ラー油を一瓶。 ラーメンとは趣味趣向がよく出るものだ。スープを何にするだとか、麺はどうするだとか。トッピングまでつけ出すと果てがない。エフレンとてそこそこ拘る方だという自負がある。だからこそ、ちょっぴり試してみたくなってしまったのだ。
自分の不思議な同居人は一体どんなものが好きなのか、辛いものが好きだとは聞いているがそれがどんなもんなのか。試してみないと分からないとは思ったものの。
「ではまずラー油を少々」
「待ちな。なぜ今蓋を根本から開けた? いや“どうしてそんな当然のことを聞くんだ”みたいな顔するんじゃねえって」
「どうしてそんな当然のことを聞くんだ?」
「口に出したからってその異常量がまともになるわけないからな……!?」
こいつは思ったよりもやべえぞ、とエフレンは内心頭を抱えることになった。
たまたま目に入った動画で素ラーメンを予定金額内でどこまで豪華にできるか、という企画を目にしたエフレンとヨルンは、たまには変わったことをやってみるかという話になったまではいい。
「辛味噌でかえし作っただろ……!! それ以上上乗せしなくても十分辛いだろ……!!」
思ったよりも相方の器が地獄絵図になりそうでそれどころではなかった。
エフレンもエフレンで自分の欲求に素直にカスタマイズしていたのだが、隣に攻撃力の高そうな赤黒いスープを置かれてしまっては影が薄まるどころじゃない。
すでに香りがとんでもない、香辛料が混じり合ってそろそろ辛いから痛さに変わりそうな気配がしている。
「まだいける。辛味はいいぞ、なんか強くなれる気がする」
「対価で腹下してるじゃねえか」
ボケとツッコミでじゃれつきながらもモヤシを炒めつつ、そしてまた徐にヨルンが追加で香辛料を突っ込んだ。
「つかたまに朝からトイレこもってるのこれが原因だな?」
「朝だけじゃない、常にやっている」
さも当然のようにやらかしを申告するヨルンにエフレンは頭が痛くなる。
以前にもヨルンは『激辛料理はバカとマゾが食べるもの』と言っていたが、どう考えても彼の場合後者だ。辛いのがいいんじゃなく痛みを求めてるのだこの隣の変人は。
「もっと身体労れって……!! ヤニ食ってるだけでもボロカスなんだからよ……!!」
限度ってものがあるだろ限度がとエフレンは我慢できずせめてと自分用に買ってきたコーンを押し付ける。
するとヨルンは目をパチクリさせながらも、興味深そうにエフレンの様子を眺めては何かがツボにハマったのかこぼすように笑った。
不意に見せた表情にエフレンはドキっとしながらも、「何笑ってんだよ、こっちは真面目に話してんのに」と口を尖らせる。
「(可愛いのはズルだろ)」
なんて内心思ったりしているエフレンのことも露知らず、ヨルンはまたなんてことない顔でこういうのだ。
「すまん、エフレンが真面目に叱るから面白くて」
「お前なぁ……」
とりあえずその激辛ラーメンは責任持って食べてもらうとして、明日はお粥と胃薬の準備でもしてあげようと心に決めるエフレンなのであった。