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    SALVA.

    一次創作、低頻度稼働中。
    小説、メモ、その他二次創作など。
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    SALVA.

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    ルウェンの株上げのため書いてしまった。
    ルウェンってこんな子。いい子なのよ。
    少し鬱注意

    黒い涙眠れない。

    くそほど眠れない。

    深夜3時頃。目元に取り付いて離れない微妙な眠気に焦らされて苛立った私は、常夜灯をつけてベッドから起き上がった。
    外は暗い。昨日から雨が降っていたからか空は白く曇っているのがわかる。道路沿いに住んでいる私の家、及び家の裏側に1番近い私の部屋から窓の外を見れば、空き地を挟んで車通りの少ない大道路が見える。とはいえ夜中でも沢山救急車が通るから、気がむくと起きて無意味にも通過するのを眺めたりする。
    家の裏側に値するこの空き地は、私が生まれた時からずっと何も無いところで、定期的に知らないおばさんたちが草刈りをしている。稀に猫などが漁り歩いているのを見れるため、あまりに暇な時はこの小さな窓から空き地を眺めることが多い。空き地の左側にはレンガ造りの古いアパート、右側には小さな畑、大道路を挟んだお向いには私の母校の中学と靴屋さん、右方向に目をやれば夜中まで光り続ける中華料理ファミレスのネオン看板。
    私の部屋には二つの窓があって、ひとつがそれ。取っ手を下に捻ると前開きにできる1枚窓で、窓の手前側に横から引き出せる網戸付き。これは、この家を建てる時に母が私のためにサービスしてつけてくれた小窓なのだとか。アパートの電灯や道路についてる街灯が差し込んできて夜中は眩しいので、いつもは巻き込み式の光避けを下ろしてる。
    そしてもうひとつは、私のベッドに沿ってついている横開きの2枚窓。こっちにはカーテンもついているので、メインの窓と言えるかも。この窓から外を見ると先ず見えるのは殺風景な駐車場。この駐車場はこの家の玄関側の小さな道路を左に進んで右側にある病院のもの。夜中に野良猫が時々やってきて大喧嘩してたりする。

    てな感じで、これといって少しもいい景色とは言えない外をぼんやりと眺める。

    夜って、暗いことを考えやすいらしい。

    実の所色々あり、先月から仕事を休んでいるのだが。やりたかったことをやるのが許された今、楽しみの裏側にある今後のことや自分のことを考える度にその思考はどんどん重くなって、まともに家族と言葉を交わすことも、眠ることもままならなくなった。楽しいことをしていても暗いことが頭を過り、大好きなはずのものすら霞んで見えて、自分がどんどん分からなくなっていく。
    挙句被害妄想が激しくなり、自分を攻めたてることでしか平常心を保てなくなっていた。

    「生きたい?」

    脳裏にこだまする自分の声。
    何度も何度も私に問いかける。

    知らないよ。分からないよ。

    答えなんて導き出せないよ。
    私は私のことが分からないよ。

    そうしてまた思考が歪んで、自分を責めて、後で後悔するだけの上等なポエムだけが積み重なる。

    生きる理由のはずの、絵を描くことすら怖くなっていく。

    私は横になった。
    眠れるわけが無いけど、余計なことを考えて死にたくなるより、僅かにでもある眠りの本能に頼るしかない。
    きっと眠くなる。こうしていればきっと。

    あーあ。
    苦しまずに死ねたらなぁ。
    このまま眠って、ずっと目が覚めなかったらいいのになぁ。




    「ねないの?」

    ふと、背中側で声がした。
    寝返りをうって振り返ればそこに声の正体がある。

    久々に話してくれた、まともな言葉。

    横になっているのは、ルウェン・ワッテン。
    彼は私の大切な悪魔だ。

    悪魔の世界から追放され、優しさが裏目に出て狂ってしまった彼。
    普段はまともな会話もできず、意味の有無すら分からない奇行を繰り返すだけの、かわいそうな子。

    綺麗なはずの目も、こんなに真っ黒に濁ってしまって。

    それでも稀に正気を取り戻しては、私を助けてくれる。
    先を見ない私に語りかけてくれるのだ。


    「こわいの?」

    可愛らしい声。普段は唸声、奇声などしかあげないから、こうやって聞くと安心する。
    私は眠れなくて痛くなった頭を振って、「ううん、平気」と笑う。

    本当は全然平気じゃない。
    けどもう体が反射的にそう言いたくなっているから。

    ルウェンは光の無い目を大きく開いて私を見つめていた。
    無表情だけど、ちゃんと会話が出来ているだけまだマシだ。

    「はなせないの?」

    話せるよ。話せるけど話したくないの。
    話したら全部壊れてしまう気がしてるの。
    だから話したくても喉がつっかえるの。

    「いたいの?」

    痛いよ。とても痛いよ。
    怖くて、しんどくて、死にたくて痛いよ。
    でもルウェンだってしんどいだろうに、こんな弱音吐けないよ。

    私は、黙って微笑みルウェンを撫でる。
    ルウェンの漆黒の髪がさらりと指に触れ、その僅かな温もりを届けてくれる。

    ルウェンはじっとしていたが、突然起き上がって言った。

    「こわれちゃうよ」

    私は言葉の意味が理解できなくて「ん?」と返す。
    壊れる?何が?

