ヒーローになりたい僕達-ATTENTION-
*hrak非公式作品です。
*物間寧人×心操人使
*dom/subという特殊設定の作品です。
*物間→dom 心操→sub
*普段小説をほとんど書かない人間の作品になります。誤字脱字等ご容赦ください。
*雰囲気を楽しんでいただければ幸いです!
上記がOKな方は本編へどうぞ!
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-Prolog-
僕は『この世は理不尽』だと常々思う
どれだけ頑張ったとしても、ヒーローにはなれない。ヒーローになりたいと思う事すらも許されない。恵まれた個性、才能を持つ人だけが許されて、持たざる者は夢を持つことすら叶わない。
周りの反応が、言葉が、行動が全てを物語っていた。僕に誰かが言った『そんな個性でヒーローになんてなれやしない』
それでも僕はヒーローになりたい。憧れを、夢を、頑張ることを、そんな事で諦めたいとは思わないから。誰にだって自分の夢を見る権利ぐらいあるだろう。そうは君は思わないかい?
そしてもう1つ、ヒーローになるにはある条件が必須だとも言われてる。
今この世界は、2つの性がある。
1つは女、男という、体の性別の事。
もう1つはダイナミクス(dynamics)という性。
ダイナミクスは性別なんて関係なくて、男女ともにその性質を持っている
と言っても普通の人はほとんど関係のない話
でも僕達ヒーローにとっては、関係の無い話では無い。
簡単に言えば"dom"は支配したい人達。
ヒーローや経営者などに多く、僕のいる雄英高校ヒーロー科の生徒や先生にも"dom"は何人もいる
"sub"は支配されたい人達。
"dom"と同じ人数くらい居ると言われているけど、正直"Sub"のヒーローはあまり聞かない。"sub"だと言うと社会的に不利になりやすいのもあり、隠す人が多いから
というのが一般的な見解だと思う。
でも実際に強いと言われるヒーローにはDOMが多いし、すごい事件を引き起こした敵もDOMが多くいる
ヒーローにDOMが多いのは、ヒーローという職業の性質上の問題もあるのだろうけど1番の多い理由は…恐らくだけど…敵と対抗する時にsubだとdom性の敵に負けやすいから、だと思う。
Subのヒーローが居ないわけじゃない。ただ表に出なくなっていく。アングラ系に転向したり、ヒーローを辞めてしまったり。ヒーローを続けるにはあまりにも壁が多い。
実際、過去にsubのヒーローがdomの敵にGlare出されて動けなくなり、人質を危険に晒したという事もあった。
どうしても性には抗えない。気持ちだけでどうにか出来るものでもなくて、どうしても負けてしまう…抗いたくても抗えない。そんなものを持ちながら人々の前に出続ける事は酷く難しい。元ヒーローのSubは、そう取材で答えていた。
続けられるなら続けたかったと。
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「はっ……くそっ…」
体が言うことを聞かない。身体が重たくて、息が上がる。くそっくそっ…どうしてだよ。俺はたまたま傍を通りかかっただけなのに。
たまたまだった。"たまたま"ドムとサブのカップルの喧嘩の傍を通っただけだった。domが放ったGlareに"たまたま"俺が当たった、ただの事故だった。なのに、たったそれだけで、それだけの事で体が言うことを聞かない。
相手のドムは何も思っていないだろう。俺に当てたことすら気がついても居ないだろう。
直ぐにその場を離れた。大事になりたくなかったから。
"ヒーローになりたい"
その為には俺は自分のこの忌々しい性を隠さないといけない。バレてはいけない。なんとか重い身体を引きずりながら雄英まで帰ってきた。自身の部屋にさえ行ければあとはどうにとでもなる。そう思ってはいたけれど、もう体は言うこと聞いてはくれなかった。
「はっ……はっ……」
校舎傍の小道でしゃがみこんでしまう。
ダメだ、ここに留まり続けるのは良くない。せめて、どこか見えない場所へ。ふらふらとする身体をなんとか操って校舎裏の誰にも見えないような所で座り込んだ。
抑制剤…抑制剤さえ飲めれば…
力の入らない体に鞭を打ってピルケースを取り出した。抑制剤の証である赤い薬を、2つ取り出して飲もうとしたら、手から1粒こぼれ落ちて転がった。
くそっ…力が……
落とした薬を取ろうと動こうとしたら、靴の音が聞こえて。薬を拾うために下げていた頭を上に上げると
「えっ?しん…そうくんだよね?どうして…」
そこには
「それって……もしかして…」
抑制剤?
