🍭🧁♀の中学生×大学生中学2年の春休み前の休日。父さんに呼び出され席に着くとスっと差し出された見覚えのある一枚の紙。見たくもなくて顔を上げるけど、父さんは怒っているみたいで視線は怒られるのが分かりきっていた紙に落とすしか無かった。
「1番目しかない斬新な進路調査は知らなかったよ!」
口調は柔らかくテンションは高いが明らかに怒っている。何故なら机の上に置かれているのは僕ちんの就職希望としか書いていない進路調査票が原因だ。
「しかも就職かぁ!」
「そうそう!お父さんの手伝いしたら勉強より働いた方が楽しいって思ったしネ」
ソレが半分、だけど実際は家庭の経済状況を考えると進学するのは厳しいからだ。認定試験とっちゃえば良いかなって自分的には思ってるからいいんだけどね。
「……よし!ビリー特待生で高校入学しろ!」
「はぁ!?」
新たに机に現れたのは、ここら辺じゃ有名な学力も高い私立高校のパンフレット。
「先生も用意している!」
「あの?」
「安心して特待生狙え!」
「オイラの意思は……?」
「ちなみに先生は可愛い女の人だからな!やる気出るだろ!」
オイラがこの高校の受験することが確定になった瞬間だった。先生には悪いけどやる気はそこまでないし相性が悪いからってことで数カ月したらやめてもらおうかな……。
「ちなみに今度の土曜日から来てもらうヨ」
「ちょっと!?」
そんなこんなで無理やり組まれた初対面の日が今日だ。インターホンの軽快な音がしたから、俺が対応すると「ひえぁっ!」という女の人の反応にどう出ればいいのか分からなかったけどとりあえず、家庭教師さんですかー?と尋ねると控えめな「そ、そうですぅ……」という情けのない声に、詐欺はなさそうだなということで扉を開ける。
「ふわぁお」
前髪が長いのもあって、ちょ〜っとだけモサモサしてるなんて思ったけど、コートやマフラーと分厚いものを着てるのに、肩のラインは華奢で暖かいはずの格好なのにプルプルと震えてる姿が小動物みたいでなんか保護したくなる。最後に目に入ったいちばん重要な情報、長いコートから覗くスカートは、オイラが目指す事となってしまった高校のスカートではないか。
「えっ、えっと……」
「センセ!入って入って!寒いでしょ!」
できる限り怯えさせないように笑いかけたつもりだったのに、気の抜ける悲鳴とはまた違った声が上がった。とにかく中に入れさせたくって俺が寒いんだよね?と圧がかからない程度に、優しく声をかけるとバタバタと家の敷地に入ってくれたから、そのまま誘導を続けてやっとリビングに辿り着いた。
「ハンガーにかけるからコート頂戴?」
「あっ、ごめんね」
すぐ脱がれたコートの下に隠れていた制服はやはりあの高校の制服。そして、なんというか思春期男子には刺激の強い女性らしい体をしてて、本当に分かってて家庭教師してくれるの?お父さんに騙されてんじゃないの?と心配になってきた。
「センセ、名前聞いてもいい?」
「えっ、あっ……グレイ・リヴァースです」
「グレイ先生ね!オイラはビリー・ワイズだヨ!」
ヨロシクついでに簡単な飴玉を使ったマジックを披露すると、小さな子供のようにわあっ!と声を上げた。
「グレイ先生のお出ましかな?」
「ワイズさん!」
本当に家庭教師をしてくれる予定の先生のようだ。父さんを見て緊張が表に出ていた顔から少しリラックスしていた。
いったいどこで現役の女子高校生と知り合ったのかが気になって仕方がない。お客さんにお茶も出さずに喋ってる父親の代わりにキッチンへ出向き普通のコップに、これまた普通の麦茶を出す。
「しっかりしてますね……」
「オイラに似たからかな?」
「似なかったからだと思うヨ」
「おっと!厳しいなぁ!」
「そこのオジサンは無視して、グレイ先生って本当に家庭教師してくれるの?正直この人胡散臭くない?ちゃんと契約書とか結んだ?」
「はわ……本当にしっかりしてる……」
「パパに対して厳しくない?泣いちゃうよ?」
いちいち煩い人にはガン無視決め込んで、じっと先生を見つめる。
「ソコは大丈夫、です」
「そっかぁ」
一瞬目が泳いだけどまぁいいか。
「これからよろしくねグレイせーんせ!」
「……よ、よろしくね!」
年上受けの良さそうな、守ってあげたくなるような人だなぁと言うのが少しの会話で思った事。何故年下の俺にまでいちいち様子を伺うようにビクビクしているのか。それがとても気になって仕方なかったけど、どうせすぐにお別れするんだし気にしなくていいでしょ。お父さんに迷惑かける気も無いしね。
新たな学年になり周りの空気は一転しピリピリと張り詰めたものへと変わってしまい、その空気を和ませるために軽い手品とかやるけど周りは睨みつけて終わり。
「って感じで!も〜怖いんだよ!?」
「もうそんなにピリピリしてるの……?」
「そうそう!オイラの手品で和ませようとしたのに!」
「ビリーくんの手品凄くていっつも感心しちゃうのに……それは酷いね」
復習を兼ねたミニテスト中にちょっとしたお話をするけど、集中しなさいと怒ること無く心地の良い相槌と共にちゃんと聞いてくれる。
「うう〜!グレイは本当に優しい!」
「そう、かな?」
「そうなの!自信持って!」
当初はグレイとは反りが合わないだのなんだの言って早々と辞めて頂くつもりだったけど、凄く分かりやすく教えてくれるし、躓いたら別の考え方を探してきてくれて俺に合うやり方で教えてくれたりと、家庭教師の範疇を超えている気がするけどいい先生だ。
問題があるとしたら、昨年既に高校を卒業していたグレイは大学生だ。大学は制服から私服となったが、自己肯定感の低い彼女らしく服装もそんなに拘りが無いらしく、とても魅力的な胸元を惜しみなく晒されたお洋服な時もあり、思春期男子にはとても辛いのだ。
「が、頑張ってみる」
「少しでもネガティブ発言したら罰ゲームね!」
「そ、そんなことよりテストやってね!」
「はぁい」
グレイはグレイで大学の課題なのかパソコンを使って作業をしているみたいだけどタイピングの音が異常に早いというか、カタカタの音の間隔が短すぎる。
プログラマーさんとかパソコンを主に使う職種ならばこの速度はあり得るかもだけど、つい最近まで学生だった彼女がこんなに早いだなん驚きというか、そういう才能がある人もいるんだなぁって感じはする。
「グレイできたよ」
「はーい」
いつの間につけたのか知らないけど、もしかしてブルーライトカットのメガネなのかな。こちらも少し野暮ったい印象だけど普段見れない姿を見れてラッキーだなぁ。
「メガネ姿珍しいねぇ」
「パソコン使う機会が多いから持ってるんだよね」
「違うメガネとかにすればいいのに」