    零は俺の腕を掴む。そして
    「うぉっ!いたたた!」
    そのまま腕を捻られてベッドに戻される。
    「道國兄さんが道國兄さんで安心したよ」
    「え?何怒ってるそれ」
    「全く?」
    零は身につけている黒手袋を着け直して言う。
    「行くよ」
    「行くってどこに」
    「だから国立病院に」
    は?
    布団の上に新幹線のチケットが投げられる。
    「山猫は行動が早いのが売りです。早く準備しないと時間無いですよ」
    「仮眠室の外で待ってるからね」
    柊時はカバンから俺の服を出す。それ俺が家にしまってたやつじゃない?
    「ひめちゃ」
    「慣れろ」
    言い切る前に言われてしまった。
    もうやだよこの職場

    「こういう遠距離の移動の時とかさ、番組とか漫画とか数時間後とかの描写で済むの楽で良さそうだよね」
    新幹線からタクシーに乗り換え、国立病院の看板を見ながら零はつぶやく
    「楽っつか、番組に関しては移動中の芸能人撮ってもクソつまんねぇし、出演者にずっとテレビ向けのキャラやらせる訳にいかねぇからだろ。ストレスだ」
    「おや、経験したような口ぶり」
    「うるせぇ」
    ひめちゃんは道路の小石を蹴る。
    「そういえば柊時は」
    「僕の影の中だよ。あの子人が多いところとか明るいところとか大嫌いだから」
    人の影で引きこもりとはいいご身分である。
    「で、どうやって入る。見舞いだの外来患者だの言って病院内に入れたとしても病院の深くまで探索できるとは思わないが…つか今日休みじゃねぇか尚更無理だわふざけんな」
    地図を見せられた時に警備が設置されている場所として書かれた赤マルは異常な数だった。加えて今日は休み…さてはちゃんと営業日見てないなこの子達。
    「僕思うんだよね」
    零は腕を組んだ。
    「何だ、またよく分からん主張か」
    ひめちゃんは鬱陶しそうな顔で零を見る。
    「潜入捜査とか、隠密は得意だよ。だってそれが山猫隊の本来の仕事だもん。今回の目的も国立病院の告発、でも僕達にはちょっと面倒な荷物があるんだ」
    「それって…」
    「そうそれは」
    道國兄さん。
    零が俺を指差して言う。
    「…っお荷物なら呼ぶなよ!」
    「冗談冗談、確かに隠密ヘッタクソそうだけどさ」
    ふざけんな
    「居るんだろう。少年が」
    ハッとする、『アリス』の事だ。
    「結都と考えたんだよね。『アリス』は何故あの時教会の言う通り戻ってしまったのか。」
    ひめちゃんはここで初めて零を横目で視線を送る。
    「色んな説が出たよ。で、その中で一番あっていると思った答えが」

    「まだ居るんじゃないかな。自分と同じ境遇の子供が」

    零の解説はこうだ。
    あの時『アリス』は俺や空狐隊に助けを求めれば葬儀課に保護され、教会と縁を切れたかもしれない。
    では何故それをしなかったのか、答えは前々から葬儀屋でも扱われていたあの情報からだ
    『毎年その『教会』が孤児院から子供を引き取っているらしい』
    毎年、毎年子供が教会に引き取られているのだ。そしてその孤児院の情報を集めている…いや、情報収集を得意とする山猫だからこそ知っている事実。
    『今年引き取られたのは少年ではなく少女』
    つまり『アリス』の後に教会に引き取られた少女が居る。ということだ。『アリス』はおそらく自身が居なくなった後彼女がどんな仕打ちを、どんな扱いをされるか分かっていた。だから俺に病院という単語を、教会の在処を知らせた。
    「自分ではなく、少女を助けて欲しい」と言う願いを込めて。


