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    KoMaNo_kbkb

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    KoMaNo_kbkb

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    『桜の樹の下には屍体が埋まつてゐる!』
    という、とある小説の一節から着想を得た作品です。死ネタではございません。

    *誤字脱字大目に見てくださいまし。

    薄紅の下の土塊よ「桜の樹の下には死体が埋まっているそうだ。」

     アカデミーに入学して二年、俺とディノ、ブラッドの三人でリトルトーキョーへ花見をしに行ったときのことだったと思う。ディノは散り落ちては宙を舞う桜の花弁を追ってずっと先を進んでいた。
    「……ふぅん。」
     二人して会話することもなく桜を見上げてたものだから、突然の話になんと返せばいいのかも分からずに生返事を返す。少し悲しげに聞こえた声にちらりと横目をやれば、相変わらずの無表情で桜を見上げていた。
     しかし、その無表情に隠れた悲哀を俺は見逃さなかった。
    「ブラッ____」
    「お前より先に俺が死んだら、死体は桜の下に埋めてくれ。……約束だ。」

     ただ一言、そう放っただけ。しかし、爛漫と咲き誇る薄紅色の花弁を何処か切なげに眺めるその横顔は、素直にとても綺麗だと思った。

     整った横顔をぼうっと眺めていれば、視線に気付いたのかブラッドの双眼がこちらを向く。
     夢現から一転、かち合った視線にドキリとして一気に現実へと引き戻された。それから何を口走ったかはあまり鮮明に覚えていない。ただ一度、慈愛と切なさに満ちた目をキースに向けて顔をふいっと背けてしまった。


    その目に、俺は恋をしたんだと思う。


    「うぅ、寒っ……ブラッドぉ?」
     久々に二人揃っての連休二日目。眠りにつくまで隣にあった温もりは消えていて、肌を刺すような寒さで目を覚ました。
     枕の横で充電していたスマホを起動し時間を確認すれば、まだ朝日も登りきらないような早朝。寝ぼけ眼で体を起こし辺りを見渡せば、近くにあるベランダの窓が空いてた。半透明のレースカーテンが冷たい朝の風に靡いている。
    「キース。起こしたか?」
    「いや、別に。こんな朝早くに何してんだよ。」
     上着を一枚羽織って外に出てみれば、珍しくブラッドが煙草を吸っていた。キースがヘビースモーカーなのもあり吸う時は家の中で良いと言っているが、今ばかりは眠っているキースに気を使ったのだろう。気にしなくても良いのに、なんて思いながらブラッドの手に握られた煙草の箱から一本拝借する。咥えて顔を近付ければ、案外大人しくシガーキスに応じてくれた。
    「ついさっき、目が覚めてしまってな。なかなか寝直せなくて出てきたところだ。」
    「ふーん……。」
     適当に返事をして、ブラッドの顔を見る。ついさっき、というに割には鼻頭が赤く染まっていて、空いている片手で頬に手を添えた。
    「冷っ……、風邪ひいちまうぞ?」
    「それくらいの管理はできる。」
     小さな嘘を悟られたのが不服だったらしく、キッと睨みつけられる。しかしそんな表情もすぐに和らいで、ブラッドは煙草の煙を吐きながら遠くを見つめた。
    「……今年は桜の開花が遅れているらしい。」
     ふと、ブラッドがそう呟いた。悲しげに見えた表情に既視感を感じながらも、日本好きのブラッドのことだからと勝手に納得させる。
    「三月入ってもこの寒さだしな。リトルトーキョーでももう少し先じゃねぇの?」
    「あぁ、そうだな。」
     今年は、どの地域も今までに無いほど寒さが続いている。鮮やかに色づく草木や花、それらの蜜を求め出てくる虫など、春の陽気と共にやってくる賑やかさは未だに眠りについたままだった。
     一年ほど前のことだが、イースターを目前にして同じように寒さが続いたことがあった。そのときはサブスタンスの影響だった故に適切な対処が取られ寒波は去ったが、今年はただの異常気象らしい。寒さに弱いオスカーが、いつになったら暖かさがやってくるのかとニュース記事を見ては落胆していたのを覚えている。
    「そう落ち込むなっての。咲いたらディノも誘って、三人で花見にでも行こうぜ。」
     いつだかの記憶に想いを馳せて、ブラッドの頭をガシガシと撫でながら花見を提案してやる。アカデミー時代とは違い、今は酒も飲めるようになって久しい。ブラッドおすすめの日本酒を持って、ブルーシートを張って。そんな日くらいならば、弁当を作ってやっても良いかもしれないと思った。流石にピザを入れる気にはならないが、二人の好物を詰め込んで楽しい酒宴をする。我ながら良い提案だと思った。
    「……二人で行きたい。」
    「え?」
    「車は俺が出してやる。そうだな、キースには和食が入った弁当でも拵えてもらうか……」
    「いやいや、ちょっと待てっての!」
     一人であれこれと計画を立て出すブラッドを遮って声を出す。勢いよくブラッドの方へ顔を向ければ、なんだと言わんばかりの顔をしたブラッドと目が合った。意外と顔との距離が近く、一瞬ドキリとしたのは黙っておこう。
    「いやだから……俺と二人でいいのか?ディノも誘ってやりゃ喜んでついて来ると思うんだけど……。」
    「俺と二人じゃ不満か?」
    「そうじゃなくてさぁ……。」
     なかなか言いたい事が纏まらずに口が吃ってしまう。俺と二人で行ったところで、どうせ酔い潰れた俺をブラッドが介抱する未来は見えているのだ。飲む量をセーブすればいいなんて思うかもしれないが、休日前夜、ブラッドの了承を得た上で性行為に及ぶ日の晩酌以外でそれが叶ったことはない。長年付き添った所以か、ブラッドの隣は安心感があり結局最後には潰れてしまうのだ。
     それを知ってのことなら別に構わないのだが、後々文句や小言を並べられるのはこちらとしても不本意である。セーブできないのも悪いとは多少思うが、長年共に生活をしていてそれを知らないブラッドではないのだ。自業自得、というものではないだろうか。
     どうしたものかとうんうん唸っていれば、そっと空いている方の手がブラッドの手に包まれる。
    「駄目か?」
     目は合わせてくれないが、懇願するような目を俺の手を握る手元に向け、小さくそう呟く。俺がブラッドのその顔に弱いと知ってのことか、仕事外で何か頼み事をしたいときには何かとこの顔をした。知らないのなら本当にタチが悪いと思いながら、ブラッドの手に包まれた左手を動かして恋人繋ぎへ変える。冷え切っていたその手を温めるように握ってやれば、ギュッと握り返してくれるのが愛らしい。
    「ったく……。お前が良いっていうなら二人で行くか。」
    「次の休暇には咲いていると信じたいな。」
    「だな。……っつーか寒いし、そろそろ戻ろうぜ。本当に風邪引いちまう。」
     結局は俺が折れる方向で話はひと段落した。まあこんなこと日常茶飯事なのだが。ブラッドは一度決めたことを曲げたくないようで、意見の相違など、喧嘩まで発展した場合でも折れるのは大体俺の方だった。惚れた弱みというのは、こういうときに少し厄介である。改める気は毛頭ないのだけれど。
     吸い終えた煙草を置いてあった灰皿に押し付けて、ブラッドも同様にしたのを見てから握ったままの手を引く。
    「ほらよ、寝れそうか?」
    「……ああ。」
     今日一日は休暇を貰っているし、まだ朝日も登らぬ時間だ。二度寝しても問題はないだろうとブラッドをベッドに引き込んで、布団を被り全身を使って抱きしめる。腕枕は肩が痛くなるからとあまり好まないブラッドだが、今日ばかりは大人しくキースの腕に抱かれたままだ。
    「キース。」
    「んー?」
    「……ありがとう。」
     ただ一言そう言って、ブラッドはすぅすぅと規則的な呼吸を始める。どうやらそれ以上言葉を交わす気は無く、眠りについたようだった。
     返事をする代わりに、安心して眠れるように優しく背中をさすってやる。数分そうしていればこちらも眠気がやってきて、それに抗うことなくふわりと意識を手放した。



