着ぐるみ猫たちのとある日 ここは東京都立猫呪術高等専門学校である。制服は唯一無二猫の着ぐるみ、なおかつ着ぐるみを身につけると問答無用で2頭身になるという謎の代物。たとえ身長が190cmあろうとも100cmであろうとも制服を身につけると2頭身になる。
猫呪術高等専門学校に入学してきた五条悟は小さい時から着ぐるみを身にまとい、猫呪霊を祓う猫呪術師だ。呪力の核心を見ることが出来る六眼を持ち、無下限呪術を使う自他ともに認める最強猫呪術師だ。
同級生に呪霊操術を使う夏油傑と反転呪術を使うことができる家入硝子がいる。3人は入学当初から問題児だった。教室や壁、寮の破壊は日常茶飯事の悟と傑、飲酒喫煙が常時の硝子。何かと問題を起こしては担任の夜蛾を困らせているが、文句を言いながらも猫呪術師として沢山の任務をこなしている。
そんなある日の出来事。
「悟。明日の事なんだが···」
明日の任務で確認したいことがあった傑が悟の部屋の扉を開けた瞬間、動きが止まった。
「おう。どうした?」
丁度着替えている最中に入ってきた傑は悟の姿を見て動きが止まった。
当の本人は気にすることなく制服を脱ぎ、スゥエットへと着替えていく。袖に手を入れ、頭を通すと猫耳が勝手にピコピコと動く。スゥエットパンツに長い足を入れて開いている穴に尻尾を通すとゆらりゆらりと動いた。
傑にはない猫の耳と尻尾が悟には生えていた。
「さ····悟···その耳に尻尾····」
悟の頭に生えている猫耳にゆらゆらと動いている尻尾を交互に見ている。
「そういや傑の前で制服脱いだことなかったな、俺」
部屋の中に招き入れると、ベッドに腰を下ろした。傑も悟の近くに座るが、ふりふり動いている尻尾に自然と目がいく。
「俺さ小さい時から猫呪術師として猫呪霊祓ってんの知ってるだろ?」
大きな欠伸をした悟は思わず尻尾を口に入れ、鋭い犬歯を見せて噛んだ。
「その時からこれ着てるんだわ」
床に落としていた白猫の着ぐるみ、もとい制服を持ち上げる。190cmもある悟が制服を着ると2頭身になるのだから不思議でしかない。悟より少し身長が低い傑も同じなのだから、制服は七不思議の一つかもしれない。
「ちょっと待ってくれないか…話が見えない」
親指を眉間に当てる仕草をする。悟が説明らしい説明をしてくれないのが原因だ。
「悟は小さい頃から猫呪術師として制服を着ているのは分かった。それが耳と尻尾にどう繋がるんだ?」
と質問すると不思議そうに首を傾げられた。同時に猫耳がピクッと動き、尻尾が床をパシパシ叩いた。
「制服着ていると生えてくるんだよ。耳と尻尾」
爆弾発言が悟の口から飛び出した。初耳の傑はピシッと動きが止まり、石のように固まった。尻尾でパシパシ頬を叩かれる。
「…私も生えてくるってこと?」
自分の頭に猫耳と尻尾が生えてくるなど信じられない。思わず頭を触り、お尻を触ったが何もなかった。
「どーだろ…俺も生えたの13歳過ぎた頃だしな」
猫呪術師たるものどうなるのか分からない。危険な任務を常日頃扱っているので普通の人よりは亡くなる確率は高い。
だが、
「でも傑なら生えてくるって!だって俺たち最強だろ」
ニカッと心からの満面の笑みを見せる。2人で最強な2人は死ぬことはない。
「私が生えるかどうかは別にして…その耳と尻尾は感覚あるの?」
悟が心の奥から信じていることが分かり、むず痒くなる傑。話を変えるため悟の猫耳に手を伸ばした。
「ひゃんっ」
可愛い声が悟の口から飛び出した。慌てて口を両手で押さえ、真っ赤な顔で見てくる一方、傑も顔を赤くして動きが止まっている。
「す…傑…その…耳、擽ったいから…」
真っ赤な顔をし、上目使いで傑を見ながら両手で耳を押さえる。押さえたのは猫の耳だ。
「へぇ〜じゃぁこっちはどうかなぁ」
