ふたり静か(仮) 流されやすいのと押しに弱いのは違うんだよなあ、とネロはここにきて何度目かの確信を得ていた。膝を組んでわずかに前に屈み、膝に肘が当たる具合に片腕をだらんと下に垂らし、指先でグラスの上部を掴んで揺らす。どちらかと言うまでもなく、寛いだ姿勢だ。
隣のファウストは普段からあまり脚を組まない。せいぜい肩幅くらいに開脚するのが関の山で、グラスをぶら下げるように持つことなどない。膝に肘をつくくらいのことはする。酔いが回ると両肘をついて祈るように手を組んで、そこに顎を乗せていたりだとか、そういう姿勢だ。だいたいそういう時、ファウストはぼうっとしていてあまり喋らなくて、横顔がなんとなく幼く見える。これを数回見てしまうと、昼間に本気で怒って凄まれてもまあ好物を作ってやればなどと思うのだ。
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