     リトルトーキョーの桜が満開になったとニュースが流れたのはそれから半月ほど経った頃だった。新年度の初め、忙しさも増す中でなんとか二人で休みをもぎ取り、以前計画した花見をするべくリトルトーキョーへと向かう。数日前までの寒さは嘘のように消え去っており、春と呼ぶのに相応しい絶好の花見日和だった。
     ブラッドの運転する車の助手席に乗り、流れ行く窓の外を見つめる。数十分ほど他愛のない会話をしながら揺られていれば、リトルトーキョーにある桜並木がチラリと視界に入った。
    「お、見えてきたな〜。良い感じに咲いてそうだぜ。」
    「それは何よりだな。見るのが楽しみだ。」
     ブラッドは運転中よそ見をしないようにしているらしく、チラリと姿を現した桜は見えていないようだ。実際に近くで見る桜も格別だろうが、ふわりと風に揺れる薄紅色を遠くから眺めるのも悪くない。帰りにはどこか少し離れた場所に車を止めて、少し感慨にひたるのも良いだろうなと思った。
    「パーキングエリアは少し離れにある。もうすぐ着くから用意しておけ。」
    「へいへい。浮かれて事故んなよ〜?」
    「誰に言っている。」
     なんて軽口を叩きながら、長時間座っていたことにより曲がった背筋を伸ばす。浮かれている、とまではいかないが嬉しそうなブラッドの顔を横目にキースも顔を緩めた。

