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    はなねこ

    胃腸が弱いおじいちゃんです
    美少年シリーズ(ながこだ・みちまゆ・探偵団)や水星の魔女(シャディミオ)のSSを投稿しています
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    はなねこ

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    イシンノセカイ7にて頒布予定の美探ごった煮本のSSサンプルです。眉美ちゃんの歯磨き粉を取り替えたのは誰?

    まゆみペパーミント 美少年探偵団団則その一――美しくあること。
     団員たる者、心身だけでなく歯も美しくあらねばならない。虫歯なんて言語道断、もってのほかだ。
     というわけで美少年探偵団事務所においては、お茶や食事の後に必ず歯を磨くことが暗黙のルールとなっており、ご丁寧に歯磨きの時間まで設けられている。――幼稚園児か。
     それではどこで歯を磨くのかというと――もともと美術室にあった絵筆やパレットを洗うための流しが天才児くんの手によりアンティーク調の洗面台へとリフォームされているのだ。ただの飾りかと思っていた蛇口をひねるとちゃんと水が出たので驚いた。お湯も使える。すごい。今の時期だと、とっても有り難い。
     洗面台の下はキャビネットになっている。飴色の金具がついた観音開きの扉を開けると、中は上中下の三段に分かれており、上段と中段には各自の歯ブラシや歯磨き粉を入れる用のカゴ(六色に色分けされたリボンが結ばれている)が、下段にはふかふかのタオルや見るからに高級そうな紙の箱に入った石鹸等が収納されている。
     洗面台そのものはそれほど大きくないので、歯磨きは古参組から順番に行う――つまり、さきがけがリーダーでしんがりはわたしという流れだ。
     うかつに虫歯をこさえでもして「団長の申し渡しに背きやがって」と他の団員から白い目で見られるのも面倒だし(大げさだと思われるかもしれないけれどやりかねないのよ、あの連中なら)、何より不良くんの料理を食べられなくなるのも嫌だから(わたしだけ皿が配られないとかはさすがにないだろうけど、わたしだけ別メニューになる可能性はある)、わたしは『美歯のマユミ』になるべく、心の中でシュワクチュシュワクチュ懐かしいフレーズを口ずさみながら日々歯磨きに精を出していた。
     そんな中、事件は起こったのだ。――わたしの口の中へ文字通り衝撃を走らせることになる、あのおぞましい事件が。

    **

    「はぐあっ!」
     歯磨き粉を絞り出した歯ブラシをくわえた途端、わたしはいつぞやの紅茶のように歯ブラシもろとも白いペーストを吐き出した。――何だこれ何だこれ何だこれ口の中がヒリヒリするーっ! 涙が出るーっ!
     わたしの異変に気づいたのだろう、どうした何があったと洗面台の周りへ美少年達が集まってくる。
    「大丈夫か? 踏んづけられたカエルみたいな悲鳴が聞こえたぞ」
     ケロケロ。
     心配してくれるのは嬉しいけれど、不良くん、年頃の女子をつかまえてカエルはないんじゃないのと思いながら、わたしは口を開こうとした――あれ? 舌がしびれてうまく話せない。
    「眉美ちゃん、ひょっとしてお口が気持ち悪いの?」
     そうなの、そうなのー!
     片手で口を押えたままおたおたしていると、
    「おら、ゆっくり口をゆすげ」
     不良くんが水の入ったコップを差し出してくれた。ありがたく受け取り、クチュクチュペッと何度も口をゆすぐ。コップが空になるまで繰り返して、やっと口の中の感覚が戻ってきた。
    「あ~あ~。よかった、まともに声が出る~!」
     舌と喉の調子を確かめてほっとひと息つくわたしに、リーダーが心配そうな眼差しを向ける。
    「眉美くん、いったい何があったのかね?」
    「ええっと」
    「見た限りでは、どうもその歯ブラシが怪しいようですね」
     わたしが答えるよりも先に(このパターン多くないか? 代弁なんて誰も頼んでいないのに)、先輩くんが洗面台に放り出された歯ブラシへ視線を落とす。
    「そうです! この歯ブラシ……というより、歯磨き粉よ!」
    「歯磨き粉ぉ?」
     美術室内に五名分のユニゾン(一人はエアだ)が響いた。
    「歯磨き粉がどうしたって?」と、不良くんが怪訝そうに訊ねる。
     わたしは天板に置いたままだった歯磨き粉のチューブを手に取ると、美少年達の前に突き出した。
    「これはわたしの歯磨き粉じゃないわ。誰かがわたしの歯磨き粉を別のものと取り換えたのよ! 犯人は誰?」

