ゼルダが戻った砦が大騒ぎになって、全種族揃って宴会する話 その日、ゼルダの帰還に砦は歓喜に沸いた。
鳴り止まぬ彼女を称える声が鳴り止まない。
リンクは集まる人々からゼルダを守りつつ、自らももみくちゃにされ、多くの物が彼の腕を、その背中を叩いた。
「よくやった!」と、そう誰かが言った。リンクの胸が熱くなる。
リンクとゼルダがようやく中央まで進むと、「どいてっ!ちょっとどいてよっ」と、突然プルアが人垣を押しのけて現れゼルダに抱きついた。
涙を浮かべるプルアにゼルダは、感謝を口にしてその体を抱きしめかえした。
その光景に、地下の梯子によじ登り氷柱に顔を出した者達も腕を振り上げる。
「ゼルダ様、万歳!」
「ハイラルに安寧を!」
皆が口々に叫ぶ。
この数ヶ月、誰もが不安の中、できる限りの務めを果たした。ここに──この世界にいる誰しもがそうだった。そこにゼルダは、百年前と変わらぬ命の輝きを見た気がした。
「さあ!みんな!やる事はわかっているわネ」
プルアが人垣を見渡して叫ぶ。
握りしめた笛を高らかに空へとかがけた。
「祝宴よっ!」
人々の声が重なり、今日一番。大気が震えた。
料理人の男が城から戻され、手のあいた物は種族をこえて駆り出された。地下は調理場となり、芋洗いの様だ。井戸で洗われた食材が次々と降ろされ、料理に合わせて加工されていく。米を炊くもの。パン種をこねるもの。野菜を刻むもの。肉に下処理をするもので、大わらわだ。
ゾーラ族は城の堀に潜り、魚を捕った。自分たちはそのまま新鮮なうちに口にする。それ以上に捕った分は、その鋭い爪で内蔵を取り除き、やはり地下へと運ぶ。すると料理人によって、中にハーブを詰め、岩塩に香辛粉をまぶされ、卵と小麦を混ぜた物にくぐらす。
リト族は空を飛ぶ。矢で地上や空の獲物を狩り、それを集めてやはり地下へ。これも血抜きをされると、岩塩とハーブで下処理がされた。
ゴロン族は、砦の周囲で火を炊いた。そこで、こんな時の為にと取っておいた極上ロース岩を焼く。その周りに地下から下ごしらえの済んだ食材がどんどんと運ばれてきて、いくつも並べたゾナウの調理鍋の煮炊きを一緒にこなす。けれど焼き加減はわからないので、ハイリア人やゲルド族が「うちではこうだ」、「いいやもっと火を入れるべきだ」と談義を交わす。
道行く商人が「何かあったんですか?」と不安げに声をかけてきて、その真相を聞くと、荷馬車をおろし「使ってください。皆に伝えなきゃ」と馬に跨ると仲間に声をかけてまわった。すると続々と荷馬車が集結して、キノコにチーズにミルクといった食材。そして、酒が集まった。
夕暮れ迫る頃には、砦の地面が見えなくなるほど人に人。一目ゼルダの無事な姿を少しでも拝もうと、たまたま近くにいた旅人まで合わさり、砦の中も外もちょっとした騒動になった。
人々を前にプルアが事の顛末を全て話し、その後でゼルダが姿を現すと、再び割れんばかりの歓声があがった。
「ハイラル王国万歳!」
誰かが叫ぶと、それが広がっていく。驚きと戸惑いにゼルダは一瞬狼狽えた表情を浮かべたが、すぐに覚悟を決めた顔を見せた。手を振ると、また歓声が一際高くなった。
「さぁ、呑んで!食べて!今夜は大いに騒ぐわヨ」
プルアが言うと、皆は今度は杯を手に乾杯と叫んだ。
「さっ、お疲れ様。お腹空いたでしょ」っと、言ってプルアがゼルダの前にたくさんの食べ物に飲み物を差し出した。
器には、小麦にゴロンの香辛粉をつけて揚げた魚介。ビリビリフルーツの赤が鮮やかなソースがかかった岩塩焼き肉。ハートミルクスープには焼き立てのパンが添えられ、米に小麦が混ぜられふっくら炊かれたミルクの粥には、ビリビリハーブがかけられていた。
「なんかね。砦に色んな種族が集まったら、新しい料理がいっぱいうまれたのよ。帰ってきたら絶対食べてもらおうって、皆で張り切ったんだから。冷めないうちに食べて、食べて」
プルアにうながされ、ゼルダは一品、一品をゆっくり味わう様に口にした。
「どう? 口に合うかな?」
問われて、ゼルダの瞳からほろりと一粒涙がこぼれた。
「とても美味しいです!こんなに美味しい料理は、初めてです」
ほろり、ほろりと、涙がとめどなくあふれる。自分の願いが、想いが結実したのだと思った。口いっぱいに広がる味に、鼻をぬける匂い。これはいつまでも忘れない物になると、ゼルダは思った。