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    徳田ネギヲ

    @tokudaSAN0

    ごった煮。そのまま流すのちょっとどしよかな…ってやつを置いてます。最近はスタバレの主♂×セバスチャンで幻覚をみている

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    徳田ネギヲ

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    【スタバレ】セバスチャンの舌ピアスの話
    弊谷スチャンが舌ピアスを開けるまでの話。主はまだ谷に来てない頃の話なのでうすらぼんやり存在ほのめかし程度ですがこの文章は主♂セバと同じ生産ラインで製造されています。
    ピアシングの過程は調べた程度なので間違ってたらスミマセン…
    ※ライナスのテントに石を投げたのがセバスチャンであるという解釈を含みます

    #StardewValley

    Stigma 黒く淀んだ決意を胸に、セバスチャンは愛車のアクセルを捻った。エンジン音が低く唸り、静かな山々に木霊していく。普段よりも激しくそれを轟かせ、ズズシティへの長い道を下る。吐き出す排気で、澄んだ山の空気を黒く汚しながら。


     ◯


    「セバスチャン、ライナスのテントを倒したのはお前だろう」
    「は? ……知らないよ」

     ディメトリウスから、家の裏手にある流浪人の住まいを倒したと、謂れもない罪で誹られたことがきっかけだった。
     実際、何度か石を投げ込んだことはあった。それだって元はといえば、今回みたいに抱える必要もないストレスをディメトリウスから負わされているせいだった。
     だが今回ばかりは完全に濡れ衣だ。昨晩は風が強かったし、恐らくその時に柱が傾いたか何かしたのではないだろうか。

    「嘘をつくな。可哀想に、家を倒されて随分困っていたぞ」
    「だから、知らない。オレじゃない」
    「まだしらを切るつもりか。これだからお前は――」

     こういった衝突自体は、実のところ大して珍しくもない。大抵、些細な言い争いから人格否定ともとれる言い方になるまでがセットだった。

    「ちょっと、何の騒ぎ?」
    「聞いてくれロビン。彼がライナスのテントをめちゃくちゃにしたんだ。そればかりか、自分じゃないと嘘までついている。君からも何か言ってやってくれ」
    「今日はずっと部屋にいた。やったのはオレじゃない」
    「誰がそれを証明できる?」
    「そっちこそオレがやった証拠でもあるのか」
    「落ち着いて、二人とも」

     騒ぎを聞きつけて、ロビンが仲裁に入る。普段ならロビンがディメトリウスをなだめて終わるはずだった。だがロビンは、セバスチャンに向き直ると、

    ライナスあの人のこと嫌いなのはわかるけど、でも虐めるのはだめ。あの人だって一生懸命生きてるんだから……」

    と、諌めるように言ってきたのだ。

    「まさか、そいつの言うことを信じるのか!?」
    「ちょっと、そいつだなんて言い方――」
    「……もういい」

     母にまで突き放されてしまったら、もうこの家に味方なんて誰もいない。耐えきれなくなって、家を飛び出す。後ろから、母とディメトリウスが何か言い争っているのが聞こえた。
     ——いっそ自分なんか居ない方が、世界はうまく回るのかもしれない。消えてしまいたい、どうして自分が消えなければならない、自分さえ居なければ、あいつさえ居なければ——そんな考えが頭の中をぐるぐる回って吐き気がした。自身の所在がよくわからなくなって、足元がふらつく。胸につかえる重い空気を、いくら吐きだしても気分が晴れない。それどころか目の前は暗雲がかかったように暗く、全てのものが歪んで見えた。
     この痛みを何かで消し去りたかった。お前のせいだと、またテントに石を投げ込んでやっても良かったが、きっとそんな事をしているから濡れ衣なんか着せられるのだ。今は外ではなく、自分自身の存在に問題があるような気がして、だから何かでそれを罰さなければならないと感じていた。
     例えばそう——別の痛みとかで。


     ◯


     ズズシティ、とある裏通り。
     大都会の隙間に建つ、寂れたビルの前にバイクを停める。地下へ続く階段を下り、真っ黒に塗られたドアを開けると、むせ返るような香の匂いがした。
     ここはピアススタジオ。多種多様なボディピアスの販売とともに、ピアッシング、タトゥーも行っている専門店だ。ドアと同じく真っ黒に塗られた壁には、タトゥーやピアスの施された身体の写真や、タトゥーの図案が所狭しと展示されている。以前から時々覗いては、たまにピアスを買ったり、図案を眺めるに留めていたが、今日は違う目的で訪れていた。
     顔面に様々な形状のピアスがついた女が出迎える。タンクトップから生える細い腕は隙間なくタトゥーで彩られており、彼女がいらっしゃい、と口を開くと、スクランパーピアスが牙のようにちらりと覗いた。
     ――幸い、自分の他に客はいない。意を決して、手短に用件を伝える。

