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    naduki_hina

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    naduki_hina

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    【ラギ監♀】
    ラギーにしか見えない監督生とラギーの不思議な日常三日目午前。
    少しずつ手掛かりが…?

    ※少し長くなりそうなので三日目午前と午後を前後編で分けました。

    ##ラギ監

    ラギーにしか見えない小さな監督生の話③前編 ゆらり、ゆらり。覚えのある感覚に、オレはゆっくりと瞼を上げた。しかし目を開けて見た光景は想像していた水色一色の空間ではなく、水彩画のように様々な色が水色に滲んでいた。
     足元も、浮いているのか立っているのかわからなかった前回から、今回は足首まで浸かる水面が存在していた。しかし足裏から先は相変わらず、まだその先があるような不思議な空間になっていた。

     これは唯一監督生くんと接触できる夢の中だろう。オレはここに居るはずの監督生くんを探してぐるりと周りを見渡す。

     オレの周辺―手前に滲むのはオレンジと淡い緑色。その先は所々白の滲んだ水色。そして更に奥の方に小さなピンクが滲んでいて、反対の奥には青からグラデーションのように濃い青…いや、限りなく黒に近い青がずっと先まで広がっていた。そこにはもう淡い水色など一ミリも存在していない。
     探し人はそんな暗闇の手前のまだ辛うじて青と呼べる位置に、こちらに背中を向けてしゃがみ込んでいた。

     呼び掛けたいけど、この空間では声が出ない。そしてどうやら歩くことも出来ないらしい。
     透明度の高い綺麗な水が広がっているのに、底無し沼のような、泥濘に足を取られているような…その場で足を動かす事は出来るのに、水面から上げようとしても水面からは足が上がる事はなかった。
     これはあちらが気付いてくれるまで待つしかないのかと早々に諦めて、オレは監督生くんの背中を見つめた。

     ハイエナの耳が微かに聞こえる監督生くんの声を拾う。

    「そう……かった、うん…だい……ぶ、ラギ……いなら……うぶ……たしは…りじゃな…から」

     途切れ途切れの言葉に自分の名前を見つけるが、何を言っているのかはわからない。ただ、その言葉は独り言なんかではなく誰かと話しているような…語りかけているような気がして、そこに誰かオレ達以外にも存在しているのかと目を凝らす。
     オレの視線に気付いたのは監督生くんではなくその『誰か』で、監督生くんの体から僅かに見えたその小さな手がオレを指さす。そしてその指先を追って監督生くんが半身こちらに向けた時、話し相手がちらりと見えた。
     遠目ではあるが見間違う事はない。一日半、出会った時から片時も離れず一緒に過ごしているその小さな子供がこの空間にいた。
     監督生くんは小さな自分の頭を撫でて、それを合図にユウくんはこちらにも手を振って、あの暗い色の中へと歩いて行った。

     オレに気付いた監督生くんはオレの方へと歩いてきて、ユウくんは背を向けて真っ直ぐに暗闇へ向かう。いつの間にか暗闇に溶け込んで、ユウくんの姿は見えなくなっていた。
     そんな様子を呆然と見ていたオレに、監督生くんがにこやかに微笑みながら「ありがとうございます」と言ってきた。

    「あの子がここまでこれたのも、ここがこんな風になったのも、ラギー先輩のお陰です」

     たぶん、オレは何か決め手になる事をしたんだろうけど…実際は何も手掛かりなく途方に暮れていたので、一日の行動の何が変化をもたらしてお礼を言われたのかわからず腑に落ちなかった。
     そんなオレの考えが監督生くんに伝わったのか、監督生くんは緊張感の欠片もないくすくすという笑い声を空間に響かせる。その事にオレは呆れて眉間に皺を寄せれば、今度は慌てふためいた。

