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    KoMaNo_kbkb

    @KoMaNo_kbkb

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    KoMaNo_kbkb

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    研究者キース×悪魔ブラッドの異世界パロです。
    魔族系の研究をしているキースに召喚されたブラッドのお話。

    *誤字脱字大目に見てくださいまし。

    藍に塗れた偶像 神なんていないと思ってる。祈り乞えば助けてくれる存在だなんて馬鹿げているだろう。キースは神の存在を知った時からずっとそう思っていた。
     そんなキースにとって、村全体で神を信仰しているこの場所では居場所なんて最初からあってないようなものだった。研究者として解剖学や医学も少し齧っているため、有事の際に必要な医者として置いてもらっているだけ。それさえなければすぐにでも追放されそうなほどだ。
     キースが、魔族や悪魔などそういった類のものを研究していたから。
     神の存在を知ったとき、同時に悪魔のことを教えてもらった。村の人々は皆「悪魔は穢らわしい」「堕落したその様はいつか人間を滅ぼす」などと口を揃えて言う。しかし、キースの瞳にはそれが魅力的に映ってしまった。救いも助けもいらない、自分勝手に自由に飛び回る黒い翼に見惚れてしまったのだ。親から虐待ともとれる扱いを受け毎日怯えていたキースは、助けを求めようと救われないことを知っている。それなら何にも囚われずに自由に過ごしてみたかったのだ。
    「キース、今日も教会には顔を出さないの?」
    「俺が行ったところで迷惑でしかないだろ。神を信じるつもりもないな。」
     そんなキースにも大切な友人がいた。ディノというその男は白魔術の研究をしていて、村のためになりそうなものはないかと日々努力している。しかし村人はキース同様ディノにも当たりが強かった。魔術を使うというだけで、神に与えられた人間としての生を逸脱していると思うのだろう。つくづく嫌な奴らだと思った。
    「そっか……じゃあ俺は行ってくるから、来たくなったらおいでよ!」
    「行かねぇっての。気を付けろよ。」
    「うん!行ってくるな。」
     ディノも飽きないな、と思う。週に一度、村の人間全員を集めて開かれる教会での祈りは、俺たちが顔を出すことを良く思わない奴らしかいない。それなのに毎週忘れずに顔を出して神に祈りを捧げてくるのだ。終わって帰ってくると必ずどこかに生傷があって、今日もダメだったなぁ、と笑う。奴らと仲良くしたいだなんて無理だって諦めてしまえばいいのに、今日こそはと毎度張り切るディノにそんなこと言えなかった。その傷を治すのがキースの役目だと思っていた。
    「……今日はうまくいくといいな。」
     ディノの背中にそう呟いて、キースは自分の研究に取り掛かった。
     悪魔の召喚。それが今日のテーマだ。そもそもこの時代に存在するのかも分からない悪魔。成功するとは最初から期待していないが、この日のために一ヶ月間準備を進めてきた。もし失敗しても次へ繋げる何かが見つかればいいなと思った。
     古い書物を見ながら自室の床に円陣を描く。中心に椅子を置き、念のために悪魔が苦手とする十字架を持ち銀製の物を円陣の外へばら撒いた。
    「こんなもんか。」
     前準備を全て終え、円陣の一歩外へ出る。キースは自身の正面へ手を伸ばして呪文の詠唱を始めた。