そんな物間の声が、頭の中に響いた
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「全く。どうしてすぐに病院に行かないんだね!」
「すみません…リカバリーガール…」
「ゴメンで済む話じゃないよ!見つけたのがうちの学園の生徒だったからまだ良かったものさ…!」
全く!と言いながら、リカバリーガールはテキパキと動いて俺の腕に1本の注射を打っていく。しばらく横になっていると少しずつ体の重さが引いていくような感覚になった。
「それは、緊急用の抑制剤だよ。全く…あんたが、ヒーローになりたいと思ってるのは分かるさね。でもね、それとこれは話が別さ。ヒーローになると言うことは無茶をするという意味では無いよ」
「…すみません…」
俺は保健室のベットに寝かされていて、リカバリーガールは話が終わった後に、反対側の腕に点滴を付けた。そしてその後、俺の額にデコピンを打った。痛っと言うと、今度同じことしたら問答無用で病院行きさね。と言って、カーテンをシャッと開けた。足音が聞こえたからきっと保健室の椅子に座って待っていた物間の元に向かったのだろう。
「お前さん、今日は帰りな」
「えっと…心操くんは大丈夫…」
「大丈夫さね。もう抑制剤も打って落ち着いてきてる。ほらさっさと帰んな。お前さんdomだろう?いつまでもdomの物間がいたら心操も休まらんさ」
「…ああ…そうだね…。じゃあ、僕は失礼するよ」
物間は鞄を持って保健室から出ていった。俺はその声をカテーン越しに聞いていた。ありがとうと言いたかったが、体酷く重い。ああこれ眠気か…?微睡んでくる意識の中"あいつの事、面倒なことに巻き込んじまったな…"そう思って、けど考えはまとまらないまま、襲ってくる眠気に俺は身を委ねた。
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「あれ?心操くん?どうしたのB組になんて来てさ」
「いや……物間ちょっといいか?」
物間に声掛けたのは良いが、いざ誘うとなると少しばかり緊張した。
「あーー…お前がいいなら昼でも一緒にどうだ?」
「お昼かい…別に構わないけど…ああちょっとまってて」
物間が教室の中に入るとごめん今日心操くんとご飯食べてくるよーっとB組の子達のいる教室に向かって話していて、元気そうな子(恐らく拳藤さんだったはず)からいってらっしゃいと言われてた。その後また俺の元に走ってくる。
「いつも一緒に食べてんのか?仲良いな…」
「?心操くんだっていつもクラスメイトと食べているだろう?それと同じことさ。それより君何食べたいの?」
「俺は今日は…何食べよっかな…」
「ハハッ何も決めてないの?僕は何にしようかな〜」
2人でそんな取り留めのないことを話しながら食堂に向かった。
物間はメニューを見て、A定食にしたようで、俺も同じのを大盛りでと言って物間の分のお金も払った。
「あれ?奢ってくれるのかい?」
「はなからそのつもりだったからね。大したもんじゃないけど、2日前のお礼。この前は助かったよ」
「あーー……どういたしましてた。あのさ…一応だけど…誰にも言ってないから安心して欲しい」
物間は俺の顔を見て話したあと、ははっと笑う。
「いや、別に疑ってもないし、大丈夫だよ。まあでもほんと助かったよ。ありがと」
「まあ…僕もヒーローの卵だからね。困ってる人は放っておけないのさ。体調はどう?」
「んーぼちぼち」
はいよ!A定とA定大盛りだよ!と言われてたメニューをランチラックから受け取る。
「まあ、大盛り食べられるぐらいに元気みたいだし。大丈夫かな?」
俺の受けとったプレートを見ながら物間はそう言った。
「まぁね。伊達に体は鍛えてないからね」
「さすが、普通科からヒーロー科志望するだけあるね。どこ座る?」
「だろ。奥の方がいいな」
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君…心操くんだよね?大丈夫?あれ…それもしかして…まさか君……
物間は俺を見て後ずさりする。ああっそうだよな、嫌だよなこんな卑しい性持ってるやつなんて。こんな大男がさ、そっち側だなんて誰も思わないよな。
そう思ったが、目の前に居る物間は全く違う反応をした。
すぐに俺の方に駆け寄ってきて
大丈夫?!いや大丈夫じゃないからここに居るんだよね?その症状…誰かのGlareにでも当てられたのかい?ああえっと…焦るな…思い出せ…こんな時父はどうしてた……っそうだ!!