    「あ、怒らないでください!ただ、先輩が見捨てずに向き合ってくれた事が嬉しくて……面倒な事に巻き込んでごめんなさい…」

     そうして今度は謝って…その謝ってきた表情に、向き合うと決めた少女が見せた顔に重なって、オレの体の奥をもやもやとした感情が支配した。

    「ラギー先輩があの子や私に向き合おうとしてくれたお陰で、この空間が変化したんだと思います…確証はないんですけど」

     そう言われてオレはもう一度夢の空間を見渡した。そしてユウくんが消えていった暗闇を見ると、監督生くんが口を開く。

    「あの子は、今は先輩がそこから動けないようにあの色の場所からは出られないみたいです」

     なるほど。ユウくんの行動範囲はあの暗闇の中。それに今回の理由が隠されているんだろう。
     オレが直接この空間を歩き回れたら、調べる事が出来たら話が早いのだが…まぁ動けないし喋れないし。夢の中は監督生くんに状況を説明してもらわなければ何もわからない。
     今オレにできる事はこの変化と監督生くんの言葉を覚えておいて現実で調べることくらいかと、記憶するようにゆっくりと見渡す。

    (オレンジ・緑・水色・白・ピンク…青からの黒…そして水)

     一面水色だった所から増えたものは色と足場。これが一体何を意味するのか。件のハーツラビュル生に夢について聞く事がかなり重要な案件となってきた。
     オレが空間をよくよく観察していると、監督生くんの表情が硬くなる。すると暗闇は白く霧のような靄で覆われ始めて、ピンクの方はモノクロの砂嵐が迫っていた。

    「そろそろ時間みたいです」

     そう言っていつもより険しい表情をした監督生くんを中心に、前回夢から覚めた時のように眩い光が溢れ出る。もうすぐ視界がホワイトアウトするという時、監督生くんの声が響いた。

    「先輩、気をつけて下さい」

     何に?そう思った時にはあまりの眩しさに瞼を閉じて、次に開けた時視界に入ったのはすぅすぅと寝息を立てるユウくんの旋毛と暗いサバナクローの夜。
     オレはユウくんを起こさないようにそっと布団から抜け出して、机に置いてあった紙切れとマジカルペンを手に取る。
     夢で見た事聞いた事を忘れないように箇条書きしていく。

    (オレンジ・緑・水色・白・ピンク…青からの黒…水面……小さなユウくんが夢に現れた。空間にいろんな色がついた。オレが向き合おうとしたから変化したと監督生くんは言った…ユウくんは暗闇が行動範囲でオレも動けないし喋れない…)

     気付いた事をただ羅列していく。そこでふと監督生くんの言葉の違和感に気付いた。

    『あの子は、今は先輩がそこから動けないようにあの色の場所からは出られないみたいです』

    (『今は』って言ったよな…と言う事は動けるようになると言う事か…?)

     動けるようになれればあの空間自体を調べれるようになる。その方法は明確にはわからないが、ユウくんと向き合う事が変化の鍵なのは確定だろう。
     そして最後の『気をつけて』という言葉。監督生くんは何かに気付いている。けど、確証がなくて言えない何かなんだろう…その結果忠告しか出来なかった、という所だろうか?

     オレは書き出した紙と寝る前に書いたレポート用紙を見つめた。
     念の為…そう思ってマジカルペンを一振りする。お世辞にも綺麗とは言えない走り書きの文字が紙から中に浮かび上がる。そしてその文字は生きているかのように動き出してまた紙へと戻っていった。

     レオナさんの元に届く王家からの手紙にたまに施されている魔法の簡易版。手紙を暗号化させて本来の内容が一部の人間にしか読めないようにする魔法。
     王家の手紙に施されているのはもっともっと面倒で魔力を使う物だが、オレはそんな芸当出来ないから簡単にしたやつ。それでも誰かがコレらを解読しようと魔力を使えば、その痕跡を辿るくらいは出来る。あの気まぐれなレオナさん直々に教えてもらったから間違い無いだろう。
     あの忠告が何に対してかわからない以上、今はこれくらいしておくべきだろう。レオナさんクラスのヤツが相手だと無意味かもしれないが…

     そしてオレは魔法を施した紙とレポート用紙を、いつも貴重品を仕舞う引き出しに入れた。そしていつものように引き出しにロックをかける。これも魔力を使用しているから、誰かが開けようとすればわかる仕組みになっている。

