Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    nekota

    @nekotaneaka

    @matatabigoya

    雑書きなどはこちらにあがります
    R18に関してはフォロワー限定とか期間限定にします

    基本的にseed(ムウマリュ)のらくがきばかりです

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 109

    nekota

    ☆quiet follow

    ちょうど、某作品を見ていて、昔書いたネオマリュものが途中だったのと発掘
    実は『もう一度恋をしよう』の別角度からのお話なんですけどね、これ
    途中です(笑)
    ここからあと色々あるんだけど

    刹那の記憶 なぜ……逆らえない

     なぜ……引き寄せられる

     戸惑いさえも感じない程に、ただ必然的に求めあうように重ねた唇……

     其の感触も
     腕の力も、温もりも

     何処かで記憶している残像の欠片……

     ――――私はこの男を知っている……?
     ――――俺はこの女を知っている……?

     どちらともなく引き寄せた腕と、唇

     僅かな恥じらいだけを吐息で散らして、男は女の身体をベッドに横たえた。

     男の名はネオ・ロアノーク
     女の名は…………



     遡る事12時間前

     地中海深くに隠れ潜んでいたアークエンジェルは、交代で地上偵察要員を送り出していた。
     偵察任務といっても、むしろ潜水を続けるクルーのストレス解消も含めた外気との接触が主な目的だったのだが、迫り来る開戦の兆し、ザフト、連合、そしてオーブの情勢を探る為には、少しでも外の情報を収集しておく事が大事だった。

     艦長であるマリュー・ラミアスが艦を離れる事は許される事でなかったし、本人も外出をする事を望んではいなかったのだが
     バルトフェルドもキラも彼女が休みなく海底にとどまっている事は精神衛生上好ましくないと、外へ出る事を勧めた。
    「でも……」
     艦長としての責任感の強い彼女が直ぐさま納得する筈もなく、「大丈夫だからここに残るわ」と微笑むものの
     その視線に無理が帯びている事を見抜けない程、バルトフェルドも男としてまた指揮官としても有能だった。
    「そんな風に笑うキミを見てるのも心苦しいんでね。ちょっと生き抜してきてくれるとありがたいんだけど。たまにはコーヒー以外も飲みたいだろう」
     肩をあげて戯ける頼れる男に、マリューはちょっとだけ申し訳なさそうな笑顔を零す。
    「そうね。では少しの間だけ、おねがいします」
     渋々って感じも残しつつ深々と頭を下げるから、参ったな……とバルトフェルドも戸惑った。
    (もう少し、男としても頼ってもらってもかわまないんだけど……な)
     と、その気持ちを心の中だけで押し留めて、苦笑いをした。

     オーブで仮称していたマリア・ベルネスの身分証は逆に使えない。何かバレた時にむしろ厄介な事になりそうだ。
     他に偽造工作された身分証を手にマリア・ルシエルと名を変えて、海上へとでる。

     停泊している海域からは離れ、地中海沿岸の少しにぎわいう市場へと脚を進めた。閑散とした場所よりも雑多な繁華街の方が情報もつかめるし、身を隠すには適していた。

     パン屋、肉屋、野菜に果物と
     この辺りはまだまだ物資がある程度は豊富のようだ。市場はそれなりに賑わい、子ども達の走る姿も見受けられる。
     ごくありきたりな、平和な日常風景。
     そう感じながら瞼を細めて和むのも束の間。
     人々が少ない路地裏のビル壁にはいくつかの銃痕もそのままに、戦闘の爪痕を残しているし、大きなビルの出入り口、脇の路地には厳つい銃を構えるザフト軍の警備兵がたち。街中のカフェでも交代中の兵士の姿も見える。

     ザフトの制力下でなないが、ザフトが駐留している港町。
     大きな基地が近くにあり、その力は強大だが、少し離れた先には連合の勢力下の場所が控えている。
     導火線……になるのかならないのか
     物騒な地域の一部ではある。