心操くん、君はパートナーはいる?もし居るならそこまで連れていこう。もし居ないなら何をして欲しい?保健室?病院?それとも自室?どこかに連れていった方がいいよね?このままだと、不味いだろう?
物間は口早々とそう言ってくる
朦朧とする意識の中で、ほけんしつ…そう小さく呟くと、分かった!今持ってるの薬だよね?保健室にいくなら飲ませない方がいいのかな……ああもう…パートナーがいたらごめんね?とりあえずこれ被って。顔隠したまま連れてくからさ。大丈夫安心して、コマンドは絶対出さないから。だから少しだけ、じっとしてて。
そう言って、俺に自分のブレザーを顔が隠れるように被せて、物間は俺を抱えた。
ちょっとふらつきながら俺を抱えて
ごめん、僕だと君を抱えて走るのは無理かも…途中人に会ったらごめんね?適当に誤魔化すからさ…心操くんは何も話さなくていいよ。
安心…出来るか分からないけど、とりあえず保健室に連れていくからさ。辛いなら寝ててもいいよ。それ、キツイだろう?
そう言って物間を俺を抱えて歩いて、保健室まで連れていってくれた。
それが2日前
食堂の奥の方、人の少ない所に2人で座った
そして、2人でいただきますと言ったあと、食べ始める。目の前の物間は綺麗な所作で飯を食べていっていて、あっこいつ綺麗に食うな…と思った。
「……?なんだい?僕の顔になにかついてる?」
「いや、大したことじゃないけど…物間、綺麗に飯食べるなって思っただけ」
俺がじっと見ていたからか、物間に聞かれて思ったことを素直に応えると物間が焦ったように
「へっ?!そうかな?気にしたこと無かったよ。初めて言われたね、そんなこと…」
「そうなのか…?みんな思っててもいわないだけかもね」
そうなのかなぁと言いながらもパクパクと口の中に食べ物が消えていくのを見ていてもやっぱり綺麗に食べていた。俺もそんな物間を見ながら目の前の食事を食べ進める。静かな時間が過ぎて気がついたらデーブの上のお昼ご飯は無くなっていた。
「……あのさ…心操くん」
「なに?」
「…いや…病院とか行ったの?」
「病院…までは行ってないよ。行く程じゃないし…」
「…そっか…あんまり無茶しちゃダメだよ。ヒーローはさ。体が資本だから」
「あーー善処はする…」
2人して無言になって少し気まづい雰囲気だ。いや、話さないとだよな。食べ終わってお茶を飲んでいた物間に俺は話しかける
「あのさ…ここだと話しにくいから別の場所に行ってもいいか?」
「…そうだね。そうしよっか」
2人して立ち上がって、プレートを返しに行った後、人気の無い木陰に向かった。
今はお昼休みの半分ぐらいたった時間。まだ話したいことは話せるだろう。
「あのさ…物間。本当にありがとね。お前に見つけてもらってなかったら、あのまま、あそこでぶっ倒れてもっと大変なことになってた……と思う」
木の下で寝ていた猫を撫でながら俺はそう言ったら物間は俺の横にストンとしゃがんで小さな声で言った。
「いや……大丈夫だよ。気にしないで。心操くん、言いたくないなら言わなくてもいいけど…あの日何があったんだい?」
物間はふわっと笑ってて
俺は、その日あったことを物間に少し端折りながら話していく。
「って感じで…力尽きかけた所で、たまたま出会っちまったんだよ…」
「なるほど…そんな事が」
「先生が言うには本当はGlareを見ず知らずの人間に当てられたなら即警察でって、なるらしいんだけどね。俺が大事にしたくないって言ったら被害届は出さないって言ってくれて。まあ体調もちょっとだけしんどかったぐらいだし、抑制剤打って収まってんなら大丈夫だろうって相澤先生が…」
「そっか…相澤先生が…まあ相澤先生が言うなら大丈夫だろうけどねぇ……はぁ〜……」
俺の隣にしゃがみこんでいた物間は長くため息をついて、顔を手で覆う。
「えっと…物間なにか……?」
「うーん…心操くんさぁ…。なんていうか…」
何かを言おうとした物間がふうっと息を吐いて続きを話し始める。
「あのさ…僕の親、いわゆるdomsub夫婦でさ…。父がsub、母がdomの家庭だったんだよね。だからsubの大変さもそこそこ知ってるつもり。お父さんが苦労してるのずっと見てるからね」
「ああ…」
物間は猫を撫でながら俺に話す
「だからこそ、心操くんにハッキリ言っておくけどね…。心操くん危機感無さすぎだと思うよ」
「は?」
「危機感がないって言ってるんだよ」
「いや…危機感もなにも…俺は男だけど。そんな簡単に危ない目とかにはあわ…」
物間は俺が話終わる前に、俺を草原に押し倒した。どこにそんな力があるのか、倒され方が悪いのか何故か物間を押し返せなかった。物間は手を顔の横に持ってきて、顎を持って俺を物間の方に無理やり向かせた。
「は?危険な目にあってるじゃないか。見ず知らずの人のGlareに当てられて、君は体調を崩した。それが危ない目じゃないって?ふざけてるのかい?
