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    いっちょぎ

    色々やらかす腐った大人。
    現在は休暇。に大ハマりして、リゼルさんを愛でつつジルリゼを愛して精ゔんを可愛がっております。

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    いっちょぎ

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    以前ちろりと呟いた、迷宮の悪戯で夜の間だけ狼の姿になってしまうじるとりぜさんのお話。
    終わってみれば甘いちゃでした(笑)

    悪戯好きの迷宮の話「ジル、そろそろ寝ましょう」
     こん、と小さく宿の部屋のドアをノックして細く扉を開くと、ベッドの上に寝そべっていた獣の耳がぴくりと動いて、のそりとその太い首を擡げた。
     リゼルよりも大きく逞しいその獣は、艶やかな漆黒の毛並みと理知的な光を浮かべる灰銀の瞳を持つ狼だった。
     細く開いた扉からするりと部屋の中に入ってくるリゼルとちらりと見やって、狼はふう、と一つ鼻から息をつく。言葉は話せないらしいが、何とも表情豊かなこの黒い狼は、後ろ手に扉を閉じたリゼルを確認してから、ベッドの上を移動して一人分のスペースを空けた。
     そのスペースにいそいそと躯を滑り込ませて、リゼルは隣に腹這いで寝転ぶ黒狼のふかふかとした毛並みを撫でると、ぎゅ、と両腕で抱き付きながらうっとりとそこに顔を埋める。
    「おやすみなさい、ジル」
    「……ゎふ」
     絶妙に何とも言えない表情で小さく声を上げたこの黒狼は、先程からリゼルがその名を呼んでいる通り、『一刀』の二つ名を持つ最強の冒険者だった。




     そもそも、ジルがこんな姿になったのは、悪戯好きで有名な迷宮がジルに仕掛けた、正に悪戯だったのだ。
     空気を読むんだか読まないんだか、悪戯好きで有名な迷宮にジルは何やら怪しげな煙を吹き付けられた。
     冒険者ギルドでの依頼を終えて、ホッと息をついたその瞬間を狙われての仕打ちに、リゼルは慌てたようにジルの顔を覗き込んだ。
    「ジル! 大丈夫ですか!?」
    「問題ねぇ」
     咄嗟に息を止めて目を閉じられたのも、今までの経験のお陰だ。少量吸い込んでしまったけれど、これくらいであれば、例えばそれが毒であってもほとんど影響はない。
     心配を隠そうともしないアメジストの瞳に小さく頷けば、リゼルはホッとしたように口元を緩めた。
    「悪戯好きで有名な迷宮というのは、本当なんですね……」
     依頼を終えてほんの少し気を抜いて迷宮を出ようとした瞬間にこんな事を仕出かしてくるなんて。
     困ったように笑ったリゼルに、ジルも肩を竦める事で同意をして、二人は肩を並べて迷宮を後にする。
     ――――悪戯好きの迷宮。
     その意味を知るのは、陽が落ちて夜になってからだった。
     一日の汚れを落として夕食を楽しんで、リゼルがジルの部屋に入り込んだ直後の事だ。
     不意にリゼルの目の前で、ジルが胸を押さえて前のめりになったかと思うと、床に倒れ伏した。慌てて駆け寄ったリゼルの目の前で、恵まれた体格のジルの躯が、ふさふさとした漆黒の毛並みを持つ大型の狼に変化したのだ。
     原因など一つしか思い当たらない。
     あの時、悪戯好きの迷宮がジルに吹きかけた怪しげな煙、あれしかない。
     しかも親切な事に、ジルの姿が変化した瞬間、どこからともなくひらりと落ちてきた紙には、
    『一週間、夜の間だけオオカミになるよ』
     まるで子供が書いたかのような拙い文字で、一言そう書かれてあった。
    「……なる程。悪戯好きの迷宮ですね」
    「ぐる……」
     ベッドに腰を下ろして感心したようにリゼルが呟けば、心底嫌そうに大きく逞しい黒狼はその隣で喉奥で低く唸り声を上げた。リゼルの事など簡単に押さえ込めてしまうだろう程に逞しい狼が、どこかしょんぼりと項垂れている姿は妙に可愛らしい。
     リゼルはその紙を丁寧に折ってサイドテーブルに置くと、隣の狼を見る。
    「取り敢えず、今日から一週間、君はどうあっても夜にはこの姿になるのは確定ですね」
    「ぐ……」
     そっと手を伸ばしてふかふかの首元を撫でてやれば、特に拒絶をする事なく黒狼は……ジルはそっと鋭い灰銀の目を細めた。柔らかな上質の毛並みを楽しみながら、リゼルはうふふ、と穏やかな苦笑を見せる。
    「折角君と二人きりになれる夜ですが、一週間は我慢ですね」
     そう。
     二人が互いの気持ちを受け取って、互いの手を取り合ったのは、少し前の事だ。自然といつかは最後の一線も超えるだろうと思っていたし、そうある事を二人も望んでいたのだけれど、何気にその後はばたばたとして、ちっとも甘い空気になれないままだった。
     ようやっと一息ついて、自分達の事だけを考えても良い時間が出来たと思ったら、迷宮の悪戯で更に一週間お預けを喰らってしまった形だ。とはいえ、これ程美しく逞しい狼を間近で見る事が出来て、触れる事が出来るのは、リゼルにとっては心が弾む事でもあった。そのまま腕を伸ばしてぎゅ、と上機嫌で抱き着いても、ジルはリゼルのしたいようにさせている。
     リゼルはしばし柔らかな毛並みを楽しんでいたが、朝早くから迷宮へ潜った帰りで疲れているという事もあるのか小さく欠伸を零す。柔らかな体温とふかふかの毛並みに眠気を誘われて居るらしいリゼルにふんす、と鼻でため息をつくと、ジルは鼻先でリゼルの肩を押した。
    「ん……、ジル……?」
     押されるままぽそりとベッドに寝転がったリゼルの隣に、ジルは静かにうつ伏せで身を横たえる。
     きりりと引き締まった、随分と顔立ちの良い黒狼をとろりとした目で見上げて、リゼルは蕩けるような笑顔を見せた。
    「……どんな姿でも、君と一緒に寝られるのは、いいですね……」
     そろりとジルの首を撫でてから、リゼルはゆるゆると目を閉じた。
     それ程時間を置かずに小さな寝息が聞こえてきて、ジルはもう一度ふんす、とため息をつくと、上掛けを咥えてリゼルの肩口まで引き上げる。小さく声を上げて寝返りを打ちながら抱き付いてきたリゼルの頬にちょん、と鼻先を付けて、抱き付いてくるリゼルはそのままにジルも目を閉じる。
     眠りに落ちる寸前、ふとこの悪戯好きの迷宮のもう一つの呼び名が頭をよぎったけれど、それを捕まえる事が出来ないまま、ジルの意識も眠りに落ちた。




