喋り鬼 1
梅というのがそれの名だった。ひどい臭いを放つ黒く焦げた肉の塊。
「畜生! 梅を元に戻せ! 妹を返せ!」
ボロを纏った年端もいかない少年が声を限りに泣き叫んでいる。夜ふけといえど花街、見聞きした者もいたはずが、その中で誰ひとり手を差し伸べる者はなかったようだ。俺が見つけたときには兄の声も枯れかけ、おそらくは虫の息だった妹と思しき物体はすでに消し炭と化していた。
ヒトの手ではもちろん、鬼の俺でも、それどころかあのお方の力をお借りしてもどうにも救いようのない状態だった。
だが彼らは鬼になった。
「童磨さん、あんた、なんであの時俺を助けたんですか」
妓夫太郎がすっかり青年になり上弦にまで上がったあとで、改まって訊かれたことがある。
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