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    オニイチャンも割とふつうの人間ですの話

    ##うちよそ

    「…………手酷くしてよ」

    熱を孕んだ声が耳元に落とされる。
    耳をなぞったり、甘噛みをしたり、指を絡めてきたり、それから服の上からでもわかる程度には存在感を持ったそれを下腹部に押しつけるように腰を擦りつけてきたり、どうにも常に比べて様子がおかしい。
    これはもしや、と思いながらも「熱でもあンのかよ」と問うてみれば、やはり首を小さく横に振った。

    ――法律事務所の秘書という仕事は、そこらの会社員のように決まった就業時間があるわけでもなければ繁忙期や閑散期といった波があるわけでもない。少なくとも、灰島肇が身を置く灰島法律事務所では。それは代表とその秘書が同時に父と子という関係性を持つからかもしれないし、あるいは灰島が扱う案件の特殊性によるものかもしれない。
    仕事とは、他人に主導権を握らせることを良しとしない肇が手綱を握ることを諦めた、数少ないもののひとつなのだ。

    ……そんなことはさておき。
    このところ面倒な案件を立て続けに抱える羽目になっていた肇は、それを知る由もなく普段と変わらないテンションで家を訪ねる鬼頭彰人に、かと言って「忙しいから来るな」と言うのもその後の反応を考えると面倒だしなと、家で大人しく過ごす分には自由にさせていた。
    思い返せば半月ほど経った辺りから居心地悪そうにしていた気もするが、もとを正せば、ベッドの上で仕事の電話に出ることを良しとしなかったのは彼の方なわけで。あの時も躾こそしてやったものの、あれは犬ではなく猫だ。猫に躾などしたところでその場しのぎでしかないことは肇もよく知っている。
    つまるところ、この一ヶ月ほど放置プレイをされる原因を作ったのは紛れもなく鬼頭彰人自身だった。……そのはずだったのだが、『オニーチャンが急に相手してくれなくなった。もう自分に飽きたのかも』などと思い込んだらしい健気で可愛らしい我が弟は、事もあろうに冒頭のような行動に出た、というわけだ。

    これが殺し合いまで演じたことのある相手だというのだから、つくづく人間というものはわからない。
    とはいえそれを言ってしまえば、何をどうすれば人の腹の上で小さくなっているこの大きな猫の誤解が解けるのか、などということに頭を悩ませている自分も相当に可笑しいのだが。

    「彰人ちゃんよォ。オレがお前に飽きンのと、嫌いになンのと、どっちがイイ?」

    こちらの声のトーンに気を向ける余裕もないのか、どっちもやだ、と殆ど吐息のような声を出しながら肩に顔を埋めてくる。

    「だったらンなこといちいち聞いてンじゃねェよ」

    鬼頭彰人が『オニーチャン』と呼ぶ存在が、飽きた相手をわざわざ家にあげてやるような人間ではないと理解する日は、果たして訪れるだろうか。
    依然として腹の上から退く様子のない弟にため息をつきながら、まだ家にゴムの在庫はあったかと記憶をたどることにした。
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