     結果として、召喚術は成功した。詠唱が終わると同時に円陣が光り、一瞬だけ雷が落ちた時の如く目も開けられないような閃光に包まれた。
     ほんのり紫の混じった黒髪に白い肌、蹲るように片足を抱え椅子へ座る体をほんの少し隠した漆黒の翼。文献にある通り、紛れもない悪魔の姿だった。ゆっくりと顔を上げた悪魔の顔に、目を奪われる。マゼンタ色をした涼しげな瞳に長い睫毛、通った鼻筋に薄くも柔らかそうな唇。全てが扇情的だった。しかし涼しげにしていた顔はすぐさま顰められ、悪魔は荒い息をあげた。苦しそうに歪められた美しい顔に驚いて、どうしたのだろうかと円陣の中へ足を踏み入れた。不思議と、恐怖は抱かなかった。
    「……ッ、来るな、!」
    「でもお前、」
    「喰われたいのか……!」
     力強いマゼンタと目があって、睨まれた蛇の如く目線を逸らせなくなる。確か、悪魔の食事は生物の生き血や内臓、生命そのものだった気がする。きっとこの悪魔は空腹から凶暴化しようとしているのを必死に抑えているのだろう。こんな綺麗な悪魔になら喰べられてもいいなと思ってしまった。
    「我慢とかしないで喰っちゃえばいいんじゃねぇの?」
     キースが愛した悪魔は、他の誰のことも気に留めず自由奔放に周囲を荒らすものだった。空腹の中で人間を前にしてもなんとか自我を保とうと我慢するものとは違う。シャツのボタンを外しながらゆっくりと近付けば、椅子に座った悪魔がキースを見上げる形となった。先ほどまで苦しさに歪められた顔が今は懇願するかのような表情に見えて、晒した首筋に悪魔の顔を埋めてやる。「う、ぁ」なんて小さく呻き声が聞こえて、がばりと悪魔がキースに飛びついてきた。床に押し倒されてしまい打った頭に痛みが走ったが、首筋に感じた生温かい感触にゾクリと逆毛が立つ。たまに食むように舐められるそれをキスマークを付けられているかのように錯覚してしまい、熱が中心へと集まるのを感じた。
    「…………?」
     数分ほど首筋の一点を舐め続けられ、ふと悪魔は顔を上げて動かなくなった。どうしたのかと覗き込めば目の焦点は合っておらず、上がった息に赤く染まった頬がとても扇情的だ。生唾を飲み数秒眺めていると、悪魔の目が閉じられたと同時に倒れ込んできた。
    「うおっ、!?」
     驚いて悪魔を抱えたまま飛び上がり、その勢いでだらりと落ちかけた体を支えてやる。頬はまだ赤く染まったままで冷や汗を大量にかいていた。どうすればいいのか分からずおろおろしていると、悪魔の腹の虫が鳴った。
     結局理性が勝って、重度の飢餓状態から意識を失ったらしい。先程までぶわりと熱くなっていたキースの体もそれを見て冷めていったようで、悪魔が目を覚ましたときのために普通の食事でも拵えてやろうとキッチンへと足を運んだ。


