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    黒崎/grifith

    @grifith43057110
    雑多にFF14のうちの子小説置いてます。

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    黒崎/grifith

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    本日はアクセルさん(@Axel_L_ff14)のお誕生日との事で、ささやかながら小話をお送りいたしました。掲載許可をいただきましたので、公開させていただきます。ありがとうございます!良き一年でありますよう(*'▽'*)

    未知の先【○月X日 極ソフィア T1D2急募 遠近問わず】
    【△月○日 アレキ律動2層 全ロール 詰めパ ロットフリー】
    リンクシェルに定期的に流れてくる募集要項を見ながらザックはため息をついた。ソフィアは急募なので声をかけるとして、アレキは日程が少し遠い…ロットフリーなのはありがたいが…次に会う時までに間に合うのか…そんな事を考えながら、主催へ連絡を取る。ザックも多分に漏れずいくつかの固定に所属しているが、ここは自分が主力としているガイのリンクシェルでは無い。もっと規模が大きくメンバーは好きに募集を立てその中でパーティを組んでいく方式を取っている。基本的に出入りは自由で常時50名程度が在籍し、自分の目的の為に加入している者が多い印象だった。ルールは一つ。1ヶ月に5度リンクシェル内のパーティに参加する事。そのチェックは厳しく、無駄に在籍している者は容赦なく除名される。パーティリーダーは参加者名簿をマスターに提出する義務があり、それを元にマスターは在籍者を適宜除名、承認する仕組みになっていた。ちなみに会った事はない。軽く調べたが、どうも戦闘に関しては興味がない様でギャザラーやクラフターが専門の様だった。稀にマスターからのPT募集が立つが、報酬付きの素材集めと言った所だ。当然本人は参加しない。多分そのための大規模リンクシェルなのだろう。程のいい傭兵だが、悪い気はしないし、それなりに戦闘スキルが高い者が所属しているだけあって、クリアできない事が殆どないので、重宝している。今月の参加ノルマは終わっているが、同業のアウラ族の男と取り引きした手前どこかで素材を取ってくる必要があった。アクセルと名乗った彼とは、良くある同業同士の気遣いの域を出ないと思っていた予想を良い意味で裏切り、例の一件の翌日には再開する事になった。隊舎や石の家でも見かければ目が合い、ついに先日、呪術ギルドの仕事まで持ってきた。面倒だと放置していたそれらの量は膨れに膨らんで、目を通す気にもならなかった。が、アクセルからの提案である程度肩代わりしてもらえることになった。ありがたい。ありがたいんだが…
    「素材と楽譜って…何持って行きゃ良いんだ…」
    楽譜はまぁいい。そりゃわかる。だが素材となると物によっては渡せない物もある。そもそも何が必要なのかもわからない。
    深いため息を吐いて再度募集へ目を通す。ガイの固定でも良かったが募集数だけなら圧倒的にこちらが多い。そりゃぁもう、比べ物にならない。毎日、一つ二つは何かやっているのだ。
    『これから極ソフィア5周します。ロットフリーD4H2空き』
    不意にリンクシェルに流れた募集要項にすかさず手を挙げる。他にも何人か希望者がいたが滑り込めたらしい。よかった。とにかく何かに行かなくては。
    「D4希望だ」
    『お名前を』
    「アイザック。アイザック・ボンネル」
    『お誘いしますね。よろしくお願いしますー』
    程なくして誘われたパーティに加入して挨拶を済ませる。パーティリストを見て…見間違えか?いや、この名前とジョブは…もう一度見て…嫌な予感がする。
    『バリアヒーラーさん、参加出来る方いませんか?』
    「リーダー、わたくし一人心当たりがありますわ。声をかけてきてもよろしくて?」
    「ああー!チチリさん!助かります!お願いしますー!」
    なんで、ここに入ったんだ俺は…こんなに一瞬で後悔するのは久しぶりだ。しかもヒラってまさか。
    「捕まりましたわ。権限をお貸しいただけます?」