僕がたまたま、subの人にあてられない、慣れてる人間だったから平気だっただけで、domの人にも抑制ができない人間なんてごまんといるんだよ」
物間は真剣な目で俺を見ながら話す。
「たまたまね、たまたま僕だったから良かっただけなんだ。リカバリーガールにも言われてたよね?もし、うちの学校の人以外に発見されてたら君確実に襲われてたよ?Glare受けて動けなくなってるsubなんて格好の的さ。襲いたい放題、コマンドだってさぁ使いたい放題。君そんな状態だったんだよ」
「それは……」
物間の真っ直ぐな目を見れなくて俺は横に目をそらした。
「はぁ…あまり僕も言いたくないけどね、もっと危機感持ちなよ。これから先ヒーローやっていくんなら、君はその性とは向き合わないといけない」
「…ごめん…」
物間は謝った俺を見てまたひとつため息をついた。
「ああ…もう…僕もごめん……言いすぎた…」
「いや、物間の言う通りだよ。俺が悪い。俺、自分の性が嫌いなんだよ…。ヒーローになりにくいこの性がさ。だから逃げちまってた。でもそうだよな…向き合わないといけないか…」
俺がそう言うと目の前にいた物間はめをぱちくりと動かして
「そうだよ…sub性でもちゃんと向き合わないと誰かを傷付けちゃう。君がヒーローになりたいならもっと知らないと」
「ははっ!そうだな。俺はヒーローになる。絶対にヒーローに」
俺がそういった後、ニコッと不意に笑った物間。
俺と物間の間を風が通ったような気がして、一瞬だけ時が止まってお互いに顔を見合う。
顔が熱くなる。なんだ、これ。
物間は嬉しそうに俺の頬を少し撫でたあと、立ち上がった。俺も合わせて立ち上がろうとすると物間が手を差し出してきた。
「心操くんは優しいね。僕結構きついこと言ってると思うし、押し倒しちゃったのに笑って受け止めてるし」
物間が苦い顔をして俺を見る。俺は差し伸べられた手を掴んで立ち上がって、服に着いた土をぱんっぱんっと落とした。
「いや…お前が言ってることは正しいだろ…むしろ、言って貰えて助かったぜ」
そう言うと
そっか、と物間の小さな声が返ってきた。
一緒に昼を食べてから、時々物間とお昼を食べるようになった。言いたいことをはっきりと言い、表情をコロコロと変えて話す、感情の豊かな物間はどうにも俺には相性がいいようで、すぐに仲良くなった。
「ってことがね〜訓練中にあったんだよね!ほんっとA組は!!B組のみんなの方がよっぽど凄いのにね」
物間は俺に話し続ける。物間から聞くヒーロー科の授業の様子はとても面白くて楽しかった。時々A組の悪口が混ざるのも物間らしくて。遠くから見ていたヒーロー科の話は俺にはとても有難い。
いいなヒーロー科は。俺も早くそっちに行きてぇな。
ぼんやりと物間の話を聞きながら俺が考え込んでいると物間が心配そうな顔をしていた。
「どうしたの?心操くん、体調でも悪いの?」
「ああ。いや…物間の話を聞いてたら早く俺もヒーロー科に行きたいって思ったんだよ」
「心操くんがヒーロー科に入るならB組に来て欲しいな。君と一緒に授業を受けるのはきっと楽しいからね!」
物間はにこりと笑いながらそんなことを言った
「まだ入れるかもわかんねぇのによく言うぜ」
「ははっ!それは無いだろう!君はもうヒーロー科に入るのは確定みたいなものさ!相澤先生が君をわざわざ個人レッスンしてまで教えているんだぜ?僕の担任は相澤先生じゃないけど…わかるよ。あの人は見込みのない人間に教える人じゃない。君はヒーローとしての見込みもガッツもある。だから相澤先生は君をわざわざ弟子にしたんでしょ」
物間は俺がヒーロー科に入れると信じて疑わない様子で、その事をキラキラとした目で話す。
「俺より嬉しそうだな。物間」
「当たり前だろう?心操くん、僕は君を気に入ってるんだぜ」
あー早く君と一緒に授業を受けたいね、と言った物間にそうだなと返事をして、さらさらとした物間の頭を撫でると物間が随分驚いた顔をしてこっちを見る