    「『アリス』を含めて他にも子供がいるはず。そんな子供を連れて区全体が監視されているここを抜け出すなんて出来ない。」
    全くその通りだ、第一子供達がいきなり知らない人に助けに来たと言われ連れ出されるなんて、冷静でいられる訳が無い。
    「だから僕は思いついたんだ。」
    零はにこりと笑う。その顔を見てひめちゃんは何かを察したらしく表情を曇らせた。
    「『子供達を誘拐する』よりも『さらにやばいこと』をする事で監視の目を欺けるんじゃないかなって」
    「…は?一体どうゆう」
    答えを聞こうとする前に答えが出た、というか
    病院の上階が爆破した。
    ……は?
    「もう始まったみたいだね」
    零は爆発を聞きつけて警備が一人もいなくなった入口を堂々と歩いていく。
    「え?は?ねぇちょっとひめちゃん」
    「慣れろ」
    二回目。ひめちゃんは「始末書絶対書かせる」と呟きながら病院へ向かう。

    二人を追って病院内に入れば、そこには見覚えのある二人と、白髪の青年が一人。
    「おらおらぁ〜!道を開けろ〜!正義の強盗朱雀隊のお通りだ〜!」
    ドカドカと銃弾を天井に放ちながら雪都が叫んでいる
    院内では逃げ惑う看護師や医者でいっぱいだった。
    「ひめちゃんこれ警察案件だよ」
    「俺たち警察だが」
    葬儀屋と葬儀課には法律ってものがないのか?
    「あっ、道國兄さんに零姉さん…氷芽さんも…」
    大鎌で受付をめちゃくちゃにしながら涼風は言う。
    「…ストレス?悩みあるなら聞くぞ…?」
    「ち、違います!入院患者の居る病棟以外全部こうしろって零姉さんが…!」
    当たりを見回していた零を見るとこちらに気づいたようで軽く手を振る。
    「それで、初めましてなんだけどそこの彼は…」
    俺の視線を辿るように涼風は白髪の彼を見る。
    「あぁ…はなちゃん…じゃなくて華月君です、矢俣華月。」
    自分の話だということに気がついたのか華月と呼ばれた青年はこちらへやってくる。
    「…どうも…矢俣華月です…」
    黄緑の瞳をしているが彼の鋭いツリ目と矢俣という苗字に心当たりがある。
    「君の家におに」
    お兄さん居ない?と聞く前に涼風に口を塞がれた。
    「し、仕事と関係ないこと聞いちゃダメですよ!兄さん!ご、ごめんねはなちゃん、また作業に戻って貰えると嬉しいな…」
    華月は少し不思議そうな顔をすると肩に掛けていた大きな機関銃をまた四方八方へと放った。
    「はなちゃんにお兄さんの話はしないように…!」
    涼風は小声で言う。
    「わ、わかった」
    「ちょっとー!ボク達朱雀が頑張って注目集めてんだからさ〜!早くしてよね!向こう側が冷静になるのも時間の問題だよ!」
    雪都が発砲音の中大声で言う。
    「それもそうだね。二人とも、先に進もう」
    零に俺も氷芽さんも頷くと受付から去っていった。

    「…にしても本当にここか教会の本拠地だと思う?雪都…?」
    涼風は大鎌でテレビ台を破壊して言う。
    「どうだかな。確かに勢力の強い教会がこんなちっぽけな病院だけで収まりきるとは思わねぇ。だろ?雪都」
    華月の放った銃弾は窓ガラスを割る。
    「…」
    雪都は考え事をしているようだ。
    「『アリス』に少女、毎年引き取られる子供…じゃあ『アリス』より前の子供達は…?能力持ちの子供が出来る原理を知ってる…?」
    雪都は目を見開く。
    「祓喰…!あれが毎年行われていた…」
    祓喰。その単語に涼風と華月も反応する。
    「病院全体に混乱は起こせた!ボク達も急いで向かおう!」
    涼風と華月は表情を強ばらせ頷く。三人は零達が走っていった方向とはまた別の方向から病院の奥へと向かった。
    「ボクの憶測が間違っていなければ。今年の祓喰の犠牲者は『アリス』!最悪だ…!ボク達がこんなに暴れれば警備は大事な贄である『アリス』を守りに行くはず…!」
    「姉さんは知ってたはずだよね…!もしかして知ってて全て自分一人で…」
    涼風が言う。
    「集まった教会関係者を『アリス』とかいう子供守りながらまとめて潰そうってのか無茶に決まってんだろ!」
    「いや、アレを使えば出来なくはない。ボク達朱雀を連れて行かなかったのはその二次被害を減らすために…!」
    雪都は言葉の続きを噛み締めることでと切らせた。
    「くそ…!」

