一匙の悪しき心「伊地知さん、恵は卵のおかゆが好きなの」
「へえ、じゃあ一つ出してもらって良いですか?」
間もなく日が沈もうかという頃合い。小さな小さな六畳一間。台所ではくつくつとなにかが煮える音。
顆粒の出汁とほんの少しの塩とを準備して、伊地知は昼ごはんを食べたままと思わしき食器達を洗っていた。午前の授業が終わった辺りで津美紀から電話を受けた伊地知は、恵の体調不良を知らされた。幸い、任務もなくアパートに直行し、制服を脱ぐ間もなく台所に立っていたのだ。小学生二人は本日学校を休んだらしい。
冷蔵庫から卵を取り出した津美紀は、その丸みを大切そうに両手に持っている。
「私、卵割るの得意なんだよ」
「じゃあ混ぜるところまでお願いします」
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