     マリューは簡単にブラウスにジャケットを羽織り、スカートにヒールの低い靴を履き、地元民な印象で市場を歩いていた。
     店主や買い物客と何気ない日常会話から、ちょっとした変化を探ろうと試みる。
     大概聞こえてくるのは連合よりもザフトの方が好印象といったところだった。それもザフトの戦略の一部だと考えているクライン派としては、やはり……と納得せざるをえない部分だった。

     しばらく市場を徘徊したマリューは歩き疲れた足を癒すため、小さなオープンカフェのテラスに腰をかけた。ウエイターが運んできてくれた紅茶のカップに唇を近づけたところで
    「……どこもかしこもザフトの連中ばかりだ」
     背後から聞こえてきた男の声に、心臓を鷲掴みにされた。
    「!!!!!!」
     危うくカップを落としそうになったのを、慌てて取り繕い、深呼吸してゆっくりと受け皿に戻す。其の指先は動揺に微かな震えを見せたまま…
    「……まあ、平和に仲良くやっていきましょうってのが奴らの売りだからね~。其の後ろでなにやってるのかなんて、だーれも気がついてない……ここにいる連中は、さ」

    (そんな、馬鹿な……ありえない)
     マリューの耳に届いた低い男の声。
     馴染みのある、見知った柔らかでなおかつ軽妙な声。
     肌の奥深くまで染み付いた、其の声

    (ありえない……)

     そう、決して聞く事ができないはずの声
     もう、二度と、届く事はない……最愛の人の声…

    (……)

     一気に振り向いて其の存在を確かめたい衝動を、必死に抑えて、マリューは唇を一度噛み締めた。ドクンドクンと早なる鼓動が、外にまで聞こえるのではないかと思うほど強く響く。
     ゆっくりと、さも普通に化粧を、目の中の塵でも取る様な仕草でポーチから鏡を取り出して後ろを覗く。女が取る仕草としては普通だ、警戒されることはない。
     気がつかれない程度の角度で構え、鏡をかすかに動かして、後ろを確認する。
     肩幅のある若い男の後ろ姿があった。
     黒いスーツに、黒い衿が見える。
     そして、そこに流れるようにかかる、樟んだ金色の長い髪……

     揺るやかな癖を帯びたその髪
     長さこそ違えど、色ともどもに記憶している彼の髪そのもの……

     さらに高鳴る心音

     其の音さえ警戒されてしまわないかと思う程、さらに強くなる。

     ありえない!
     ありえる筈がない!!!

     分ってはいた。
     理性で理解していた。
     他人のそら似
     偶々、至極似た声と、髪色と、体躯と……

     ただそれだけの事。
     この世界に何人の男がいるというのだ。
     似ている男等、きっと沢山、掃いて捨てる筈いるはずだ。ただ自分が知らないだけで、そんな男など沢山。

     だが、どうしても、確かめずにはいられなかった。

     確かめて、違う人だって事を、視覚的に、物理的に納得したかっただけだった。

     マリューはひと呼吸すると、飲みかけの紅茶もそのままに、席を立った。
     ゆっくりと、そして怪しまれないように自然にふるまい
     ただ、家に帰る素振りのまま、背をむけ、後ろのテーブルの横を通り過ぎようとした。

     そっと
     何気ない仕草で、横を向く

     男の脇を通り過ぎる瞬間、ほんの少しのタイミングで其の姿を瞳の捉えた

     膝を組んで背にもたれ、対峙する別の男と軽い会話をしながらコーヒーを口に運ぶ
     肩に掛かる長い金髪が揺れる。
     顔は……サングラスをかけている所為ではっきりとは分らない。
     だが、その下に大きな傷痕が……

     ふと
     マリューが視線を運んだ瞬間と同じタイミングで
     男も顔を上げて、横を見た。
     サングラス越しだ、こっちを見ているかどうかは判断できない
     だが
     明らかに、視線が逢ってしまった感覚を憶えた。

     ほんの一瞬
     コンマ1秒にさえ満たない一瞬の交差だったが

     マリューは男をみて
     男はマリューを捉えた

     マリューは避けるように視線を外し、動揺を隠し、普通の振る舞えを装い立ち去る。
     慌てる様な素振りは見せなかったつもりだったが
     高鳴る動悸は抑えきれなかった。

     似ている!!!
     余りにも似過ぎている!!!!