     耳に届いた小さな悲鳴に、ジルは咄嗟に傍に立てかけていた愛剣を手に飛び起きた。
    「駄目です!!」
     だが、途端に頭から上掛けを被せられる。
     訳も分からず視界を遮った上掛けを払うと、昨夜一緒に寝ていたはずのリゼルが珍しく頬から首から耳までを真っ赤にしてジルを見ていた。
     首を傾げたジルに、真っ赤な顔のままリゼルは震える唇を開いた。
    「……ふく」
    「あ?」
    「服! 着て下さい!!」
     珍しく引っくり返った声に言われて上掛けの中の自分の躯を見下ろして、ジルは「おお」とどこか感心したように呟いた。
     なる程。確かに狼の姿だった時の自分は服を着てはいなかった。元に戻ればそりゃ全裸になっているだろう。
     上掛けで腰から下を覆って、ベッドの上で向かい合って座り込んでいるリゼルの顔を見れば、他の誰も見た事がないだろう鮮やかな朱に染まり、印象的なアメジストの瞳がうっすらと潤んでいた。
     爽やかな朝から見るには少々刺激が強い気がする。
     ふと湧き上がった興味で胡坐をかいた足に肘を乗せ、その上に頬を乗せながら、ジルは意識的に人の悪い笑みを見せた。
    「俺の裸とか見慣れてンだろ」
    「っ、見慣れてますけど、そういう問題ではないです! 俺だって男ですよ! ジルの寝込みを襲ったらどうするんですか!」
     びくん、と可哀想な程震えて、だがリゼルは真っ直ぐにジルの目を見てそんな事を言う。
     ぞわぞわ、と込み上げてくるのは悦びという名の痺れだった。
    「……ホント、堪んねぇな」
     頬杖をついていた手で顔を覆って、小さく呟くと、リゼルは不思議そうに首を傾げた。
     お互いにもう一歩踏み込んだ関係になる事を望んでいる。だが、リゼルはリゼルなりにジルを想ってくれているのだろう。
     そんなジルに気付かず、リゼルは得意げに口を開く。
    「この間、ご婦人たちが言ってましたよ。男はみんなオオカミなんですって」
     俺だってオオカミですからね! ジルも気を付けて下さいね!
     そう言って胸の前で拳を握るリゼルに、ジルはふと昨夜掴みかけたものを思い出した。

     ――――悪戯好きの迷宮。

     別名、『お見合いおばちゃんの迷宮』。
     想い合いながら踏み込めない二人におせっかいを焼いてくる迷宮。
     ただし、悪戯好きと言われるだけあって、その方法はどこかズレている。おばちゃん、の名前が付いている割に、やらかす事は子供の悪戯そのものだ。
     恐らくやけに空気だけは読む迷宮が、リゼルから『男はみんなオオカミ』である事を知って、大人の時間である夜にジルを狼に変えたのだろう。
    「まぁ、仕方ねぇ」
    「はい?」
     不思議そうなリゼルに笑って、ジルはリゼルの頬にかかる髪をそっと指先で耳にかけてやる。大人しく目を閉じてそれを受け入れるリゼルに、ジルはゆっくりと口を開いた。
    「今夜も一緒に寝るか?」
    「勿論」
     万が一何かがあった時の為にも傍に居た方が良い。
     ……何より。
    「例えどんな姿になっても、ジルはジルです」
    「男はオオカミなんだろ?」
     先程のリゼルの台詞を蒸し返してやれば、彼はぽ、と頬を染めながらも蕩けるように目を細めたのだ。
    「君に食べられるとしても、それは俺の望みです」
     でも、毎朝君の裸を見るのは刺激的過ぎますね……。
     困ったように唸るリゼルの額をぺちん、と手の甲で軽く叩いて、ジルは笑った。
    「慣れろよ」
    「俺が君を好きな限り慣れません」
     そんな事を言って、リゼルはまたジルを密かに喜ばせるのだ。
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