    「すっ……げぇな、こりゃ。」
    「ああ。とても立派だ。」
     パーキングエリアに車を止め、気合を入れて作った弁当にブルーシート、酒類の入ったクーラーボックスを持って数分。重い物を持って歩いたことにより腕と足がほんのり痛んでいたが、満開の桜を目の前にした途端に疲れは飛んだようだった。
     太くしっかりとした幹に、晴天の青に映える薄紅。なにより風によって舞い散る花弁一枚一枚が非現実的で幻想的な世界を作り出しているようだった。
     アカデミー時代、一度しか花見に来たことはないとはいえ、任務やパトロールでリトルトーキョーへ足を運んだことは何度もある。それでも今日この桜がそれら以上に綺麗だと感じるのは何故なのだろうか。ブラッドはこの桜をどう感じているのか気になり隣を振り返れば、見慣れた横顔が桜の花弁に包まれる様に目を奪われた。これまた何度だって見ている恋人の顔だが、飽きることのない美しさで満たされる自分の心に呆れてしまう。初めて花見に行った日、この瞳に恋焦がれて、柄にもないとくしゃりと頭を掻いたのを思い出す。
    「……綺麗だな。」
     無意識に声を出してしまい、ハッと口を塞いだ。
    「本当に、見事な桜だ。」
     あぁ、危ない。ブラッドは桜に対し綺麗だと言ったように捉えたらしく、上を見上げたまま言葉を発した。鋭いような鈍感なようなブラッドと綺麗な桜に感謝して胸を撫で下ろす。そこで持っていたブルーシートを一等綺麗な桜の下に敷いた。
    「ほら、取り敢えず弁当とか酒広げようぜ。せっかく和食作ってやったんだからいっぱい食えよ。」
     敷いたブルーシートに靴を脱いで上がり、荷物を置く。着いてから一歩も動かず桜を見上げるブラッドに声を掛けて食事が詰まった重箱を開けた。
     唐揚げにだし巻き卵、鮭の塩焼きにきんぴらごぼう。その他にも和食やたまに小さめのハンバーグなど洋食も詰めてある。少々春っぽさはないかもしれないが、本場の日本ではないこの場所で手に入れることの出来る食材には限りがあるためそこは譲歩してほしい。
     ブラッドは名残惜しそうに視線を落としたが、キース特製の弁当を見た途端また目を輝かせる。それを見れただけで早起きして仕込みをした甲斐があったなと感じた。
    「随分と手が込んでいるな。美味しそうだ。」
    「そりゃな。大切な恋人の希望、美味しいもん作ってやりたいだろ?」
    「普段は作ってくれないくせに良く言う。」
    「ひどい言いようだな……。」
     本音から出た言葉を一蹴され、傷付いたような素振りを見せる。たまの休日、二人でゆっくりと過ごせる数少ない時間。キースとてそんなときまで面倒だからとケチケチするような男ではない。普段やらない分、せっかくのお願いに今日くらいはと腕を振るったのだ。
    「冗談だ。ありがとう、キース。」
    「ったく……。どういたしまして。」
     ブラッドはふわりと微笑んで弁当を前に手を合わせる。キースは食事よりも先にビールのプルタブを開け、ブラッドが手料理を口にする瞬間を見守った。
    「……美味い。腕を上げたか?キース。」
     どうやらお気に召してくれたようで、箸を器用に使っては色々なおかずを口に運ぶ。その様子に満足してビールを口に運んだ。
    「別にいつも通りだよ。和食ってのは手間かけた分だけ美味くなるようになってんだろ。」
    「つまりそれだけ手間隙掛けてくれたということだろう。ありがとう、キース。」
    「なんか……今日はえらく素直だな、ブラッド?」
    「……たまには良いだろう。」
     珍しいブラッドの言動に口を挟めば、少し機嫌を損ねたようにふいっと合わせた目線を離してしまう。悪かったって、と頭をぽんぽん叩いてやれば、目を閉じてほんの少し寄り添ってくれる。昔からこいつは俺に頭を撫でられるのが好きだったように思う。それが嬉しくて撫でたままでいれば、もういい、と手を刎ねられる。これに関しては人目があるから仕方無いかと大人しく引き下がった。

     そうして食事と合わせてキースは酒も堪能し、食べ終わったものを片付けてまた桜を眺めだす。
     まだ新しいビール缶片手に横になって、ブラッドの背中と桜を一緒に視界に映す。そこでふと、思い出した。ブラッドが桜のことを考えているとき、あるいは没頭して眺めているときに見せるあの儚げな表情。それを今日は見ていないかもしれない。
     昔も、何故だろうと聞こうとして遮られたセリフに思考は奪われ、そのまま忘れてしまっていた。早朝のベランダで花見の約束をしたときも、どこか切なそうにしていたような気がする。そのときは桜の開花が遅れているせいだと思っていたが、真相はどうなのか。一度気になってしまえばなかなか振り払うことはできず、軽い気持ちで聞いてみようと思ったのだ。
    「なぁ、ブラッド。」
    「なんだ?」
    「お前ってさ、なんつーか……なんでそんなに悲しそうな顔して桜眺めてんの?」
     振り返ることもせずに返事をしたブラッドにそう問えば、いかにも不思議そうな顔でこちらを向いた。
    「別にそんなことはないと思うが。」
    「いーや、昔ディノと三人で行ったときもそんな顔してたね。」
    「……見間違いだろう。」
     心当たりはあるらしく、口元を覆って目線を逸らす。が、どうやら自覚はなかったらしい。桜に対して思うことはあったが、それが自分の表情に出ているとは思わなかったのだろう。
    「見間違いじゃねぇっての。悲しそうっつーか、今にも死にそうな顔してて______ッ!?」
     問い詰めようとしたとき、どこかで爆発音のようなものと地鳴りが起きたような気がした。突然のことにブラッドも驚いたようだがキースと共に大勢を立て直し、辺りを見回す。そう遠くなさそうな場所で煙が立ち始めていた。これは只事ではなさそうだ。
    『エマージェンシー、エマージェンシー。グリーンイーストエリア、リトルトーキョー付近でイクリプスを確認。パトロール中のヒーローは____』
     程なくして、ジャックからのエマージェンシーコールが携帯していたインカムから鳴り響く。
    「おいおい、せっかくの休日だってのによ〜。」
    「黙って見てはいられないだろう。加勢しに行くぞ。」
    「ったく……。話の続き、後で聞かせてもらうからな。」
     それだけ呟いてインカムを起動すればヒーロースーツへと姿を変える。現場へと急行するべく、最小限の貴重品だけ回収し荷物もそのままに走り出した。