一瞬で悪人の顔を覗かせた傑が両手をあげて近づいてくる。涙目になった悟の猫耳はペシャンと垂れ下がり、尻尾も怯えている。
「ぴぎゃぁあぁあぁぁぁ!!」
大きな叫び声が聞こえたかと思えば
「んっ…す…すぐ…る…はぁん…だめ…」
すぐに真っ赤になった悟の口から吐息が落ちる。両手を握りしめ、口に当ててぶるぶる震えてている。
「猫ってここが気持ちいいのは本当なんだね」
猫の尻尾の付け根を触ると気持ち良くなると聞いたことがあり、目の前に猫の悟がいるからこそ試したくなった。悟の尻尾の付け根を傑の大きな手が撫で、トントンと指先で軽く叩いている。
尻尾の付け根を触られてうっとりと気持ち良くなった悟はとろーんとした眼のまま傑の膝の上に乗り、丸まった。
「もっと…傑ぅ…もっと」
はふはふと短い息遣い。顔を赤くして傑の顔を見上げている。気付けば尻尾が腕に巻き付いていた。無意識の仕草だ。
「はいはい」
悪戯が今ではおねだりに変わった。触っていると満足したのか悟は小さな寝息をあげていた。
「おやすみ悟」
抱き上げてベッドに寝かせる。明日の任務のことで確認したいことがあったが、朝でも問題ない。猫耳と尻尾がある悟を知ることができてホクホクの傑だった。
翌朝
2頭身になる不思議な制服を着て、ペタペタと独特の足音を立てながら教室に行くと既に悟、改め猫悟が既に椅子に座っていた。制服を身に纏っている時には猫悟、猫傑、猫硝子と呼ぶことにする。猫硝子はまだ来ていないようだ。いつもの席に座りながら猫悟の様子を伺う。
「おはよう悟」
「おう」
ゆらゆら揺れている尻尾に目がいく猫傑。自分の制服に付いている尻尾は作り物でゆらゆらと揺れていない。
「お前見過ぎ」
顔を赤くしため猫悟。制服は着ぐるみのため顔の一部しか出ていない、目はサングラスで隠れているが、顔が真っ赤なのはすぐに分かる。
「私にはないからね。気になってしまうよ」
満面の笑み。この笑顔を見せられれば何も言えなくなってしまう。自分だけに向けられた猫傑の笑顔。実家にいた時は畏怖か恐怖を含む顔や媚を売る顔しか向けられたことはなく、笑顔は高専に来てから初めて向けられた。
「まぁいいけどさ」
真っ赤な顔でそっぽを向いた。嬉しそうに尻尾がゆらゆらと揺れている。しばらくすると猫硝子が教室に入り、猫夜蛾もガラリと扉を開けて入ってきた。
授業は呪術のことや高校の基礎的なことを学んでいるが、授業の最中でも任務は飛び混んでくる。予定外の任務など当たり前の毎日。特に猫悟と猫傑は特級猫呪術師のため、余計に任務は多い。そして今日も授業中に予定外の緊急任務が飛び込んだ。即座に授業は中止となり、猫悟と猫傑は任務へ向かう。
猫補助監督が運転する猫車にぴょんと音を立てて乗り込むと、後部座席に凭れ掛かる。足を伸ばすとピンクの肉球が可愛く見える。
「そーいやさ…昨日俺に何か用事あったのか?」
お腹を尻尾がポンポンと叩いている。無意識の様子に猫傑は言葉が入ってこない。視線がお腹をむき出しに座り、ポンポンと叩いている猫悟の仕草に目が止まっている。無意識な仕草なのだろう。猫悟が何か話をしているが、猫傑の耳に全く入ってこない。
「る…ぐる…傑!!」
「!?何!?」
話を聞いていないと感じた猫悟が猫傑の肩をポンと叩き、大声で呼んだ。慌てて顔を見ると不貞腐れて頬を少し膨らませ、尻尾が猫傑をイライラしているように叩いている。
「俺の話聞いてなかっただろ?」
「ごめん。悟の仕草が気になってね」
「俺の仕草?」
不思議そうな猫悟。首を傾げると同時に猫耳がぺちゃんと項垂れ、尻尾が力なく垂れた。耳と尻尾は無意識のようで、猫悟の感情を素直に表している。お腹丸出しで今も背もたれに凭れ掛かっている猫悟。猫耳と尻尾がぺたんとなっているので心なしか小さくなっていた。
「そっ…だって悟…尻尾でお腹を叩いているのが…面白くて…太鼓みたい」