「あっ頭なんて撫でて!きゅっ急になんだい?!」
「いや…撫でやすそうだなって思っただけだよ。ははっ!お前もそんな顔するんだな、初めて見たかも」
そんなふうに言うと物間は顔を真っ赤にして
「っ〜?!僕をからかわないでくれるかなぁ?!」
「あははっごめんごめん」
照れる物間が面白くて、また頭を撫でると物間は今度は何も言わずに好きなようにさせてくれた。
照れて恥ずかしそうだけど、俺が撫でてももう嫌な顔は見せなかった。
物間さ、結構甘いよね。懐に入れた相手に対してはとても優しい。きついことも言ったりするけど、それは全部相手を思っての発言でしかない。友達だから、大切だから、嫌な言葉だって分かっててみんなに言ってる。嫌われてもいい、それでも伝えなきゃって。全部優しさなんだよな。
物間と関わるようになってから、助けられたあの日からずっと心に何かが引っかかっていて、それは日に日に大きくなっていく。そんなものを抱えながら週に二、三度、昼休みの短い時間だけ物間と話す時間は大切に、変えようのない"かけがえない"のものになっていった。
あーあ、自覚しちゃった。そっか俺
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ぼーっとしながら授業を受けていた。先生たちの話す声が全く耳に入らない。
頭を抱えて机に突っ伏しそうになっていたら先生に怒られて、隣の席にいた鉄哲に笑われた。
最近心操くんの様子が少しおかしい。僕を見て優しく笑ってくる。いや心操くん初めから優しいのだけど、初めの時の笑い方じゃない気がする。もっと…慈愛…?愛おしいみたいな…、でも僕に対してそんな顔するのかな?とにかく言語化するのが難しい。
そんな心操くんを見てたら調子が狂う。いつもみたいに話せなくなる。
たって僕を見る彼の目はあまりにも…
ああ……どうしてこんな事で悩んでいるんだろう。いや理由はきっと…心操くんに嫌われたくないからだ。僕が心操くんに嫌われたくない。彼は…僕に似てる。僕と同じ気持ち…を、きっと抱いたことがあるんだと思う。だから、彼を見てると応援したくなる。きっと大丈夫だって。君もヒーローになれるって。
僕もたくさん言われた。その個性じゃヒーローになんてなれやしない。小さい子供の戯言だった。でもその言葉は年々大きくなっていって、僕を周りを蝕んだ。
けど、それでもヒーローになりたかった。たとえ嫌われようと、嫌がられようと、そんな個性でと言われようと僕は僕で、僕は泥水を啜ってでも、馬鹿だと言われようと、ヒーローになりたい。
彼は僕とそんな部分が酷く似ている。清濁併せ呑んだとしても俺はヒーローになる。そんなふうにまっすぐ言う彼に心が惹かれない訳がなかった。
適当に理由を付けて会いに行った。バカみたいだと思ったけど、いつしかこの気持ちは大きくなって抑えきれなくなっている。
そんな風に思いを寄せていたら、最近、心操くんの目線がひどく…熱があるように感じることが増えたのだ。
「調子狂うよ…」
小さくボソッと呟いた言葉は、誰にも聞こえずに教室に消えた。
僕ばっかり戸惑っててバカみたい
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「物間は居るか?」
大きな音で寮室の扉が開けられてそっちを向くと、立っていたのは焦った様子のイレイザーだった。
僕はB組のみんなと一緒にアニメを見ていた。角取からアニメをみんなで見ましょう〜♪と誘われていて、全員でリビングに集まって鑑賞会をしていた。今流行りのヒーロー物のアニメ。
僕は座っていたソファーから立ち上がるとすぐにイレイザーの元に向かう。
みんなが僕とイレイザーを心配そうに見ている。物間が俺らの知らない間に何かやらかしたのか?と言っている声も聞こえる。僕何もしてないけどねぇ?失礼だなぁ…
「僕になにか…?」
「何があったのかはここで話せない。とりあえず着いてきてくれ。向かいながら説明する」
