フラワーシャワー 色とりどりの花びらがひらひらと空に舞う。教会から出てきた新郎新婦は周囲の歓声と祝福を一身に浴びながら、幸せを噛み締めるようにゆっくりと一歩一歩進んで行く。
「やっぱり寂しいですか、お兄ちゃん」
すぐ隣で聞こえた声にブラッドが視線だけ寄越すと、どこか楽しげに細められた司令の瞳がそこにはあった。彼女はあらかじめ手渡された花びらたちが風に飛ばされてしまわないよう、宝物のようにそっと両手のひらで包み込んでいる。
「俺はあなたの兄ではないし、そもそもこれはオープニングセレモニーの一環としての
模擬挙式だ」
ブラッドは再び目線を新郎新婦、もといフェイスと新婦役の女性へと戻した。
「そして俺とあなたは視察という名目でここに来ている。あくまで今は仕事中だ。軽口は慎むように」
「あまりにも素敵な式と、久しぶりのおめかしについテンションが上がってしまって……そうですよね。フェイスくんのお兄ちゃんはブラッドさんただ一人ですものね。失礼しました」
うんうんと神妙に一人頷く司令にブラッドはわずかに眉を寄せる。こうしてブラッドを揶揄うくらいには、二人の関係が以前より気安くなっていると考えれば悪い気はしない。キースの悪影響を受けている気もしなくはないが。
模擬とはいえ、せっかくのめでたい場だ。これ以上の説教を飲み込んだブラッドは代わりに小さく息を吐くと、彼女の言葉通りドレスアップした司令の姿をあらためて観察した。
あくまでも集客を目的としたイベントであるため、平服でも問題はなかった。かといって制服は場にそぐわないだろうという事になり二人そろって礼装に着替えたのだ。淡い色のワンピース、繊細なレースがぴったりと彼女の細い腕を包み、その下にある肌の白さを際立たせている。
「確かによく似合っている……綺麗だ」
視線を感じたのか、ブラッドを見上げた司令の瞳を見つめてそっと囁く。丸い目を驚きでさらに丸くさせた司令の頬がじわじわと赤く染まっていく。頬の横でゆらゆらとイヤリングが揺れていた。つい、触れてしまいたくなる――。
次の瞬間、わぁっとあたりを大きな歓声が包んだ。我に帰ったブラッドと司令が声のした方向に顔を向けると、どこから噂を聞きつけたのか、そこにはフェイスの自称ベスティでもあるビリーがいた。陽気な祝いの言葉とともにフラワーシャワーと合わせて鳩を飛ばしている。
「びっ……くりしたぁ」
「ビリーのマジックか……全く、騒々しい」
だが結婚式の演出としては悪くない。現に驚きで声を上げた新郎新婦役の二人は顔を見合わせると、楽しそうに笑い合っている。その姿につられるように周りからも拍手と歓声が巻き起こる。
「イベントは大成功、ですね。みんな本当に幸せそう……」
いいなぁ、と頬を桜色に染めた司令がどこかうっとりとしたため息をこぼす。
「……興味があるのか」
ブラッドの言葉にえ、と司令が小さく驚きの声をあげる。どうやら無意識だったようだ。
「えっと、はい……こうして素敵な式を見るとなおさら、憧れが強くなるというか。いつか自分がする時は、ってつい色々妄想しちゃいます……ガーデンパーティーみたいに親しい人達だけで気軽にしてもいいし、今回みたいに教会で盛大にやるのも素敵だなぁ。となるとウェディングドレスか……白無垢も着てみたいけどドレスも実物を見るとやっぱり綺麗だし……」
ぶつぶつと独りごちながら悩ましげに目を閉じる司令の姿に思わずブラッドの口元が緩む。
「……分かった。覚えておこう」
「へっ、」
「ほら、新郎新譜はすぐそこだ。準備はいいか」
「えっ、あっ、本当だ……!」
一瞬固まっていた司令はブラッドの言葉に弾かれるように顔をあげると、大事に包んでいた花びらをそっと指で掬い上げた。
今か今かと徐々に近づいてくる二人を緊張の面持ちで待ち構えるその姿に、ついブラッドは小さく声を上げて笑ってしまった。