    「舌、開けたいんだ」

     緊張のせいか、口論の後のせいか。思いの外掠れた声になってしまって、慌てて咳払いをする。
     少しの間のあと、女は少し困った様子で応えた。

    「——うちは予約制なの。今日予約して、後日また来てもらう形になるけど……」

     勢いで飛び出してきてしまったため、当然連絡も何もしていない。出鼻を挫かれて焦りが出る。

    「遠方から来ていて……出来れば今日開けたいんだが……」

     動揺を悟られないようにしながらそう答えると、女はまっすぐにこちらの目を見、

    「どうして今日開けようと思ったのか、聞いてもいい?」

    と尋ねてきた。
     ——またか。以前ハーヴィに施術を打診した時もそうだった。身体に穴を開けることのリスクを滔々と説かれて、結局こっちが根負けして断ったんだった。ここは専門店なのだから、いちいちそんなことを気にせずさっさと開けてくれればいいのに。

    「別に……ただ、いいなと思っただけで……」
    「それならいいのだけど……貴方とっても思いつめた顔をしていたから。もし開けたいと思ったきっかけが、貴方の傷になった出来事だったとしたら、あたしは今日開けることはおすすめしない。鏡でピアスを見る度に、その傷を思い出して欲しくはないもの。一度開けたら、塞がったとしても元通りにはならない。個人的には、何かいいことがあった日に開けた方がいいと思う。それでも、どうしても、今日開けたい?」

     ハーヴィとは異なる理由、それも自分の精神状態を考慮した予想外の説得に、少なからず面食らう。思わず何があったかぶちまけてしまいたい気分になったが、相手は名前も知らない他人だ。そんな人間に話したところで、この痛みが消えるとは思えなかった。
     ——それに。

    「この先いいことなんて、一生無いから」

     きっぱりとそう答える。自身に残しておきたくなるような明るい未来の展望など、全く想像できなかった。
     女は肩をすくめ、

    「……わかったわ。特別に開けてあげる。今日は店も暇だしね」

     と言うと、カウンターの下からバインダーを取り出した。挟まれた書類には、ピアッシングに関するいくつかの注意書きと、了承済みのサインを記入する欄がある。

    「まずはこちらをよくお読みの上、サインを」

     おざなりに目を通してからサインを書き入れると、女が少し眉をひそめた。念のためもう一度目を通す。
     バインダーを返して会計を済ますと、黒いカーテンで仕切られた奥、ピアッシング用のブースに案内された。中は店内とは正反対で、清潔感のある白い壁に囲まれている。歯医者で見かけるようなリクライニング型の施術台に、照明。少しの眩しさに目を瞬かせていると、施術台に座るように促された。

    「じゃあ、これで口をよくゆすいでくれる?」

     首元にタオルを掛けられ、小さなパウチに入ったマウスウォッシュを渡される。じっくりと時間をかけて口を漱ぐ間に、女は器具を準備していた。薄いラバーの手袋に、個包装されたニードル、コルク、バーベルピアス、ペン、鏡、大型のクリップのような見慣れない道具。

    「開けるのはセンター? それともリム?」
    「センター」
    「オーケー。舌を出して……うん……おすすめはこのあたりね。これより奥には筋にかかってしまうから開けられない」

     指示されるまま出した舌をラバー手袋の指でおもむろに掴まれ裏返され、かと思えばペン先を舌に押し付けられと、怒涛の展開に目を白黒させる。手際がいいといえばそうなのだが、女の落ち着いた声のトーンに反しやや乱暴にも感じられた。あふれ出す唾液を零さないよう注意を払いながら、眼前に掲げられた鏡でマーキングされた位置を確認する。

    「ファーストは18ミリで足りそうね」

     そう言って用意されたピアスは、思っていたよりも随分長かった。こんなに長くていいものかと眺めていると、女は少し笑って、

    「最初はね。舌が腫れて分厚くなるから。腫れが引いたら、もっと短いのに付け替えてくの。このピアスは料金に入ってるけど、自分でケアするだろうから後で他のピアスも見ていってね」

    と付け加えた。
     と同時に、舌をクリップのような器具で挟まれる。挟んでいる部分の中央にはどうやら穴が開いていて、その穴にニードルを通すらしかった。
     女がニードルを手にすると、嫌でも体に緊張が走る。注射針なんかより何倍も太いそれが、己の舌を貫通するのだ。セルフでやったら恐らく、思い切りが足りずに失敗するだろう太さだ。
     マーキングした位置にニードルの先端があてがわれ、裏からコルクで挟まれる。チクリとした刺激が文字通り舌を刺した。

    「力を抜いて…3、2」
    「あ、がッ……!?」

     1のカウントより前に舌に鋭い痛みが走った。
     体が跳ね、施術台の肘掛けをきつく掴む。涙腺が緩み、額に脂汗が滲んだのがわかった。
     すかさずピアスが取り付けられ、ニードルが引き抜かれる。血の混じった唾液が顎を伝い、首元を濡らした。

    「ふふ、ごめんなさい。1まで数えると、どうしてもその瞬間に皆力んでしまうから」

     滲む視界の向こうで、女がキャッチを締めながら笑った。文句の一つも言おうとしたが、舌が自由になった途端、それは確かに腫れ上がり、普段の倍近い厚さになった。痛みは貫通の瞬間ほどではないものの、口内の違和感と鉄臭さがものを言うのを躊躇わせる。

