今更、戻れはしないけれど 中也の携帯に着信があった。
番号を知る人間など限られる為、画面を確認する事なく応答する。
「はい、此方中原……」
何故か妙な予感がして、そこで言葉を切った。
耳元に集中し、スピーカーから何か音がしないか待っていると、
「ゴホッ、ゴホッ……」
咳き込む声に芥川かと思ったが、向こうから連絡して名乗らないはずが無い。
「誰か知らねぇが、要件が無いようなら切るぞ」
通話を切ろうとした時、
「……ちゅう、や……?」
聞き間違いかと思ってしまうほどにか細くて小さい声がした。
「太宰?」
確かに太宰の声には違いない。
だが、その声は掠れていて、いつもいつも場を弁えずに喋る威勢のいい声とは程遠い。
「手前……どういうつもりだ」
7656