     そこまでして、オレは一呼吸つき窓の外に輝く月を眺めた。

    「なんでこんな頑張ってんだろ…」

     特にオレに利益のないところまでやっている自覚がある。けれど何故か体が勝手に動いている。誰かにオレのユニーク魔法でもかけられているかの様に。
     ベッドで健やかに眠るユウくんを見て、少しだけ胸が暖かくなったのを感じる。

    「絆されるって、こういう事なんスかねぇ…」

     オレはまた、起こさないようにゆっくりと布団へ戻って、小さな頭を緩く撫でた。

    * * *

    【三日目】

     朝。いつものように朝を告げるアラームに起こされて、やはり夜中に起きて重たい頭を叱責しながら起き上がる。
     あの夢を見ている時は起きている時と同じように脳が働いているのか、寝た気がしない。その後起き上がってメモをした事もあるだろうが…
     オレはまだ夢の中に居るユウくんを起こさないように布団から出た。今日は朝練がある日なので体操着に着替えながら、朝食を作ってレオナさんとこに行くかと考えていると、布団に蹲っていたユウくんがむくりと起き上がり眠い目をごしごしと擦る。

    「こらこら、あんまり擦ると目が傷つくッスよ」
    「ラギーお兄ちゃん、おはよう」
    「はい、おはよう。まだ学校行くまで時間あるんで寝てて良いッスよ」
    「ううん、起きる」

     ユウくんはそう言ってブランケットを丁寧に畳む。霊体に近いユウくんに着替えやお風呂という概念はないらしく、身支度という身支度はなく寝床を片付けたら準備は終わりとでもいうようにオレの傍へとやってくる。
     オレはそんなユウくんに濡れタオルを渡して顔を拭かせる。

    「ユウくん、また泣いてたんスか?」

     昨日の晩は泣き声は聞こえなかったはずだが…オレが深く眠っている時だろうか?そんな事を思いながらユウくんの返答を待ってみるがあまり答えたくないようで、その事についてはノーコメントらしい。
     一生懸命顔を拭くユウくんの寝癖を整えながら、まぁ言いたくないなら無理に聞く必要もないかとこれ以上の追求はやめる事にした。

    「ユウくん、今日は朝練があるんでレオナさんのお世話と朝食が終わったらこの部屋で大人しく待てる?」
    「ユウも行っちゃダメなの?」
    「ん~ダメというか…オレもずっと一緒に居れる訳じゃないから危険なんスよ。ユウくんに何かあったらいろいろ大変なんで…」
    「ちゃんと大人しくしてるから、見てちゃダメ?」

     どうしてもついて行きたいと言うユウくんに、オレは考えうる危険や対処法を頭をフル回転させた。ユウくんが居ても安全な場所を脳内で思い浮かべては選別して、ようやっとあそこならという所が一つ思い当たった。

    「オレが言った場所から動かないって約束できます?」
    「うん、ちゃんと約束守る」
    「ん、じゃぁレオナさんのお世話もちゃんと手伝ってくれたらいいッスよ」

     ついでに少しでも楽してやろうと注文を追加すれば、ユウくんは元気よくそれを了承したのだった。なんだか怪しいやつに騙されそうな危うさを感じるも、この子が喋れるのはオレだけだし元の姿に戻ればさすがに大丈夫だよななんて考える。しかしオレの記憶の中の監督生くんは何かとトラブルの渦中に居るイメージで、元に戻っても危ういのは変わらないかもしれないと考え直した。

     ユウくんの簡単な身支度を終えて、サバナクローの小さなキッチンへと向かう。そこで軽食を作ってレオナさんの所へ行く。もう準備しないといけない時間なのにまだ惰眠を貪る王様を叩き起こしながら、戻って来た時に楽なように洗い物を一か所に纏めていけば意図を理解したユウくんが同じように衣服を集めてくれた。
     あっという間に片付いて、後はレオナさんの身支度だけと三人分用意した軽食を一つはレオナさんの近くに、残りをオレが食べながらユウくんへ分ける。オレが当たり前のように手渡す様子を見ていたレオナさんは驚いて「食べるのか?」とポカンとした顔でこちらを見ていた。そういえばレオナさんは知らなかったっけ?とオレは昨晩の経緯を説明しながら朝食を食べた。