     現場に到着したときまだ他のヒーローは到着していないようで、本格的に二人で対処する必要があった。見渡した限りでは建物の崩壊などはない。しゃがみ込んで地面を観察すれば、コンクリートが割れて隆起している程度だった。爆発から上がったと思われた黒煙は発煙弾によるものだったらしく、辺りは薄暗い霧に包まれている。
    「街の被害はさほどって感じか?人っ子一人見当たらないのが不自然だけどな。」
    「音と地鳴りで外出していた市民を散らし、煙でヒーローの邪魔が入らないようにしている……というところだろう。」
     確かにこの黒い霧の中では無闇に手を出すことは難しいかもしれない。中で動けない程度ではないが、人質や煙に毒素がある場合、下手に動けば必ずこちら側が不利になる。それを理解しての作戦なのだろうか。雑兵にしては頭が回るようだ。
    「ガストでもいりゃ少しは楽そうだけどなぁ。風でこの霧を散らしてもらえれば万々歳だ。」
    「仕方ないだろう。今は俺たち二人で対処する他ない。」
     分かってるよ、なんてため息を吐いて、重い腰を上げる。入った酒が少しでも抜けないかと両頬を叩けば少しばかり頭が冴えた気がした。
    「貴様は酒が入っているから後方支援を任せたい。それくらいは出来るだろう。」
     そんな動作もブラッドにはお見通しのようで、前線での戦闘は引き受けると提案が飛ぶ。能力的にも最前線より中距離から後方支援向きのキースにとってはありがたい提案だった。
    「まだそんなに飲んでねぇし、指示出す方に集中させてくれるなら余裕だな。」
    「分かった、指示は任せたぞ。何かあったらインカムで知らせてくれ。」
    「お前もな。」
     合わせた視線を合図に、ブラッドが霧の中へと進んでいく。キースは見晴らしをよくするべくほんの少し高台へと上がった。霧の中で起こる動きに集中するべく膝立ちへと姿勢を変えて目を凝らす。何かあればキースもすぐに飛び込んでいくつもりだったが故の姿勢の取り方だった。その何かが起きないよう、じっと集中力を高めていく。程なくしてブラッドから連絡が入った。
    『霧の発生源と思われる発煙弾を見つけた。停止措置は行ったから暫くすれば晴れるはずだ。』
    「了解。近くに敵の気配は?」
    『今のところは。既に引き返したか身を隠しているか……どちらにせよ霧が薄くなるまで俺はここで待っている。』
    「それが得策だな。こっちは監視しておくから待ってろ。」
     爆発音がしてエマージェンシーコールが入ってから既に十数分程は経っている。到着するまでの間で退散したとは考えにくいため、見逃さないように霧の外へと視線を向けた。なるべく遠くも確認しようと目を凝らす。すると霧の端から数メートル先に白服の人間と機械兵が見えた。霧も晴れてきたため建物を伝い確認に向かえば、雑兵二人と飛行型が一機。大掛かりな作戦の割に少人数なことを怪訝に思ったが、まずはブラッドに報告を入れる。
    「ブラッド、こっちからイクリプスを確認できた。数は少ないが一応加勢に来てもらえると助かる。」
    『了解、場所はどこだ。』
    「今ブラッドが向いてる方角から…………ッ!!!」
     ブラッドのいる位置からイクリプスまでの方角、距離を確認しようと目を向けた瞬間、ゾッとした。
     ブラッドの死角となる路地から、イクリプスが一体顔を出したのが見えたのだ。
    「クソッ!!!避けろ、ブラッド!!!!!」
    「なっ……ッ!?」
     唐突な死角からの攻撃を避け切ることが出来ずにブレード型の武器がブラッドの頭を額を掠める。痛みと衝撃に動揺したのか、ブラッドは数は後ろによろけて膝を折った。イクリプスは様子を伺っているようで突撃こそしないものの武器を構えたまま臨戦態勢を取っている。
     ブラッドの額から流れる多量の鮮血に、きーすの頭も血が沸き立つようだった。
    「ブラッド____!!」
    「キース!無事か!?」
     ブラッドの元へと急ぎ駆け寄ろうと地面へ降りた途端、聞き慣れた声がキースを呼び止めた。
    「ジェイ!」
    「遅れてすまない。この場はキース一人か?現状は……」
    「ッ、ブラッドがイクリプスと対峙中、イクリプス二人と飛行型が一機南に逃げてった。」
    「そうか、ブラッドが……」
     ようやく到着したヒーローはグリーンイーストの研修チーム四名で、聞けば道中他のイクリプスと戦闘していたらしい。そちらのイクリプスは煙幕弾を使用した際に回収したと思われるサブスタンスを所持しており、倒した後駆けつけた研究チームへ受け渡しを済ませたという。
     だがそんなことはどうだっていい。今はいち早くブラッドの元へ救援に向かわねば命にだって関わるかもしれないのだ。そう易々とやられてくれるような男では無いが、ブラッドがオーバーフローした場合はどうだろうか。どちらにせよ急がねばまずい状況に変わりはない。
    「ジェイ、俺はブラッドの方に援護に入る。イーストの四人で逃げたイクリプスを追ってくれ。」
    「分かった。お前たち、イクリプスを追いに行くぞ!」
     どうやらアッシュは一足先に南へ向かったらしく、ジェイは少し離れた場所で被害状況を探っていたルーキーに呼びかける。グレイはアッシュに続いて走り出し、ビリーは建物の上を伝うべく壁を登っていく。アッシュは別としてなかなかに統率の取れたチームだと思った。
    「そっちは頼んだぞ、ジェイ。」
    「ああ。……なぁ、キース。」
    「なんだよ、急がねぇと……」
     いざ解散、と思った矢先に名前を呼ばれ少しの苛立ちを隠さずに聞き返す。振り返ればジェイはどこか険しい顔をしていた。
    「……いいか、落ち着いて行動してくれよ。」
    「ッ……、分かってるよ。」
     実際、ジェイにそう言われなければ後先考えずに行動していただろうと自分でも思う。ブラッドとキースが恋仲にあるのを知っているのは10期研修チームのメンバーたちだけで、ディノも合わせ、三人が互いをどれだけ大切にしているかをジェイは知っている。また、キースには一年ほど前にディノを探すべくロストガーデンにあるイクリプスの基地まで乗り込んだ前例があるため、今回尚更だと思ったのだろう。
     恩師の忠告を幾分か落ち着かせた頭に叩き込んで今度こそ二手に分かれた。