    「ん、ぅ…………」
     鼻腔をくすぐるように漂う良い香りに目を覚ましせば、見知らぬ景色が目に入った。決して柔らかいとは言えないベッドの上で上体を起こせば、それに気付いた男がこちらへ寄りベッドの縁に腰掛ける。
    「気分はどうだ?」
    「……悪くはない。」
     男は「そっか」と呟いてブラッドの頬へ手をかける。近付けられた手首の薄皮越しの甘い匂いにまた一つ眩暈がした。その手を振り払えば、男は案外すぐに引き下がり部屋の外へと出て行ってしまった。カチャカチャと何か音がしたと思えば、男が何かを持って戻ってくる。差し出されたそれは寝ている間に感じた良い香りの正体だったようで、くぅ、と控えめに腹が鳴った。
    「悪魔でも普通の食事とか取るのか?」
     その腹の音に男はくすりと笑い、そんな言葉と共に食事の乗った皿とフォークを差し出す。木製のそれらはよく手に馴染むようだった。
    「……生き血や魂を喰らう時の飢餓感とは別だが、一時的に腹は膨れる。……頂こう。」
    「ふぅん、本の内容とは違うんだな。」
     本の内容、という言葉が気になったが、目の前にあるあっさりしていそうなパスタが美味しそうでまた別の空腹に抗えなくなる。フォークでくるくると巻き上げ口へ運べば、食欲をそそる様な少し濃いめの味付けとそれに対し重くなく食べやすい麺に、ほぅ、とため息をついた。男はそれを見て満足したようで、口元を綻ばせる。先程は興奮していて気付かなかったが、深緑の隻眼にふわふわと柔らかそうな淡い緑色をした髪、瞳に光が灯っていないのがほんの少し残念だが整った顔をしていると思った。それから、よく悪魔を前に笑っていられるな、とも。
    「貴様は、悪魔を前にして怖くないのか。」
    「まぁ、別に。本とか見る限りはもっとモンスターみたいなの想像してたし。こんな綺麗な奴が出てきてもなぁ……ぁ、」
     男は言い切ったところでなにか失言でもしたかのように固まり、目を泳がせる。先ほどから気になっていた、悪魔のことが書かれたであろう本についてだろうか。誤解を持たれても嫌なため、その本について吐かせた方が良いのかもしれない。
    「その本とは何のことだ。誰かが魔族について書き記したものか?」
    「えっ、あ、そっち……?えぇ……」
     言及すれば、男は驚いたような少し落胆したような顔を見せてうーんと唸り出す。何がしたいのかと怪訝に思ったが、男は立ち上がると、ベッドの背後に広がるぎっしりと詰まった本棚から一冊、古びて表紙の文字すら霞んでいるような分厚い本を取り出してきた。
    「家飛び出す前、うちの親父の部屋から盗んできたんだ。魔族とか、魔術とか……そういったことが書かれてる。」
     今回の召喚以外でまともに成功したことは無いけどな、と笑い本を差し出してくる。それを開けば、男が言ったようにモンスターの如く醜く下衆な笑いをした魔族たちについて綴られていた。確かにブラッドのように人型をしていない魔族も多いが、全てがそういうわけでは無い。なんなら翼やツノ、尾を持たなかったりもしくは小さい下級悪魔のほうが多いくらいだ。ブラッドのように全て待ち合わせてなお人型を保てるものは上級悪魔ではあるのだが。
    「間違っているものが多いな。書いたやつの顔が見たいくらいだ。」
    「え、まじかよ!?それ、十何年も信じて研究してたんだけどなぁ……」
    「貴様、魔族の研究をしているのか。」
    「大したことはしてねぇよ。ほとんど趣味の範疇だ。」
    「……そうか。」
     正直、研究職に就いている人間はいつの時代もブラッドら魔族や天界にとっては厄介者だった。変な仮説を立ててはただ生活しているこちら側のものを捕らえ実験台にし、最終的にめぼしい成果が無ければ見世物として売り飼い殺されてしまう。こちらも力を使い逃げてしまえば良いのだが何故か対策だけはいつの世も万全で、十字架や聖水、銀を見せびらかしては動きを封じる。
     ブラッドもこの男が円陣の外に引いた銀製の小物や手に持っていた十字架によって最後まで理性を全て捨てきれずに済んだのだが、使い方によれば武器になり得たのだから怖いものだ。そういえばこの男は、正気を失いかけていたブラッドを前にしても怯むことなく、なんなら喰べればいいとまで言っていた気がする。知的好奇心とはまた別の何かなのだろうか。
     考えているうちに一つ、互いにとって得になりそうな案を思いついた。
    「……魔族について、詳しく教えてやっても良い。」
    「え、?」
    「ただしそれと引き換えに、お前の血を月に一度ほど、少量分けてほしい。」
    「……契約ってことか。」
    「そういうことだ。」
     男は知的好奇心を満たされ研究を進めることができ、ブラッドは人間を無闇矢鱈と襲うことなく飢餓感を抑えることができる。素晴らしい提案だと思った。代償がそこまで大きなものでは無いため簡易的なものとはなるが、どれだけ小さくても契約を結ぶだけで悪魔は満たされる。男は少し考える素振りをして、ブラッドの目を見て頷いた。
    「よし。貴様、名前は。」
    「……キース。」
    「キース。貴様の名と血を引き換えに、俺の……ブラッド・ビームスが持つ知識を与えよう。」
     キースの目を真っ直ぐに捕らえ、言葉を放つ。ベッドに腰掛けたままこちらを向くキースの左頬に手を添え、首筋へと顔を近付ける。甘い香りが鼻腔をくすぐり、一つキスを落としてから大きく口を開けた。
     つぷり、と皮膚を刺す感触とゆっくりと滲み出した鮮血の鮮やかさに目を奪われた。皮膚越しとに感じる香りとは違う血の甘ったるさを舌に感じて、それをじゅるじゅると音を立てながら吸い上げた。息継ぎをする間も惜しく、「っは、ふ」とたまに短く息を吸いながら久々の人間の血を堪能する。キースは痛みからかブラッドと同じようにたまに息を詰めた。
    「っ、はぁ、……これで契約成立だ。」
     最後に流れ出た血を舌で舐めとり顔を上げる。ほんの少しとはいえ血を吸われたからか、キースは顔を赤らめてぼうっとこちらを見つめる。口の周りに付いた血を最後拭おうと手を口元へ運んだが、キースの手にそれを阻まれた。
    「キース……、ッ!?」
     ほんの少しの心配を込めて名を呼べば、ゆっくりとキースの顔が近付いてきて口の周りを舐められた。付着した血を拭うかのようにされ、最後に唇を柔らかく食まれ、キースの顔が遠のく。突然のことで困惑したが、顔を上げたキースの方がブラッド以上に困惑している様子だった。
    「え、ぁ……俺、なんで…………」
    「キース、大丈夫か?」
     先ほど以上に顔を真っ赤にしてなんで、と繰り返すキースに声をかければビクリと一瞬肩が跳ねる。首を傾げれば、目を丸くしてから顔を両手で覆い、深いため息をついた。
    「いや、お前……何も思わないのかよ…………」
    「確かに驚きはしたが……それ以外は。」
    「そーですか……はぁ〜〜〜。」
     完全に下を向いてぶつくさと何か独り言を始めるキースを怪訝に思い、食まれた唇を指でなぞる。普段より少し鼓動が早いような気もするが、驚きと先の興奮のせいだと一人でに納得した。
    「ともかく、これから俺たちは主従関係となる。俺もここに住まわせてもらいたいのだが構わないか?」
     悪魔にとって契約者とはなによりも優先しなければいけない存在となる。稀に契約した人物を面白おかしく操り遊ぶ悪魔もいるが、ブラッドはそのような不誠実な悪魔ではない。上級悪魔は他のものより飢餓感を持つ頻度が高いため、契約者がいてくれるだけで安心材料となる。キースがそれでいてくれるのならば何よりも優先し守り、自分が生きる糧としなければならない。一緒に住めばそれが断然楽になる。元よりこのツノや翼を引っ提げて外を彷徨くことも出来ないだろう。一緒に住まわせて欲しい趣旨を伝えれば、キースは心底複雑そうな顔を上げた。
    「一緒に住めば時間を問わず研究の為に話を出来るし、飢餓感で他人を襲う確率も下がる。互いのためにも最適解だと思うのだが。」
     真顔でそんなことを言うブラッドにキースはまたため息をついて、渋々了承した。


