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    gurasan

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    VOID二次創作 ネタバレあり
    HO3:小鳥遊真 HO4:シロ

    灰を埋める 昔、世話になった上司の墓石の前で、小鳥遊真は煙を遊ばせていた。
     殉職だった。もう五年も前になる。職業柄、珍しい話ではない。とくに昨今は技術が進歩したこともあり、殺傷能力の高い武器が裏市場に出回っている。それに応じて、警察の持つ銃器も多様性を見せ始めたし、最近ではビームサーベルのようなものが開発中らしいと聞いた。
    「アンタが生きてたら、意気揚々と使うんだろうなァ」
    「剣技が得意な方だったのですか?」
     宙に向かって語り掛けると、斜め後ろから返事があった。独り言のつもりだったが、最近拾ったアンドロイドはそれを察せなかったらしい。それとも、好奇心というものが実装されているのだろうか。ともあれ、今日の小鳥遊は静かに感傷に浸る気分でもなかった。
    「そうだな、剣道の段位が何段だとか、よく自慢げに話してたよ。何度も何度も、しつこいったらねえ、あのクソ親父」
    「マスターは、この方があまりお好きではなかったのですね」
     そう言われ、小鳥遊はつい後ろを振り返った。真っ白なアンドロイドは、シロという名前と同じくらい捻りのない瞳で、小鳥遊を見ていた。
    「……」
     平素であれば、そう思われていてもよかったが、何分ここは墓の目の前だった。元上司の涙ぐんだ声音が墓の下から聞こえる気がして、少しだけ据わりが悪い。小鳥遊の言葉を額面通りに受け取りすぎるところは、それこそ機械と同じレベルだった。
    「……べつに嫌いってわけじゃねえよ。世話になったしな」
    「そうなのですね。該当データを修正しておきます」
    「記録すんなこんなもん」
     深々とため息をついてからニコチンと一緒に息を吸いこむ。煙草の先端が赤く燃えて、じりじりと灰になっていく。
    「灰皿」
    「はい、マスター」
     シロが右手を前に出すと、手首のあたりがパカリと開き灰皿が露出する。小鳥遊が改造して取り付けたもので、我ながら気に入っている。火を押し付けて消してから、「帰るか」と踵を返した。
     石畳の上を歩きながら、立ち並ぶ墓石を横目で眺める。VOIDが登場する少し前から墓の在り方も近代化が進み、こういう寺に隣接する墓地はむしろ珍しくなった、らしい。恭雅がそう話していたが、小鳥遊からすれば他人事だった。
     小鳥遊真には、入るべき墓がない。
     孤児に生まれ、まだ結婚もしていない。その気もないので、独り身のまま死ぬだろう。
     燃えて、骨と灰になったあと、自分がどこへ行くのか。
     考えるのが面倒で、小鳥遊は新しい煙草を口にくわえた。


    「シロ、火」
    「はい、マスター」
     一年経って、小鳥遊は再び墓参りに訪れていた。我ながら律儀なことだ。シロの指先から揺らめく炎を視界に入れながらそう思う。煙草と線香に火をつけてから、煙草だけ口にくわえてしゃがんだ。線香立てに差してから手を合わせる。
     しばらくしてから目を開けたが、立ち上がらずに暮石に刻まれた文字を眺めていた。
    「去年の同日も、ここを訪れたと記憶しています」
     察しのいいのかたまたまなのか、シロが小鳥遊に告げた。どちらにせよ話題選びは下手くそだなと思いながら、煙を吐き出す。
    「まあ……命日は、正確にゃ明日なんだがな」
    「どうして前日にいらしているのですか?」
    「家族と鉢合わせんのは面倒だからってのと、……今日は、この人が撃たれた日なんだよ」
     病院に緊急搬送されて、十数時間の意識不明の後に死んだのだ。その間病院で一緒になった家族は揃ってぼろぼろと涙をこぼしていた。葬式でもそうだった。小鳥遊が死んだとして、惜しんでくれる人間の心当たりはほとんどない。なくなった、という方が正しい。しかし、万一友人のひとりやふたりがいたとして、死んだ後も会いに来ることはないだろう。綺麗に手入れされた墓石と生花を見ながらぼんやりと考える。
    「マスター、灰が落ちます」
    「ん、ああ」
     シロが隣に跪いて灰皿を出したので、煙草を差し向けると、指で弾く必要もなくぼろりと零れ落ちた。小鳥遊が煙草をくわえ直すと、シロの前腕が音を立てて閉じる。他のアンドロイドにはない機能。小鳥遊がつけた、シロだけの機能。
    「……」
    「何か御用でしょうか、マスター」
    「いや、べつに」
     無機質な真っ白な瞳が、小鳥遊を見つめ返す。
     何かのためというわけでもなく、気まぐれで拾ったアンドロイド。前例は聞いたことがないが、ひとつ、閃いたことがあった。
    「骨は、さすがに無理だな」
    「申し訳ありません。どういう意味でしょうか」
    「独り言だよ。そろそろ帰るぞ」
    「かしこまりました」
     立ち上がって歩き出すと、シロが一歩後ろを追従した。立ち並ぶ墓石の中に混ざる白色を横目に見て、小鳥遊は満足げに頷いた。
    「墓探しの手間が省けたな」
     口にくわえた煙草から、ゆらゆらと白煙が立ち上る。燃えて、灰になったあとの行先は、もう決まっていた。
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