    (中略)

    美少年達はそろって首を横に振った。
    「誰のものでもない? ということは……、羽子板事件の時のように団員ではない第三者が美術室へ忍び込んで、わたしの歯磨き粉を別のものにすり替えたってこと? 疑問その一の答えが半分出たわ、犯人はわたしの命を狙っているのよ! 実はこの歯磨き粉には毒が仕込まれていて、何も知らずに歯を磨こうとしたわたしは、歯ブラシを口に含んだ途端倒れて救急車で運ばれて……」
    「落ち着いてください、眉美さん。あなたは倒れてもいませんし、第三者が侵入した可能性もありませんよ。あの事件の後、美術室の戸締りを強化したことをお忘れですか?」
    「あ……」
     緊急外来の簡易ベッドへ寝かされて、今まさに胃の洗浄を受けようとしている自分の姿を想像していたわたしは、現実に引き戻されて、はっと顔を上げた。
     そういえばそうだった。戸締りの警戒レベルを上げたから、今の美術室には猫一匹潜り込める隙はないはずだ。第三者説は消えた。
    「それじゃあ、やっぱり内部犯?」
    「やっぱりじゃねえよ。おまえな、そういうとこだぞ。そのインフレ時の札束みてえにぺらっぺら滑る口をどうにかしねえと、毒を仕込まれても自業自得で処理されちまうぜ」
    「仮に我々の内の誰かの犯行だとしても、犯人を突き止めようという気すら起こりませんね。むしろ隠蔽工作に進んで協力したくなります」
     いい子組でタッグを組まないで! 勝てる気がしないわ!
     リーダーが何かを思いついたように胸の前でぽんと手を打った。
    「疑問その三の所在不明中の眉美くんの歯磨き粉だが、洗面台のどこかに紛れているということはないだろうか?」
    「灯台もと暗しってヤツだね。目視しただけでは見つけられないような隙間に落っこちちゃってるのかもしれないねー」
    「そ、そうよね。見てみるわ」
     念のためキャビネットの中に入っているものをすべて取り出してから、わたしは眼鏡をずらし、キャビネットの中へ視線を向けた。わたしの歯磨き粉は――
    「だめ。見当たらないわ」
     眼鏡を戻して、わたしは首を横に振った。棚板の裏側はもちろん、洗面台と壁の隙間にも埃ひとつ落ちていない。
    「ところで、みんなの歯磨き粉はちゃんと自分のカゴに入っているの?」
    「ご覧の通りですよ」
     わたしを誘導するように、先輩くんは床に並べたカゴを細い顎でしゃくった。
     どれどれ。
     わたしのカゴだけ空っぽ、他の五つのカゴにはきちんと歯磨き粉が入っている。
     リーダーはピュアミント、先輩くんはプレミアムミント、不良くんはクールペパーミント、生足くんはシトラスミント、天才児くんはハーブミント。
    「他のひとが使っている歯磨き粉の味なんて特に気にしたことなかったけど、みんなミント味なのね。リーダーまでミント味っていうのがちょっぴり意外だわ。あ、不良くんもペパーミントなんだ。さては不良くんが犯人ね?」
    「得したな、眉美。俺は針仕事も不得手じゃあねえんだよ。その口、縫い閉じてやるよ」
     いいえ結構です。
    「ふふん!」
     両手を腰に当てて、リーダーは得意げに胸を張った。
    「僕も三年前まではバナナ味の歯磨き粉を使っていたよ。中学年に進級したのを機に、歯磨き粉のフレーバーも大人風味のミント味に変えたのだ!」
     小三郎リーダーは大人の階段を一歩のぼったってわけね。
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