「……痛みますか?」
こういうことに男親というものは役に立たないのだと、ワイフーのときにもそう思ったことを思い出す。いや、流石に彼女の実父よりはマシだと思うのだが、しかしそれは問題の根源的な解決というわけではない。自分はどうやってもその痛みや辛さを理解することは出来ないし、どんなふうに気を遣うのが正しいのかもわからないのだ。
ベッドに仰向けになっていたドクターは、首だけをこちらに向けた。少し、と苦く笑う唇が呟き、それは自分を安心させるためのものだった。
「薬は飲んだからね、その内効いてくると思うよ」
月に一度は、こうして体調が悪くなる。とはいえでそれで仕事が休めるような立場と環境にドクターはいない。だからその分、仕事のないときは横になっている。せっかく君がいるのに申し訳ないな、とドクターが眉を下げたので、何を言っているんですかとリーは答えた。その語気は彼にしてはいささか強く、ドクターの心でさざ波だつ不安を鎮めるようだった。
「あなたが無理をしている方がよっぽど心配ですよ、こっちは」
それよりはこうして休んでいてくれた方がずっといい。なら良いんだけど、とドクターは毛布を口元まで引っ張り上げた。
「……何か、欲しいものはありますか?」
「うーん、欲しいものってわけじゃないんだけど」
リーがお腹を撫でてくれたら痛みも良くなるかな、と。ドクターは大真面目な顔で言い、リーは何故ドクターが口元を隠しているのかを理解した。ふわふわの毛布に覆われたその下で、唇が弧を描いているのが見えるようだった。冗談を言えるくらいに痛みが良くなったのであればそれは僥倖だが、しかし要求された内容が内容である。いくらなんでも絵面に問題があるだろう。そんなことが許されるのかとリーは頬を引き攣らせ、やがて意を決したように手を伸ばすと、
「いや、冗談だよ。そんな顔をしないでくれ」
行き場を失くした手が空中で止まる。そうだなあ、温かいお茶を淹れてくれないかな――という言葉に、緊張していた全身から力が抜ける。人を揶揄うのもいい加減にしてくれ、とは言いたいが。
「なら、これで勘弁してくれませんか」
ぽんぽんと、リーがドクターの頭を撫でる。風邪を引いた子どもをそうするような仕草に、私は子どもじゃないんだけどなあとドクターはぼやき、それでもどこか嬉しそうだった。
「リー」
「なんです?」
「体調が良くなったら美味しいものを作ってよ」
「いつも作ってますよ」
「とびきり美味しい奴。なんだっけ、水煮肉片とか食べたいな」
あれは山のように唐辛子を使っているから、今度は別の理由で腹が痛くなりそうだった。動けるようになったらあれもしたいこれもしたいというドクターは、紙のような顔色をしていた今朝よりもずっと血色が良くなっているようだった。はいはい、おれで役に立つんなら、と言うリーに、ドクターは数度瞬きをして、不思議なことを言うんだねと呟いた。
「リーはいてくれるだけで嬉しいよ」
「……なら良いんですけどねえ」
こういうときに、男というものは役に立たない。けれど、あなたがそう言ってくれるなら、それだけで。