はやく、はやく薫零domsub パロディ
『Come』と伝えれば俺の方にうつむいたままゆっくりとした動作で歩いてくる。
『Stay』と伝えれば俺の目の前で立ち止まる。綺麗なウェーブの掛かった黒髪に優しく手を通すと、目の前の男はふるりと身体を震わせた。
『Look』と伝えれば甘く熔けた真っ赤な目が俺を見つめて
消え入りそうな声で『かおるくん』とそう呼んだ。
目を合わせる朔間さんの頭を優しく撫で続けながら問いかける。
「朔間さん。今日は出来そう?」
朔間さんに問いかけると吐息だけが返ってきた。緊張してるのだろう。
朔間さんはあるCommandを使われるのが苦手だった。そのCommandはdom・subのplayではごく一般的なもので、一番最初に信用関係を確かめるために使われる事の多いCommandだ。
でも朔間さんはそのCommandだけはどうしてもダメだった
俺の問いかけに震え始める朔間さんを宥めるように、優しく自分の方にぎゅっと抱き寄せて、やさしく頭を撫でる。
「無理なら大丈夫だよ。強制じゃないし、コマンドでもない。出来ないなら出来ないで大丈夫。お仕置も絶対にしないから」
「朔間さんができるなら、しよ」
朔間さんにそう問いかけると、朔間さんは震える声で小さく『できる』とそう答えた。
朔間さんの頭をまた何度か撫でて自分の体から離して、もう一度嫌なら必ずセーフワードを言うことと念を押してから、LookとCommandを出した。
真っ赤ないちごのように溶けた瞳には透明で綺麗な膜が張っていて、それは今にもこぼれおちそうだった。
涙に濡れる瞳は綺麗だと、そう思った。
ああ…食べてしまいたい。
自身の喉から音が鳴ったのを無視して、朔間さんにとあるCommandを出す。
ここで怖がらせてはいけないから。
「朔間さん『Kneel』」
朔間さんは少しずつ少しずつ屈んでいく。
時間をかけて、少しづつ。
俺は朔間さんが座り切るまで何も言わずにただじっと朔間さんの赤い瞳を見つめる。
俺のコマンドのせいで朔間さんは目を離せない。俺が『Look』と言ったから。
はっはっ…と短い間呼吸を繰り返しながら、震えて落ち着かない朔間さんに、今この人をこんな状態にしているのは俺なんだと。
俺の命令を一生懸命聞いて、遂行しようとする。いつもは夜闇の魔王らしく…そんな素振りは少しもないのに。
俺の前ではひざまつこうとする。
本当に愛おしくて仕方ない。
時が止まったような長い時間をかけてぺたん…と朔間さんの髪色と同じ真っ黒なラグの上に座り込んだ。
濡れる瞳で俺の顔を見つめる朔間さんはあまりにも……
「朔間さん。Good boy……よく出来ました…」
朔間さんの頭を優しく撫でながら、俺も朔間さんと同じように椅子から降りてラグの上に座る。
そしてそのままさっきと同じようにぎゅうっとしばらく抱きしめたあと、おでこや鼻先にバードキスを繰り返した。
そうしていると震えていた朔間さんの身体がどんどん落ち着いてきてグズグズと鼻をすする音が聞こえる。
「頑張ったね…苦手なのに…ありがとう。俺のために頑張ってくれたんだよね」
「かお…かおるくん…ぐすっ…我輩ちゃんと出来ておった?」
「うん…出来てるよ。すっごく上手に出来てた。大丈夫大丈夫…偉いね、頑張って…よしよし……」
何度も何度も朔間さんのくせっ毛を手で透かして撫でた。この可愛らしくはねた髪も好きなんだよね。と思いながら何度も撫でていると、抱きしめた零くんから嗚咽が漏れ始める。
「うう~…」
頑張ったからねぇ、すごくすごく、頑張ったね。
「よしよし、いい子、いい子……」
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「薫くんってplayの時意地悪なのじゃ」
「俺がぁ?!どこが?!」
「うーー……意地悪じゃよ……」
朔間さんがあらかた落ち着いた後、2人で隣に並んで座る。時々頭を撫でてあげると朔間さんは嬉しそうに笑った。
「ええ〜……そんなことないと思うけどな~」
俺がそう言うと撫でる手を可愛らしい音を立てて払った後朔間さんはぷいっと顔を横に向ける
「いじわるじゃもん…いつもせぬことばっかりしてくる…」
「俺女の子から優しいって評判良いんだけどな~んん~おかしいな」
「薫くんが優しいのは女の子にだけじゃろ」
「ええっ?!朔間さんにも充分優しくしてるよ?」
「むむ…?そうかえ?」
こてんっと首を傾げるこの人のことを『かわいい』と思ってしまう時点でかなり特別だと思う。
「俺基本的に男はげろげろだけど~朔間さんも知ってるじゃん」
「それは確かにそうじゃが……」
もごもごと言いにくそうに小さな声で言った。
「でも深海くんにも優しいじゃろ…我輩だけではないぞい」
「あはは~奏汰くんは親友で~~す。朔間さんだって奏汰くんや日々樹くん、斎宮くんと仲良しじゃん」
俺がそう答えると不服そうにボスっと頭を腕に当ててくる。
「てかさ、それって嫉妬してくれてる?」
あはは♪かわいいね〜朔間さん♪
そう言ったとたん朔間さんの顔が一気に真っ赤になりそして結構な力でぼか!!っと殴られる。
「あいた!!えっちょっいたい、いたい!朔間さん力強いんだからさぁ!」
「薫くんが悪いのじゃよ!!意地悪ばっかり言ってきよって!!」
ポカポカと俺の腕を殴る朔間さん。殴る朔間さんの耳が真っ赤になっていた。
「もーーほらほら殴らないでってば……」
落ち着いて〜とそう言った後頭を優しく撫でると今度は俺の膝の上に頭をのせる朔間さん。
膝枕じゃん。ほんとこの人さー俺がこんなの許すの朔間さんにだけなんだけどね?