    まさか。
    程なくしてパーティリストに名を連ねたそいつは予想通りで。
    「よろしく」
    短く挨拶したバリアヒーラーに頭を抱えるしかなかった。



    「今日はちゃんとやれよ?」
    「当たり前だ。あんなの二度とやらねーわ」
    模擬戦の会場で顔を合わせたヴィルに開口一番、苦言をもらった。今はそれぞれ別の場所---例えばパーティメンバーがウルダハ、イシュガルド、モードゥナなど離れた場所---に居ても模擬戦が行われるアジス・ラーの戦闘フィールドにテレポの要領で集合できるようになった。あの騒がしかったワインポートやフォーウコルドも今では閑散として、かつての賑わいは遠い昔の様に感じる、と、シャマニ・ローマニが言っていた事を思い出す。まあ、それはいい。ただの昔話だ。
    腰に手を当て呆れながら言い返すと見慣れたララフェルが近寄ってきた。カーバンクルを従え、げんなりした様子で自分を見上げる。
    「貴方だったんでしたの…ヒーラーを探すのに夢中で気がつきませんでしたわ。今日は、…ちゃんとキャスター用のアクセサリですわね?」
    お前もか…
    「もう、そのくだりはいいわ…」
    「ふふふっ。それにしても珍しいですわね。まだ参加数が足りないんですの?」
    「いんや?足りてる。ちょっと野望用でな」
    「参加数ってなんだ?」
    「今日は本来とあるリンクシェルの内部募集なんですの。ここに在籍している方は月に5回、なんらかに参加しなければならないんですの。ヴィル様は申し訳ありませんが今回はゲストですわね。で、貴方の目的はなんなのですの?まさか、素材?」
    「……なんだっていいだろうが…って、お前もこのリンクシェルにいるのかよ」
    「わたくし随分前に抜けましたわ。主催の方が知り合いですの。今日はお手伝いですわ」
    なるほど。顔の広いことで。どこか釈然としない顔をしたままのヴィルが確認したいと前置きしてチチリに尋ねた。
    「ロットはフリーで良かったよな?」
    「ええ。好きにして構いませんわ。出ればですけれど」
    「それが一番問題だわな」
    「ですわねぇ。」
    ガイの固定でもなんでもそうだが、目的の物が出ない事には話にならない。ロット以前の問題だ。飽きるほど周回してもお目にかかれないこともある。それでもロウェナ商会がレアアイテムについては救済措置を設けているのだが、それはそれで条件が過酷だ。なんせクリアした証を99個持ってこいと言うのだ。タチが悪い。以前アクセルとの別れ際にそんな様なことを言われた気もするが、一旦忘れる事にしよう。あまり想像したくない。99回だぞ?流石に遠慮したい。
    とにかく飽きる。間違いない。
    「そろそろカウントします。準備はいいですかー?」
    主催の声かけに各々同意して獲物を構える。巴術師士である二人は魔導所を構え、俺は背負った杖を取り出した。カウントダウンが始まり気が昂る。この瞬間が好きだ。初段を合わせ皆が一斉に持てる力を解放するこの瞬間が。狙った獲物に牙を剥く前の高揚感が堪らない。
    長い詠唱の最初の言葉を杖に乗せる。先端の宝具が呼応し次第に魔力を帯びて淡く灯り、放たれる瞬間を待ちわびていた。


    クイックサンド脇の噴水で階段に座り頬杖をつきながら往来を眺め深くため息を吐いた。傍には数枚の羊皮紙と宝玉、鈍く蒼に輝く鉄板が置かれ、一見したらただのゴミの様にも見える。包装もされず乱雑に置かれたそれらは、本来もっと丁寧に扱われるべき品々だが、どう扱えばいいのか分からず、全て剥き出しのままだった。ある程度の量が集まり始めてから、石の家、グリダニア、イシュガルド、ウルダハと心当たりがありそうな場所を転々としているのだが、肝心の渡す相手に出会えていない。そうこうしているうちに、段々と量が増えてきて、「そろそろ渡さないと本気でヤバい」と思い始め、今日は朝から人探しに奔走していた。仕事の話もした間柄なのになぜ連絡先を交換しなかったのか。自分の迂闊さを笑ってやりたい。そもそもギルドの仕事を持ってきた時に聞けばよかったんだ。何で聞きそびれたのか…
    「アホなのか、俺は。いや、アイツも何か言えばいいのに」