    「いやぁ氷芽さんの能力のおかげで難なくここまで来れたよ。」
    零は鉄で作られた扉を前にひめちゃんに向かって目配せをする。ひめちゃんは相変わらず眉間にシワがよったままだ。
    「まさかひめちゃんも能力持ちだったなんて…」
    ひめちゃんの能力『分岐を視る』力によって行くルートの分岐を読み。正確に『アリス』の居るフロアまで辿り着くことが出来た。
    「国立病院の実態について書かれた証拠になりそうな物も今柊時が影を渡って集めてると思うから、この病院が無くなるのも時間の問題かな、国の力で出来た病院がまさかカルト宗教の傘下なんてびっくりするだろうね」
    零が悪い笑みを浮かべる。
    「なんでこの病院が本拠地じゃなくて傘下だってわかるんだ?」
    「本拠地にしては対策が甘いからだろ、まず外部から攻撃が来たなら逃げではなくさらなる攻撃に備えるべきだ。ここはそれが出来ていない。凸った時にそれが明確にわかった。」
    そもそも部外者が出入りしやすい病院って時点でおかしいんだよ、とひめちゃんがため息を着く。
    「…正解。じゃあ僕はその『アリス』ってこと例の少女に会って来ようかな」
    「分かった、俺も行く」
    零の後ろに着くとひめちゃんが目の前に手を出す。
    「やめとけ、零の力が発揮出来なくなる。」
    「力って、能力の事?」
    ひめちゃんが頷く。
    「あはは…氷芽さんは僕の能力使うの、止めようとしたりしないから楽でいいや」
    「うるせぇ、さっさとしろ」
    「はいはい」
    零は手を振りながら扉を開く。俺は喉から声を絞り出した。
    「零」
    「…?何、兄さん」
    「『アリス』を頼む、助けてくれ」
    零は少し笑うと、手を振りながら扉の奥へと向かった。

    いつもの薄暗い部屋、沢山居た友達はいつの間にかいなくなってしまった。大人の人達に連れてかれたあの子はどこに行ったんだろう
    「やぁ、『アリス』君」
    扉が開く音と、髪の毛の白い女の人。すごい、右目と左目の色が赤と白で別々だ。
    「僕は天樹零。前、お兄さんに病院って書いたのは君だね?そのおかげで君たちを助けに来ることができたよ、ありがとう」
    あのお兄さんの知り合いの人だ。
    「…あれ、なんだ鉄格子で囲まれているのかいこの部屋、まるで動物園だねぇ…困ったなぁ…」
    零さんは鉄の柵に触れる。
    「力づくで開けるか…いや、異常が会った瞬間信号が送られるシステムかぁ…うーん…」
    零さんは首を傾げる。
    「雪都を連れてくるべきだったかな…」

