Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    sirokuma_0703

    @sirokuma_0703

    ☆quiet follow Yell with Emoji 🌺 🐠 💝 🎡
    POIPOI 42

    sirokuma_0703

    ☆quiet follow

    🥞から別れを切り出される🌟。
    特にグロくはないですが、ほんのりと死の香りが漂ってるので注意です。

    平和な1日だった。仕事は午前中で終わって、天気が良いから洗濯ものを外に干して、買い出しがてらに散歩に行って、夜に彰人が来るのを待っていた。食事は済ませてくると言っていて、けれど甘いものはあってもいいだろうと思って、彰人の好物のチーズケーキを作っていた。久々のお菓子作りは大変だったが、彰人の喜ぶ顔を思えば苦ではない。オレはそんな風に、彰人を待つ時間が好きだった。
     チャイムが鳴る。オレは急いで玄関のドアを開けて、彰人のことを出迎えた。
    「彰人…?」
    いつもと違う様子に、首を傾げた。元気がないというか、暗いような気がする。何かあったのだろうか。なんだか嫌な予感がした。
    「仕事、お疲れ。上がって」
    「司センパイ」
    オレの言葉を遮るように、彰人はオレを呼んで、頭を下げた。
    「ごめん。オレと、別れてほしい」
    「…え?」
    遠くの方で、チンッと音が鳴った。

    「お、オレは...何か、悪いことをしただろうか」
    震える声でそう聞いた。ここ数週間、お互い仕事が忙しく、会えない日々が続いていた。けれどその以前にそんな素振りは無かったし、はっきり言って別れ話をされる心あたりは何もなかった。彰人は静かに首を振る。
    「センパイは何も悪くない」
    「じゃあ、なんで!」
    「他に、好きな人ができた」
    オレは目を見開いた。
    「…女か?」
    彰人が頷く。目の前が真っ暗になった。あぁ、やっぱり!オレの頭にいる誰かが、そんな風に嗤った。やっぱり、お前じゃ駄目だったんだ!
    「…わかった。別れよう」
    そう言うと彰人は、ほっとしたような顔をしていた。

     彰人を困らせることがなくて良かった。1人ぼっちの部屋の中で、オレはそう考えていた。あまりに急な話で、まだ何一つ消化できてはいない。それでも、わがままを言って嫌われるのは本意ではなかった。だからあれでよかったのだ。ふと、部屋に甘い香りが漂っているのに気が付いた。レンジを開けると、綺麗に焦げ目のついたチーズケーキが鎮座している。
    「作りすぎたな」
    本当なら、彰人と一緒に食べるはずだった。好物だからたくさん食べるだろうし、もし駄目なら、持って帰ってもらえばいい。そんな風に考えていたのに、結局オレ一人で食べる羽目になってしまった。もう切り分ける必要すらなくて、オレは型に入ったままのそれに、フォークを突き立てた。
    「美味しい…」
    当然だった。彰人のために何度も改良を重ねて作った、オリジナルのレシピ。もう身体が分量を覚えていて、メモを見る必要さえない。せめて最後に、これだけでも食べてほしかった。視界がぼやけてくる。チーズケーキを、もう一口頬張った。涙が零れ落ちた。

     チャイムが鳴った。急いでドアを開けるとなんてことはない、郵便物が届いただけだった。配達員にお礼を言って、ドアを閉める。
    「もういやだ...」
    ぽつりと、自分でも意図しないうちにそんな声が漏れた。彰人と別れてから1週間、オレの心はまだ、彰人に囚われたままだった。そのうち、やっぱりあれは間違いだったなんて、もう一度やり直してくれないかなんて、そんな風にメッセージが届くことを期待している。ここに来るのを待っている。あんなふうに言った手前、オレのところに戻るには、躊躇いもあるかもしれない。だが人間には、気の迷いというものがある。オレだってそれは知っている。だから何も気にしないで良いんだぞって、そんなことばかり考えている。さすがに本人には言わないが。
     何もする気力が無くて、部屋の中は荒れていた。食器は洗わずに放置してあるし、洗濯機からは服が溢れている。眠ることさえままならない。彰人にもらった抱き枕を抱きながら、スマホにある彰人の動画を再生して、その声に耳を傾けながら寝落ちする。良くないなと、わかってはいた。

     1年が経っても、オレの心の傷が癒えることは無かった。慣れた、というのもまた違う。ふとした瞬間に彰人のことを思い出すし、街を歩けば、すれ違う人々に彰人の姿を探した。心の中に、ぽっかりと穴が空いている。世界が色あせて見えるなんてことが、本当にあるんだなと思った。あれからオレも、新しく恋人を作ろうと考えた。けれど、彰人の代わりを求めるような真似は良心が咎めて、それはできなかった。やっぱりオレの運命の人は、彰人だったのだ。ずっと好きで、今でもこんなに好きで、忘れることはできない。しかし、彰人にとっては違ったらしい。今この瞬間、彰人が別の誰かに笑いかけて、別の誰かを抱きしめているなんて、考えるだけで気が狂いそうだった。オレの部屋には、いまだに彰人にもらったプレゼントや、使っていた食器が残っている。プレゼントはベッドの上に乗せられるものだけ乗せて、オレを取り囲むように置いてある。その中心に横たわって、オレはやっぱり彰人の動画を見る。
    『何撮ってんだよ』
    『別にいいだろう。照れているのか?』
    『そんなんじゃねぇ。チーズケーキ食ってるとこなんか撮って、どうするんだって言ってんだよ』
    『後で見返すんだ』
    『はぁ?いつだよ』
    『うーむ...寂しい時、とか?』
    『はぁ。そんなの、オレに直接言えばいいだろ。ほら、消せよ』
    動画はそこで終わる。寂しい。寂しいんだ、彰人。早くオレを、助けに来てくれ。

     ネットニュースで、彰人の結婚を知った。一般の女性が相手で、1年半の交際を経ての入籍らしい。きっと、オレと別れるときに言っていたのと同じ女性だ。狡いなと思った。オレとは二年付き合ってたのに、結婚なんて言葉、1度も口にしてはくれなかった。すべてを消さなくてはと思った。ごみ袋を持ってきて、彰人に貰ったもののすべてを放り込む。そこそこの量になったから、捨てに行くのが大変そうだ。衝動的に食器を床に叩きつけてしまったせいで、破片が散らばって、これもまた大変なことになっている。なんだかすべてが面倒くさい。
    「もういいや...」
    そんな言葉が、ぽつりと零れ落ちた。

     できるだけ何もない日を選んだ。なんの記念日でもなくて、でも天気がいい日にした。最後に見るのは、やっぱり青空が良い。部屋は綺麗に片づけてある。スマホのデータも消しておいた。準備は完璧だ。
    「オレはもう、十分頑張っただろう?」
    返事はない。オレは笑った。
    「じゃあな、彰人」
    生まれ変わったら、どうか______
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏🙏😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭👏👏👏😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭👏👏💕💕💕🍌👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works