    わたしが戸惑っていると、ルウェンは爪のとがった手で私の両頬を覆って、顔を近づける。
    隈と泣き跡が酷い彼の大きな目が近くなり、息を飲む。

    「なおそうね」

    ルウェンは切ない声でそう言った。

    「いたいの、なおそうね」

    そしてその額を私とくっ付けて、目を瞑る。

    瞬間、涙が溢れた。
    とめどなく溢れる涙に、私自身が驚く。
    堰を切ったように溢れ、止まらない涙が、ルウェンの膝に垂れてポタポタ、と軽い音を立てる。

    「あ、れ?」
    私が声を漏らす。泣いたことで分泌された鼻水が鼻に詰まって上手く声が出ない。

    でも、涙は止まらなくて、どんどん出てくる。

    泣いたのって、いつぶりだろう。
    最近何か辛いことがあっても泣けなかったから、とうとう心が枯れてしまったのかと思ってた。

    でも今、涙が出てる。怖いくらい溢れてくる。

    ルウェンはおでこをつけたまま言った。
    「だいじょうぶ、だいじょうぶ」

    その声が、耳ではなく脳に入ってくる。
    無機質だけど優しくて、穏やかな声。
    それが、余計に私の涙腺に響いてくる。

    頬を撫でられ、おでこを擦られ、涙がどんどん出る。

    常夜灯の淡い明かりの中で、私の目からこぼれる涙が、どんどん下に垂れていく。

    それを見て驚いた。

    私の涙は、真っ黒だった。

    幻覚じゃない。全く透明なんてものじゃなくて、まるで血みたいに濃い色で、ルウェンの白い膝を汚している。

    なにこれ。なにこれ。うそ、なにこれ。

    恐怖で震え出す。
    私の体、おかしくなってるのだろうか。
    涙が黒いなんて、まるでアニメじゃないか。
    私、どうして。

    「黒い涙はね、体に悪いの」

    ルウェンが口を開いた。
    え、と返事をすると、ルウェンはまた目を開いて言う。

    「涙が黒いのは、その人が辛い証なの
    黒い色は、その辛さとか、苦しさなの」

    ルウェンの首元にあるタトゥーが、淡く光っている。
    ビビットピンクの鋭いはずの発色が、心地いいほどに私の目を癒している。

    「僕ね、辛いのを取り除けるの。

    痛いのを、こうやって外に出してあげるの。」

    そこで私は理解した。
    これは、ルウェンの能力なのだと。

    恐らく、人が心に貯めているストレスや負の感情を、涙に混ぜて外に出させ、安心させることができる能力なのだろう。
    以前そんな感じの能力であることを、テライに言われた気がする。


    普段から正気を保っていないルウェンは、狂う前、その羽を天使のために犠牲にし、悪魔から蔑まれたという。
    悪魔の能力は、羽がないと発動しない。
    実はその固定概念は少し違う。

    堕凶魔になっても、能力は使えるのだ。

    ただし。
    堕凶魔が能力を使うことは、寿命を縮めることに値する。

    羽があれば、能力により消費した精力を回復させることができる。だから羽さえあれば永遠に能力を使うことが出来るのだ。

    それが、羽が無くなると、ギルガムに規定量蓄積された精力だけが残り、それだけが体を循環する。
    つまり。
    能力を使って精力を消費すると、体を保っている精力がどんどん減っていくというわけだ。
    羽がないので、精力の回復はできない。
    彼らは命をけずって能力を使っているということになる。

    私は止まらない涙を他所にルウェンに言った。

    「やめて、やめて。ルウェン死んじゃう」

    しかしルウェンは心做しか少しだけ口角を上げて答えた。

    「だいじょうぶ、これくらいだいじょうぶ」

    体に貯められている精力は、そんなに少ないものでは無い。
    何事もなければちゃんも生きていける程の量なわけだ。仮に何かがあっても、直ぐに死ぬようなことは無いのだから。