     そんなこんなでブラッドと共に生活を始め既に四ヶ月ほどが経過しようとしている。キースの家へ出入りの多いディノには、契約を結んだ当日中にきちんと事実を伝えた。最初は驚きもしたが、それからは持ち前のコミュ力でブラッドとも上手くやっているようだった。相変わらず毎週のように生傷を作ってくるが、ブラッドも手当てを手伝ってくれるほどに友好的で、悪魔とは案外道徳心を持っているのだろうかと感じたことがある。しかしブラッドの話では、古びた本にあるような凶暴で自身の快楽しか求めないタイプが多く、どちらかと言えばブラッドのような者が少数派らしい。
    「俺のように飢餓感を感じやすい者が手当たり次第人間を襲えば、いつかはこちら側が不利になるからな。」
     確か、そんなことを言っていた気がする。上級悪魔も大変なんだなと少し同情すれば、「我慢すれば良いだけのことだ。」なんて言い出すから、その日は少し多めに血を吸わせてやった。限界まで我慢した結果があの苦しそうな表情だったのだから、正直あまり無理はしてほしくない。血を吸わせてやった後の少し赤らんだ顔や、ブラッドが時折り見せる柔らかな表情がキースのお気に入りだった。
    (まさかここまで初心だとは思わなかったけどよ……)
     契約の際初めて血を吸わせたとき、当時は自分でも何故か分からなかったが、ブラッドの小さく薄い唇に噛みついてやりたくなった。血を吸う際に漏らした吐息に煽られたのかもしれないし、ブラッドが美味しそうに飲んでいた血の味が気になっただけかもしれない。最近その理由が前者だと気付いたから、何かとブラッドの目を見るのが気まずくなってしまった。
     しかしブラッドはそんなこと気にも留めてないような素振りで一蹴した。普通出会って数時間と経たない男にキスされたら、嫌、とまでは行かなくても何か思うことくらいあるだろう。こちらの気も知らずに効率的だとかで同居を提案してくるもんだから、ドキドキと早まった鼓動と期待、焦りを返して欲しいくらいだった。
    「キース、昼食にしよう。」
    「へいへい、ちょっと待ってろ。」
     それからブラッドは、最近遠慮というものが無くなってきたように感じる。血以外に人間と同じように食事を出してやればそれをとても気に入ったようで、毎食ねだるようになってしまった。一度自分で作ってみたらどうだとレシピと器具の使い方だけ教えて任せてみたことがあるが、レシピ通りの味とは程遠いなにかが出てきてこれはダメだと思った。レシピ通りの料理が出来ないわけではないのだが、根本的な味覚が少し違うのか、ブラッドが美味しいと感じるものがキースには理解できない味だったりするのだ。自分が食べる分には何も問題ないため、小腹が空いた時やキースの研究、治療が長引いているときは一人で料理して食べているらしい。キースが食事する暇もなく没頭しているときにはレシピ通りのものを持ってきてくれることもあった。
    「これくらいなら別に自分で作ればいいのによ〜……」
     キースがしっかりと料理をするのは夜くらいなもので、昼食は普段簡単なものを使ってすぐに済ませている。しかしそれすらキースにやってくれと頼むブラッドに聞こえないように小言を漏らした。キリが良いところで研究の手を止めキッチンへ向かうと、既に出来上がった料理がテーブルの上に並んでいた。
    「遅いぞ、料理が冷めるだろう。」
    「え、いや……作ってくれってんじゃなかったのか?」
    「たまには良いだろう。味も大丈夫なはずだ。」
     ブラッドが言うように並べられた料理からは美味しそうな匂いがしていて、ぐぅ、と腹の虫が鳴る。きちんと一食作ってくれたのは初めてのため、心の中で驚きながらも食卓につく。いただきます、と声を揃えて二人でホットサンドに手を伸ばした。
    「ん、美味いな。」
     シャキッとした野菜にちょうどいいカリカリ具合のベーコン、マスタードの量も良い感じで紛うことなく美味しいホットサンドだった。付け合わせのサラダにはブラッド手製のドレッシングがよく合っていて、スクランブルエッグもほのかに甘さが感じられて良い。ブラックコーヒーを飲んで、ふぅ、と一息ついた。
    「ブラッド、料理上手くなったな。最初のアレが信じられねぇくらいだ。」
    「何度か練習したからな。だが、キースが作る食事の方がやはり美味しく感じる。」
    「おぉ、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。」
     ブラッドはこういうときに素直で敵わない。口に付いたマスタードを拭ってれば、ありがとうと返ってきてはいはい、と軽く返事した。今日の夕飯は腕を奮ってやっても良いかもしれない。こんなに他愛のないことでも嬉しくて舞い上がってしまうのだから、自覚してしまった恋に自分でも呆れ返ってしまった。
    「血、吸うのも今日でいいだろ?」
    「……そうだな。夜にまた吸わせてもらおう。」
     昼食を取り終え食器を洗っている最中に確認する。前回血を吸わせたのはちょうど一ヶ月前のことで、ブラッドも近頃何かとそわそわしていた。今日昼食を作ってくれたのもそのためだったのかもしれない。やっぱり血には抗えないのかなと少し寂しく思ったが仕方ない。夜に備えるべく頭の中で研究に目処を立てた。
     最近、血を吸わせる前と後に習慣のようなものができた。自然とそうなったものと、キースが意図的に始めたことだ。
     自然とそうなったものが、手を繋ぐことだ。どれだけ血を吸われている間にブラッドの上気した息に煽られようと、鋭い牙が肌を突き刺す瞬間と血をもっと出そうとして患部の周りをグッと噛まれ吸われるのには痛みが走る。キースがそれを逃がそうとして指が白くなるほど強く握りしめていたら、ブラッドがその上から手を撫でてくれた。それに緊張を解いて手を開けば、するりと繋がれた手に一瞬びくりとする。しかし、ぎゅっと握られた手は先程よりも痛みを和らげてくれるようだった。それから、始まる前に必ず手を繋ぐようになった。
     キースが意図的に始めたのが、ブラッドが満足して顔を上げた後にキスをすること。契約の際に訳も分からないままキスをしてしまったのとは違い、二人とも目を閉じて唇の柔らかさと舌に残る仄かな血の味を味わう。それを美味しいと思ったことはないが、世界に二人だけの時間を過ごしているようで夢中になった。これは、ブラッドがキースの気持ちに気付いてくれれば良いなと思ってのことだ。しかし、キスをするのは相手が好きだからなんて人間にとって初歩的なことを知らないブラッドは、ただ満腹感とキスで得られる柔く痺れるような快楽に身を任せているだけだろうなとキースは思っている。
     直接的な言葉で伝えるのはどうしても気恥ずかしくて、行動で表そうとしている間にこんなことになってしまった。付き合っていない、ましてや両想いでもない相手に血を吸わせ興奮して、終われば恋人まがいの優しいディープキスをする。この状態から抜け出せないのもどうかと思ったが、もし嫌われたら、契約を切られてしまったらなんて考えがよぎってそのままでいる。ただ気持ち良いこと、としてブラッドに捉えてもらえる方が今はまだありがたかった。
     今夜の食事に思いを馳せながら、キースはまた研究へと取り掛かった。そうしていつの間にか研究に没頭してしまい、窓の外からの冷ややかな視線に気付くことができなかった。