思い出すと笑えてきた。まるでまるで…おっさんの仕草。オットセイがヒレで叩く仕草そのもの。
「……わ…悪かったな!!」
憤慨する態度も面白い。もたれ掛かり、お腹丸出しで、憤慨している。だが、笑われたことで余計に猫耳と尻尾の元気がなくなった。
「ごめんね悟。そんなに落ち込まないで」
素直な感情を表す猫耳と尻尾を見て猫傑はすぐに猫悟を抱きしめようとしたが、
「………お腹がつっかえて…悟を抱きしめられない……」
今の姿が2頭身であることを忘れていた。手の短さと胴体の長さを考慮していなかった。
「だっはっはっは!!」
大笑いする猫悟。尻尾が慰めるように猫傑のお腹をポンポンと叩いている。
「お前サイコー。制服着てんだから普段できることはできないって」
今度は手でお腹を叩きながら大笑い。ピンク色の肉球がちらちら見えて可愛い。猫悟が元気になって安心した猫傑。
まだ着ぐるみの制服を着ての行動は難しい。普通にできていることができなくなる制限があることを改めて感じた。まだまだ制服には慣れないなと感じた。
「で、傑。昨日俺の部屋に来た理由は?」
今度は大あくびをして尻尾を口で噛んだ。
「この後の猫呪霊だけど、祓わないでくれる?」
短い腕で腕を組んでみるが、組めているのか分からない。
「取り込む?」
猫傑は猫呪霊操術。取り込んだ猫呪霊を使役することができる珍しい術式。使役するためには猫呪霊たちを取り込まなければならない。猫傑曰く、猫呪霊たちを取り込むために丸めた猫呪霊玉を飲み込むのが好きではない、ドライキャットフードの味がして嫌だとのことだ。
ドライキャットフードの味と聞いた猫悟は猫傑がキャットフードの味を知っていることで大笑いした。その後バカにされたと思った猫傑と大喧嘩になり、森一つを消したのは新しい記憶。そして猫夜蛾に激怒され、大きなたんこぶを2匹揃ってもらったのは言うまでもない。
「1級以上だったらね。取り込むより今まで取り込んだ子の力を把握しようと思って」
猫悟を見習って猫傑も背もたれに凭れ掛かる。あっ、言っている意味がわかった。お腹を出して凭れ掛かるのが楽だ。
「わかった。俺は回りにいる雑魚どもだな」
「頼むね」
話が纏まったと感じた猫補助監督が緊急任務の概要を説明し、終わってから続けて向かう予定の任務も説明した。だが、説明を聞いている最中で猫悟はすやすやと夢の中へ旅だった。
緊急任務も予定の任務も瞬殺で終わらせた2匹。特級猫呪術師の前ではどう足掻いても大人と子どもだった。
「キャットフード食べた?」
ニヤニヤしながら制服を脱いで着替えた悟が部屋に無断で入ってきた。ぴこぴこ耳が動き、ゆっくり尻尾が揺れている。
今日の緊急任務は1級の猫呪霊であり、傑は取り込むことを即決し、猫呪霊玉を手にしていた。次の予定任務は2級だったため、取り込んだ猫呪霊たちの力を確認していた。急いで2件を梯子したため、取り込むのは高専に戻ってからにしていた。
悟の言葉と無断で入ってきたことにイラっとした傑は青筋を浮かばせると懲らしめようと決意した。
「悟」
「ぎゃん!」
ニコォっと嫌らしい笑みを浮かべると逃げられる前に悟を捕まえて床に倒して馬乗りになり、
「猫ならこれでも食っとけ!」
暴れられる前にこんな時のためではないが、買ってあったドライキャットフード袋を乱雑に開け、鷲掴みすると口の中に入れて溢さないように口を塞いだ。口の中のキャットフードをどうにかしないと何もできない悟は涙目になりながら咀嚼する。猫耳も尻尾も垂れて可哀相だが、揶揄った悟が悪いので傑は食べ切るまで動きを封じた。純粋に体躯と力は傑のほうが上なので押さえつけられれば何もできない。
「……これでいいだろ…」
涙を溜めながら口を開けた悟。油が口の中に残った感じや変な感じがするのだろう、不快を表すように眉を顰めていた。
