鯉月SS「月島?」
暗闇の中で男がハッと声の元に目をやり、すぐに緊張を解いたのを感じた。樺太のコタンは存外、鯉登にとっても眠るのに苦ではなかったというのに。移動続きで疲労している身体を休めずに、月島はどういうつもりなのだろうと、鯉登は訝しむ。
「まさか枕が合わないのか? 私じゃあるまいし」
「ご自身で言うんですか」
「警戒してるのか。物音が気になるか? ここが日本ではないからか? あるいは、杉元が寝首をかきにくるとでも?」
「その時は私も無事ではいられないでしょうね」
「何を言う、私が叩き斬る。お前は何も心配しなくていい」
一瞬間があった。穏やかな間だったが、月島は何かを否定しているようだった。やがて静かに口が開かれた。
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