研修「わぁぁ…わぁぁぁぁ…」
「渝、前見て歩いて」
今僕らが何をしているか。
地球に降りて間も無い今。
憑依型としての研修期間の今。
支給された地図と現金を手に、僕らは都会の街を歩いていた。
僕らの研修期間のノルマは3つ。
合計5つ以上の物に憑依すること。
一つに6ヶ月は憑依すること。
憑依した物の調べを深め、調査書を作成すること。
降りてきて早々僕は地面に釘みたいに突き刺さって、ズボンがボロボロだ。
僕は你任谷霞。またの名をティフ・アイディトゥーレ。
17歳、憑依型専攻中の雄悪魔です。
諸々の準備を済ませ、ようやく整ったので地球に降りてきました。
事前に色々と調べたので生活については問題ないが、不安なのは憑依について。
実践は前にもやったけど、その時は食べ物だったから。
食べ物への憑依はとっても簡単だからいいけど、ここでは物や目に見えない何かに憑依することに慣れる必要がある。
こんなに物で溢れてる地球で、自分に合った物を探すってのが結構難しそうだ。
「霞くん霞くん!あれって何かな?」
「ん?…あぁ、お菓子屋さんじゃない?」
そしてそんなの僕の隣で はしゃぎ倒してるこいつ。
柘果寺渝。またの名をネイ・バトサイカン。
獄校で出会ってからほぼ毎日一緒に行動している。
優しくて純粋で、まるで女みたいなやつ。
自分に自信がなくて、いつも僕を褒めてくれる。
僕的には、彼の方が才能あると思ってたりする。
…褒めてもらうことは嬉しいからいいけど。
もちろん研修も一緒にやろうってことで、こうして2匹で街を歩いてる。
まずは、食べ物に憑依する所から始めよう。
「お菓子…!お菓子かぁ…」
渝が僕の隣で目を輝かせてる。
習っていたとはいえ、生で見るのは初めてのものばかり。
楽しいのは僕も同じだ。
「ねえ、覗きにいかない?」
ふと、手を握られる。
渝はさぞ嬉しそうに僕を見つめている。
「お菓子屋さん?」
「うん!」
…食べたいだけなのでは。
とも思いつつ、僕は答えた。
「まだ道続いてるから、突き当たりまで行ってみよう」
この辺はお店が多い。
1度全部見てから考えた方がいいと思う。
「!…そうだね…!」
渝が苦笑いする。
そう、こういう所が無邪気で面白い。
ふと、
「お兄さん!そこのかっこいいお兄さん!」
大きめの女性の声。
僕は驚いて思わず足を止める。
少し僕の後ろを歩いていた渝が、「わ」と声を漏らして僕にぶつかる。
「あら!良かったらお姉さんも一緒にどうぞ!」
「…霞くん、あの綺麗な人、僕らに言ってるのかな?」
僕は、その女性と目が合っている。
僕に言っているのかもしれない。
…僕らが、見えているのだろうか。
僕ら悪魔は、余程霊感が強くないと人には見えない。
とすれば、この人はすごく霊感が強いのかも…
…ん?まて。
今、お姉さんも一緒に、って言った?
「僕、ですか?」
僕が自分を指さして返事をすると、女性は頷いた。
「そ!いいねぇ、超美形カップルじゃん!」
僕はぽかんとした。
2、3秒考える。
そして振り向く。
「霞くん?」
目をぱちぱちさせて僕を見る渝。
…まさか。
「いやっ、あの、彼はおs…男です」
その女性に、渝を指さして教える。
やっぱり。
地獄でも彼はよく雌と間違えられてしまうから。
しかし地球でも同じだとは…
「えぇ〜〜!?ごっ、ごぉめん!
あまりに可愛いから女の子かと思っちゃった!」
女性が大声でそう言って謝罪した。
渝はニコッと笑って言った。
「あぁいえ!実はよく間違えられるんです…気にしないでください」
その渝を見て女性は言う。
「やだ!声もちょー可愛い!てか肌綺麗!背たっか!」
女性が駆け寄り、渝を舐めまわすように見る。
動けないでぽかんとしてた渝は、笑って言った。
「え!?あっ、ありがとうございます…!
えへへ…そう言って貰えるととっても嬉しい…!」
「てかめっちゃ綺麗な髪!真っ黒!」
「えっ、あぁこれは…」
ちら、と僕を見る渝。
憑依型を専攻するやつは、見た目を黒くするために薬を飲んでいる。
これを、人にどう説明しよう。
「髪だったら、僕より霞くんの髪の方がすごく綺麗ですよ!」
渝がいつものように僕を立てた。
そして僕の後ろに少し寄る。
…少し、怖かったのかな。
すると女は僕を見て
「ホントじゃん!カスミ?さんもめっちゃ綺麗!」
女が僕のことを褒めてきた。
「えっ、てっぺんのやつ可愛い!固めてんの?」
「あっ、えっと…これは」
僕も困惑して渝を見る。
渝は嬉しそうに笑ってるだけ。
「まあ、そ、そんなところです…」
「へぇ〜〜ビジュアル系だねぇ!最高!」
女がそう言って、突然チラシを広げてきた。
「実はうちモデルを探してまして!」
…15分くらい捕まった。
悪魔は、こういう職業勧誘は絶対に断らなきゃいけない決まり。
何度断っても粘ってきて、さすがに僕も困った。
渝なんかは、勢いのある女性にびっくりして少し怯えてたし。
ようやく解放されて、僕らは歩き出した。
「すっ…凄かったね…あの人…」
渝が僕に寄りかかってそう言う。
「うん…この辺あぁいうの多いみたいだから…気をつけよ」
ふと、僕は思い出す。
「あっ、さっきのお菓子屋さん戻ってみよっか」
渝は疲れてた顔を一気に晴れさせて笑う。
「やったー!行こう行こう!」
そして渝が走り出す。
「あっ渝、そんなに急がなくても大丈…」
「わぁっ!!」
やっぱり。
5mくらい先で渝が盛大にコケた。
そう、彼は昔からドジっ子なので、大抵こういう時転ぶから。
ため息をついて、僕は彼に駆け寄る。
「大丈夫ですか、「ドジる」くん」
ポンポン、と背中を叩き揶揄うと、渝はゆっくり起きて、お姫様座りで座り込んだ。
「いったた…転んじゃった…」
髪をあげていたおでこが擦りむいている。
しかし、鮮血が垂れる前にスっと傷は塞がった。
「角とか歯とか折れてない?」
「うん!大丈夫!ごめんね…早とちりしちゃって」
苦笑いする渝の顔に、僅かに砂埃がついている。
僕は笑ってそれを払ってやり、彼の手を取る。
「ほら、行こう」
渝は立ち上がって頷く。
「うん!」
そして僕らはお菓子屋さんまで、手を繋いで歩いた。
そこで僕は、運命的なお菓子と出会うことになるのだが
それはまた別の機会に。