    「ブラッド、無事か!?」
    「……キース、」
     状況はあまり良くなかった。
     到着する間に打撃を受けてしまったのか、意識が少し朦朧としている。なんとか自立は出来ているが患部を押さえる手からは止めどなく血が流れていて、一歩間違えれば致命傷と呼べるほどに傷口は深そうだ。
     イクリプスはもう一人ヒーローが駆け付けたこの状況を不利と見たのか、後退りして機会を窺っている。そんなイクリプスをサイコキネシスで捕らえ、空高く浮かせてから地面へと叩き付けた。イクリプスの体は弓のようにしなり、能力を解除すれば一度起き上がったもののすぐに膝を着いた。すぐさま背後に回り背中から踏み付け踵を落としてやれば、声こそ上がらないものの苦しそうに悶えてやがて気を失った。
     ジェイの警告はこういうときほどありがたい。頭に血が上ったまま後先考えずに行動していれば、このイクリプスを殺すどころでは済まなかったかもしれない。ただの想像ではあるが、ディノを探す際に拷問したイクリプスのことを考えれば想像は容易かった。
     大きく息を吐いて、イクリプスの背から足を退ける。同時に後方からばたりと人が倒れたような音がしてまさかと勢いよく振り返った。
    「おいっ、しっかりしろブラッド!」
     案の定ブラッドが建物の外壁を背に倒れていてキースはすぐさま駆け寄った。見たところ出血多量のせいで意識喪失の寸前といったところだろうか。インカムを救護班へ繋げ、早く応援をと連絡を入れる。連絡の途中でブラッドの両頬を掴み目を合わせようと顔を上げさせたが、視線はどこか空中を漂っていた。インカムを切ってブラッド、ブラッドと何度も声をかけてやれば、一瞬だけ目が合ってすぅっと細められた。
    「キー、ス。キース、」
    「おい喋んな!今救護班呼んだからそれまで大人しく……」
    「約束、覚えてるか、」
     無駄に体力を使わないようどうにかゆっくりしてほしいのだがブラッドは小さな声で言葉を紡ぎ続ける。約束、なんて最近しただろうか。思い当たるものは今日花見をしようと交わしたものだけで、この歳になって他に約束なんて交わさない気もする。とにかくブラッドを安心させようと記憶を辿りに辿って、思い当たる何かを探した。花見をする約束、酒を一緒に飲む約束。一緒にヒーローになりたい。二人の素知らぬ場所で、一人で勝手に死ぬな。そんな他愛のないものから、アカデミー時代にディノも含めて三人で交わしたものまで。脳をフル回転させアカデミー時代まで交わした約束の記憶を辿ったところで一つ、今一番考えたくない約束を思い出してしまった。

