忘れえぬ景色 一階の出窓に、青色の丸い頭が見えた。
そこにいるのは、ファウストと同じ東の魔法使い。兼、料理番でもあるネロだ。
お昼どきの山を越えた後、夕食の準備までの小休止。彼はいつも調理場の窓辺に腰掛け、短い休息をとる。
ファウストは依頼された呪術に必要なもののために、勝手口から裏庭へ出たところだ。
ネロはファウストの視線には気づいていない。いかにも暢気そうな顔で、雲の流れを眺めている。気配に敏感なこの男にしては珍しい。
(天気が良すぎるせいかな。)
今日は見事な秋晴れだ。この時期、裏庭に面したその窓で黄昏時にかけての時間を過ごすのは、さぞ気持ちがいいだろう。
声をかけようかと一瞬迷ったが、なんとなく邪魔したくなくて、思いとどまった。
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