あなたのとなり埋もれそうなほどの量の課題を抱え、パソコンのキーボードを黙々と叩く。
定期試験を翌月に控え、四月五月と様子を見ていた教員達は、こぞって学生に負荷をかけてきた。最近は学内で誰と話していても「あの先生はヤバい」「課題提出締切が早すぎる」と教員達への恨みつらみがひとつやふたつ出てくる有様だ。
かく言う千寿郎も、必修科目に加え、選択科目、さらには学芸員課程と、取っている単位数は周囲と比べて多めで、今日も深夜までこうして課題に取り組む羽目になっている。だが、こうして忙しい学生生活を送っていると、千寿郎はいつも兄の事を思い出す。千寿郎と同じ年の頃、兄は教職課程を取っていたし、バイトもして、友人達とも適度に遊んで、何より年の離れた弟との時間も極力確保してくれていた。あの頃、「もっとあにうえとあそびたい!」と我儘を言っていた自分のことが、今更ながら恥ずかしい。兄は忙しい日々の中で、最優先と言っていいほど、千寿郎との時間を大切にしていてくれていたことが、今になって漸く理解できたのだった。
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