    『お前より先に俺が死んだら、死体は桜の下に埋めてくれ。……約束だ。』

    「冗談にしちゃ、笑えねぇぞ……」
     キースが約束を思い出したことに安心したのか、口元が少し緩んだような気がした。
     そんなの、嘘だ。ブラッドが死ぬはずがない。死なせてたまるものか。でも、こんな状態で……。そんな思いがぐるぐると脳内を駆け巡って、頭痛がしてくるようだった。あのブラッドがこんなことを口にしたのなら、もう助からないんじゃないか。なんて最悪の想像をした自分に嫌気がする。
     自分は、ディノの死という報告を受け入れられずに堕落していったキースをまたヒーローの道へと引き上げたくせに。
     父親のようになりたくないと嫌煙していた酒と煙草に溺れ、まともな私生活を送ることも難しくなったキースの身の回りの世話をし出したくせに。
     絶望の淵に立ち何もできないキースに、どれだけ邪険にされようと立ち向かってきたくせに。
     自分が窮地に追いやられた途端諦めるだなんて、誰が許してやろうものか。
    「絶対助けてやるから……諦めんな、ブラッド。」
     その言葉を機に完全に閉じたブラッドの瞼を撫で、救護班との合流を急ぐべくブラッドを抱き抱え走り出す。タワーへ向かう途中でイクリプスを撃退したイーストの研修チームと合流し、状況説明をしながらタワーへと急いだ。




