飲み干すこともためらわず<あ・・・>
誰かにスイッチをONにされたように私は突然”それ”を自覚してしまった。
暗い森で彼らと出会い地獄旅行を始めてからそれなりの時間がたった今
何もかもをわすれた私もここがどういう場所かを少し理解しはじめた頃
「旦那なにかあったのかい?」
<い、いやなんでもない!気にしないで、そうだ!
少し考えたいことがあるからしばらくはほおっておいてくれ>
音がでてたらしい後ろの席のグレゴールが声をかけてきて思わず早口になってしまった
変に思われないといいけど。
まだ目的地には遠い。暇なこの時間を使い先程の”それ”について考えることにした。
そうなると自然と頭をあげ少し視線を外しながらある男に向けていた
-ヴェルギリウス-
私を導く案内人であり囚人が必要以上に恐れを抱いていた男
それに私へのあたりがやや強いので都市についての質問をしていいかと聞いた時
気怠げに了承してくれた時はほっとしたものだ。
それからは少しの合間をぬって彼に質問を投げてメモを取った。
その時間は本当に少しのもので長くもましてや二人きりであったわけでもない
<好き・・かも?>
それなのに私は彼に好意を抱いてしまったらしい
その好意は敬意、友愛すら越えて恋慕に至ってしまっていた、体の熱が上がるのを感じる
-よりによってどうして彼なんだろう-
思わず項垂れる。私という人間はそれほどに惚れっぽい性質だったのだろうか
それともいわゆる脳の勘違いというやつだろうか もはや勘違いで
片付けられないほどこの感情は私に刻み込まれてるようにも思えて苦しくなる
<私には・・・・無理だ・・・>
誰にも聞こえないように呟く
自覚してしまったこれはどうにもできない。私には扱いきれない
いっそ思いをぶつけてばっさりと打ち砕かれてしまえば楽になるだろうか
それで済むならそれでもいいかもしれない
しかし、ただでさえ彼が築く隔たりがより一層厚くなるのは嫌だなと思った。
傍からみれば目をかけているカロンにさえも彼は隔たりを持っているのだ
何があったか聞いてみる?それこそ、決定的な拒絶を生み出すかも
思考はどんどんほぐされるどころか泥沼に沈んでいく
それでもまとまらない感情をかき集めて、そして私は決意する。
-時計の頭でよかったかもしれないな-
メフィストテレスの御飯の時間、バスから下車する際に
私はヴェルギリウスに質問したいことがあるから時間を作って欲しいと、
お願いし彼もいつも通りにわかりましたと軽い返事を返した。
結局その日は彼に質問する時間は夜になってしまったが
いつも通りに彼に質問を投げかけ帰ってきた答えを紙に書き留める。
何の変哲もないやり取り 分針が2歩進む程度の時間
そして最後に挨拶として冗談と軽口のなかに好きの感情を言葉に混ぜて彼に見せつけた
彼はいつも通り気にも止めず、そうですかと流した。
いつも通り私は部屋に戻っていく。これでいい。
私はこの気持に蓋をすることもせず、地面にぶちまけ踏みにじることにしたのだった。