    カチャン、という音がなった瞬間。辺りがいきなり明るくなった。
    「まさかこんなに早く嗅ぎつけられるとはな」
    「ひっ」
    大人の人達だ。真ん中にいるのは院長先生、僕たち子供をいつもどこかに連れてっちゃう。みんな危ないものを持ってる、拳銃っていう武器。
    「猫は鼻が利くからね、犬ほどではないけど自信はあるよ」
    ねこ?
    「調子に乗っていられるのも今の内だぞ」
    「あははは」
    「零さん逃げて!怪我しちゃう!」
    零さんは檻の隙間から僕の頭を撫でる。
    「道國兄さんと約束しちゃったからなぁ、絶対助けるって」
    困ったように零さんは笑うと小さな声で「目と耳を塞いで」と言った。
    「おい、被検体に触るな。」
    「『アリス』様呼びはどうしたんだい?嫌だなぁ」
    零さんはハサミを出した、零さんと目が合う。
    きっと目と耳を塞げって意味。僕は目を閉じ耳を両手で抑えた。
    少し経った後、ばんっ!って大きな音がなったから思わず目を開く。
    目の前には真っ赤な血を吐いている零さんと、茶色い髪の毛に赤い目の女の人と紫がいっぱいの女の人。それと、あの時見たお兄さん。
    「やっぱりこういうことだと思ったよもう!」
    「む、無謀ですよ〜!」
    「能力の事聞いたぞ!この馬鹿!」
    三人は一斉に零さんに怒る。
    「ごめんって…」


    口から血を垂れ流す零を見る数分前、俺とひめちゃんは扉の前に居た。
    「…ねぇ、ひめちゃん。零の能力って何?」
    「…あー…言霊を操る能力だな」
    言霊?
    「言霊、簡単に言えば言葉による呪いに近いな。零の言い放った言葉の通りになるというか、例えば「死ね」と言ったら相手は死ぬ」
    「何それ最強じゃん」
    チートでは無いか?
    「使い勝手は別に良くねぇ、言った瞬間起きるんじゃなくて零自身が相手に向かって言ったことで繋がる『言霊の糸』を断ち切らなきゃ能力は作動しない」
    どうやら言えば言い訳ではないようだ。
    「さらに、あいつの能力は自分にも返ってくる。…なんだ…引っ張ったゴムを切れば当然自分にも返ってくるだろ、そういうことだ。」
    「じゃあ「死ね」って言ったら死ぬってことか…」
    「死にはしないが、臓器の一つや二つ潰れてもおかしくないな。」
    そんなの無謀すぎる。
    「早く零の所に行かないと」
    「いつもの事だ、放っておいてもあいつは死なん」
    「だろうけど!」
    扉を開けようとするが何故か開かない。
    「くそ!内側から鍵がかかってる!」
    「兄さん!」
    遠くから声がした。雪都の声だ。
    「間に合っ…てないみたいだね。行く道で捕まえた奴をボコボコにして聞いた話なんだけど『アリス』の次に引き取られた子、また別の拠点に輸送する準備がされ始めてるって。」
    ひめちゃんの顔が険しくなる。
    「ボク達を餌である『アリス』の元へ集めて潰し、その間に例の女の子を別の場所へ引き渡すつもりだったんだ。『アリス』は今年の祓喰の被害者、なら」

    「『アリス』は死んでいても構わないんだよ」

    『祓喰』
    葬儀屋のように神魂の力を持つ人間を喰らうことで神魂の力を手に入れられると言う禁忌。
    「教会ってのは毎年引き取られた先代の子供の肉を食わせていたんだ。だから『アリス』よりも前に引き継がれた子供は…」
    考えたくもない。そんな表情を華月は見せる。
    「『アリス』に食わせた…で今年はあの少女に食わせる…なら『アリス』が生きていようが死んでいようが、肉片だろうが構わねぇってことか」
    最悪だな、とひめちゃんは舌打ちした。
    「さっき柊時にもあってそのことを話したよ。すぐにその女の子の方に向かうって。」
    柊時も本来の目的である証拠となる文献を見つけたようだ
    「なら俺もそっちに向かう。分岐があった方が的確だろう」
    「俺も行きます」
    ひめちゃんに続けて華月が言う。
    「じゃあボクと涼風、道國兄さんで零姉さんと『アリス』の元へ、女の子の方はお願い!」
    ひめちゃんと華月は走り出した。
    「くそ面倒なことばっかだ」
    ひめちゃんのその両手にはマシンガン銃が握られていた。向こうも戦闘は避けられない、ということだ。
    「行くよ!兄さん!」
    「いや、だからこの扉鍵がかかってて」
    雪都が扉に手をかざすと一瞬で鉄の扉は吹っ飛んだ。
    「はぁ」
    「雪都の能力『鉄を操る能力』です。」
    なんでもありだな葬儀屋。
    「ごちゃごちゃ言ってる暇ないよ!」
    俺たちは暗闇の廊下を走った。