     目を覚ましたとき、一番に目に入ったのは見知った天井だった。
     起きあがろうと上半身を動かすも、ずきりと頭痛と眩暈がしてまた枕へと頭を戻す。左手に温かさを感じてゆっくりそちらを見やれば、キースがベッドに突っ伏して寝息を立てていた。温かさの正体は、優しく繋がれた手のひらの体温だったらしい。
    「……き、ぃす」
     安心感をもたらしてくれる低音を聞きたくて名前を呼んでみる。しかし喉が張り付いているようで上手く声が出ない。名残惜しくも繋がれた手を離してふわふわの頭を撫でてやれば、んぅ、なんて声を上げながら顔だけで寝返りを打つ。こちらを向いた顔はひどくやつれているようで、どれだけ自分がキースに心配をかけたのか目に見えて分かった。もう一度名前を呼ぼうとして、病室の扉が開く音にそちらに目を向けた。
    「……!ブラッド、起きてたんだな。」
    「ディノ……」
    「あちゃ〜、やっぱり声掠れてるなぁ。はい、水飲んで一息吐きなよ。」
     扉の向こうから現れたのはディノで、手持ち袋の中に何かを沢山詰めてやってきた。その中から出てきたペットボトルの水をありがたく貰い、起き上がれないためディノに手伝ってもらいながら喉を潤す。それだけで生き返ったような心地がした。
    「……心配をかけた。」
    「ほんとだよ!キースなんて仕事の時間と病室の消灯時間以外はここから動こうとしなくてさ。俺がご飯とか運んであげてるんだ。」
     そんな話を聞いて、申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになってしまう。ジェイの下でルーキーをしていた頃、一度だけ似たような状況に陥ったことがあった。まだ使いこなせもしないのにオーバーフローを酷使してしまい、体が鋼鉄化して動けなくなってしまったのだ。詳しくは記憶にないが、そのときもキースが一番心配してくれていたように思う。普段口を開けば喧嘩や衝突が絶えないような仲でも、一度情が移れば最後まで手放しはしない。そんなキースの一面を強く感じた日だった。
    「キース。」
     目元の隈を優しく撫でながら、今度はきちんと名前を呼んだ。しかし瞼は閉じられたままでどこか寂しさを感じてしまう。
    「ほらキース!ブラッドが起きたよ!!」
     優しく呼びかけたブラッドとは裏腹に、ディノはキースの肩を掴んでぶんぶんと振り起こす。きっと普段からこうなのだろうなと呆れ半分、ルーキー時代の懐かしさ半分にキースが起きるのを待った。
    「キース!起きろって!」
    「ゔぅ、起きた、起きたからやめてくれ〜……」
     遠慮のないディノに四、五回ほど強く体を振られれば流石のキースも目を覚ましたようで、「ゔぅ、」なんて呻き声を上げながら上体を起こした。しかし未だに頭は冴えていないようで、半開きの目を手で押さえている。
    「はい、キース。これ今日の分のご飯と水!じゃあこれ置きにきただけだし、俺は戻るね。」
     キースが突っ伏していたベッドの少しばかり横に荷物を置いて、ディノは踵を返す。またね、なんて挨拶に返事をすれば、またキースと二人きりになる。
    「ったく、もっと優しく起こせねぇのかよ……」
    「貴様の日頃の行いのせいじゃないか?キース。」
    「おーおー、耳が痛い…………ッ!?」
     いつもと変わらない他愛のないやり取り。反射的に返したキースだが、違和感に気付いた途端に目を見開いた。
    「ブラッ……おま、」
     言葉が出てこないようで、キースは口をパクパクと動かしている。もっと近くにキースを感じたくて両手を伸ばせば、言葉は出ないままに応じてくれた。鼻いっぱいに広がるキースの匂いに、安心からか目頭が熱くなった。先ほどまで続いていた頭痛も治ったかのようで、力一杯に抱きしめてくれるキースに呼応するかのように腕へと力を込める。キースは泣き出したのか、肩口が涙で濡れる感触がした。
    「起きたなら声かけろよ、馬鹿。」
    「声は掛けた。お前が起きなかっただけだ。」
    「俺のせいかよ、何週間も寝てたくせして。」
    「そこまで言ってないだろう。」
     また、普段と変わらない小さな言い合い。それすら久々に感じてしまうのは、何週間と眠っていたかららしい。スンスンと小さく鼻を鳴らしながら拗ねだしたキースの頭を撫でてやれば、名残惜しそうにもゆっくりと顔を離した。
    「隈に涙に……ひどい顔だな、キース。」
    「誰のせいだと思ってんだよ……」
    「ああ、……すまなかった。」
     キースの両頬を手のひらで包んでくいっと引き寄せれば、すっと閉じられた瞼に愛しさが湧く。眠っていた間できなかった分を埋めるかのように、何度も顔を向きを変えキスをする。何度も唇を重ねるうちに一度の時間が長くなり、深い口付けへと変わっていく。しかしそこにいやらしさはなく、ただ互いの感触を確かめているようだった。
     少し感じる息苦しさを愛しく思ったが、起きたばかりでは呼吸が上手くいかず、キースの肩をとん、と優しく押し返す。すぐに唇は離してくれたが、額、瞼、頬、鼻先とキースは至る所にキスを降らせ、最後にもう一度口付けをした。
    「……おかえり、ブラッド。」
    「……ただいま、キース。」
     キースはブラッドをもう一度横にさせると同時に、自分もベッドへと転がった。病室のベッドは二人で寝るには少々狭く窮屈さを感じたが、ぐいっとキースの方へ体を寄せられ、人肌の温かさとキースの匂いに包まれ自然と安心感に包まれる。もう一度、このまま眠りについても良いかもしれないと思った矢先に、キースが声を出した。
    「あの時の話の続き、してもいいか?」
    「……なんだ。」
     形式上なんだと問いてはみたが、大体予想はついている。ブラッドが桜を見上げる際に見せる表情のことだ。自分では表情に出しているとは思わなかったため、キースに指摘されたときには驚いた。
    「あの約束もだけどよ、桜になにかあるのか?」
    「…………。」
     今、キースに話してもいいのかと頭の中で考える。ブラッドの計画ではまだこの先、あと数十年と一緒に歳を重ねられたのなら話すつもりでいた。もっと歳を重ねて、戦死とは違う、別の理由で死を捉えられるようになってから。キースは情に厚い男だから、もしかしたら怒り出すかもしれない。呆れられるのかもしれない。それが少し怖かった。深呼吸をして自分の心を落ち着かせる。そんなのただの法螺話だろって、笑い飛ばしてほしいと願った。
    「……桜の下には死体が埋まっていると、そんな物語を描いた小説家がいる。」
    「そういや、昔もそんなこと言ってたな。」
     キースはきっと覚えていないだろうと踏んでいたため、記憶に残っていたという事実に少し驚く。が、そのまま話を続けた。
    「腐乱した死体から流れ出た液体が、見事な桜の花弁一枚を、蕊を作っていると考えたそうだ。そうして不気味なほど見事な桜に抱いた不安を拭った。死体という憂鬱さが、主人公の心を満たしたんだ。」
     見事すぎて信じられないようなものに感じられるほどの桜。それを美しき幻想と捉えるか、この世のものとは思えない様に恐怖を抱くか。
     そんなことを考えながら桜を見上げたとき、ふと思ってしまったのだ。
    「……俺の死体が埋められた桜は一体どのように咲くのか。桜を見る度に考えて止まないんだ。」
     自身を構築する総てを吸い付くし、それを糧として育った桜がどうなるのか。考えれば考えるほど、誰もが見事だと声を揃えるような見事な木にはならないだろうなと思った。きっと枯れ木の如く張りのない小さな花弁を数枚だけ咲かせ、誰の目にも留まらず散りゆくのだろうと。ブラッドが抱えた秘密も、ついた嘘も、それに値する程重いものだと感じている。でも、そんな自分の死体が埋められた桜の成長を、ブラッドだけは見守ってやりたいと感じたのだ。