     例え、目元がはっきりしていなかったとしても
     其の姿形、間違える筈もない

     一刻も早く路地へ逃げ込みたかった。だが慌てて不審に思われても困る。マリューは焦る気持ちと葛藤しながら、平然を装い、歩くスピードはそのままに、路地を曲がった。

     其の次の角で立ち止まって、隠れるようにして壁にもたれる。
     深呼吸をひとつ、ふたつ
     溢れだしそうになる声を掌で塞ぎながら
    「……ム…ウ……」
     ありえない存在の名を、零した
    (嘘だ、虚像だ……)
     と何度も繰り返しながら……


    「どうしました?」
     目の前を横切った女の姿を暫く追ったまま、視線を戻さないネオに、部下が声をかける
     其の声でやっと我に返ったネオは
    「いや、なんでもない……」と言葉を濁して、目の前のコーヒーをぐいっと飲み干した。

     今のは誰だ……??

     おそらく後ろの席からだったと思うが、立ち上がって通り過ぎていった女のスガ多々が妙に心をざわつかせた。
     何処かで見た?逢った?

     いや、そんな記憶はない
     軍のデータベース的な意味でも把握している人物でもない

     だが、なぜだろうか
     心の奥底に、もやっとした影が引っかかって外れない。
     そんな気持ちで立ち去っていく見知らぬ女の姿を目で追い、
     ちらっとだけ見えた其の顔、栗色の髪、鴇色の瞳を何度も何度も思い出す。

     誰だ……
     あの女は……

     そんな訳の分らない感情に翻弄されそうになるところを、部下の冷静な言葉で現実に戻って、ネオは己自身を冷笑した。
     何を馬鹿な事に気を馳せられているのか……自分は、と。
     隠密部隊、ファントムペインの大佐ともあろう男が……と。

     暫く辺りの様子を眺めていたネオ。
     部下の腕輪に仕込まれた通信機から、発信音がなる。

    「大佐、動きがあったようです」
    「あらら、仕方ない、休憩時間は終わりだな」

     束の間の休日
     あの子達も、少しは有意義に過ごせたのだろうか……
     空の青さと、賑わう町並みにふとした感傷に襲われ、捨てるように笑う。
     自分たちに、そんな感傷は似合わない事は充分に承知している。それでもなお、ネオはエクステンデッドの子ども達のは他の部下よりも別な意味での愛情を持っていると自負していた。

     カフェの人混みを抜け、路地を曲がり
     市場の喧噪が少し途絶えた場所まで歩いたところで

    「!!!」
     ネオの感覚に妙な緊張感が走った。
     分っている、これは
    「敵だ!!」
     そう叫ぶと同時に、物陰から隠れた刺客が放った銃が石畳に火花を散らす。
    「クッ!」部下がネオを小道の脇へ押しやり、銃を構えて応戦する。
     飛ぶように壁に身を隠し、ネオも銃を構えるが
     そこへ
     小道の反対側から、さっきの女が戻ってくるのがネオの視界に入った。
    「キミ、来るな!」
     そう叫ぶと同時に、今度はもの凄く大きな物音が大通りに響き、急発進する車のブレーキ音、叫ぶ人の声、爆音が届く
    「な?」
     振り返ると、連合を狙うテロリストが、部下の応答でやってきた車輛に突っ込んで自爆した。
     その爆炎が路面を走り、視界を悪くする。

    「クソッ!!」
     そして、ネオの指示で一度身を翻した女の後ろから、人影はひとつ
    (マズいーーー)
     叫ぶより早く、ネオは女の腕を掴んで抱き寄せる。其の後ろから銃口が光って、其の腕をかすめてキーンと耳鳴りを伴う。と同時にネオも発砲応戦する。
     ネオの反撃を受け、暗殺者は倒れるが、其の反動で壁にいくつかの銃弾が命中。脆くなっていた壁の一部が崩れ落ち、ふたりの上に降り注ぐ
    「大佐!!」
    「きゃっ」
     そして、避けるように押し退けた反動で、女が軽く壁に頭打ちつけてしまった。
     爆発した車の煙と、崩れた壁の土ぼこり
     視界が物理的に霞む中で、女の意識も掠れて遠退いていった……
    「オイ、無事か……」
     そう叫ぶ男の声が段々と小さくなりながらも耳に届く