    着いた時にはもう零は能力を使っていた。
    吐血をしている割にはいい笑顔、なんとかギリギリで周りを囲む奴らの銃弾を涼風と雪都が弾くことが出来た。
    「強気でいたわりにはお仲間に頼って…情けないな。」
    「零さんは情けなくなーい」
    しかし、おかしい。零は力を使ったはずなのに奴らにはなんの効果もない。
    「零、能力はどうした」
    「使ったよ、だから右肺が潰れているんじゃないか…」
    喋る度に口から血液が流れる。
    「『割れろ』って言ったんだよ」
    割れろの意味が分かった。辺りを見れば先程までまっすぐたっていた男たちが今となっては自身の血の海に溺れている。
    「時差があるんだよね、出血性ショック」
    割れろって、臓器が割れろって意味だったのか
    「いや…怖…」

    「よーし!開いたー!」
    雪都の能力でこじ開けられた鉄格子の隙間から少年が出る。
    「…あの、僕はいいので…」
    「君の後にやってきた子でしょ?大丈夫!ボクのスーパーグレートはなちゃんが助けてるところだから!」
    「君は私達と一緒に逃げよう。ね?」
    涼風が『アリス』に手を伸ばす。
    「…はい」
    『アリス』は涼風の手を取った。
    「あとは氷芽さん達と合流だね」
    涼風は『アリス』の頭を撫でながら言う。
    「たぶん搬入出口は一個しかないからもう外に出てると思うよ。残ってるのはボク達だけ、さぁ残る敵を薙ぎ倒し勝利を収めつかみ取ろうじゃないかー!」
    屈伸をした後元気に声を上げる雪都。
    「ねぇ、それならやってみたいことがあるんだけどさ」
    零は血を吐きながら挙手する。やな予感しかしないしお前喋らない方がいいよ。
    「いいかな?」


    「何だ…これは…!」
    華月が思わず声に出す。
    開きっぱなしのワゴン車に乗るのは血だらけの大人達。無惨な切り口からは生々しい臓器が飛び出ている。
    「おい柊時、お前にしては随分雑じゃねぇか。後で処理する葬儀課の立場にもなれ」
    「僕じゃないですよ。僕が着いた頃には既にこの状態でした。」
    白い車体に血がベッタリとくっついている。
    「じゃあ誰が…」
    氷芽が車内に乗り込むと後部座席には白髪の少女が座っていた。一枚の白かったであろうワンピースは血と汚れで元の白さを失っている。
    「…よく見たら屋根ぶち抜かれてんな…おい、お前」
    少女は光の無い目を氷芽に向けた。
    「俺達が来る前他に誰が来た。何があった」
    少女は氷芽の顔をじっと見たあと
    「いったら、あえる…?」
    「…」
    「おねえちゃん、くろいふくと、いぬのおにいさん…しろいりぼん」
    「…!」
    なにかに気がついた柊時と華月、そして氷芽はバツの悪そうな顔をする。
    「氷芽さんそれってもしかして…!」
    どくどくと治まらない心臓を抑えながら柊時が言う。
    「読んで…いや、『視えて』やがったか…」
    「でも…教会と葬儀屋の間に入るなんて…あそこは中立のはずですよね」
    華月が腕を組み言う。
    「それは『広目天』の話だ。『多聞天』は違う、あいつは気分で動くからな…」
    「あえる?おねえちゃん、あえる…?」
    少女が氷芽の服の袖を掴む。
    「…これは連れて行かないとですね、氷芽さん」
    柊時が苦笑する。
    「くそが…めんどくせぇ…」
    頭を抱える氷芽を見て、華月が同情する。
    「では、零さん達の合流に急いだ方が良いっすね。」
    「合流っつったって、あいつらが今どこにいるか知らねぇ…し」
    少女の手を引き氷芽が車から降りると、華月と柊時はとんでもないものを見たかのような顔をして一点を見つめる。
    「…あ?」
    氷芽が二人の視線を辿った直後、二度目の病院が爆破した。
    「やっほーーーーー!!!!」
    「一度やって見たかったんだ、海外映画みたいな脱出の仕方。あっははは」
    「血!血吐いてる!言ってる場合かぁぁぁぁあ!!!」
    「ぴゃぁぁぁぁああ」
    「全員暴れないでくださいね!風の流れが乱れる!」
    …どうやら爆破した病院の最上階から飛び降り、涼風の『風を操る能力』で着地を図ったようだ。
    「なっ…」
    「れ、れれれ零姉様」
    「まじであいつらに始末書書かせよ…」

