距離が近いナルジェンナルシストルーの距離感はおかしい。
ブンドル団のアジトにて。ジェントルーはキュアスタを眺めつつ、背後の存在を意識していた。
というのも、背後のナルシストルーはジェントルーにとても近い。互いの身体が触れそうなくらいには近い。それも今回だけではなく毎回なのだ。一体何のつもりだと問い質したくなるのも仕方がないというもの。
「ナルシストルー……」
「ん? オレさまのことは気にせずレシピッピを捕獲するための情報集めたら?」
「いや、しかし……」
当然であるかのようにナルシストルーはジェントルーの背後にいて、ジェントルーの手元を覗き込んでいる。任務遂行のために今はやるべきことに集中したいのに、ジェントルーは気が散ってしまってしょうがない。
「少し離れてくれ」
「なんで?」
「やりにくいんだ」
「いつもこうだったじゃないか。問題ないよ」
「いや……」
問題があるかどうかはナルシストルーが決めることではないと思う。しかし、ナルシストルーの有無を言わせぬ語気にジェントルーは続きを言い澱んでしまう。
そもそもナルシストルーが言うように前までは何も気にしていなかったのだ。どうして今さら気になってしまうのだろうとジェントルーは首をかしげる。いや、今までがおかしかったに違いない。
ジェントルーが距離をとろうとすると、ナルシストルーに腕を掴まれてしまった。
「どこへ行く? まだ情報収集が終わってないだろう」
「情報収集はこれまで通りにきちんと行う。だが、どこでやろうが私の勝手だ」
ナルシストルーの腕から逃れようとジェントルーは身を捩る。しかし、掴んでくる手は力強く、それどころか先程よりももっと強く掴まれてしまう。
「放せ。邪魔をする気か?」
ジェントルーが睨み付けると笑みが返ってくる。だがどこか寒さを覚えるような笑みだ。ジェントルーの心臓がびくりと跳ねた。
「オレさまが君の邪魔をすると思うのか?」
笑っているはずなのに笑っていない笑顔でナルシストルーが言う。
「てか、オレさまが邪魔なわけないよな」
まるで確定事項のように言うナルシストルーを、ジェントルーは否定しようとするが恐怖を感じたからか拒否しきれない。
「……わかった、このまま続きをやろう」
仕方がないのでその場に留まることにするとあっさりと腕は解放された。
困惑していたジェントルーだったが、このままではいけないと気を取り直すことにする。情報収集に集中しなければ。 だが、やはり背後のナルシストルーに気が散ってしまって仕方がない。
「ナルシストルー……」
「何?」
やっぱり別の場所に、そう言いかけたジェントルーの身体は背後からのびてきた腕に絡めとられていた。
この場にはジェントルーとナルシストルーしかいない。となればこの腕は間違いなくナルシストルーのもので。
「なっ、何をする!?」
「何って、オレさまの人形をかわいがっているだけだけど?」
「あなたのでは……というか私は人形ではない!」
「はいはい、このお人形は大変活きがいいことで。……流石はオレさまの人形、オレさまにジャストフィットだ。はぁ、落ち着く」
「私は全然落ち着かない……!」
ジェントルーがもがいても、ナルシストルーの腕はびくともしない。
おかしい、距離を取ろうとしたつもりがむしろもっと近くなってしまっている。
内心で憤りながら、ジェントルーは自身の体温が上がっていくのにも気づいて混乱していた。
今まではこんなことはなかったのに、一体自分はどうしてしまったのだろう。そもそも何故今になってナルシストルーの距離感を気にしてしまうのか。
不思議と抱き込まれていること自体は嫌だとは思っていない。ただ、どうにも落ちつかなくて。腕から伝わる体温も、傍にいることでわかる相手の香りも、呼吸の度にそれが相手に伝わるのも、相手の呼吸の様子がわかるのも。嫌ではないけれど落ち着かないから振り払って逃げ出してしまいたいのに、ジェントルーの身体をがっちりと抱き込んだナルシストルーがそれをさせてくれない。
平静になれ、大丈夫だと自身に言い聞かせながら、ジェントルーはナルシストルーが飽きるのを待っている。
そんな様子をナルシストルーが目を細めて観察していることに、ジェントルーが気付くことはないのだった。