    それでも怖かった。
    今この瞬間に、ルウェンが自分の命を削っているのが。

    「いやだ、やだよ、やめてよ」

    私は涙を流したまま言った。
    この涙の中には、ルウェンによって出されたものでは無い、本物も混じっている気がする。

    ルウェン。
    私はルウェンが早く死ぬのは嫌だよ。
    少しでも長く生きてよ。
    ただでさえ、あなたは生きていくのが大変なんだから。
    こんなことのために命使わないでよ。

    「ぼくね」

    ルウェンは変わらぬ口調で答えた。

    「辛い気持ちが分かるの」

    私が固まっていると、ルウェンは自分の片目にかかっている札を持ち上げて言った。

    その札の裏側にあったのは、濁っていない、ルウェンの本当の目。
    紫とピンクが混ざりあった、とぐろを巻いたような目。
    それがとても綺麗で、思わずぼうっと見てしまう。

    「僕も辛かったから分かるの。

    そして、それって、おかしくなるの。

    何も考えられなくて、笑うことしか出来なくなるの。

    闇雲に暴れることしかできなくなるんだよ。」


    ぼくみたいに、と付け足す。


    こういう言葉を聞くと、ルウェンの惨めさが痛々しく伝わってくる。
    ルウェンだって、自分が狂ってることに気づいているのだ。
    だから正気でいられる時間は彼にとって貴重で、自分のために費やしたい時間だろうに、その時間すら、こうやって人間を助けるために割いてくれる。
    どこまでも、本当に優しくて。

    もはや、愚かだね。

    「きみはそうならないでね」
    ルウェンは、額を外した。
    黒かった涙は、いつの間にか透明に変わっていて、なおも溢れてくる。
    これは、私自身の涙なのだろうか。
    私が今、流したいと思って流している涙なのだろうか。


    「やくそく、やくそくだよ」

    ルウェンが小さな体で私を抱きしめた。
    お腹に回された細い腕の温かさが伝わってくる。
    涙がルウェンの頭に垂れて、その綺麗な髪を濡らす。

    ルウェン。
    ありがとうルウェン。
    ごめんねルウェン。

    心配かけてごめんね。迷惑かけてごめんね。
    泣くきっかけをくれて、ありがとうね。

    私はルウェンを抱き締め返して、嗚咽を上げて泣いた。


    その様子を、窓の外、アパートの屋上から見る影があった。

    「…………きも」

    月の光より目立つ色をした髪を風に泳がせて、あぐらをかいて肘をつき、つまらなそうに見ている。

    「仲良しごっこも大概にせえやってかんじだな…
    どうせ死ぬ命なんだから、つまんねえ理論でわざわざ生き延びようとしたって全部無駄なんだよなぁ。
    結局、今死のうが後で死のうが変わらねえんだよなぁ。」

    そんな言葉を綺麗な声で囁き、蜂の巣を齧る。
    糸を引いた蜂蜜を舐めると、にや、と怪しげに笑う。

    「ま、あんなガキ堕凶魔1人じゃあ、その馬鹿相手じゃ長くは守りきれねえだろうけどな。死にたがりだし?

    んあー。だる。
    掛け持ちする前に順序決めときゃ良かったわ…
    俺が寿命定める前に自分から早く死んでくれりゃあいいけど。」

    「それは、多分ないと思うぜぇ…………」

    蜂の巣を咀嚼する口を止め、目を見開く。
    恐る恐る、自分ではない声がした背後に目をやる。

    風に揺れている銀色の髪が月明かりに反射している。
    長い前髪の隙間から除く鋭い赤色に捉えられ、トワイラは動けなくなる。

    柔らかい中に確かに重みのある声で、そいつは言う。

    「なんせあの子にゃ…
    俺含む…多くの悪魔が取り巻いているのでなァ…」

    トワイラは残っていた蜂の巣を手早く投げ捨て立ち上がる。
    そして一言残して足早にその場を去る。

    「……………クソ悪魔」

    「またなァ」
    いつもならお持ち帰り騒動だが、今日はブバダはヒラヒラと手を振って、しっぽを巻いて逃げたトワイラを見送る。

    雲が流れて、少しずつ夜空が見えてきた。
    それを見上げてブバダは背伸びをし、頬を赤らめて言う。

    「…はぁ………やっぱり、人間はかぁええなァ………………
    この世界は、やっぱり良いなァ…………………」

    そうして、リン、と鈴を鳴らして姿を消した。





    結局その後爆睡出来て、起きたのはお昼すぎだった。
    完全に元に戻ってしまったルウェンは、起きて早々私の着ていたパジャマを舐ってびっしょりにしてくれた。
    呆れつつ着替えて、ルウェンをおんぶしてリビングへ行く。
    「…よし、今日も絵を描きますかね」

    そう言ってスマホを見る私を、肩に顎を乗せたルウェンはじっと見つめていた。

    そして微かに、笑った気がした。
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