     見知った、懐かしい声が……



     そこでマリュー・ラミアスの意識は一度消えた。




     鈍い痛みを顳かみに憶えながら、女は瞼をゆっくりとあげた。
     視界にいってきたのは見知らぬ天井
     そして、微かに耳元に届く声は、見知らぬ男の声。

    「ここは?」

     薄ぼんやりとする意識でゆっくりと身体を起こすと、そこは何処かの部屋。ホテルか何かの一室で、自分はベッドに寝かされていた。其の感触は安物ではない。

    「……どこ?」

     ちょっと重い頭を支えようとすると、頬と顳かみに少し大きめのガーゼが塗布されて、自分が怪我をしている事が理解できた。

     隣の部屋から何か声が漏れてくる
     だが、何を話しているかはっきりとは聞こえない。

     扉があいて、黒い服に金色の髪に男がやってきた。其の姿をとられて、反動的に身を構えた女。かかっていた布団を握りしめる事ぐらいしかできなかった。
     その怯えた様子に、むしろ安堵したのか、クスッと笑ってから、男がもうひとつのベッドの方の腰を降ろして

    「安心しろ。ここは俺達の縄張りだ……敵はいない」

     そういいながら、何が敵で、何が縄張りかって事も色々説明しないといけないんだろうな……とネオは冷ややかに笑っていた。
     説明したところで……
     この女に安全があるのかどうか

    「え……と」
     女がゆっくりと口を開こうとすると
    「マリア・ルシエル……ユーラシア出身。観光客?」
     あとから現場で回収した女が持ってい鞄から身分証を手にしながら、品定めするかのように視線を送ってくる男に
     ベッドの上で女は只怯えるように周りをキョロキョロとする
    「なんで、あの時、あそこにいた?」
    「……」
    「そういえば、其の前にもカフェにいたよな」
    「……」
     黙ったままの女に、ネオは淡々と質問を投げかけるが、女は黙ったままだった。
     黙秘か……そう思って、ちょっとイラっとした視線で睨むと
     女は怯えた様子で、口ぶるや頬を触って何度も目を閉じる
    「???」
    「わ、わからないんです……」
    「???」
    「え……と、ここは?いいえ……、私は……誰ですか?」
    「!!!!!」
     女の答えに、ネオは手にしていた身分証を床に落とした。



     記憶を辿ろうとするが……、全てが深い霧の中に沈んでいく
     女――マリア・ルシエルはただただ不安そうに眉を落とし、己の肩を己の手で抱きしめていた。

     このホテルに担ぎ込まれる前に、彼女の身体的な検査は行った。脳波脳内ともに異常なし。外傷による浅い傷はある物の、命に別状はない。何かしらの投薬作用の反応もなく
     考えられるのは心印的外傷…

     ネオは深くため息をついて髪を掻きあげた。長い前髪が少し払われうと、其の顔に大きな横傷が残っているのがマリアの目に飛び込んできた。その印象に一瞬戸惑いを隠せず、肩が震える
    「恐いか、これ」
    「いえ……、ちょっと眼に留っただけです」詫びるようにごめんなさいと小さく呟いてから、首を振って、ネオから視線をそらせた。
     其の姿に、ステラとは違う意味でのか弱い印象を受けながら
     ネオは少し気を紛らわせてあやすように
    「まあ、記憶がないんじゃしかたない。そのまま追い出す訳にもいかないし、そんなに非道じゃあないんでね。少し寝てればいい」
     ベッドから腰をあげると部屋を出ていこうとする
     訳も分らず、ひとり取り残される恐怖を感じたのか、マリアは咄嗟に彼の腕を付かんで引き止めそうになったが、そうする事で何が解決する訳でもなく、其の腕をすぐに降ろしてしまった。
     其の仕草を横目で見てとって、彼女には見えない位置で唇の端を緩めて笑う。
     扉を開ける前に
    「大丈夫、あとでまた来る」
     そう振り返って微笑んでみせた。ステラを甘やかす時と同じように…