    「おい、こっちも食うか?」

     あっという間に実践魔法で身支度を済ませたレオナさんが、オレの話を聞いてユウくんが居るであろう方向に向かって自分のフォークを差し出した。けれど刺さっているのは緑色をした野菜…

    「レオナさん…体よく野菜をユウくんに食わせようとするのはどうかと思うッスよ。ユウくんも、あんな好き嫌いをする大人になっちゃダメッスよ?」
    「はーい」
    「おい、ラギー。オレはその小せぇのに分けてやろうとしただけだ」
    「ユウくんの分はオレの皿にちゃんと乗ってるんでレオナさんは自分の皿の上にある物をきっちり食べて下さいね」

     オレはこれ以上は聞きませんよと耳だけ向きを変えれば、それでもその耳は微かに舌うちを拾ったのだった。

    * * *

     朝食も終えて、サバナクロー寮のマジフト場へ移動する。試合でもなければただの練習日。観客席とかよりは選手のベンチ席の方が安全だろうとそこにユウくんを座らせた。絶対にうろうろしない事を再度約束してオレは他の寮生の元へと向かった。

     ユウくんはオレの言いつけを守って大人しくオレ達の朝練を眺めていた。その目はあの日飛行術の授業を見て居た時と同じくキラキラと輝いていた。
     そんなユウくんの様子を常にしっかりと見れる訳もなく、オレは珍しくやる気のレオナさんに扱かれていた。そんなレオナさんの扱きに一年の奴らは完全にへばっていて、小さなミスが多くみられるようになり、そろそろ終わる頃合いかと思ったその時、あらぬ方向へディスクが飛んで行く。その先に居るのはユウくんで、他の誰にも見えて居ないから誰もそのディスクを取ろうとはしない。
     オレ以外ではただ一人、レオナさんだけがそこにユウくんを座らせる瞬間を見ていたので、その事に気付いてベンチ席へ向かって飛んだオレに魔法で加速を付けた。
     ユウくんに向かって迫るディスクは間一髪で掴むことが出来、オレの言いつけを『きっちり正しく』守ったユウくんは両手で頭を覆うようにしてその場で身を小さくしていた。
     一先ずレオナさんに視線を向けて一つ頷いた。それでユウくんが無事だった事は伝わって、レオナさんはこちらに背を向け他の寮生達へ朝練の終了を告げて解散となった。

     未だ蹲っているユウくんにオレはほっとして大きく息を吐いた。するとその声にぴくりと反応を示して恐る恐る顔を上げるユウくん。

    「絶対にうろうろしないでとは言ったッスけど…危ない時はちゃんと逃げないと、毎回オレが助けれる訳じゃねーんスよ?」
    「ごめん、なさい…」
    「臨機応変に動かなきゃ、ユウくんすーぐ怪我するッスよ」

     まぁこの小さい頃の監督生くんに臨機応変だなんて言っても伝わらないだろうけど…それでもまさか本当に言いつけ通りに全く動かないとは思わなかった。なんかあったらどやされるトコだったとほっとしていると、小さな声で「やくそく」と聞こえてオレは顔を上げた。

    「約束、守らないとね…お母さんが泣いちゃう、から…」

     今のこの状況と母親が泣くという話と、何がどう繋がったのかわからないオレは、ただユウくんの言葉を聞き洩らさないようにするだけで精一杯だった。あの夢の世界のように、監督生くんの言葉を逃さないように。

    「…今ここには、ユウくんのお母さんは居ないけど…」
    「いつもね、ユウがお母さんとの約束破っちゃうと、お母さん泣いちゃうの…それでね、お母さんのためにもいい子にしてって約束するから、約束守らないといけないの」

     ユウくんの口から語られるユウくんの母親との関係は、異世界とは言えオレの知っている家族というものとはどこか違う、歪な関係性。あの夢の中でこの子が住んでいる世界は、そんなどこか歪な部分を表しているのだろうか…
     今追及しても分からない手掛かりとも言えないこの話を、オレは一先ず心に留め置いてユウくんの頭を一撫でした。