「よくできました」
ふわふわ、サラサラの髪を撫でるとすり寄ってきた。眉は垂れ下がり、気持ちよさそうな表情に変化する。
「躾されるの嫌だろ?だったらやめな」
頭を撫でられるのが気持ちいい悟は聞いていない。うっとりとしている。気づけば尻尾が傑の足に巻きついていた。その後悟が満足するまで撫でさせられた傑であった。
別の日
傑の部屋に着替えを持ってきた猫悟。頭に着替えのスウェットを乗せて現れた姿に猫傑が大笑いした。器用に落とさないように歩いてきたのを思い浮かべ大笑い。大笑いされた猫悟は怒ることなく部屋に入り、乗せていたスウエットをベッドに置いた。
「ちょっとトイレ」
パタパタとそのままの姿で走っていき、数分後戻ってくると猫傑が思ってることを口にした。
「この制服って本当にトイレとご飯食べる時面倒だよね…それに任務先で泊まる時は不審者だよ」
最近慣れてきた。車に乗る時や椅子に座るときに飛び上がることなど動きが制限されることに慣れてきた。教科書を開くのやペンを持つのはまだ難しく、試行錯誤の日々。小さい時から着ぐるみを着ている猫悟は慣れているのか、何事もそつなくこなしている。
「まぁ慣れるしかねえよな」
制服を脱ぐとスラリと長く、イケメンの悟に戻る。脱ぐといつもの姿に戻るのも不思議で仕方ない。傑も同じように制服を脱ぐといつもの姿。
遠慮なく悟は傑のベッドに座るとぐぐっと背筋を伸ばした。スウエットにも着替えていないので黒のアンダーウェアで黒のボクサーパンツを履いているだけの姿。さっさと着替えた傑が横に座り、悪戯で悟の尻尾の付け根を触る。
「ふにゃ…にゃ」
気持ちよさそうに目を蕩けさせるとこてんと倒れ、膝に頭を乗せた。
「すぐるぅ…もっとぉ」
完全に猫だねと思いながら悟の頭を撫でて、猫耳に触れ、尻尾と付け根に触れる。気持ちいい悟はにゃぁ、にゃぁと鳴き声を上げ続け、満足すると大きな体を丸め、尻尾を口に加えると夢の中に入っていった。
「可愛い悟」
無防備な姿を見せてくる悟が可愛くて仕方がない。傑は悟の頬にキスを落とすと、抱きしめてベッドの中に入った。2人で寝るのは狭いベッドだが、一緒に眠りたい。
翌朝、猫夜蛾が起こしに来るまで2人は一緒のベッドで仲良く寝ていた。傑が悟を抱きしめ、悟は傑の胸に顔を埋め気持ちよさそうに眠っていた。
「お前らは本当に仲がいいな」
とだけ呟くと学生ながら夜遅くまで任務で全国を飛び回っている2人を今日ぐらいゆっくり寝かせてあげようと思い、2人の頭を撫でてから部屋を後にした。
「さっすが夜蛾セン」
「だったらもう一眠りしようか?私まだ眠いし」
部屋に猫夜蛾が入ってきた時に目を覚ました悟がもぞもぞ動いたことにつられ、傑も目を覚ました。が、朝が弱い傑はまだまだ眠い様子。
「おう。俺、傑に撫でられるの気持ちいいからまたやって」
傑の手を取り、頭に置いた。撫でろということだ。
「仕方ないね」
顔が綻ぶ傑。悟の頭を撫でると猫耳に手が当たるのか、にゃぁ、にゃ、にゃぁんと鳴き声を上げながら擦り寄ってくる。尻尾が腕に巻きつき、気持ちよさそう。
「すぐるぅ…すきぃ……」
気持ちよくなり、思わず爆弾を落とすとそのまま悟はスゥスゥ眠りについた。驚いた傑は撫でていた手が止まった。悟の言葉を脳が理解した瞬間、顔のニヤケが止まらず、完全に覚醒してしまった。
「私も好きだよ悟」
額と頬、口に小さなキスを落とすと丸くなった悟を抱きしめ、目を瞑り、二度寝をすることにした。
目を覚ました時、悟は傑から盛大なキスと共に
「愛しているよ悟」
と言われ、顔が真っ赤になった。バードキスを繰り返し、何度も何度も囁くと両手で猫耳を押さえた悟が小さな声で
「俺も好き」
声に出した。いつもならどのように対応すればいいのか一瞬で判断できる優秀な頭を持つ悟でもあたふたするしかなかった。