     キースの研究がひと段落して次に時計を見たのは、午後七時半を回った頃だった。
    「やべ、夕飯作んねぇと……」
     せっかく腕を奮おうと考えていたのに、今から仕込みやら用意をしていれば少し夕飯の時間が遅くなりすぎる。やはり今日はいつも通りにの夕食を作り明日一日美味しいものを作ってやろうと考え、料理をするべくキッチンへと出向いた。
    「ブラッドー?ちょっと手伝って欲しいんだけど。」
     そこでふと違和感に気付いた。いつもはすぐに返事をしてやってくるブラッドが声一つあげない。
    「ブラッド?」
     一緒に住むのに必要だろうと数ある空き部屋からブラッド用に掃除をしてやった部屋を覗いても姿はない。浴室、物置き、残りの空き部屋、リビング……。もう一度キッチンへ戻ってもおらず、すれ違った可能性はないようだった。ふと、そういえばと思い出す。ブラッドは家の屋根に登り月を見上げるのが好きだった。満月の夜には必ず屋根へと登って、ただ静かに星や月を見ているのだ。キースの家が村から少し離れているとは言え通りかかった人間に見られたら危険だからやめて欲しいと何度も伝えたが、これは何にも変えられないようだった。
     しかし落ちないようになんとか屋根へと上がっても、そこにブラッドはいなかった。ブラッドは天然なところはあるが頭はいいため、夜とは言えキースに黙って外へ出向くようなやつではない。
    「どこ行ったんだよ……」
     どこを探しても見つからずお手上げ状態になり頭をガシガシと掻く。どうするかと考えていたとき、ふと、村の方から歓声のような悲鳴のような、そんな声が聞こえたような気がした。暗い中目を凝らすように遠くを見やれば、オレンジの灯火が集落の中心に集まっているのが見える。村の中心には確か教会があったはずだ。
    「……まさか、な。」
     家の中に争った形跡はなかった。誰かが入ってきたような感じもない。攫われた可能性は低いと言っていいだろう。かと言って自分から出向く理由など一切ない。
     だが、もしかするとという思いを放置したままにいることもできず、キースは急いで屋根から降り家を出た。