    「もう一度口をゆすいで……施術はこれでおしまい。お疲れ様」

     長いように感じられた時間も、終わってみれば来店してから10分と経っていない。しかし、ブースから出て店内に備え付けられた鏡を覗けば、血の滲む舌の中央に、サージカルステンレスのキャッチが鈍く輝いていた。


     ◯


     鏡の中の自分、その舌先を見る。
     あの女の言うとおり、ピアスを見るたびにあの日の出来事を思い出すようになった。開けた直後は満足感でいっぱいだったし、短いものに付け替えるときには高揚感もあったが、それはあくまで一時的なものに過ぎなかった。舌の痛みはとっくに消えているのに、胸の痛みは今も、彼の中で燻り続けている。もっとも、その痛みはピアスを開けるよりもずっと前から、日々鬱積しているけれど。
     ピアスを開けた事に後悔は無かった。どうせ今後も幸福を感じることなく生きていくのだろうし、自分の存在がこの世界にとって邪魔であることを忘れないでいられるとさえ思う。まるで罪人の烙印みたいで、それ自体は気に入っている。むしろあの女が余計なことを言わなければ、オーラルケアの度に余計なことを考えずに済んだかもしれないのに。
     ——この先、事態が好転することがあるのか、なんて。

     今日も鬱屈とした気持ちで洗面所を出て部屋に戻ろうとすると、慌ただしく準備をするロビンと行き合った。ここ最近は大工仕事も少なく暇そうにしていたので、少し珍しいものを見た気がして立ち止まる。

    「——仕事?」
    「そうなの! あの牧場だったところに新しい人が来るんだって。小屋はあるけどボロボロだから、最低限住めるようにしてあげないと」
    「へえ……こんな田舎にわざわざ……」
    「どんな人かな? いい人だといいね」
    「……そうだね」

     浮足立つ母をよそに、セバスチャンの心は冷めていた。こんな辺鄙な町にわざわざ越してくるなんて、変わり者には違いないと思う。しかし結局誰が来たところで、自分の生活は変わらない。今日も部屋に籠り、粛々とルーティンをこなしながら日々を無為に過ごすのだと、諦念と共に地下への階段を下りていく。



     その時はまだ知らなかった。
     件の変わり者が、何をもたらすのかを。

     

     
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    徳田ネギヲ

    DOODLE【スタバレ】セバスチャンの舌ピアスの話
    弊谷スチャンが舌ピアスを開けるまでの話。主はまだ谷に来てない頃の話なのでうすらぼんやり存在ほのめかし程度ですがこの文章は主♂セバと同じ生産ラインで製造されています。
    ピアシングの過程は調べた程度なので間違ってたらスミマセン…
    ※ライナスのテントに石を投げたのがセバスチャンであるという解釈を含みます
    Stigma 黒く淀んだ決意を胸に、セバスチャンは愛車のアクセルを捻った。エンジン音が低く唸り、静かな山々に木霊していく。普段よりも激しくそれを轟かせ、ズズシティへの長い道を下る。吐き出す排気で、澄んだ山の空気を黒く汚しながら。


     ◯


    「セバスチャン、ライナスのテントを倒したのはお前だろう」
    「は? ……知らないよ」

     ディメトリウスから、家の裏手にある流浪人の住まいを倒したと、謂れもない罪で誹られたことがきっかけだった。
     実際、何度か石を投げ込んだことはあった。それだって元はといえば、今回みたいに抱える必要もないストレスをディメトリウスから負わされているせいだった。
     だが今回ばかりは完全に濡れ衣だ。昨晩は風が強かったし、恐らくその時に柱が傾いたか何かしたのではないだろうか。
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    徳田ネギヲ

    DONE【ス夕八゛レ】セバスチャンと結婚後のディメトリウスの台詞に関する話。
    「Comfort Zone」https://poipiku.com/2213141/10046505.html の続編になります。蛇足の蛇足。もはや百足。
    Comfort Zone -Reconsideration- 月曜日。
     牧場に嫁いだセバスチャンが、毎週顔を出しに寄ってくれる日。ロビンはいつもこの日を心待ちにしていたが、今日に限っては憂鬱だった。ディメトリウスが持ちかけてきた提案を、セバスチャン本人に伝えなければならなかったからである。

    「――地下室を?」
    「そう……ラボを広げたいんだって」

     セバスチャンの自室だった地下室は、まだ本人の荷物が少し残っているものの、部屋としては使われていない。何かあった時のために、ロビンはその部屋をそのまま残しておくつもりでいた。
     しかしとうとう、ディメトリウスが空き部屋を使いたいと言い出したのだ。温度変化が緩やかな地下室は、デリケートな生物や薬品などの保管に都合がよいのだという。いよいよ本格的に息子を追い出しにかかっているように感じられて、ロビンも反対はした。だが一度は退けたものの、二度、三度と説得が続くうち――わかった、今度来たときに聞いてみるから、もうその話はよして――そう言わなければ、今でも説得は続いていただろう。
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