     ありのまま話せば、数秒の沈黙が訪れた。キースの胸元へ顔を埋め、紡がれる言葉を待つ。沈黙の後にブラッドの耳へ響いたのは大袈裟なほど大きなため息だった。
    「ブラッド、お前馬鹿じゃねぇの?」
     それを聞いた途端、頭が真っ白になるようだった。キースが人一倍情に厚く、一度愛したものを手放すことが嫌いなことは、ブラッドが一番良く知っている。それなのに愛した人が自分の生を否定するかのような事を考え、勝手な約束で、一度は死を受け入れようともしたのだ。怒って当然だと思った。
     目頭が熱くなったような気がして、キースに背を向けようと動きかけたとき、背にキースの腕が回ってきた。
    「キース____」

    「お前の死体が埋まった桜なんて、世界一綺麗に決まってんだろ。」

     とん、とんと赤子をあやすかのように優しく叩かれる背中と意外な言葉に、思わずふっと顔をあげた。
    「台風でも飛ばなそうなしっかりした幹と枝にさ、毎年綺麗な桜を付けるんだよ。エリオスの奴らからも、市民からも、見事だって毎日花見客が来る。少なくとも俺はそう思うぜ。」
     とん、とん、とん。思考を止めた脳内に、先ほどと同様の優しいリズムだけが響いている。
     十数年と付き合ってきた恋人や友人にも話せない秘密。キースを堕落させ、窮地へ追いやった嘘。心配を振り切り勝手に行動し死を見た日だってある。そんなブラッドの死体が、見事な桜を咲かせてやれるのか。『世界一綺麗』だなんて……。
    「そんなはずは……」
    「仮にブラッドが言った枯れ木みたいな桜で誰も寄り付かなくても、俺が毎日綺麗だっつって水でもくれてやる。」
     その言葉で、はたりと涙が流れた。自分が長年否定し続けていたものが、その言葉だけで全て救われたような気がした。無意識でやっているだろうキースは、本当に愛しいものを見るような優しい目でブラッドの涙を拭った。少し前、フェイスとキースと三人でナイトプールで任務に当たった際に言われた言葉がふと思い浮かんだ。
    「お前が何を思ってそう感じてんのか、今聞いたことじゃ全部はわかんねぇけど。いくら不器用だろうが、方法を間違えてようが、お前は人の為を思えるやつだ。それは変わらないだろ?」
     そうだ。キースは『ディノが死んだ』という嘘は自分のために吐かれた嘘だと理解している。それが良からぬ方向へ進んだ事実があったとしても。キースはブラッドを信用して、味方でいてくれる。もちろん、ディノも。
     自分が置かれている状況を理解した途端、先程は一粒流れただけの涙が止まらなくなってしまったようだ。
    「……もう、いい。充分だ。」
    「分かりゃいいんだよ。お前は色んな人に愛されてんだから。」
     ぐいっと頭を引かれ、キースの胸元へと収まる。泣き顔を他人へ見せるのをあまり好まないブラッドへと配慮なのか、顔を覆うように抱きしめられたその優しさを大人しく受け入れた。
    「なぁ、ブラッド。もし死んだときは死体を桜の下に埋めるんじゃなくてさ、墓石並べてもらって、近くに桜の苗木を埋めてもらおうぜ。ずっと二人で花見でもできりゃ万々歳だ。」
    「それは楽しそうだな。」
    「だろ〜?ほら、約束しようぜ。」
    「……おい、これでは指切りにはならんぞ。」
    「別に形なんてどうだっていいだろ。気持ちが大切なんだよ。」
     指切りの代わりにと繋がれた片手は少しばかりの気恥ずかしさからか普段よりも熱かった。さらさらと流れる髪を繋いだ反対の手で梳かれていれば、だんだんと柔らかな眠気に包まれていく。愛した人に認められる嬉しさに、交わした新しい約束。
     温かな微睡みに身を任せ、そのまま目を閉じた。
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    Replies from the creator

    KoMaNo_kbkb

    DONE研究者キース×悪魔ブラッドの異世界パロです。
    魔族系の研究をしているキースに召喚されたブラッドのお話。

    *誤字脱字大目に見てくださいまし。
    藍に塗れた偶像 神なんていないと思ってる。祈り乞えば助けてくれる存在だなんて馬鹿げているだろう。キースは神の存在を知った時からずっとそう思っていた。
     そんなキースにとって、村全体で神を信仰しているこの場所では居場所なんて最初からあってないようなものだった。研究者として解剖学や医学も少し齧っているため、有事の際に必要な医者として置いてもらっているだけ。それさえなければすぐにでも追放されそうなほどだ。
     キースが、魔族や悪魔などそういった類のものを研究していたから。
     神の存在を知ったとき、同時に悪魔のことを教えてもらった。村の人々は皆「悪魔は穢らわしい」「堕落したその様はいつか人間を滅ぼす」などと口を揃えて言う。しかし、キースの瞳にはそれが魅力的に映ってしまった。救いも助けもいらない、自分勝手に自由に飛び回る黒い翼に見惚れてしまったのだ。親から虐待ともとれる扱いを受け毎日怯えていたキースは、助けを求めようと救われないことを知っている。それなら何にも囚われずに自由に過ごしてみたかったのだ。
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