     キースの想像は当たっていた。
     教会の最奥にある大きな十字架に背に、ブラッドは座り込んでいた。あたりに散らばった大量の漆黒の羽に、ヒビが入りことろどころ欠けたツノ。聖水を浴びせられたのか頭から体にかけて水が滴っておりブラッドは苦しそうに顔を歪め呻いている。
    「ブラッド!!!!!」
     そんなブラッドの姿に全身から血の気が引くのを感じ、一目散にブラッドの元へ駆け寄ろうと走り出す。しかしそれは村人によって引き留められた。
    「何しやがんだ……!!!」
     村人の静止を振り払おうと上体を大きく振りかぶるも両側から男二人によって腕を掴まれなす術もなくなってしまった。怒りで顔を歪めていると、老齢の村長がキースを横切りゆっくりとブラッドへ近付く。天に翳した銀製の十字架をブラッド目掛けて投げかけた。
    「ぐ、ぁ……ふ、ぁッ……!!!」
     十字架が当たった部分からジュッと焼けるような音がして小さな煙が上がる。次第に肉の焼ける嫌な匂いが教会に立ち込めていった。ブラッドはそれでもなお抗うことなく大人しく痛みに耐えているようで、既視感のある歪んだ顔を見せた。力が入らないのか、ダラリとした腕と手指が時折ぴくりと動く。その痛々しさを見ていられず、キースはあるだけの力を振り絞って男二人の静止をなんとか振り解いた。前方にいた村長を押し退け、上体を起こしている気力もないのかその場に倒れ込んだブラッドを庇うかのような体勢を取った。
    「キー、ス……」
    「今助けてやるから、待ってろブラッド。」
    「待っ、……っゲホッ、ぐ……ぁ」
     声を出すことすら辛いように咳き込み、なんとか体を起こそうと地面に肘を立てる。なんとか両腕を付くことで上半身は上がったが頭は下を向いたままで、立とうと動かした足は地面を力なく蹴るだけで終わった。
    「キース、そこを退きなさい。魔族なんざの研究をするだけでは飽き足らず、本物の悪魔の味方をすると言うのですか。」
     村長が冷め切った目でキースの隻眼を睨む。それに怯むことなく、キースはさらに鋭い眼光で睨み返してやった。キースの何も言わない様を肯定と取ったのか、村長はため息を一つついて
    「……なんとも可哀想で哀れな子よ。」
     と一言呟いた。それを聞いて、キースの頭がズキリと痛んだ。

     可哀想な子?
     哀れな子?

     何を言ってるんだ。俺を救おうともせずクソみたいな親父の元に放置したのはお前らじゃないか。
     祈りを捧げれば必ず救いが訪れるなんて宣っておいて、淡い期待から教会へ出向いた俺を汚らしいと蹴り捨てた村長を俺はずっと忘れはしない。

     怒りから殺気立つキースに村人たちは怯えて一歩後ずさる。きっと今にも人を殺しそうな顔をしているのだろう。それを隠そうともせず、念のためと服に忍ばせていたナイフを取り出し前へ掲げた。
     俺を見捨て神すら信じれないほどにした村人どもを、俺は生涯許さない。
     ブラッドを捕らえ、こんなにも綺麗な顔を歪め、体に消えるかすら分からないほどの傷を付けた奴らも。
     手に取るように伝わる殺気に村人は怖気付き、何人かは教会から逃げ出して行ってしまった。今この場に残った村人へ今にもナイフを振り翳しそうになったとき、ぐいっと強く後ろから服を引かれた。
    「ブラッド____ッ!??」
     振り返り覗いたブラッドの顔は、召喚され初めて見たときと同じ、飢餓感に理性を焼き切られそうなものだった。痛みで数秒ほど気を失ったあと、目を覚ましたときには本能に抗えなくなってしまったのだ。
     契約により定期的に摂取していたため、一ヶ月期間が空いただけで飢餓感にたえられなくなってしまったのか。だがしかし今日の昼ごろまでは何ともないかの様子で生活をしていた。ならば、何故。そんなことを頭の中でぐるぐると考えていたが、次第に息の上がったブラッドが顔をバッと上へあげた。焦点の合わない瞳はキースの奥にいる村人たちへ向けられ、それを認識した途端ふらふらたしながらも立ち上がり勢いよくそちらは向かって行った。
    「なっ、待て!!!ブラッドッ!!!!」
     このままではブラッドが人を喰いかねない。現に大男と掴み合いになり、理性はもう残っていないように感じられた。キースはブラッドが他人の血を飲むのを見たくない、と思った。
     嫌だ。ブラッドと契約を結んだのは俺だ。他人の、ましてや憎い村人たちなんて……!
     そんな思いが頭の中を駆け巡って、キースはほぼ無意識のままに手に持っていたナイフで自分の左の二の腕を切りつけた。
    「っぐぁ……クソッ、こっちだ、ブラッド!!!!」
     左腕を走った痛みに顔を歪めながらも大声で叫ぶ。ブラッドはキースの声か、はたまた飲み慣れた甘い血の匂いに反応してか。どちらかは分からないがその一瞬でぴたりと止まり、掴みかかっていた村人を離しふらふらとゆっくりこちらへやってきた。
    「きぃ、す……キース……」
    「ん……。」
    「血が、血が飲みたい……キースの血が欲しい……」
     ブラッドはキースの腕に包まれ正気をほんの少し取り戻したようで、はっきりと言葉を話せるようになった。懇願するかのように首筋に顔を埋め匂いを嗅いだり、血の止まらない左腕をじっと眺めたり、飢餓感が消え去ったわけではなさそうだった。
    「……ほら、ブラッド。」
     着ていたシャツのボタンを外して脱ぎ捨てる。左腕を差し出すかのように向けてやれば、ブラッドの顔はそこへと惹きつけられるようにして舌を這わせた。キースの右肩を掴む手を取りいつものように繋いでやれば安心したように目を細め、いつもよりたっぷりと時間をかけて血の味を堪能した。

