キャンプウィルルオ スマートフォンの通知を切り。リュックを背に自転車へまたがる。そして空を見上げ、ひとつ息を吐き出すとペダルを踏み込んだ。
春、と呼ばれる季節が訪れてはいるけれど、朝晩などは冬に縋り付かれているようだ。坂を登る為に荒くなった吐息が白くならないだけで、肺に染み込む空気も、頬に当たる風も痛むほどに冷たい。しかしそれも陽が昇り、息が上がるごとに和らぎ、熱くなっていく。
車の往来も少ない山間の車道を、自転車で駆け抜ける。峠にさしかかった頃、山頂では眩い太陽が煌めき、目を細めた。
なんという、素晴らしい天気だろう。
ル・オーという名の青年は静かにひとり、表情を綻ばせた。
土曜日の昼である。
まだ寒さの残るこの季節、桜も固い蕾の今はキャンプ客もそう多くはない。
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