ごはんを食べよう16「……」
少しの逡巡の後、口を開ける。
口の中にそうっと差し入れられたマグカップケーキの味なんてわからなかった。
「美味しい?」
「……はい」
それ以外になんと言えるだろう。
ずるい、と思った。イソップはイライが好きで好きでならないのに、イライの方はこんなふうにイソップを翻弄する。
イソップはくすくす笑うイライの手をフォークごと掴んだ。
「イソップくん? どうし、」
どうしたの、なんてその先を、イライが口にすることはなかった。
かたん、とフォークの落ちる音がする。
イソップが口付けたのはイライの右手の甲で、イライはそれに驚いていた。
「イライ」
じっと上目になって見つめると、イライは急に焦ったようにしどろもどろになった。
あー、うー、となにかもごもご言った後、ややあって「ごめん」と呟く。
その顔は耳まで真っ赤だった。
ああ、好きだと思う。
イソップの恋心を弄ばれているのだとしても、それでもいいと思えるくらいにイライを好きだと思う。
イソップは切り分けたマグカップケーキをイライのマグカップに放り込み、イライのフォークを拾った。
「交換、ですよ」
「……うん」
言って、もごもごとケーキを食べるイライの顔は赤いままだ。
「どうですか?」
「味、わかんない……」
そうでしょう、と頷いて、イソップは自分のマグカップの中身を空にした。どきどきしすぎてケーキの味はしないのに、空気が甘い気がする。
なんだかおかしな気分だった。