    その後、俺達はひめちゃんや佑夏達にめちゃくちゃ怒られた。騰蛇隊のメンツに関しては冷ややかな目で見てくる。
    『アリス』と呼ばれていた少年は能力所持者という事で葬儀屋で保護することが決まった。ひめちゃん曰く、葬儀課はお前ら後処理に追われて面倒を見る暇はないと言う。朱雀隊で預かっているそうだが、面倒のいい涼風が『アリス』を弟のように可愛がっているらしい。少女の方はひめちゃんがあてがある、と言ってどこかへ連れて行ってしまった…一体どこに預けられたのだろうか…

    東京の雑木林を氷芽は歩く。少女は氷芽の首に手を回し、大人しく抱えられている。
    「…」
    どれくらい歩いただろうか、気がつけば石階段と黒い鳥居がそびえ立つ大きな神社が現れた。
    「…はぁ」
    氷芽はひとつため息をするとその階段を上がっていく。鳥居をくぐった先にはアイボリー色の長髪をした者が一人。
    「来たね。『視えて』たよ」
    ニッコリと張り付いたような笑みを見せると氷芽は舌打ちをしながらその者へと近づいて行った。

    「あ、お兄さん!」
    久しぶりに葬儀屋の事務所、BARまでよった俺は玄関をほうきではく『アリス』にあった。
    「元気そうでなによりだよ。」
    「実はあの後、涼風さんが僕に名前をつけてくれて」
    少年は少し恥ずかしそうに体を縮こませたあと、俺の顔を見て
    「そ、葬儀屋朱雀隊、『有栖川 暁』にな、なりました!これからよろしくお願いします!」
    と言うと深く頭を下げた。
    「うん、いい名前だね。ところで零はあの後どうなったんだ?重症だったと思うけど…」
    「あ、はい。実はあの後零さん…零姉さん、すぐに元気になって。その後外の国から帰ってきた雨月姉さんと雫月兄さんに怒られてたけど…」
    雨月という名前は以前聞いたことがある、しかし雫月と言う男の名前は初耳だった。
    「その二人って、今事務所の中にいるかな。」
    「えっと、さっき近くのデパートで新しく色々買うって言って出掛けちゃって…」
    「そっか」
    暁は心配そうにこちらを見る
    「もしかして用がありましたか?」
    「いや、顔を一度見てみたいと思っただけだから。」
    デパートまでそう遠くは無い、会えなかったらそれまでだが、行って顔を見に行くのも悪くないだろう。あとこのまま帰っても家の冷蔵庫空だし。
    暁の頭を撫でたあと、俺はデパートの方へと歩き出した。
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