「えっ…ああ、わかりました」
B組寮から出て、僕はイレイザーについていく
外はもう暗くてその中を歩いていくと校門の傍に車が止まっていて、運転席にはプレゼントマイクが座っていた。
「イレイザー!物間連れてきたか?よし行くぜぇ!」
「うるさい、マイク。物間とりあえず乗ってくれ。中で説明する」
こくんと頷いて車の中に入る。僕とイレイザーが乗り込むと車の扉がしまって走り出した。
車のエンジン音が聞こえて、どんどん景色が過ぎるのが早くなっていく。
「イレイザー…何が…」
「物間。お前心操の第二次性を知っているな?」
イレイザーは僕の顔を見て問いかけてくる。その質問に僕は声には出さずにこくんと頷いた。
「…心操くんに…何か…」
はぁ…とイレイザーが息をついて続きを話し出す
「心操が今日外出許可を貰って学友と外出していたの知っているか?」
そういえば心操くんがそんなことを言っていたなと思ってこくんと頷くと
「その出かけ先で敵の襲撃に巻き込まれた。
それだけなら、何も問題はなかった。実際うちの学生たちは心操以外は誰1人怪我をせずに今はもう寮に帰らせてる。ただ…」
車の外の景色が変わっていって、ガラスに夜の街を写している。
「敵がどうにもdom…だったようでな。学生たちや他の人達をまとめて人質にとっとた時にどうにも強いGlareを放って抑制した。被害者の何人かがそのGlareにやられて病院送りになった」
「もしかしてその中に…」
「心操も…Glareに巻き込まれた。どうやら同じクラスのsubの子を庇ったみたいでな。庇った子はそこまでひどくなかったんだが…心操は…敵のGlareを正面から受けてsub dropを起こしている。そのままではまずいと病院側もどうにか処置をしようとしている状態だ」
心操くんまた巻き込まれて。だから危機感を持てって…でももしそれなら、どうして僕をわざわざ呼びに…?イレイザーもプレゼントマイクもいる。そもそも病院にいるなら治療はそっちで出来るはずだ、僕が行く必要は…
「ただ…心操が医者のCommandを一切聞かないんだよ。それで…もしかしたら登録はされていないが、パートナーがいるのでは、という話になった。
そして暴れる心操から何とか聞き出したのが…お前の名前だった」
お前と心操はパートナーなのか?
車にイレイザーの声が響く
「心操くんが本当に僕の名前を呼んで…?」
「ああ。確かに言った。物間と」
その言葉に動揺した。だって僕と彼は…
「…僕は…確かにdomです。心操くんがsubなことも知っています。けど…僕は心操くんのパートナーではありません…契約も、カラーも渡してません…そもそも気持ちすら僕は伝えてない…」
僕がそう言うとイレイザーが目を見開いては?と言った後、ため息をついた
「心操…アイツ…本能で物間って言ったのかよ…」
隣の席でイレイザーが頭を抑えてまたため息が聞こえてきた。
「はぁ…とにかく心操に会ってくれ。お前が出来るならplayも。恐らくだが、今の心操はお前のplayしか受け付けない。あいつが何を思っておまえの名前を呼んだのかは分からないが…
ただひとつ言えるのはアイツにとってパートナーはお前ってことだ。今だけでもいい。あいつを助けてやってくれ」
相澤先生は僕の目を見てそういった。
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「イレイザー!物間を連れてきたんだね?」
イレイザーはリカバリーガールのその問いにああっと答えて、僕を部屋の前まで連れていく。
「リカバリーガール…心操くんは…」
「来てくれて助かったね。物間、心操は部屋の中にいる。今は何とか抑えられてる状態でね、頼めるかい?」
扉の向こうには心操くんが居る。部屋の中からは音が聞こえてきて、彼もしかして暴れてるのかい?と聞くとリカバリーガールは答える。