     マリアの休む(軟禁)されてた部屋から出ると、ネオを深いため息を突き、唇を咬んだ。

     このまま、どちらにしろ彼女を安全な場所になど戻せる筈もなく、かといって何かに利用できる訳でもない。身元が分かれば、あとは軍の連中が秘密裏に処理して、先程のテロに巻き込まれた被害者が1名増えるだけだ。
     分っていた。そうなる事など。
     知って知らずか、運悪く巻き込まれた一般人
     そのままあの場所に放置してくる事もできたのだが
     むしろ顔を見られている可能性も高い。後々ザフトやテロリストから何がもれるかも分らない
     そう思って一瞬の判断で自分の元へ連れ帰ってみたが……

     よく考えずとも、彼女を無事に解放できる術は、ない

     分っていながら
     そう分っていながら、なぜ

     その答えが、彼女の正体から何か分るか?とも思ったのだが
     よもやの記憶喪失………

     ネオは再び深いため息を付いて、目頭を覆う

     真っ白な記憶
     何もない霧の中
     其の中にぽんと放り出された恐怖を知っているからだ。

     俺にも、其の断片がある。

     ヤキンの激戦の後、一瞬記憶を失って、自分が何ものか分らなくなった事があったからだ。

     どうする??

     いや、答えは決まっていた。

     ファントムペインの基地に連れていかず、プライベートで確保したホテルに彼女を匿った段階で……


     軽い食事を運ばせて、部屋に戻ってきたネオを
     マリアは臆する事よりも、安堵の笑みで迎え入れた。
    「少しは休めたか?」
    「あまり……」首を小さく振る、そしてまたごめんなさいと呟く
    「謝らなくて良い。巻き込んだのはこっちだ」

     部屋のテーブルにセットされたディナーと呼ぶよりは軽食に近い食事をマリアに促す。
     彼女がゆっくりと食事をする様子を、対面に横向きに座って眺めているネオ
     自分だけが食事をしている事に気兼ねして、マリアは途中でフォークを置くと
    「あ、あの……、召し上がらないんです、か?」
    「俺?俺はいい、さっき済ませた。これはあんたの分だから、好きなだけ食べれば良い。無論無理する事もない」
    「…あ、はい」
     申し訳なさそうに肩を落としながらも、ゆっくりとマリアは食事を進めた。其の様子を、監視?監督?という意図はないのだが
     ネオは不思議な気持ちで眺めていた。

     この先、どう扱うべきか悩む捕虜。
     だが、なぜに、むしろ機械的に扱ってしまわないのか……

     女だからか?

     それほど甘い生き方をしてきた訳ではない
     殺せといわれれば、直ぐに殺せる。
     それが命令ならば、逆らう事なく、銃の引金を引く

     今はまだ其の命令はない

     もしこれが最後の晩餐だとしたら、もっといい店のいい料理とか振る舞ってやれば良かったかな……などとおかしな感傷さえ沸き起こってくる。

     なぜだ?

     彼女の身分証を確認したが、一部に不審な点が見受けられた。
     連絡先の住所に該当場所はない。
     また彼女が務め先の会社は存在するのだが、支部がオーブという事が引っかかる。

     そんな不信感だらけで接しているのに、なぜだろうか
     彼女を前にすると、冷淡な軍人の態度を取る事ができない。


     同じ様のいい知れないなぞの感覚を、マリアも抱いていた。
     己の状況がまったく分らない、岸辺の見えない海に小舟で放り出されたままの自分。それを助けてくれるのか、ただ見つめているのかは分らないが、今はこの目の間にいる男だけが頼りでしかなく。
     だが、彼に不安は抱かなかった。
     何故か?

     其の髪、其の瞳、其の声……
     何故か安堵する其の存在に、己の今の状況を任せる事に不思議と疑問点は浮かんでこなかったのだ。

     なぜだーーーーーーー?
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤🙏🙏💴
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works