    先にたらい回しに会ったんだから、二度も同じ目には遭いたくなかろうに…いや、依頼を受けた時点で聞かなかった俺も悪いか、と。何度目かのため息を吐いて空を見上げる。雨は降りそうにないが、まばらに浮かんだ雲が大地を目指す太陽を時折隠して、石畳に影を落としている。傍に拡げられた素材と楽譜を適当にまとめて、怠そうに立ち上がる。
    「この手は使いたくなかったが…まぁ、仕方ねぇか」
    そう呟くと慣れた詠唱を始める。ばったりギルド辺りで出逢えればよかったんだが、背に腹は変えられない。溜め込むのも限界があるし、何より頼んだ仕事の状況も聞かなきゃならない。さっき立ち寄った呪術ギルドでは肩代わりしてもらっている事がバレたら不味いだろうと思って何も聞けなかったのだ。
    詠唱が終わり体が一度エーテル体に分解される。再構築され、目を開ければ霧がかったモードゥナの街並みが目に飛び込んでくる。顔役のスラフボーンに軽く視線を投げて会釈し、セブンズヘブンのドアを開ける。その奥が石の家だ。竪琴を手にした吟遊詩人の脇を通り過ぎて中へ入り、左手のカウンターで忙しそうに書類と格闘するララフェルに声をかけた。
    「タタルさん。ちょっと聞きたいことがあるんですが?」
    「ちょっと、お待ちくださいでっす。……はい。なんでっすか?」
    ひと段落つけてくれたのか、書類から視線を上げてこちらを見る。おや?と首を傾げ何かを考え込んでいたが、思い出したのか、にこりと笑って椅子から降りる。
    「アイザックさん、でっすね?アクセルさんは明後日には戻られる予定でっす。…ええと、
    【早く会いたいと思ってるだろうけど、もうちょっと待ってね。その間に素材と楽譜、増やしてくれると嬉しいな〜】
    ………だ、そうでっす」
    一仕事終えた、と満足そうな受付嬢をついうっかり睨んでしまう。
    「あの野郎…」
    「わ、私に言われても困りまっす…」
    「ああ、わりぃ…」
    乱暴に頭を掻きながら吐いた悪態にタタルは困惑した様だが、礼を言うとほっとしてまた書類と向き合う。
    さてどうしたものか…明後日ならモードゥナで待っているのも手だ。何処かに行って機会を逃すのは勿体ない。
    「そういえば、アイザックさん。ご存知でっすか?」
    思案している最中、タタルに不意に声をかけられ視線を投げる。どこか嬉しそうな彼女の言葉と教えられた情報に相槌を打って、なるほど、と。
    「待ってた方が良さそうだな?」
    「はい!それがいいと思いまっす!」
    両手を広げ満面の笑みを溢した彼女に笑いかける。
    たまにはこんな日があってもいい。


    「おい、何で石の家に寄らねーんだよ…」
    挨拶もなしに目的の人物に声を掛ける。見間違うはずがない。側頭部から前に伸びる角と黒紫に赤いメッシュの入った髪。そいつは首だけで振り返り、俺を見るなり大袈裟に驚いて手にしたカップを落としそうになっていた。
    「あわわわ、…ザック君!?なんで!?」
    「いたら悪いかよ…」
    タタルに伝言を頼んだ癖に、もしかして伝言が届くと思ってなかったのか?
    ロウェナ記念館の二階テラスは人も疎らで二人を気にする様な者はいなかったが、ちらちらと人目を気にした様子のアクセルが面白くて、ふっ、と口元が緩む。椅子に腰掛けたままの彼の隣に立ちテーブルの上に羊皮紙を三枚、宝玉、鉄板を並べて「これなら大丈夫か?」と問うと角が外れるんじゃ無いかと思うほど首を縦に振って目を輝かせた。
    「こんなに…?いいの?」
    「増やせ、って言ってなかったか?まぁ、俺には使い道がねぇからな。欲しい奴の手元にあった方がいいだろ。」
    「うわー…すごぉい…あ、これ…珍しいね」
    「うん?ああ、それか…たまたま募集があったからな。最近じゃ見かけねぇが」
    言いながら一つ取り出したのは涙型の宝玉だった。冴え冴えとした蒼い輝きを放つそれを手の中で弄ぶ。
    「シヴァの涙、だよね」
    「ああ、モノ自体は大分出回ってるから、大した価値はないと思うけど」
    「そう?俺はちょっと嬉しいかな。これ」
    言葉の割には嬉しそうでは無い様子に見えた。少し目を伏せて何かを考えてる。どうしたのかと問うても良かったがいつもと違う表情に躊躇いが生まれた。
    …話を変えよう。
    「…所でよ。」
    「うん?何?あ!ギルドの報告なら済んでるよ?」
