言いたいな。「エマ、すきだよ」
すき、好き、大好きだ。口にすればするほど陳腐になっていくようでもどかしい。それでも、彼女への思いをこれだけ的確に表現できる言葉はそれしかないのだ。だから、仕方ない。言い訳でしかないのは自分が一番分かっているから。
そう思って、ノーマンはひとりうっそり微笑んだ。どうかこの言葉が彼女の鼓膜を揺らし続けますようにと、ほの暗い願いを胸に、今日も彼女の耳元で囁く。吐息がかかるのか、言葉を送る度に彼女の肩がピクリと跳ねるのが何だか可愛らしくて、つい何度も繰り返してしまうのだが。
「エマ……」
「ん……」
そっと頬に手を添えてこちらを振り向かせると、彼女は抵抗することなく素直に従った。眠気のせいだろうか、いつもより潤んで見える瞳を見つめながら顔を寄せていく。
あと少しで唇同士が触れ合うというところで、ノーマンはぴたりとその動きを止めてじっと見下ろした。すると、その視線に応えるかのようにエマもまた見上げてくる。
二人の目が合ったまま数秒の間沈黙が流れ……そして、どちらともなくぷっと吹き出した。
「だめだね、寝込みを襲うなんて」
「うん……さすがにそれはちょっと、ねぇ?」
くすくす笑い合いながら額を合わせる。ふわりと漂うシャンプーの香りに誘われるようにして再び顔を寄せるけれど、今度は寸でのところで思い留まった。
「おやすみ、エマ」
ちゅ、と音を立てて軽くキスをして離れると、ノーマンは静かに目を閉じた。
暫くして隣からすやすやと規則的な寝息が聞こえてきた。先程よりずいぶんと重たくなった瞼を持ち上げて、ノーマンはエマの方へと寝返りを打った。しん、と静まり返った室内に衣擦れ音がやけに響くので、起こしてしまわないか一瞬気を揉んだが、それは杞憂だった。
気持ちよさそうに眠る彼女の姿を視界に捉えて、ノーマンは布団に包まれるものとは別の温もりと安堵を胸に感じた。手を伸ばし、顔にかかっていた彼女の前髪をそっと梳いてやりながら、散々呟いた言葉をまたしても口にしたくなったので、従うことにする。
「あぁ、やっぱりすきだなぁ」