「俺本当に男好きじゃないしさぁ……それはdomsubだからって関係ないし?でも、んー…上手く言えないけどplayするの朔間さんならいいかなぁ…って感じだし…。朔間さんにはそういう抵抗感ないっていうかさ〜」
「ちょっとは信用して欲しいけどな〜…」
そんなことを話しながら朔間さんの癖のある髪の毛を優しく撫でる。
俺結構このくせっ毛好きなんだよねー猫みたいでか〜わいい。
「……名前」
「ん?」
小さい声で朔間さんが何かを言う。
「名前を…我輩も深海くんみたいに零くんって呼んで欲しいのじゃ…」
「名前かぁ……」
膝枕をしているから朔間さんの横顔しか見えない。でもきっと可愛らしい表情をしているのだろう。零…くんねぇ……うーん…
「んん……あーー……えー朔間さんじゃだめ?」
「何故じゃ…?我輩も名前で呼んで欲しいのじゃよ〜」
「いやだってさぁ……」
今朔間さんの事を名前でなんて呼んだらあからさまに朔間さんの事大切って周りに言ってるようなものだからなぁ…まだ今の俺じゃ言えないかな〜。
「今はダメかなぁ…俺たちまだパートナーでは無いじゃん?さすがに呼べない」
「パートナーじゃなくても名前呼びぐらい出来るじゃろ〜」
おーいおいと泣く振りをする朔間さん。
「うーん……名前呼びとかしたら俺多分止まれなくなるよ?」
「止まらなくてよかろう。最後まで食ってくれて良いぞい?」
寝転がっていた朔間さんがゴロンと俺の方を向く。真っ赤な目が俺を見透かすようにじっと見てきた。いちごみたいで美味しそうだよねぇ。
「それに今もじゃが…大体play中のお主いつでも我輩を食べたいみたいな顔しておるぞい」
今更じゃよ
「朔間さんっさぁ……ほんと……」
癖のある朔間さんの髪の毛を何度か手ですきながら、ひと房だけ持ち上げてわざと音を立ててキスをする。
「今はさ、これだけで我慢してくれないかな?朔間さん」
「俺達まだ学生だから、正式にパートナーになっても俺自身が責任を取れない。
卒業までに朔間さんに見合う男になるから、だからまだ待ってて欲しい」
「俺はちゃんと朔間さんの隣に立ちたいんだよ」
最初は意味わからないぐらいの人だったのにね。気がついたらこの人の隣にいるのが当たり前になってたから。
「俺が言わなくても、周りの人から『朔間零』の隣は『羽風薫』。そう言って貰えるようになるまで待ってて欲しい」
「今でも充分言われておるじゃろ…?」
「うん。そうだね。でもそれは朔間さんが俺を二枚看板って立ち位置に置いてくれたからだよ。俺の実力じゃなくて、朔間さんの言葉だからみんながそう言ってるの」
「それじゃダメなんだよ…俺自身の力で朔間さんの相棒にならなきゃ」
うむ…しかし…と困ったように話す朔間さんをまた撫でると仕方ないのう…と笑う朔間さん。
ありがと、と伝えると、薫くんじゃから特別じゃよ、と言う。俺やっぱり朔間さんにすっごく甘やかされてるよね。
朔間さんを膝枕から抱き起こして、そのまま足の間に抱えて抱きしめる。
朔間さんは動かずに俺のやりたいようにやらせてくれた。
ふわふわとした髪からするやさしい匂いと感触が大好きで何回か首筋の傍に顔を近づけると、擽ったそうにする朔間さん。そんな姿も愛おしいって思っちゃう。
早く、パートナーになりたいし
俺の零にしたい。だから頑張らないと。
俺のためにたくさん頑張ってくれるこの健気なsubと俺自身の為に
なーんてね。