    わかってるんなら早く言ってくれ。
    「…そりゃどうも…平気だったか?」
    「全然大丈夫。ザック君は報告した?」
    「いや、まだ…」
    「早くしなよね…」
    上目遣いで不満そうな顔をしたアクセルに、どうすればいいかわからなかったんだよ…と心の中で言い返しておく。連絡もできなかったし…ってそうだ。
    それよりも連絡先を、と声をかけようとした時、後ろから聞き慣れた声がした。まさか、
    「あら…珍しい場所に珍しい人がいますわね」
    反射的にそちらを振り返れば黒髪に真っ赤なメッシュの入ったララフェルと目が合った。マジか。なんでお前がいる。
    「何しにきたんだよ…」
    「休憩しに来ただけですわ…ごきげんよう。お邪魔致しますわ」
    裾を持ち上げる仕草で丁寧に挨拶したチチリに対し、アクセルは椅子から立ち上がり、跪いてチチリに手を差し出した。それは目を見張るほどの美しい所作で。優しげな微笑みでチチリを真っ直ぐに見据える。
    「あらあら、まぁまぁ…ご丁寧に…ありがとうございますわ」
    驚く事なく差し出された手にチチリは自分の小さな手を置いて、挨拶を受ける。
    自ら名乗った彼に倣いチチリも丁寧に返した光景に、なんの茶番を見させられているのかと密かに思った。
    どっちも普段と違いすぎて複雑だ。
    「ザック…貴方こんな素晴らしいお友達をお持ちだったんですのね」
    「…は?ダチ…?」
    目を輝かせてそう言ったチチリに怪訝な顔で返すと、横からすぐに「ひどい!」と。顔を両手で覆い、さめざめと泣くアクセルと俺をチチリは交互に見て…俺に目線を固定する。悪いのは俺かよ…。
    「お友達だと思ってたのは俺だけだったなんて…ひどいよザック君!」
    「ザック…貴方って人は…」
    「ちょ…そうじゃねぇ!ああ、もう…って、お前も笑ってんじゃねぇよ!」
    泣いてるのかと思えば単に肩を震わせて笑いを堪えているだけだった。心底嫌そうな顔を投げると逆に嬉しそうなんだが?花が飛んでる様に見える…なんなんだ…
    「わかってるよ、ザック君!照れ隠しだよね!?」
    「んな訳ねぇだろが!第一、連絡先も知らねぇのに」
    「あ、そうだった」
    急に真顔に戻って、すっと端末を取り出す。突然始まった交換会にチチリも自分の端末を出してちゃっかり混ざっていた。お前な…
    端末に相手の名前が現れたのを確認し満足げなアクセルが「これでちゃんとお友達だねー!」と嬉しそうにしている。チチリも一見真顔に見えるが何度もリストを確認している所を見ると、内心は嬉しいんじゃないかと察した。
    「仕事仲間じゃ無いのか…」
    「えっ、酷くない?あ、いや、仲間だからもっと踏み込んでるね!よかったぁ」
    「いや、そうじゃなくて…」
    「ん?なあに?」
    「……もういいわ…」
    何を言っても解釈違いが起きそうな気がする。何よりも嬉しそうだし。呆れてはいるが、こういう所が憎めない。苦笑しているとチチリも口元に手を当てふふ、と楽しそうに微笑んだ。
    「貴方達、面白いですわね…あら?…これは…?」
    テーブルの上に置かれた品々を一瞥して不思議そうな表情だったが、それも一瞬の事。すぐにニヤリと悪い顔になり俺を見上げてくる。
    「…なるほど、そう言う事だったんですの…言ってくださればよろしいのに」
    「何の事かさっぱりわからねぇな」
    「口の利き方が相変わらずわかってませんわね……アクセルさん、ご存知です?この子ったら…むぐっ!」
    「おまっ…!ヤメロっつの!」
    咄嗟にしゃがみ込んで口を塞ぐ。ああ、このまま投げ飛ばせたらいいのに…さぞかしよく飛ぶだろ。うん。
    口元に人差し指を当て首を傾げたアクセルに「何でもねぇ」と言ったのに、大体わかった、みたいな顔をしてた。ちくしょう…なんか恥ずかしいんだが。
    「ザック君、鼻まで押さえたらチチリさん窒息しちゃうよ?」
    「はっ!」
    ぱっと手を離すと間髪入れずに蹴りが飛んできた。かなり本気のヤツだ。痛てぇ。脛を押さえて唸ると肩で息をしたチチリが吐き捨てた。
    「こんなのに殺されたら末代までの恥ですわ!」
    どう言う事だよ…
