戴天党総裁のものにしては狭く、殺風景な部屋だとヘリオスはここへ来る度に思う。
窓とその側にある寝台と、クローゼットと机と椅子。調度品や装飾の類は一切なく、本棚に整然と並んだうちの一冊でもこの部屋の主は手に取ったことがあるのかはわからない(ヘリオスは彼が読書している所を見たことがなかった)が、埃がその上を覆うことはない。いつか身を寄せた安宿の一室のようだが、そこにだって目を愉しませる絵のひとつでも掛けてあるか、あるいはある意味で退屈しない環境の劣悪さがあるものだ。言うなれば──
「ヘリオス」
上着を脱いだコサイタスがベッドに乗り上げるとその重みの分だけ横柄に伸展しているヘリオスの身体が撓んだ。延ばされた彼の腕が身体の上を横切り肩の側へ静かに着地する。
「ああ、そっか。檻か」
「檻?」
コサイタスが聞き返す。かつての彼ならばヘリオスの絶えず活発に回転し、奔放に飛躍する思考から唐突に噴出す言葉に問いを投げ掛けることはなかっただろう。
独房のようなこの部屋にも何一つ不足を感じないのがコサイタスという男だった。それは事実だし、誰よりも私利私欲から遠い無欲な男だとヘリオスは思っていた。
そう思っていたのだ。ほんの少し前までは。
問いの答えを待ちながらも、コサイタスの脚はゆっくりとヘリオスを跨ぎ、指が髪を割いていく。
「俺を閉じ込めた気分はどうだよ?」