「……sub dropの影響さね…。Commandもplayも何もかも受けつけない。声が…届かないのさ。今も何とか大人数人で抑え込んでる状態さね。このままだと心操が危ない」
「わかった…出来るだけ.、頑張るよ」
すまない、物間。とイレイザーが言ったのを頭の後ろで聞いて、その言葉に頭を横に振る
「僕にとっても、彼は大切な人なので…」
そう答えると、イレイザーが頭にぽんっと手を乗せた。そして扉を開けて中に入る。
頼んだ。そう小さな声でイレイザーは言った。
部屋の中に入ると心操くんは3人がかかりで体を押えられていた。腕や手、自身で引っ掻いたのだろう、緩く血が出ていて、酷く痛々しかった。
「心操くん……」
僕は抑えてる人達の間に入るように向かっていく。そして心操くんの傍に行くと、一言だけCommandを放った。
「心操くん。"look"」
心操くんが痛くならないように出来るだけ優しいGlareを心操くんにだけ向ける。
そして僕のCommandを聞いた心操くんがピクっと動いた。その様子にGlareもCommandもどうやら届いているようで安心して、またCommandを使う。
「心操くん。聞こえる?"look" こっちを、僕をみて」
暴れていた心操くんが少しずつ落ち着いていく。
心操くんが虚ろな目を、そして何分も掛けてゆっくりと僕の方に顔を向けて、手をゆっくり僕を探すように動かしている。
僕はそんな彼を優しくGlareを使って導いていく。
心操くんの手を優しく握って、そしてもう一度Commandを出した。
「心操くん。こっちだよ。僕を、僕を見つけて。
もう大丈夫だから。"look"」
Commandを放った瞬間、虚ろだった心操くんの目に光が宿って僕と目が合った。
ああ、目が合った。もう大丈夫だ。僕をじっと見る心操くんの頭をゆっくり撫でる
「そうだよ。偉いね。よく出来てる。Good boy」
そう言うと心操くんの目からポロポロと涙がこぼれていく。そんな心操くんに僕は落ち着くまで、頭を撫で続けた。
心操くんは静かに泣き続けて、僕の手に頬を当てたあと
僕の目を見て、ありがと…と小さく呟いてそのまま眠った。
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「お騒がせしました……」
心操くんはしょんぼりとベッドの上で項垂れていた「あはは!聞いた時はびっくりしたけど、どうにかなって良かったよ。心操くん」
僕がそう言うと心操くんは益々どよーんとする
あーとかうーとか、言葉になってない音を話して頭を抱えている
「……物間はさぁ……怒んないの?俺お前のこと勝手にパートナーって呼びつけちまって…」
心操くんは項垂れながらそんなことを言っていて。その言葉に目をぱちくりさせた
「まあ…正直びっくりしたよ。だって僕まだ君に気持ちを伝えてもなかったし。だからイレイザーにそう言われた時、は?ってなったけど…」
ベッドに座る心操くんは僕の言葉を聞いて顔をもっと下げた。僕はそんな彼の頭をぽんっぽんっと撫でると
「けど、僕…君に頼られて嬉しかったよ…あの時、結構必死でさ、何とかしなきゃって思ったけど…。ねぇ心操くんこっち見てよ」
心操くんは顔を上げて僕を見る。眉を下げて酷く申し訳なさそうだ。そんな心操くんの両頬に優しく手を添える
「順番逆になっちゃったけどさ。僕、君が好きだ。夏頃君を助けてからずっーーと君のことが…お昼休みに話すようになって、週2.3度君と話す時間が何よりも大切だった。それで気がついたら君が好きになってて……あのさ
僕、君と一緒に居たい」
ううん。君と一緒に居させてよ。
僕がそう言うと心操くんは目を見開いて、ぽろっと一粒涙をこぼした。
心操くんは小さな声で"俺こそ、お前と一緒に居たい"と言ってくれて
僕は彼を抱きしめた。ぎゅうっと出来るだけ力強く。すると心操くんはぎゅっと抱きしめ返してくれた。
ふふふっと思わず声が出る。すると彼は僕の胸からそっと顔を上げてふわりと笑って
物間、俺、お前が好きだ
そう言った。