    「ふふふ、面白いなぁ。」
    「そうかよ…」
    呆れる俺にアクセルは目を細めて笑う。ふぅと鼻を鳴らすと満足したのか俺を一瞥してアクセルに向き直る。
    「お騒がせして申し訳ありませんわ。ごめんなさい、わたくしそろそろ行きますわ。」
    「おう」
    「休憩しに来たのにごめんね、チチリさん」
    「いいえ、有意義な時間が過ごせましたわ。アクセルさん、ザックをよろしくお願いしますわね」
    「もちろん」
    「おい、まて。なんでよろしくされなきゃなんねぇんだ…」
    胸に手を当て恭しく頭を下げ合う二人に突っ込みを入れる。俺と無関係の所で話が進んでいる。どうしてこうなった…
    軽い足取りで去っていくチチリを見送っているとアクセルが「いいの?」と言わんばかりに俺を覗き込んでくる。
    「あ?別に年がら年中一緒にいる訳じゃねぇわ。今日は固定が無かった筈だし」
    「ヴィルさんともこんな感じなの?」
    「アイツも…似たようなもんだな。所属が違う分道端ですれ違う事もないしな」
    「黒渦団だったっけ?学者さんならそうなるかぁ」
    「いや、……ああ、お前と会った時にはもう学者だったか。ヴィルは元々ナイトだったんだよ」
    「そうなの!?あの顔で?ナイト!」
    「お前の基準は常に顔なのか…」
    俺の事もやたら気にするしな、と苦笑すると驚いた表情を元に戻して恥ずかしそうに体を揺らす。
    「そういう訳じゃないんだけど…つい…ね…」
    言いながら、ほぅ、と別の事を考えている様なため息をつくアクセルに自分の勘が告げる。さっきといい、そう言えばギルドの仕事を持ってきた時もちらりとこんな表情を見た気がする。
    「気になってるヤツがナイトなのか?」
    「!?」
    「図星かよ…」
    「…うう、そんな事言わないでよぉ。」
    しおしおと肩を落として小さくなっていく姿は何度か見ているが、いつもとは少し違う感じがする。本当に困っている、と言うか戸惑っていると言うか…視線がそこらを彷徨っている。
    しまったな…揶揄っていい話じゃ無かった。
    懐から小さな布袋を取り出してテーブルに置く。アクセル、とわざと名を呼びこちらに意識を向けさせた。
    「悪かったよ。これは詫びっつーか…まあ、戦利品のおまけみたいなもんだ。大したもんじゃないけどな」
    ふらりと近づいて、開けていい?と断りを入れてくる。こういう所は律儀だよな。頷いてやると布袋の紐を緩める。
    「わ…これ、久しぶりに見た…なんで?」
    「子供っぽいかもしれねぇが、それで勘弁してくれ。誕生日なんだろ?」
    はっとしてこちらを見る。目が合って、俺が頷くともう一度布袋の中を覗き込み、中を一つ取り出して持ち上げ光に透かす。パープルドロップ。宝玉の様に見えるがそれはただの飴玉で。紫を選んだのは単純にアクセルがよく身につけている色だったからだ。
    「よく、知ってたね。俺忘れてたよ…」
    「タタルさんから聞いただけだけどな。…祝ってもらえるといいな、そいつにも」
    「…うん」
    素直にそう言うと口の中に放り込む。あまい、と呟いて微笑んだ。
    「ふふ…ありがとう、ザック君」
    「どういたしまして。っと、俺もそろそろ行くわ」
    「そうなの?残念」
    ゆっくりとした穏やかないつもの口調に胸を撫で下ろしたアクセルに俺もいつもの調子で返す。
    「お前の誕生日を祝いたいヤツはいっぱいいそうだしな。報告もしねぇと」
    「そっかぁ…またギルドの仕事持っていくね」
    「…それはいらねーわ…」
    「ダメだよぉ。ギルドマスターも言ってたし」
    「…ほどほどに頼むわ…それじゃぁ、な」
    踵を返した俺にひらひらと手を振るアクセルが視界の端に映る。祝ってもらえるんなら素直に受け取っておけばいい。生まれた日が分かっている事は、それだけでいい事の様な気がしている。年齢も生まれも正確には知らない自分にとって他人を祝えるのは中々に嬉しいものだと知っている。
    階段を降りる足を止めて来た道を見上げる。上手くいくといいな、と彼に向かって呟いた。
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