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    Na0

    雑文をポイっとしにきます🕊

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    Na0

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    ブレスオブザワイルド5周年おめでとうございます!
    5年前の今日。ワクワク大地に降り立った多くのリンクを想って書きました。
    まだまだ遊びつくしたいです!

    旅立ち(美しい声だ)
     その声が耳に響いた時に、リンクは思う間もなく、そう感じた。
    《リンク……》
    《リンク……》
     リンク。少なくともその美しい声は、彼をそう呼んだ。
    記憶の抜け落ちた青年は、目覚める前から何もわからぬまま、自身がそう呼ばれる存在である事を知った。
     未だに腑に落ち無い気持ちが、時おり吹く強い風に足元を攫うような。落ち着かなさに常に支配されながらも大地を蹴り、魔物から隠れ、獣を屠り、森の恵みから糧を得る。
     生き抜く事に一生懸命になりながら、ふと後ろ髪を引かれる思いに、胸を苦しくしながら。
    (何だ! これは、何だ!)
     胸に湧く怒りという原始の感情にすら、名前がつかない。
     名前とは、なんだ。
    目の前になる赤く熟れた木の実、大地に根ざす緑濃い山菜、水の中で活き活きと泳ぐ魚。
     名前など知らなくとも、火を入れて、かぶりつけば空腹による苦しみは満たされ、体に力がみなぎる。
    それだけの物にも、1つ1つに名前がある。
    それを知る事は、生きるという欲求よりも大切な事か。
     自問しながら、今日もこちらを覗うようで、遠ざける。それはわずかに胸を冷たくし、でも少しだけ温かくなる。かの老人の声に耳を貸すのは、なぜだ。
     リンクの1日は、生に素直な欲求と答えの無い疑問に支配されていた。
     白く冷たく、手で触れると容易く水となって消えてしまう。儚い雪に隠れる山とは違う。滑らかな石が崩れた崖に立ち、遠くを見やる。
     緑に覆われた平原に、遠く険しい峰々が見えた。しかし、それが『山』という名前がある事も、大切な人と幾度も駆けた『ハイラル平原』という地名も、リンクの頭には残っていない。
     ただ、一緒に視界に入ってくる黒い影が渦巻く朽ちた城を目にすると、ぐちゃぐちゃに何かに支配され、動けなくなるのだ。
     魔物を目にした時の、死を感じる恐怖はない。
    代わりに、名前のつかない苦しさが身内で炎の様にチロチロと胸を舐めていく。
     しばらくして、真実と過去と引き換えに、リンクは老人を失い、一人になった。この台地を出て、行きたいと望んだ城へ向かう手段を得たのに、どこまでも一人である自分を理解した。
    胸に『寂しさ』が満ちる。
     先達は、若者に生きる術を伝えた。
    目に見える全てに名前が。命や想いが、ある事を。
     名前を知ることは、誰かと意思を共有するためにある。名前を呼ぶのは、一人では無い。誰かと関わり生きる為にあることを。
     そして、まっさらな心に感情を教えた。
    胸を苦しくするのには、理由があることを。
    快と不快。喜びと悲しみ。寂しさ。怒り。
    自身を満たす感情は、己を造りあげる事を。
     リンクは、再び台地の端に立った。
    目の前には、あの日と同じ景色が広がる。
    焦がれた世界との境界で、リンクは大きく息を吸う。
    体が世界の気配で満ちる。どこまでも澄んだ気分になった。
     不思議な愛しさで満たされながら、その瞳にはあの城を捉えていた。
    胸にまだ理解できない、いくつもの感情が灯る。
    「ゼルダ。君は誰だ? おれを『リンク』と呼ぶ君は? 本当に君はおれが命をかけて守ったという姫なのか?」
     答えは、返ってこない。
    「おれは、知りたいんだ。おれは、何だ。ここはどこだ。どこから来て、どこへ行きたい?そして、君が……君は、何なのか」
     ぽんっと音をさせて、老人から受け継いだパラセールを開く。
    「おれはそれを確かめに行く。必ず。だから待っていて」
     呟いた言葉は、風に乗ってハイラル平原へと運ばれていく。それを見届けるかのようにしてから、リンクは一瞬背後を振り向いた。
     山頂に石碑のある、高くそびえる山。風が渡ると豊かな緑が鳴る森。朽ちた神殿。その向こうにある粗末な小屋を。
    「行って来るよ」
     言うと、躊躇いなくリンクは大地を蹴り上げ、眼下に広がる世界へと旅立った。
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