砂塵の先、あるいは矜持の果て。 彼らの気配が変わった。
気が付いたのは刹那のことだ。戦いの最中、旅のはじまりから彼らを見守ってきたクレスの目にはそれはひどく鮮明に、そして鮮やかに写る。
攻勢を仕掛ける一呼吸の音、最古参であり決め手の役割を双方担ってきた二人……セルテトとヨルンが視線を交わすことなく動きを合わせた。セルテトの気配が砂のように解け、そして砂一粒が矢のようになったかのように鋭く纏う。それと対になるようにヨルンの闘牙は一気に冷え込み起伏が失われ、ただ遠くを見据えて祈っていた。
ユークスの祝詞に合わせクレスは敵に向けて妨害を放つ、普段通りの流れのはずが今日ばかりは少しだけ違っていた。違う、というべきではないか。
彼らは、以前よりも進んだのだ。
「「蝕乱の矢/霞斬り」」
張り詰めた糸が弾かれる微かな揺れが起点となって戦場を劈いていく。冷淡に放たれた五つの矢と五つの剣筋は、波闘の試練を掻き分けるが如く道を示す。そうして示された道をただ真っすぐに走るように、彼らの後方に控えていた団員達が一気に畳み込んでいく。
五つ手の妙技。セルテトは今まで全力を込められるのは三手までであり、ヨルンは四手までは確実に打ち出せるが、それ以上となると踏み込みが足らないことが多かった。それが、今回は何の不安も揺らぎも見せずに行使をしてみせた。
確実な五撃目……彼らは壁を突破したのだ。
決め手として最前線を駆け抜けてきた──その手に運命が託されることが最も多かった二人が見出したその技は、仲間たちに道を切り開く”突破”の力。そして仲間たちを信じた彼らの絆と信頼の証そのものだろう。
戦闘が終わり試練が閉じる。二人共何も言わずただ一度だけお互いに視線をやっては……お互いを認め合う様に拳をぶつけ合った。そんな二人の姿を見てユークスはきらきらと目を輝かせ、クレスはいつ盛大に誉めてやろうかとそんなことばかり考えて、あぁずいぶん一緒にいたもんだなとまんざらでもなくため息をつくのだ。