    「とりあえず、学校もあるんで部屋に戻りましょ」
    「…うん、ごめんなさい」
    「もういいッスよ。さっきのはお母さんじゃなくてオレとの約束なんで、オレが別にいいって言ってるんだからもういいんスよ。ね?」

     そう言ってユウくんの手を引いてオレは部屋へと帰った。

    * * *

     午前の授業は動物言語学。得意とする科目で評価を落とすような事はしたくなかったオレは、ユウくんを伴って普通に授業に参加した。
     ルチウスくんを見つめて、近寄りたいけれど傍に寄れない。そんなそわそわした様子を見せるユウくんを見て、つい笑みを作っている自分が居た。

    (今朝瞬間的に助けに行った事と言い…本当に絆されちゃってるかもなぁ)

     そんな自分の変化に、いい加減認めるしかないかと思う。認めてしまえば簡単で、ルチウスくんが触りたくて仕方ないユウくんの為に、後でルチウスくんに交渉してみるかなんて利益にもならない事を計画していた。

    (ま、小さいの見てると、スラムのチビ達思い出しちゃうから仕方ないッスよね)

     それでもまだ、オレは本当にそう思うように、絆された理由を言い訳の様に着けていくのだった。

     そんなまったりとした時間が過ぎていき、今日もお昼争奪戦にオレは向かう為に昨日と同じ場所にユウくんに待機してもらうようにお願いした。

    * * *

     レオナさんのお昼と今回からはユウくんとオレのお昼も購入して急いでユウくんの元へと戻る。すると居るはずの場所にユウくんは居らず、オレは焦って周囲を見回した。まだユウくんの気配を近くに感じてそちらを見やれば大きな体格の寮生が目に入った。
     ジャックくんが立っている傍にユウくんの姿を見つける。ふわふわの尻尾にもふもふと顔を埋めて居るユウくん。一先ず顔見知りの傍に居てくれたことに安心したオレはほっと一息ついてジャックくんの傍へ駆け寄った。

    「ジャックくん」
    「あ、ラギー先輩」

     オレはジャックくんに声を掛けると、ジャックくんは少し困ったような顔でこちらを見た。

    「ユウくん」

     少し低めの声でユウくんに声を掛ければ、ビクりと肩が震えてオレが来て喜んでいた表情もじわじわと曇りだした。

    「木のところに居なかったから心配したッスよ…」
    「ごめんなさい…」
    「あ、やっぱここに監督生が居るんすか?」
    「うん、ジャックくんありがとね」
    「あ、いえ、それは別にいいんすけど…」

     聞けば、ジャックくんを見つけたユウくんは、今朝の朝練でオレやレオナさんと話しているジャックくんを見て大丈夫な人だと判断したらしい。そんなジャックくんが見えたので知っている人だ!と近寄って、ジャックくんは突然尻尾を掴まれて驚いたけれど何も居ない事から噂の監督生くんだろうと思い、一人にする事も出来ずその場に佇んでいたと…

    「ジャックくん、昼飯は大丈夫ッスか?」
    「あー、まぁとりあえずは…なんとかします」

     今から行くなら食堂だろうが、この時間はもう混みあっているだろう。この頭の固い後輩は先輩のオレに対して気を使って大丈夫と言っているが根拠はなさそうだ。

    「これからレオナさんとこ行くんスけど…ユウくん、離れそうにないし一緒にきます?これでよければあげるんで」

     迷惑料、と買って来たパンを手渡した。珍しいオレからのお誘いにわかりやすく嬉しそうな顔をするこの暑苦しい後輩は、イヌ科らしく尻尾をぶんぶんと振り回す。そこにユウくんが居たことも忘れて。
     案の定ユウくんの顔にそのもふもふとした大きめの尻尾がバシバシと当たってよろける。そんなユウくんを捕まえて支えれば、見えないなりにもオレの動作から察したジャックくんが後ろを振り向いて「あ…監督生、すまん」とユウくんが居る方向とは反対方向へ向かって謝罪する。
     なんだかそのちぐはぐな光景に笑ってしまいながらも、そろそろ行かないと王様のご機嫌を損ねそうなので二人にそう伝えて急いで植物園へと向かった。