その日から傑は悟の様子を気にかけ、悟は恥ずかしそうな仕草をよく見せるようになった。そして今日、明日は任務がないということで傑の部屋に集まった時に見せつけられてきた甘いピンク色の五条の空気に限界が来た硝子は
「生娘じゃあるまいし、いい加減にしろ五条」
と吐き出した。巻き込むな、公害を見せるなと何度も口にしていたが収まらず、いい加減乙女のような仕草が鬱陶しかった。それに満更でもない傑の顔も鬱陶しかった。
悟は任務で猫傑が怪我をするとオロオロし、猫傑が出張で高専にいないと元気がなくなり、電話一つで喜び、嬉しそうな顔を見ていた。制服を脱ぐと恥ずかしそうに猫耳を押さえたり、尻尾を触ったりしていた。傑の部屋で映画を見る時には凭れ掛かったり、乙女のような仕草をずっと見ていた。
「悪かったな生娘で!!」
即座に返ってきた。
「「えっ!?」」
動きが止まった2人。真っ赤な顔で両手で猫耳を押さえ、恥ずかしそうに俯いた悟が
「…傑のこと大好きなんだから仕方ないだろ…」
声が段々小さくなったが、狭い部屋の中では最後まで耳に届いた。
「悟っ!私も悟が大好きだよ」
ガバッと傑は悟を抱きしめ、腕の中に閉じ込めた。嬉しそうに猫耳がピコピコ動き、尻尾が傑の腰に巻き付いた。
「あーはいはい。お幸せにな」
呆れた硝子は一升瓶を手に立ち上がった。これ以上甘い銃弾を被弾したくない。
「そうだ五条。夏油のはでかいから、切れたらこれを使え」
ポケットから取り出した丸い容器を投げてる。慌てることなく受け取り、蓋を開けるとクリームが入っていた。万が一を考え、薬を用意していた硝子。何だかんだ言って硝子の面倒見がいいのは誰もが気づいていた。
言葉の意味を理解した悟は今までで一番顔を赤く、耳、猫耳、首筋まで真っ赤にすると傑の腕の中で小さくなり、
「んっ」
頷いた。
「安心して悟。切れたら私が中まで丁寧に塗り込んであげるから」
脳がバグっていた傑の爆弾発言で悟は小さくしていた体をさらに小さくした。
「生娘の五条に言うべきじゃないだろ…夏油…」
大きな溜息を溢しながら硝子は部屋を後にした。部屋を出る前に傑が悟を抱きしめて濃厚なキスを落としていたのは見ないことにした。悟の尻尾が傑の腕に巻き付いたのも見ないことにした。
翌朝、教室に入ると猫傑が猫悟を気遣っており、腰?のあたりをさすっていた。予想通りのことをしていたらしい。
「五条、生娘を卒業した感じはどうだ?」
揶揄い半分で声をかけると、顔を赤くし、短い手で頭を押さえた。これは制服を脱いだ時にする仕草と同じ。頭が大きく、猫耳まで手が届かなかったようだ。ピンク色の肉球が頭が頭を押さえている。恥ずかしい時にする仕草と気づいている硝子は
「ごちそうさま」
猫硝子も短い手を動かし、肉球と肉球を合わせた。猫傑が抱きしめようとしたが、手が短く、お腹がつっかえて抱きしめることができず、猫悟の頭を撫でることしか出来なかった。
着ぐるみ制服の最大の欠点。抱きしめることができないと猫傑は思ったそうだ。
その時
「悟、傑。緊急任務だ。今から向かってくれ」
ガラリと扉を開けて猫夜蛾が入り、今までのピンク色から一気に雰囲気が変わる。
「悟。行くよ」
「おう」
猫傑が差し出した手、肉球が見えている手を猫悟が握り返した。2匹は手を繋ぎペタペタと走っていく。後ろ姿を見ていた猫硝子と猫夜蛾の目には猫悟の尻尾が猫傑の尻尾に絡みついているのが飛び込んできた。猫傑の尻尾はまだ飾りのため、自由自在に動くことができずに尻尾でハートを作ることができないが、猫悟はハートを作りたかったんだろうなと感じてしまった。再度ごちそうさまと心の中で思いながら肉球を合わせた硝子であった。
こうして今日も着ぐるみ猫の制服を着た猫呪術師たちのドタバタのな日が過ぎていく。
おわり