    「__ス、キース。起きろ、キース。」
     頭を撫でられる感覚にゆっくりと目を開けると、真上にブラッドの顔があった。どうやら出血量が多く途中で意識を落としたらしく、切りつけた左腕には破いたシャツの一部がキツく巻かれている。村人は全員逃げたようで、教会に二人きりだ。
    「……すまなかった、キース。」
    「お前は、何も悪くねぇだろ。」
    「そんなこと……ん、む、」
     悪いのは捕まった自分だとでも言いたげなブラッドの口をキスで塞いでやる。驚いて逃げる頭を掴んで、追うかのように舌を差し入れた。
    「ふっ、ん……ぁ……ッ」
     顔を赤らめて声を漏らすブラッドに気を良くしてさらに舌を絡める。お前は悪くない、気負うことはないとでも言うかのようにキスをしながら優しく頭を撫でてやった。たっぷり、ゆっくり。時間をかけて愛情も一緒に伝えてやるかのように。
    「は、ふ、ぁ……っ!っは、も、もう分かった……!」
    「あ?何がだよ。」
    「その、…………」
     呼吸を整えようと一度口を離しもう一度、と思った途中でがばりとブラッドが顔を遠ざけ手で覆ってしまう。それに少しイラッとして眉を顰めれば、ブラッドは黙ってしまう。
    「言わねぇならもっかい。ほら。」
     しばしの沈黙にむすっとして、もう一度ブラッドの頭へ手を伸ばす。しかしそれも跳ね除けられて、ブラッドの瞳と一瞬だけ目が合った。
    「嫌なの?それならはっきり言ってくれよ。」
    「ちがっ……その、…………………………、だから……」
    「聞こえねぇっての。ちゃんと教えて。」
     聞き取れないほどの小さな声でブラッドは呟いたが、聞き取れるはずもなくそれにまたむすっとする。顔に出ているだろうなと思うが隠さずに催促した。
    「だから……、貴様の想いとかが色々流れてきて恥ずかしいから……だから、もういい……」
     恥ずかしがるように顔を真っ赤にして口元を覆い、目線を逸らして言葉を紡ぐ。そんなブラッドの可愛さに一瞬意識がふわりとしたが、ちょっと待て、と勢いよく起き上がった。
    「色々流れてくるって、まさか、」
    「……好きだ、とか慈愛のような……とにかく胸がいっぱいになって堪えられん。」
     そういう能力か何かがあるのだろうか。それとも契約を交わした人間との間にのみ起こりうるのだろうか。違う、そうじゃなくて。
    「全部、今まで筒抜けだったったのかよ……!?」
    「……キスをしている間に貴様が考えていることは、全部……」
     それを聞いた途端にキースも顔を覆ってもう一度ブラッドの膝へ頭を落とした。最悪だ。好きだなんて想いが伝わればいいのにと思ってしていたキスが、まさか本当に全て伝えているとは思わなかった。
    「ほんと、最悪……」
     こんなのかっこ悪すぎる。あれも、まさかあれも筒抜けだったのかとぶつぶつ独り言をしていれば、顔に差した影に覆っていた手を退けた。
     ブラッドから唇へ一つキスを落とされる。そこで思考が全て停止した。
    「……俺は、嬉しかった。嫌だなんて思ったことも一度だってない。」
     ブラッドも初めは、キスがなんの意味を持つのか知らなかった。それを教えてくれたのはキースの友人で気さくに接してくれるディノだった。契約を交わし終えた後、キースにされたことをディノに伝えて意味を教えてくれと頼めば、ディノはきゃあきゃあと自分の頬を押さえて喜んでいる様子を見せた。「あのキースがなぁ……そっか、嬉しいなぁ」なんてにこにこと笑いながら、ディノは唇を合わせる意味を教えてくれた。教わった事実にブラッドは目を丸くして頬を赤らめる。その様子にディノはさらに楽しそうに笑った。
    「俺もキースのことはそう言った意味で好きだと感じたから、キスにも応じた。」
     キースは言葉が出て来ずに口をパクパクとさせている。数秒そうしていて、「はぁ〜〜〜〜〜」と大きなため息をついた。
    「なんだよそれ……ほんと、馬鹿みたいじゃねぇか……」
     何度目かのため息をついて五体投地したキースに顔を近付ければ、観念したかのように目を閉じる。触れるだけのキスを何度か交わせば、キースの腕が伸びてきてブラッドの頭を撫でた。一方的な意思疎通をせずとも伝わってくるかのような大きな愛情にブラッドは目を細める。
     突然、ぱち、ぱち、とどこからか小さな音がした。キースが口を離し上体を起こすと、ブラッドの翼が端から閃光に包まれ少しずつ消えていく。ツノや尻尾も同様で、ブラッドはどこか嬉しそうにしていた。
    「おい、これ……」
    「そういえば、まだ伝えていなかったことが一つあったな。」
     ゆっくりと目を閉じ、自分の体を抱くように翼の付け根を撫でるブラッドに目を奪われる。
    「魔族、天界に住むものたちは、人間と愛し合ったときからゆっくりと体の作りが変わって行く。……人間になるんだ。」
     天使でいう堕天のようなものだとブラッドは説明してくれた。愛し合ったときからなんて、キスによって想いが伝わるようになったのは遅くとも三ヶ月は前だろう。三ヶ月かけて作り変わっていった体が、今日ようやく人間へと姿を変える。随分とタイミングがいいなと思った。
    「聖水やら十字架に当てられて壊れかけた体を治そうと強制的に作り替えているのだろう。本来は一年かけてゆっくり行われる変化だ。」
    「でも、それって……」
     一年かけて行われる変化を三ヶ月と一日で全て終えるなんて体へかかる負担が大きすぎるのではないか。
     淡々と告げるブラッドを心配すれば、考えた側からブラッドの体がふらりと傾いた。少し息を荒げたブラッドはそのまま眠るかのようにして目を閉じる。
    「……負けるな、ブラッド。」
     遠のく意識の中で痛みや苦しみに耐えているであろうブラッドの頭を撫でて頬にキスを一つ落とせば、少し表情が和らいだような気がした。