     植物園に着いて王様の元へ行くと、「遅い」と偉そうな態度で出迎えられる。まぁ実際偉いんスけど…
     ユウくんは既にレオナさんに慣れたのか、昼食を手にレオナさんの元へと駆け寄った。そんなユウくんから昼食を受け取るとユウくんが居る方の自分の隣を尻尾でぺしぺしと叩く。たぶん座れって事なんだろうけどユウくんにわかる訳もなく、オレがその事をユウくんに伝えれば嬉しそうな顔でレオナさんの隣に座って自分の昼食を頬張り始めた。
     そんな二人のやり取りをポカンと見つめるジャックくんに「オレらも食いましょ」と勧めながら昼食を食べる。早々に食べ終わって横になり、けれど尻尾だけ動かしながらユウくんの相手をするレオナさんを見たジャックくんが「珍しい事もあるんすね…」と昨日のオレのような事を言うもんだから、面白くて噴き出してしまう。

    「ところでジャックくん。ジャックくんは監督生くんにユニーク魔法をかけたハーツラビュルの生徒についてなんか知らないッスか?」
    「あー…すんません、そんな詳しくはないっす。ただ…」

     ジャックくんの話によるとその生徒と監督生くんが話している所をたまに見た事があるという。ただその様子がちょっと違ったらしくて何かあったらと思って聞き耳を立てた所「仲良くしようぜ」とその生徒が監督生くんに言っていたと…そして監督生くんはそれを笑顔でお断りしていたらしい。

    「俺が知ってるのはそのくらいっすね…クラスも違うんであんまり関りがないんで」

     同じ学年といえどクラスも寮も違ったら話す事もないだろう。しかし何も知らないよりは情報が得れた。ジャックくんには軽くお礼を言えば、また嬉しそうに尻尾をぶんぶんと振り回すので、毛が飛ぶと指摘すればしゅんと耳も尻尾も垂れてしまった。申し訳ないけれど食事中なのでこれはマナーとして仕方ない。
     午後の動きを考えていると、ユウくんと戯れていたはずのレオナさんから声がかかる。

    「こいつの三食分、財布から出して何か食わせとけ」
    「いいんスか?まぁ言われなくても既にそうしてますけど」
    「フンッ…クロウリーの奴にうまーく話しつけとけよ?」

     ああ、なるほど。学園長に上手く恩を売っておけと。そうなると午後の動きは一先ず監督生くん本体への接触が先かと脳内で午後の予定を組みなおした。

    * * *

    (続く)
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    Replies from the creator

    naduki_hina

    DONEラギ監Webオンリー【Donut with You!-Birthday Special-】にて展示したお話です。
    ⚠︎ユウくん呼び。捏造あり。未来軸。結婚済み。

    ○○坊宣言シリーズ最新作。ラギー誕生日話になっています。
    時系列的には食いしん坊宣言の次。未来軸で結婚している二人のお話です。
    シリーズリンクはこちらhttps://www.pixiv.net/novel/series/8319
    慌てん坊宣言 もうだいぶ慣れてきた仕事を終えて、こっちはまだ慣れない帰り道を歩く。ポケットに入れていたスマホを手に取り、メッセージアプリを開いて帰っている旨を送れば、いつもはすぐにつく既読のマークが一向につかない。
     いつもなら何事かあったのかと心配して焦る所だろうけれど、今日という日が何の日かわかっているから帰る先で起きているであろう様子を想像してはついつい口元が緩んでしまう。

     彼女がナイトレイブンカレッジを卒業したその日、彼女の元へ押しかけて攫うように自分の巣へと連れ帰った。最初こそ驚いていたものの、当時から恋人という関係にあった彼女も密かに一緒に過ごす日々を望んでくれていた。
     そして同じ家に住むようになって互いの仕事が安定したとあるクリスマスに、これからも一緒にいてほしいと伝えた。翌日には指輪と一緒にこれからの未来を考えると手狭になるだろう家も変えようと二人の巣も一新した。
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