あるいていこう 先のことを考えるくらいなら、好きなように好きな坂を走った方がずっと楽しい。
バスの中、車窓から流れる見慣れた景色を横目にしながら真波はそんなことを考える。
肉体的には苦しいもきついも当然あるが、少しの運動で息切れを起こしてはベッドに縫いつけられていた幼い頃の日々を思えば、気になりもしなかった。それどころか、自分が今ここにいることを強く実感させてくれるから、強い相手と戦えば心が高揚して逸るから、だから真波はいつだって自転車で駆け出してしまう。
それは高校を出て大学に通うようになってからも変わらなかった。
だって坂は、山は、いつだって真波を呼んでいる。
あまりにも自由すぎるから、先輩やチームメイト、果てはコーチに監督などからも苦言をもらうがあまり聞く気のないまま今日まで来ていた。なんだかんだで実力が物を言う世界だから、結果を出せば道理も引っ込む。
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