    「ほら、キース!早くしないと日が落ちちゃうぞ!」
    「む、むり……ちょっと待てっての……」
    「だらしがないぞ、早く歩け。」
    「おいおいひっでぇ奴らだな……」
     その後二日眠り続け完全に人間へと姿形を変えたブラッドは、キースとディノと共にあの村を出た。今は三人でいろんな村を点々としながら手伝いや数日限りの仕事をして暮らしている。
     ディノはブラッドが人間になり堂々と外を見て歩けること、キースと付き合いだしたことをとても喜んでお祝いもしてくれた。この三人なら、きっとどこへいっても大丈夫だろうと感じる。
     日が暮れる前に目的地へ急ごうとする二人を前に、キースは一人微笑んだ。
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    Replies from the creator

    KoMaNo_kbkb

    DONE研究者キース×悪魔ブラッドの異世界パロです。
    魔族系の研究をしているキースに召喚されたブラッドのお話。

    *誤字脱字大目に見てくださいまし。
    藍に塗れた偶像 神なんていないと思ってる。祈り乞えば助けてくれる存在だなんて馬鹿げているだろう。キースは神の存在を知った時からずっとそう思っていた。
     そんなキースにとって、村全体で神を信仰しているこの場所では居場所なんて最初からあってないようなものだった。研究者として解剖学や医学も少し齧っているため、有事の際に必要な医者として置いてもらっているだけ。それさえなければすぐにでも追放されそうなほどだ。
     キースが、魔族や悪魔などそういった類のものを研究していたから。
     神の存在を知ったとき、同時に悪魔のことを教えてもらった。村の人々は皆「悪魔は穢らわしい」「堕落したその様はいつか人間を滅ぼす」などと口を揃えて言う。しかし、キースの瞳にはそれが魅力的に映ってしまった。救いも助けもいらない、自分勝手に自由に飛び回る黒い翼に見惚れてしまったのだ。親から虐待ともとれる扱いを受け毎日怯えていたキースは、助けを求めようと救われないことを知っている。それなら何にも囚われずに自由に過ごしてみたかったのだ。
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